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俺だけが使える亡国技術 〜力に目覚め奴隷を脱しましたが、何故かその先も地獄でした〜  作者: 星空論理
【序章】 名しか持たない彼が唯一無二の力に気づくまで
5/10

近代魔術戦

 * * * 


 ルナクタで強化された力で、オルガの亡骸を運ぶ。


 この世界、どこも地獄だがこの集落に放置する気には到底なれなかったからだ。


 せめて──せめて、きちんと弔ってやりたい。


 それから、集落で他の採掘員の死体や破砕機からルナクタの筒を回収しておいた。今やこのルナクタが俺の生命線だ。


「……!」


 集落の入り口に近づいたところで、何やら話し声が聞こえてくる。


 まったく助けに現れなかった監視員達だろうか。


「奴隷共も死んだ頃合いだが、お前をこのまま殺すのも惜しいな。ちょっと楽しませてもらおうか?」


 (……ッ!?)


 どういうことだ、()()()()()()


 まさか、あのモンスターの襲撃は仕組まれていたものなのか……!?


 ──だとしたら……!


 会話の真意を問いただすべく、2人の前に飛び出した。


「……ん?なんだおまえ」


 * * *


「なあ、"俺達が死んだ頃合い"……って、どういうことだ?」


「その血……ただ逃げてきたってワケじゃあ無さそうだな」


「質問に……答えろ……」


 ルナクタが満ちた筒を握り潰し、溢れ出した光を吸引する。


「ルナクタ……?はっ!なんだそれ!外で流行ってる手品か何かか!?」


 光は満ちた。地を蹴り、男との距離を詰める。


「……聞こえなかったか?」


「ッ!」


 男が驚愕の表情を浮かべる。


 拳が顔面を捉える直前、男は掌で拳を掴み攻撃を食い止めた。


「おいおい、こりゃ本当にあの化け蛙を殺ってきたのか」


 語りかけてくる男に、言葉を返す。


「なに余裕そうにしてんだよ……」


 ──この程度で止まるわけないだろ


 光る拳は推進力を持ち、確かに受け止めた筈だった男の掌を押し返すと、そのまま顔面を殴り飛ばした。


 数メートルは吹き飛ぶ男。何度か回転しながら地面に倒れ込む。


「……」


 2、3秒ほど経過した後、男はよろめきながら立ち上がった。


「……これはなんの冗談だ」


 先ほどまでの余裕はどこかへ言ってしまったのか、何か信じられないものを見たような目で話し続ける。


「テメェ、誰かに雇われた殺し屋か……?」


 殺し屋…?


「勘違いだ。早く質問に答えろ、殺すぞ」


「質問質問うるせぇな。──俺がやった。これでいいか?」


 (……!)


「なぜ!!」


「…………いいかげんうるせえよ」


 面倒臭そうに男が答える。


「弱ぇ奴は利用して殺す。この世の常だろ」


「……ッ!」


「もういいか?これ以上は、()()しかないだろ。──魔術師ならな」


 男は腰に下げた剣を抜くと、その刀身が赤く輝いた。


 * * *


 戦後、交戦範囲の狭小化から魔術戦の主流は身体強化魔法による近接戦闘がベースとなっている。


 身体強化魔法はスピードと攻撃力、耐久性という戦闘に必要な全ての能力を向上させ、弾丸を射出する近代兵器やタメの長い魔法攻撃に対して優位に戦闘を進められるとされているのだ。

 

 圧倒的身体能力で立ち回り、工房製の武器で殺傷力を補って戦う。

 これが最後に残った人類の、最も最適化された近代の戦闘スタイルである。


 * * *


 バルドが剣を、弧を描くように斜め上方向へ鋭く振るう。


 赤く光る剣は高熱を帯びており、鮮やかな赤で描かれた軌跡すら火傷しそうなほど熱を持っている。当たることはおろか、防ぐことすら危険だろう。


 その一撃を屈伸運動で躱わした迅は、バルドの鳩尾目掛けて殴りつける。──奇しくも迅の戦闘スタイルは近代魔術戦のセオリーを準えていた。


 しかし、その一撃は鳩尾を捉えることなく、彼の左手によって阻まれた。


 だが、先程と同様、迅の拳には光による推進力が宿っている。


 そのまま拳はぐぐっと進み──予定調和のように、掌を押し返すと、


 その瞬間、バルドはニヤリと笑った。


 即座に体を捻って推進力を流したのだ。勢いの乗った拳はいなされ、迅はバランスを崩す。


 倒れかける迅を目掛けて、バルドは右膝を鋭く蹴り上げた。


 ──ズンッ!


「なッ!」


 迅はこうなる事を予見していたのか、蹴り飛ばされないようバルドの右脚に抱き付くようにしがみついていた。


 次の瞬間──光る推進力が再び起動する。


 バルドの右脚にしがみついたままの迅は、空中でぐるんっ、と回転。


 迅の身体に支点を取られ、ミキサーの刃の如く回転させられたバルドは天地の感覚を失い、


 ──頭から地面へと叩きつけられた!


 * * *


 私は、何を見せられているのだろう……


 あの採掘隊にいた男が、バルドを圧倒しているのは驚きだけど、それよりも気になることがある……


 ──彼からは魔力を全く感じられない。


 暗殺協会(アンブラ)所属の魔術師は、魔力を隠して行動することができると聞いたことがある。しかし、ここまで微塵も感じられないものなのだろうか?


 特に彼が纏っているあの光。あそこまで露出していたらそれはもうアウトプットされた転換魔術だ。その魔力を隠すなんて不可能だと思う。


 彼は何者なのだろう……


 * * *


 頭から血を流しつつも、バルドは立ち上がった。


 自ら頭を左右に強く振り、気付けをする。


 (くそッ!生きてる……!何秒寝てた!?)


 実際には20秒に満たない気絶時間であったが、その間に確実に殺されていたであろう致命的な空白だ。


 しかし、凡人の魔術師であれば既に動くことは叶わなかっただろう。それほどまでに、バルドの身体強化魔法は高度なものだった。


 そして、バルドから5メートル程離れた場所には、手斧を持った迅が立っていた。手斧はバルドが気絶している間に耀輪車の荷台から拝借したものだ。


「てめぇ、舐めてんのか」


「気絶している間に死ねたんじゃ、お前には気楽すぎるだろ」


「後悔するなよ……」


 バルドが再び剣に魔力を注ぐと、迅もまた、手斧にルナクタの光を注ぐ。


(相当戦闘慣れしてやがる。このまま突っ込んでもさっきの二の舞だ……だったら、もっと速く……避けられない速度で斬ればいい)


 バルドの思考は単純明快だが的を射ていた。近代魔術戦において速度とは、その根幹となる重要な概念だ。


(あの斧でガードはされるだろう、だが問題ない。熱剣で強引に身体ごと切り裂いてやる)


 先に動いたのはバルドだ。


 飛び出すと、左上方に剣を構え、迅目掛けてそのまま振り下ろす。


 リーチの短い武器の場合、持ち手の方向からの攻撃をガードするのは、上手く力が入らず困難だ。


 例え、推進力を発動しようとしても、剣を振り下ろした際の膂力と熱で、その暇を与えずに切り裂く。


 バルドはそれらを計算に入れて攻撃を仕掛けていた。


 振り下ろされる赤い剣、それを白く輝く手斧が受け止めようとする。


 (見立て通り……死ねッ!)


 しかし次の瞬間、──バルドが身体のバランスを崩す!


「なっ!」


 いつの間にか、足元には人の肩幅程度の窪みが現れていた!それに右足を取られ躓いたのだ。


「落とし穴だよ。あんたが気絶中に掘ったんだ」


 迅は既に仕掛けていた。


 ルナクタの収光現象を用いて土を崩壊させ、その上にカムフラージュの土を被せる。そのせいか浅い穴になってしまったが、人を躓かせるには必要十分なトラップが完成した。


 迅はそのまま、バルドの持つ熱剣目掛けて手斧を振るった!


 ガキンッ!


 手斧が、赤熱した刃に衝突する


 受け止めた手斧は、ジリ……と音を立てて溶け始めたが、迅は構わず光の推進力で手斧を押し込む。


「んなっ……!!」


 熱剣は、そのまま持ち主の頭部付近へと迫り、その首筋を捉え、──肉を焼いた。


「あっづ!!!やめ、止め、止め止めやめやめやめええええ!!!!!!!!」


 悲鳴が響き渡る中、迅は体勢を崩したバルドをそのまま地面に叩きつけた。


 肉を焦がす音と独特の焦げた臭いが辺りに広がる。


 男が剣を引き剥がそうと暴れるも、迅が手斧で押さえ付け離れない。


 手斧が剣の熱で溶けることを防ぐために、迅は空いている方の手でルナクタの筒を割り、全力で光を送った。


 (光を補充しつづければ、多少は長持ちするだろう)


「あああああああああああアアアアアアア!!!!!!」


 全力で手斧に光を集める迅と、全力で手斧を引きはがそうともがくバルド──


「お前はもっと……苦しんで死ね……!」


「アアアアアアア!!!てめッ!!くそグァアアアアアア!!!!」


 バルドは身体強化魔法を腕に集中させ、剣を押し返そうとする。


 しかし、勝手を間違えたのか、その魔力は手を伝い熱剣の火力を押し上げた。


 火力の上昇により融けた手斧の一部が、バルドの首元や顔へと滴り落ちる


「ああああ、ああ、ああががご……」


 ──やがて、迅が最後のルナクタの筒を割った。


 * * *


 手斧が完全に溶けて無くなった頃。


 バルドの遺体と焼け焦げた匂いが、ただそこに残っている。


 迅による最初の殺人だった。

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