第9話 デートしよっ
朝の光が街を柔らかく照らす。ミオは胸に夢糸を握りながら、ヴォイドを見上げる。
「ねえ、ヴォイド、ちょっと考えたの」
「……なんだ?」
ヴォイドは淡々と答えるが、瞳の奥には興味が少しだけ宿る。
「夢を見せるのは……まだ危険かもしれない。あなたの命がかかるもの」
ミオは少し俯きながら言う。
「だから、今日は、現実で楽しめることを、一緒に体験したいの」
ヴォイドは短く息を吐く。
「……現実……楽しむ、か」
無表情のままだが、その声にわずかに期待が混ざる。
「そう! だからデートしよっ!」
ミオはヴォイドの手を握り、にっこりと笑う。
「私が、あなたに現実の楽しいことを教えてあげるわ!」
午前。市場は色とりどりの果物や香辛料、露店の賑わいで活気づいている。
「こっちよ、ヴォイド!」
ミオは手を引き、果物の試食をすすめる。
「甘い?…酸っぱい…」
ヴォイドは初めての表情でリンゴをかじる。少し眉を上げ、驚きの色が見える。
「美味しい」
ミオは嬉しそうに笑い、肩を叩く。
「でしょ! 笑顔が出るじゃない」
露店の間を歩きながら、二人の距離は自然と近くなる。
人を避けるために、ヴォイドに密着すると、胸の鼓動が少し早くなる。ヴォイドはどう思ってるのか、顔を見つめる。ヴォイドは無表情のままだが、微かに肩をすくめ、ミオの視線に気づく。
午後。湖畔のカフェで休憩。ミオはヴォイドに甘い菓子を勧める。
「これ、絶対に気に入るわ」
ヴォイドは無表情で一口かじると、目を細める。
「……美味い」
「あなたって案外、甘党なのね」
ミオはにっこり微笑み、ヴォイドは少しだけ顔を背けるが、心の奥は温かい。
「ねえ、ヴォイド……さっき他の人見てたでしょ」
ミオは少し照れた声で問いかける。
「……いや、そんなことは」
ヴォイドの淡々とした答えに、ミオは肩をぷいっとすくめる。
「もう、私とデートしてるのに嫉妬しちゃうんだから!」
微かに赤くなる頬が可愛らしい――ヴォイドの胸にも小さな動揺が走る。
二人は湖のほとりを散歩する。水面に映る二人の影が、ゆっくりと寄り添う。
「ヴォイド……腕組んでもいい?」
ミオの声は少し照れながらも力強い。
「……ああ」
ヴォイドは無表情だが、腕を差し出す。
ミオは腕をぎゅーっと抱きしめる。
温かさが伝わる――
「こんな感覚、初めてかも」
ヴォイドはどうしていいかわからず、どことも言えない方向を見ていた。
夕方。遊園地の観覧車に乗る二人。頂上から見下ろす街並みは、まるで宝石箱のように輝く。
「きれい……」
ミオの瞳が輝き、ヴォイドもその景色を静かに見つめる。
「……世界は、意外と悪くないな」
ヴォイドの短い言葉に、ミオは身体の奥が熱くなるのを感じる。
「でしょ? 現実だって、夢みたいに素敵な瞬間があるのよ」
観覧車がゆっくりと回る中、ミオはヴォイドの肩に頭を寄せる。
「今日は、夢を見なくてもいいわよね。こうしていよう」
目を瞑り身を預けるミオを見て、ヴォイドは初めての感情を覚える。
「……俺も……お前がいてくれるなら……悪くない」
無表情のままだが、心の奥で小さな喜びが芽生える。
夜。街の灯りが二人を包み、湖面に反射する。
ミオはヴォイドの手をぎゅっと握り、微笑む。
「ねえ、ヴォイド……今日は楽しかった?」
「……ああ」
ヴォイドは微かに頬を赤らめ、手を握り返す。
「お前と一緒なら、現実でも悪くない」
ミオは胸が熱くなり、顔が自然と緩んでしまう。
「そうでしょ? 夢も素敵だけど、現実だって私たちの世界は楽しいのよ」
湖面に映る二人の影――その距離は、わずかに近づき、互いの心を確かめるように重なる。




