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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺っ子パンク女子が僕っ子地雷女子に堕とされるまで

お越しいただきありがとうございます。


こちらリクエストいただきました、「僕っ子女子と俺っ子女子の百合」をテーマに書き上げたものでございます。

ほぼ初GLなので、お手柔らかにお楽しみいただければ幸いです。

「なんでよぉ! 嘘つき嘘つきウソツキ!!」


 バチーン。

 騒めく大学構内に容赦ない打擲音が響いた。

 僅かなタイムラグの後、俺の頬がじんわりと熱を帯び、ジンジンとした痛みが生まれ始めた。


「嘘なんてついてない。俺、アンタに男だって言ったか?」


 俺の言葉に目の前の女は地雷メイクを施した顔を歪めて俺を睨みつける。


「そんなカッコで俺とか言ってたら男だって思うじゃんフツー!」


 ぶんぶんと揺れるパサついたツインテールから逃れるように自分の身体を見下ろす。

 直ぐ上の兄から借りた黒のライダースジャケット。ピタピタの皮パンは確か次兄のお下がりだったっけ?

 ゴツいシルバーのネックレスとリングは兄三人が誕生日にお金を出し合って買ってくれたそれなりに良いものでお気に入りだ。バチバチにピアスを開けている耳を揺らして首を傾げる。

 いつも通りの好みの服に包まれた自分。何が悪いのだろう。


「……別に女がパンク趣味でもいいじゃん。俺が俺っていうのは三人いる兄たちの影響だし……。貧乳なのは育たなかったんだから俺の責任じゃねぇよ」


「だからぁ! そんな言葉遣いしてたら男だって思うじゃん! ミサキ悪く無いモン! アンタが全部悪い!」


 もう一度大きく腕を振りかぶる目の前の、今さっき名前を知った女。

 すっとバックステップしてビンタを躱す。

 たたらを踏んだ女がべしょりと地面に膝をついた。


「っ! なんでよけんのよっ!」


「そう何度も叩かれる趣味はねぇよ。なぁ? 一発叩いて気が済んだ? 俺、別にお前の恋人とか、そもそも友人ですらないよね? なのに出会い頭にビンタとか……。訴えたら俺勝てるんじゃね? しかも理由が勝手にそっちが勘違いしたからだろう?」


 コテンと首を傾げれば、左耳たぶを飾るピアスについたチェーンがしゃらりと音を立てた。

 暗赤色のティントルージュで彩った唇を歪めてみれば、女は恐ろしいもので見たような顔をして、悲鳴を上げながら逃げていった。


「ったく。なんだってんだよ。叩かれ損じゃねー?」


 じんじんと鈍く痛む頬に手を当てれば、そこは未だに熱を持っていた。


「ってぇ……」


 そう呟きながら踵を返せば、唐突に始まった茶番劇は予想以上に耳目を集めていたらしい。

 遠巻きに集まっていた人たちが俺と目を合わさないように、慌ててそっぽを向いてそそくさと立ち去っていった。


「なんだってんだ……まったく……」


 呆れのため息を一つ落とせば、くすりと笑う甘い声が聞こえてきた。

 ちらりとそちらに視線を投げれば、さっきの地雷女と同じような格好をした女が俺を見ていた。


「……んだよ。見せもんじゃねーぞ?」


「あぁ、ゴメンね? 君って……女の子なんだよね?」


 コテリと首を傾げると、さっきの女よりよほど手入れが行き届いているツインテールがさらりと揺れた。

 ずいぶんと長さがあるのに、毛先まで艶々だ。


 揺れる物に目がない猫のように、その毛先を視線で追いかけてしまう。


「ねぇ? どうなの?」


 すぃと猫のように身体を滑らせて近づいてくる。一拍遅れてふわりと甘い香りが漂った。


「んぁ? あぁ、女だよ。どっからどう見ても女じゃねーか」


 ゆらゆら揺れるツインテールに、まるで催眠術でも掛けられていたようだ。

 ふわっとした意識をなんとかつなぎとめて、言葉を返す。

 満足げに微笑んだ目の前の名も知らぬ相手は、すっと俺へと手を伸ばしてきた。


「……何?」


「僕は三枝(さえぐさ)(こころ)。よろしくね。君とは友達になれそうだ」


 自分のことを棚に上げて、自らを「僕」と称した三枝の全身に不躾な視線を走らせる。

 華奢な体躯と相反する豊かな胸元。編み上げのビスチェ風な洋服で押し上げているせいもあるのだろうが、デコルテから覗くしっかりとした谷間はどう見たって女にしか見えない。


「なぁに? 君だって自分のコト俺って言うのに、僕のことは変だと思うの?」


 俺が何を訝しんでいるのか気づいたのか、いや、(はな)から気づいていたのか、面白そうに三枝が首を傾げた。


「……いや? いいんじゃね?」


「ふふっ。でしょう? だから僕たち……()()()になれると思うの。……よろしくね?」


 シュガーピンクに染まった爪先を持つ細い手が俺に伸ばされた。

 だから俺は……真っ黒なネイルを施した手でその小さな手を包み込む。


 それが……俺と、三枝との出会いだった。


 この出会いの時に、「お友達」に妙な含みを持たせていた三枝の真意に気づいたのは……。

 モノトーンの家具とファブリックに包まれた三枝の部屋で、お互い一糸まとわぬ姿で目覚めた時だった。


「んふふ。絶対逃がさないから。これからはお友達兼恋人として……よろしくね?」


 そう言って笑う心は……大変可愛らしかったと付け加えておく。

 例え昨夜、酔った勢いで襲われたのが俺だったとしてもだ……。

 ガンガンと二日酔いで痛む頭を抱えながら、俺はどうしてこうなったと天を仰ぐしかなかった。

 

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

また、リクエストありがとうございました!


百合って……むつかしいね?

主人公の俺っ子ちゃんは、趣味と兄たちの影響でパンクファッションで一人称が俺だっただけの、恋愛対象は男性だったはずの子なんですが、まんまと三枝ちゃんに喰われましたとさ。

ちなみに三枝ちゃんは(通俗的な意味で)確信犯です。


改めてお読みいただきありがとうございました!

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