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第6話 怖くないよ

 ミオは小さな懐中ランプを手に、慎重に足元を確かめながら歩く。ヴォイドは一歩先を歩き、その背筋はまっすぐで揺らがない。しかし、このあいだの村でのやり取りが、わずかに彼の肩の力を抜かせているのがわかる。


「今日は、もう少し深く、あなたの記憶を辿ってみるわ」


ミオの声は穏やかだが、心の奥の決意は固い。


「……そうか」


ヴォイドは淡々と尋ねる。感情はないように見えるが、その声には僅かな緊張が混じっていた。


「も~、気のない返事ね」


 その言葉に、ヴォイドの灰色の瞳が一瞬だけ揺れた。無表情の彼の胸の奥に、初めて小さな動きが生まれた瞬間だった。森の奥に差し掛かると、古い石の階段が現れる。かつての訓練場へ続く道だ。


「ここで、あなたは何度も戦いの訓練をしたのね」


ミオは手で軽く触れ、石の冷たさを確かめる。


「……ああ」


 ヴォイドの答えは淡白だ。だが、その目には少しの懐かしさが滲んでいた。


「覚えているの?」

「……ああ、訓練の感触、誰かと話した。剣を交えた」


 ヴォイドの声は低く、そしてわずかに震えていた。ミオは胸がぎゅっと締め付けられるのを感じる。無感情の彼の声に、感情の欠片が見えた瞬間だった。


「じゃあ、少しだけ……私にその記憶を見せてくれる?」


ミオはそっと手を差し出す。ヴォイドはしばらく黙ったまま考えているようだったが、やがて小さく頷いた。


夢糸を手に取り、ミオは淡く光を灯す。戦場での訓練の風景、仲間たちの声、鋭く光る刀……


「……だめ……見えない記憶はあるけど、あなたの思いが見つからない」


ミオは悔しさに息を荒げる。


「どうして……?」


ヴォイドはわずかに肩をすくめ、淡々と答える。


「俺は……夢を見る資格がないのだろう」


その言葉に、ミオは胸の奥で熱いものが込み上げる。


「そんなこと誰が決めんのよ!」


ミオが感情を丸出しにしてヴォイドに詰め寄る。


ヴォイドは言葉を止め、灰色の瞳で彼女を見つめる。ミオの手の温かさ、必死な目、胸の奥まで届く熱。無表情の彼の胸の奥が、微かに揺れる。森の霧が二人を包み、落ち葉が静かに舞う。ミオの髪がヴォイドの肩にかかり、自然と二人の距離が近づく。


「……俺が怖くはないのか?」


「なに?こんなに近くにいるからってこと?平気よ、そんなのっ」


ミオは力強くヴォイドの手を握り、胸の奥の決意を伝える。


「あいにくと、私はあなたが不死の傭兵でも怖がってあげませんからね!」


ヴォイドはしばらく黙っていたが、やがて口を開く。


「……お前といると……不思議だな」


無表情の彼の言葉に、ミオの胸はぎゅっとなる。微かな笑みが自然にこぼれる。


「でしょ?」


ミオは軽く肩をすくめ、頬を赤らめる。


「感情が動いてる証拠ね、私は嬉しいわ」


「……もっと……教えてくれ」


「なっ」


 ヴォイドの素直な台詞に少しだけ顔が赤くなる。霧の森に二人の足音だけが静かに響いた。心はまだ完全には開かないが、確実に糸が絡まり始めたのを二人とも感じていた。夜明けの光はまだ届かない。だが、胸の奥で芽生えた微かな期待――


「いつか、俺も夢を見られるのかもしれない」

ミオはそっとヴォイドの肩に触れ、微笑む。


この距離感、この胸の高鳴り。たしかにヴォイドの心は動き出していた。


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