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ポンコツ魔王とゴミ箱グルメ

「いやー、案外家がない生活も悪くないなぁ」

 

俺は汚れに汚れた体で空を仰ぐが、今までにないほど心が澄んでいた。


「そうだねぇ。明日はどこの店を漁る? 最近できた肉屋のごみ箱なんか良さげじゃない?」

 

どうしてこんな清々しいほどホームレスを満足する二人が出来上がったのか。

 

それはざっと、一週間前に遡る。



「起きてー。早く起きないと顔に落書きしちゃうよー」

 

頬をムニムニと抓られて、瞼を少し痙攣させながら開けると、そこには俺にまたがる魔王の姿があった。


「お、俺の体は無事か!?」

 

クルルを放り投げて体を確認すると、どうやら全てが繋がっており、何とか無事に転移できたようだ。


「おいおい、じいちゃんの発明をなめるなよ? 生前は女の人の尻を触りまくるドスケベ爺だったけど、若い頃は本部の中枢システムを構築していたすごい人なんだぞ?」

 

そう語るクルルは誇らしげで、どこか嬉しそうに見える。


「あぁ、確かに孫とはエライ違いだな」

「おい、君は随分と聞き捨てならない言い方をするな?」

 

そう突っかかってくる彼女のおでこを人差し指で抑えて、周囲を見渡すとそこにはよくファンタジー物で出てくる、不思議と慣れ親しんだ光景があった。

 

灰色の石煉瓦と、色々な資材を担いで行きかう人々。それとでっかいシンボル的な建物。

 

それらは俺が異世界に来たのだと、本気で実感させるには十分なものだった。


「ここが異世界!」

 

俺は期待と緊張で高まる鼓動を懸命に抑えながら、「で、俺たちはこれからどうするんだ?」とクルルに質問した。

 

すると彼女は首をくいっと横に傾けて、「さぁ?」と口にする。


「さぁ?」

「だって、この世界に派遣されてそれほど時間が経ってないし。それにほら、引きこもりだったから世俗のことは良くわからないって言うか……」

 

なるほど。ニートがいきなり社会に出るとこうなるんだな。


「ちなみに聞いておくが、金は?」

「ない……」

「人脈はもちろん?」

「ない……」

「希望も?」

「ないよぉ……」

 

俺たちはまたもや、何なら最初の町で冒険が詰んでしまった。とんだクソゲーである。

 

俺たちは膝をついて、絶望に屈していると、いい匂いがどこからか流れ込んできた。


「いらっしゃい! 焼きとうもろこしがあるよ!」

 

香ばしく焼かれた切れのある醬油と甘いとうもろこしのマリアージュは、想像しただけでお腹が空いてくる。

 

てか醤油はこの世界にもあるんだな。日本生まれのマウントが取れないや。


「良いなぁ、美味しそうだなぁ」

 

クルルが涎を垂らすと、こそこそ身を屈めて徐々にその売店へと近づいていく。

 

いったい何をする気だ。もしかして、盗みとかをするんじゃ!

 

いや、でも魔王だしなぁ。何なら魔王が窃盗とか、しょぼすぎるのか?

 

そんな疑問を抱いていると、クルルはとうもろこしの横を通り過ぎて、近くのごみ箱を漁り始めた。

 

そして、猫のように口にとうもろこしの芯を挟んで、こちらに戻ってくる。


「ほい。身が結構残ってるところ持ってきたよ?」

 

そして彼女は手にも持っていた芯をこちらに渡すと、残飯を無心で貪り食べ始めた。

 

こいつは本当に元魔王兼ニートなのだろうか。随分とワイルドじゃない?

 

衛生大国日本生まれ、日本育ちな俺にとってゴミ箱から取り出した物を食べるなど、映画や海外の出来事だと思っていた。

 

しかし今ここで自分がその状況に立たされていようとは、以前の自分は想像できまい。


「ん? いらないなら僕が食べちゃうけど?」

 

その言葉に対して、反射的に「食べる!」と言ってしまうと、このままの勢いでそいつに齧り付いた。


「う、うまい」

 

するとクルルは笑顔になって、「でしょー? ここ結構いい醤油使ってるよね! きっと年代物だよ」とグルメなことを言い始める。

 

なんやかんや残飯を堪能していると、どうやら少し目立ちすぎたようだ。


「おい、貴様ら! うちのごみ箱を荒らすんじゃねぇ!」


自分の売り場を荒らされた鬼の形相の店主が、でっかい包丁を片手にこちらに近づいてくる。

「やばい、逃げるぞクルル!」

「いや、でも、もう少し食べられる部分が!」

 

そんな食い意地を張る彼女の手を掴んで走り始めた。


この異世界のまだ知らない残飯グルメを求めて!

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