表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロ円札  作者: TOMMY


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

当たり前の日常

僕はいかつい顔の銀行員に送られて自宅に返された。

どうやら、僕は選ばれた人間でも危険人物でもないらしい。ただ、何もしなかった人間。彼らからすれば僕は、ただの異物で、単なるモルモットなのだろう。


でも、それを理解して重たかった肩の荷が下りた。それと同時に心の中の黒い何かが、ふっと熱を持った気がした。


そして僕は、ゼロ円札に犯された日常に戻っていった。ポッケには、一枚のゼロ円札と真っ白なカードが意味ありげに息を潜めていた。


それから数日後。会社の飲み会で、ある話題が盛り上がった。


「最近の企業はゼロ円札で何でも取り引きしてるらしいぜ」

顔の赤い同僚は僕に寄りかかりながら言った。


「ああ、無人レジがなくなったからな」

部長は何かを知っているふうに続ける。

「ゼロ円札はレジを通せば、本物か偽物かを簡単に判断できて、価値がゼロだろ?」


僕と同僚は頷く。


「だから、誰も“値段を気にしなくていい”んだよ。高価な設備のやり取りをゼロ円札で支払うこともあるらしい。もしかしたら、うちの会社もそうだったりしてな」


僕は急に怖くなった。

「でもそれって、犯罪じゃないですか?」


「そりゃそうだ。でもな、ゼロ円札はお互いの合意があれば自由にやり取りできるだろ。だから罪悪感はないそうだ。国に認められたやり方だってね」


上司は笑っていた。

でも、僕はまったく笑えなかった。


ゼロ円札で取り引き。

無価値の紙幣が本当の紙幣の価値を超えている。


「俺もゼロ円札欲しいっす。レジからぽろっと出てきませんかねぇ〜」

「まったくだ。私もゼロ円札に投資しようか迷っているところだ」

「いいですね!さぁ飲みましょ、飲みましょ!」


僕はこの飲み会を、まったく楽しめなかった。


数カ月後には、ゼロ円札は完全に社会を支配していた。ゼロ円札による取り引き、ゼロ円札による会員制、ゼロ円札を使うことで半永久的にサービスを受けられる場所すらあった。ゼロ円札で世界一周旅行に行けるという噂もある。


人々はゼロ円札の価値を自由に定義し、自分たちの欲望を満たしているように見えた。

その社会は静かに、だが確実にそこまでやって来ていた。


僕はゼロ円札を見上げた。価値が無限大となった紙幣。


008


いまはどれくらいの枚数が発行されたのだろうか。


僕は相変わらず、この紙を使えずにいた。


ゼロ円札が当たり前となったある日。

通知がひとつ、届いていた。

その文面を見て、頭にずっとぶら下がっていた恐怖が、ずい、と浮かび上がってきた。


「その時はきた」


僕は何が起こるのかは分からなかった。

でも、何が失われるかは知っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ