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ポンコツ魔王と悪徳市長

「今日行く肉屋で何を漁ろうかなぁ」

「やっぱアングリービーフが良いだろ! 一番脂がのってる部分を頂こうぜ!」

 

俺たちは二人、笑顔になりながらお天道様に照らされて、ゴミ箱に引き寄せらる。

 

最初のころは逃げたり、冷たい地面で寝たりと大変ではあったが、住めば都という言葉がある通り、この環境にも慣れてきて悠々自適な暮らしを送っていた。

 

人間の適応力すごい。

 

そんな関心を抱いていたが、何かを忘れている気がする。

 

顎に手を当てて、それを思い出そうとしていると、「何神妙そうな顔してるの! そんなスカスカの頭じゃ何も考えられないでしょ!」と俺の頭を叩いた。


「思い出した」

 

俺は自分のことを頭が良いと思っているバカの頬を掴むと、「は、離せよ! 魔王に対して無礼だ!」とこの期に及んでもまだ魔王を自称してくる。

 

魔王はゴミを漁って命を繋いだりはしない。


「おい、とりあえずこの町にあった冒険者ギルドに行ってみるぞ。そこに諸々の情報が集まるはずだ」

 

クルルは疑問を表情に張り付けると、「良い残飯があるの?」と本気で俺に訪ねてきた。


「何とんちんかんなこと言ってんだ! 俺たちの目標は勇者討伐! おめぇはそのために俺を転移させたんだろ!」

 

その言葉を聞いたクルルは目を見開いて「忘れてた!」と大きな声を上げる。


「あの憎き勇者め! この恨み忘れたことはないぞ! ギルドに行って情報収集だ!」といきなりエンジン全開になる。

 

色々と突っ込みどころ満載ではあるが、人のやる気を損なわせるような言動はしない主義だ。

 

俺たちは方向を変えて歩き出すと、たいそう立派なギルドが俺たちの目の前に現れる。

 

こういう初めての場所は緊張するな。それにギルドには殺人上等のヒャッハーが沢山いるイメージだ。

 

まぁ、特別目立たなければ問題ない。さっと用事を済ませて、さっと帰ろう。

 

俺はゆっくりとドアに手をかけようとしたその時、クルルは思い切りドアを蹴破って、ダイナミック入店を果たす。


「たのもー!」

 

すると案の定、店の中にいた人たちは全員、こちらをに視線を向けてきた。

 

やばい、距離を置こう。

 

俺は危険を察知して、その場を離れようとするが、クルルにガチっと手を掴まれる。

 

クソ! 見た目は女なのに男以上に力が強い!


「ねぇ! 君は受付の人でしょ? クソ勇者ってどこいんの?」

 

腕を力強く台の上に置き、威嚇するような姿勢を取るのは、魔王というよりもチンピラだ。


受付の人は戸惑いながらも、「えーっと、勇者様はこの町にはいません。それに基本的に外に出ておりますので、相当運が良くないとお会いすることは不可能だと思います」と答えてくれた。


「はー? 勇者ってのは随分とお気楽だね! こちとら今日を生きるのに必死だって言うのに!」

 

そんな私的な感情を受付にぶつけるな。お前の行動と周囲の視線がとても痛いよ。


「と、とりあえず出直すぞ。これ以上いたら俺が持たない」

 

クルルに帰宅を促したその時、誰かが俺にぶつかって、そのまま床に倒れてしまった。


「いてて」

 

床と激突したお尻を摩りながら、俺にぶつかったやつを見てみると、ずいっと前に出た腹と趣味の悪い髭を携えた男が文字通りこちらを見下していた。


「ふんっ。おい、受付嬢」

「はい。何でしょうか市長様!」

 

受付の人は姿勢をピッと正すと、彼は髭をなぞりながら「前にも言っただろ。冒険者にも勇者様のような品を付けさせろと」と言った。

 

品が無くて悪かったな。

 

俺はこの成金趣味な服装をした市長に一つ文句を垂れようとすると、近くにいた冒険者にグイっと腕を掴まれた。


「おい、あいつに楯突くのは止めておけ」

「どうして?」

 

俺は市長のピョンと跳ねた髭を毟りたくて仕方がないんだ。

 

彼は苛立つ俺の肩を摩り、「あいつは勇者パーティー直属の政治家だ。市長に手を出した奴がいたが、親族全員が処刑された。女、子ども問わずな」と教えてくれる。

 

なるほど、だとしたら今手を出すわけにはいかないな。

 

現状、勇者パーティーや権力者やり合っても、到底勝てる見込みなどないのだから。


「クルル、やっぱりここは出直そう」

 

そして彼女のほうを見たとき、クルルは市長に近くにあった棒で頭をガンと殴られる光景が飛び込んできた。


殴られた箇所からは鮮やかな血が流れ始める


「このどうしようもない、馬鹿はなんだ! 口の利き方、品ともに最低だ! そういえば最近、ゴミ漁りが多発していると聞く。きっとこの汚らしい娘だろ!」

 

こいつ!

 

俺はクルルのもとに駆け寄り、「大丈夫か!」と伝え、そのまま市長に殴りかかろうとしたその時、「僕なら……大丈夫だから」と珍しく反抗的な姿勢を見せないでいる。

 

まさか、今はこいつに手を出すなと言うのか。

 

こんな状況においても冷静さを欠くことなく、未来を見据えようとする姿に俺は思わず涙が出そうになる。


「そうだよな。ここは我慢するところだよな」

 

俺はそのままクルルの手を引いて店の外に出ようとすると、「僕が直接仕留めるから」と言って彼女はその場にとどまった。


「え? 仕留める?」

 

クルルは指をパチンと鳴らすと異空間が現れ、その中から工具と部品を取り出すと、何かを作っていく。

 

そして数十秒後、「できた!」と言うや否や、その物体を市長に手渡した。


「ん? これは一体なんだ?」

 

その問いに対してニヤっと魔王らしい不敵な笑みを浮かべると「見てわからない? 爆弾だよ」と答えた。


「ば、バクダン!?」

 

そう言われると彼は焦りながらそれを取ろうとするが、決して手から離れることはない。


「取ろうとしても無駄だよ。私が発明した超強力接着剤でくっつけてあるから」

 

カチカチと残酷に刻まれていく秒針。それは確実に人の心に焦りを生む。

 

彼は無理やりにでも爆弾を取ろうとするが、それは叶わなかったため、「た、頼む私が悪かった! 謝罪する!」と頭を下げた。

 

しかしその謝罪に対してクルルは、「喧嘩を売る相手を間違えたな。私の名前は魔王クルル! そしてここにいるコタローは魔王パーティーの一人! 謝罪なんて意味をなさないね!」と一蹴した。

 

え。


こいつ、俺を巻き込みやがった!


「違う違う違う! 人違い、人違いだから! 俺はこんな頭のおかしい人知り合いじゃないから!」

 

そんな弁解を聞くもの誰もおらず、クルルは「あの世で後悔するんだな!」と市長の尻を蹴り、外に追い出した直後、轟音と共に鋭い衝撃波が周囲を包み込んだ。

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