レッドとブルーの合い言葉
羽山紅輝と湊葵は幼馴染である。女子でありながら戦隊ごっこに興味を持つ葵を、紅輝は相棒とみなした。二人で遊んでいるうちに、レッド、ブルーというあだ名が定着してしまい、高校生になった今でも、そう呼び合っている。
そして、二人の間には、秘密の合い言葉がある。
「ブルー!」
昼休み中に、紅輝が教室に乱入してくると、葵が嬉しそうに立ち上がる。
「レッド!」
紅輝は葵に駆け寄り、彼女とグータッチをしながら、共にこう叫んだ。
「ガンジュ!」
互いを鼓舞し、勇気づけるための、特別な言葉。この言葉があれば、どんな困難も乗り越えられる。そう信じてきたのだ。
しかし、ある夕方、学校の帰り道、葵が突然こぼした。
「実はね……明日、死のうと思ってるんだ」
しばらくの間、沈黙が続いた。下を向いてとぼとぼと歩く葵を、紅輝が隣でじっと見つめる。
「…理由を聞いてもいいか?」
葵は唇を噛み、拳を握りしめた。
「あたしさ…昔から女子力ゼロじゃん?制服もスカートじゃなくてスラックスだし…趣味とか、振る舞いとか、全体的に男っぽいし。でも…時々ね……本当に男みたいな気持ちになるんだ。いや、むしろどっちでもないっていうか…」
頭をかき、鼻を啜る。一向に紅輝と目を合わせようとしない。
「わかんないよね。レッドはどこからどう見ても、ごく普通の男子だもの。あたしだけがおかしいんだ。あたしだけが…」
感情を抑えられなくなり、涙がボロボロと溢れた。これ以上進めず、道のど真ん中で立ち止まると、紅輝も同時に足を止めた。声を押し殺して泣く相棒を、ただ見ていることしかできないのだろうか、と思いながら。
そんなの、嫌だ。
「なあ、ブルー」
彼の温かい手が、葵の肩に触れる。
「俺はな…お前が男っぽいとか、女っぽいとか、そんなのこれっぽっちも気にしちゃいねえ。たとえ何者であっても、俺の相棒だっていう事実は一生変わらない。今までも、これからも…お前は、俺だけのブルーだ」
葵がようやく振り向く。目を丸くした状態で、紅輝を見上げる。
「だから生きろ。ずっと一緒に戦おう!」
紅輝はニッと笑い、拳を差し出した。
「ガンジュ!」
今日放たれたその言葉には、これまでよりも遥かにたくさんの感情が込められていた。ただ勇気を与えるためだけでなく、片割れの生を願うための言葉と化していたのだ。
葵は微笑み、紅輝と拳を突き合わせた。
「ガンジュ…!」




