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落ちこぼれ天使の成長記  作者: 九条九重


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10/11

決着と意味

おねえちゃん


なに?


私は冒険者になる


十年以上前かしら

遊んだ帰りの夕暮れ時に

ナツはよくそんな事を言っていたわね


懐かし景色、よく通った道、泥だらけで輝くナツの姿

あれからいろいろあった


 それでね、強い冒険者になって

勇者みたいにすごい人になるんだ


夕日が照らし、嬉しそうに体を揺らして小さな温かい光を振りまく、その姿が眩しくて堪らない

可愛いかったわ


 おねえちゃん、なんで泣いているの?


 え


ナツに言われて初めて気づいた


 おねえちゃんそれでね

いつか結婚してお嫁さんになるの、お母さんみたいになりたいんだ

結婚式はおねえちゃんも一緒にでたいな


…それは….無理ね


溢れる涙が堪えても流れ続ける

一緒に笑って居たいのに

頑張って笑おうとする程に上手くいかない

 

大丈夫?おねえちゃん

結婚しても何があっても

ずっと一緒だからね


ナツの差し伸べられた手


ユキは微笑むしかなかった

あなたは変わらないわね

震える手を前に出せずにいた



「ユキちゃん、癖なおってないね」


クマの死が近づいている

無数の切り傷と火傷その流血

動きが目に見えて鈍くさせる

一撃に賭けるしかない

ほんの一瞬でクマの左腕が斬る

斬られつつなお鎌振振おうとする

ユキは好機を見逃されない、その一撃よりも自分の方が早くクマの命を断つ事が出来るはず

ユキの本能は確信していた

氷刃六花

空を裂いた剣、落ちていく鎌

グシャリと鈍い音、肉塊は落ちる


落とされた左腕の血が根を張り

鎌が地に着くまで…

確信と高揚は消え、本能的な恐怖が思考を冷やしていく

狂い下を見下ろす目は緩み受け入れる

そこにあるもの、その果ては唯一救い

安堵していた


「避けないと思った」

そうであって欲しかった、勝つ為では無い

ユキが完全に消えていないと信じたかった

「破月!」

低い姿勢から左の脇腹

胴を切断した場所にクマの残された全力の拳


胴体は完治した訳でない、クマはそれをユキの動きの鈍さから見抜いていた

ほとんど凍着されいるだけだった胴は拳で破壊され

上半身は吹っ飛ばされ壁に叩きつけられた


クマの全力を出し切った拳は砕け、もう握る事は出来なくなっていた


もう鎌は握れない

それでも鎌を口で銜えて

倒れそうになりながらもユキのもとへ

ユキは壁に叩きつけられて潰れた顔を

おぞましい右の頭のようなものに向けて

声はなく口を動かしている

骨は飛び出し変に捻じれ曲がった腕は

おぞましい頭を護るように抱いてい

自分の顔の方に引き寄せようとしていた


クマは壁に叩きつけられる事から

おぞましい頭を護ったことは容易に想像できたが何故かは分からない

それよりも死の魔法が効いていないのは何故か?と考えていた


クマはユキの心臓に体の下から刃先を突き立て、砕けた手と傷だらけの足で押し刺そうとした


......おねえちゃん

ずっと一緒だからね

ナツのては自分の手を握っていた

ユキも変わらないね


震える手で強く強く、もう失わないように

 守れなくてごめんね



おぞましい頭からの一言で

クマがそれに気づく


「…ねえち......えちゃん」

似ても似つかぬその声

「ええ…」

それは心より早く体が認めた

頬を伝い鎌を伝い、ずっとずっと先まで流れる

刀を銜えた口から溢れんばかりの悲しみが漏れ出していた


「ねえちゃん......」


完全に消えていないと信じたかったはずなのに

今はそれが悔しくて…たまらない


「はやく

 これ以上は堪えられない」

震える刀は一気に心臓を貫いき

戻れない真実を自身に突きつける




「グランです」

「グラン隊長ですね、マルク大佐にお繋ぎします」

「やけに物分かりがいいですな」

「何年私が秘書をしているとお思いで?」

「グランか、例の場所はどうだった?」

「侵入者が二名、葉虫は殺されていました

 双子が一名と交戦中、もう一名は私を追ってきたようです」

「わかった絶対に逃すなよ、まだそれを知られる訳にはいかんのだ

それと応援を送る、お前のように転送魔法は使え無いから時間は掛かるがな」

「良いみあげを用意しておきます」

「そんなに強いのか?」

「おそらく双子よりは」

「絶対にアレには触れさせるなよ

捕えたらお前が殺した駄馬は無かった事にしてやる」

「有り難いお言葉です、では後ほど」

杖を口元から外し静かに振り返る

「お話は終わりましたか?」

視線の前にははセイラが立っていた

「お待たせしました」

「この街ごと腐っているのですね」

静かな、そして確かな殺意を宿す冷静な声

「今にも殺されてしまいそうな目をしていますよ」

「そのつもりです」

セイラは杖を振る

男は消え地面は轟音と共に凹み砕けた

魔法、重力倍加

亀裂に血が流れ込む

後ろから隊長の不快な声がする

「重力の魔法ですか、それにしても私の魔法を捻じ曲げるとは」

魔力、瞬転光波

何処から来るかわからない転送魔法を避ける事は至難の業

逸らす事に注力したがその攻撃は肩の肉を削いでいた

「やはりこれでは無理でしたか」

「やはりとは?…風…」

セイラの言葉に疑問を持ちつつも風に気が流れていく

 奴を中心に空気が廻っている

セイラの血も廻る風に流されつつある、危険を察知した隊長は更に後ろに飛ぶ

その瞬間壁に叩きつけられた

「なんだと、あの女バカか」

星渦の印が通路に連なって幾つか刻印されている

「私はお前を殺す事に命を賭けれる」

セイラの狂気がゆっくり着実に来る

星渦の様な大量に魔力を消費する技の刻印を付け、実際に発動させるなど常人の発想ではまず無い

「くそおぉ」

皮膚が体の中心に引き寄せられ裂ける

吹き出す血が滝のごとく中心に流れ落ちる

それどころかこの場所が持たない


セイラの前に自ら飛んでいく

程なくして星渦は消え、セイラは虚な目をして立ち尽くしている

「全くイカれた奴だ」

隊長の持つ物は瓶詰めにされた黒馬の目、魔力を注ぐ事でその力を一時的に取り戻す

隊長は膝を着き、呼吸は荒く流れる血が止まらない


セイラが倒れゆく瞬間、なんとか意識を取り戻し足を前について止めた

「まだ…まだだ、まだ死ねない」

黒馬の目は使えば失明する程の力があるはずだが隊長持つ目はまだ失明していない、完全発動には魔力不足だった様だ

「コイツッまだ立つのか、化け物めが

 生き残る権利が勝った者にはあるのだ」

隊長も立ち上がるがあるのは気合いだけだ

「たしかに私達はお前の言う争奪戦の敗北者かもしれない

 なればこそ勝者には背負って貰おう、この憎しみ」

星弦 瞬転光波

こんな事望んで無い、いや本当にそうか?

血しぶきの中セイラは生き残った

倒れるのは隊長、そしてクマ…


倒れるクマを抱き抱え

「お嬢何故、何故あなたは!」

「セイラ…ルカを守れなくてごめん…セイラだけは守るってあの時に誓ったんだ

 セイラが…」

抱える手に力が籠る

「それで私があなたに感謝するとでも?」

震える声で言いたく無い事を無理矢理に言わされる様

「ルカだってそうだよ」

優しく、なんて酷い事を言うんだ

私はどうしたらいい?

眉間にシワを寄せ涙を流す事しか出来ない

「セイラ…」

「やめろ、」

「生きて」

声にならない叫びが響いていく

それは泣き声に変わって続いていく



セイラはクマ抱えて出てきた

血に塗れるふたりを宵月夜の光が優しく包む

それが心に届く事はなく

沈黙は夜よりも深い





それから数分もしないうち

書置きを見て迷いながらもテンは来た


血だらけの二人を前に一瞬にして焦りは頂点に

「クマ…」

なんの思考も無く発した言葉が

頭をいっぱいに埋め、脈は速まり

ほんのあと数メートルを長く感じる


逸る左手でクマの抱き

右の手を切って胸の上で力いっぱいに握った

ドクドクと速まった脈で血が上塗りされる


次第にクマの出血は収まり

一安心しクマを見つめるとが表情から生気を感じない


テンがこんなに人の死で焦るなんて…

セイラはなんとも言えない虚ろな目でそれを見ている


冷たいクマを抱き抱えるテンの心境は分からないものがあった

「テン、大丈夫?」

ユイが遅れて来る


テンは何も返さない

セイラは何も知らないユイの存在を意にも介さず、ただ呆然とするだけだ


セイラに熱いものが流れる、テンの血だ

「すまない、僕のせいだ」

深い自戒の念が込められている

「似たもの同士だね」

「…」

「お嬢もテンも…私が悪いのにさ」

セイラの血は止まり傷跡も直に無くなっていくだろう

「義父が死んだ時、人が死ぬ事を理解していたつもりだった」

セイラは静かにテンの話しを聞いた

「でも逃げたんだ、そして…だから今だ、また…」

テンはそのまま暗い路に姿を消す

産まれながらにして持ち過ぎている者だからこそ受け入れられ難い失う痛み

天使として産まれ、神器から寵愛を受けたその血はどんな傷や病も治してしまう

死ぬなんて思って無かった、だがそれをようやく受け入れ初めた

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