ポンコツ魔王と武器屋
「クルル、良い武器や防具を見つけたか?」
俺たちは当初の目的である勇者を倒すため、武器や防具を物色していた。
正直このまま屋台を引き、そのうち正式な営業許可も貰い、そのままこの世界を謳歌するのも悪くない。
しかし元の世界に戻り、バラ色の高校生活を送りたいという気持ちもあるため、仕方なく剣を取ることにする。
「んー、もうちょっと探してみたいかなぁ。あの勇者をぎゃふんと言わせるためにね」
そんな会話をしている中、一つの疑問が頭を過った。
「勇者ってことはその他に仲間もいるんだろ? 流石にそいつらは常識人だろうから、英雄たちを倒そうとする俺たちを国民が黙っていないだろ」
その疑問に対してクルルは、「別に尊敬とかされてないと思うよ。勇者パーティーも全員クズだから」と口にする。
「クズって?」
俺が内容を尋ねると、平然とした顔で「国民を攫っては奴隷のように扱ったり、人体実験とかしてるっぽい」と答える。
思ったよりもろクズじゃないか。と言うか勇者パーティー全員が魔王より魔王なのかよ……
「そりゃあ、倒されても良いかもなぁ」
「でしょー? こんな現状を見て、神様も大魔王様に均衡を取れと圧をかけてるの。その圧がこっちにも来てる訳なんだけど……」
少しずつ沈んでいく顔は何とも哀愁が漂う。
「ま、まぁ。少しずつ気ままに行こうぜ。今の俺たちじゃどうせ手も足も出ないだろうし」
俺は少し気の毒に思いながら剣を握ると、自分が活躍する姿を想像する。
もしかしたら俺の固有スキルが発動して、どこかの国のお姫様を助けて、そのまま結婚したりして。
必殺技の名前はどうしようか。やっぱここは王道のスターバーストストリームにしようかな。
自分が敵を華麗に倒し、ちやほやされる姿を想像するだけで有頂天になれるのは、随分とコスパのいい男だと我ながら思う。
俺は両手で剣を持ち、決めポーズを取っていると、「僕の買い物は終わったよー」とクルルがこちらにやってきた。
「おお、お前は何を買ったんだ?」
そう言って彼女のほうを振り向くと、そこには工具や素材を両手いっぱいに抱えるクルルの姿があった。
「クルル、まさかそのペンチで戦うつもりか?」
「んにゃ? 私は武器とか魔法も使えないから、こういう道具だけで十分なんだよ」
今更、今更俺は驚かないぞ。こいつがいかにポンコツであるかは俺が一番知っている。
「あ、あぁ。そうなんだ」
「おい、なんで僕から目を逸らす?」
ポカポカと殴ってくるクルルを無視して、俺も自分の武器を探すと、シンプルだが使い勝手のよさそうな剣を見つける。
「これください」
すると店主は「新しく冒険を始める方ですね。でしたら、これをどうぞ」と言い、俺に荷物を纏めるためのロープを渡してくれた。
い、いらなすぎる。
こういうおまけは大抵不必要で直ぐにゴミ箱に捨てられる運命だが、親切心を無下にする理由もない。
「あ、ありがとうございます」
「どうして私から目を逸らしたんです。何か言いたげですね?」
なぜおまえもそうなる。
そして察する能力があるなら最初からこのロープを俺に渡すな。
これ以上厄介な関りを持ちたくないため、俺は急ぎ足でこの店を後にした。