第10話 恐怖と安堵
夜の帳が町を包み、街灯の明かりが通りを淡く照らしている。ミオは買い物を済ませ、両手に袋を抱えながら宿に戻ろうとしていた。
「よし、これで明日の食事も大丈夫ね……えっ!?」
突然、一人の男がミオの後ろから襲い掛かる。
「その荷物をよこせ!」
鋭い声。手には刃物が光り、ミオの心臓が一気に跳ね上がる。
「いやっ……!」
思わず叫ぶミオだが、押さえつけられてしまう。
「ヴォイド!!」
恐怖と絶望の中で、ミオは思わず大声で名前を叫んだ。その瞬間、暗がりから静かな足音が近づく。
「……遅かったので、心配であたりを探していた」
低く、淡々とした声。銀色の瞳が月光に光り、空気が一瞬にして凍りつく。ヴォイドが現れた。剣を抜き、構える。強盗はミオを人質に取り、刃物を振りかざす。
「……武器を置け」
冷たい声が路地に響く。ヴォイドは無表情のまま、手に握る剣をゆっくりと地面に置く。
「やめ……ヴォイド……!」
強盗は、ヴォイドに近づき、首筋に斬りつけた。が、そのままヴォイドが刃物を掴み取り、ミオを強盗から引き離す。
「悪いな、死ねないんだ……」
淡々と呟き、力を込めて強盗を制する。そのまま、強盗に斬りつけ、殺害した。ミオは目を見開き、胸が高鳴ると同時に、恐怖で震えが止まらない。
町の人々はその光景を遠巻きに見て、恐怖と不信の目を向ける。
「化け物……あんなものがいるなんて!」
「危険だ! あの男は触れてはいけない!」
「ちょっと……!」
ミオは必死に庇おうとする。
「ヴォイドは……私を守ってくれたの!」
だが、町人の怒声と罵倒は止まらず、ミオの声もかき消される。ヴォイドはその間、静かにミオの手を取り、腕に抱きかかえる。
「……行くぞ」
無表情のまま、しかし確かな力でミオを守り、町の雑踏から離れていく。
ミオはヴォイドの胸に顔をうずめ、心臓の音を聞く。
「怖かった……でも、あなたがいてくれたから……」
胸の奥に温かさと安堵が広がる。ヴォイドは淡々とした声で、しかし少しだけ柔らかく答える。
「……無事でよかった」
その言葉は短いが、ミオの心に深く染みる。月明かりの下、二人の影は寄り添いながら夜の路地を抜けていく。




