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ポンコツ魔王とワンオペ命令

「お前、なかなかやるな」

「君こそ、女に対して割と寛容な世界にいたのに、随分と容赦がなかったな。そのセンスは正しく魔族向きだよ」

 

俺たちは死ぬ寸前まで戦いあった結果、お互いを認め合って、爽やかな鮮血を流しあっていた。


「なぁ、君の名前を教えてくれ」

 

それに対して「立町コタロー」と答えると、彼女は「良い名前だね」と呟く。


「僕の名前はクルルって言うんだ。魔王クルルって付けてもいいし、ちょっとフランクに様付けでも……」

「よし、クルル。元の世界に戻る方法を教えてくれ」

「いや、いきなり呼び捨て!」

 

クルルはポカポカと軽く握った拳で叩きながらも、「勇者が持っている魔法玉があればどうにかなる……はず」と答えてくれた。

 

若干語尾が俺の心をざわつかせるが、唯一の手掛かりがその魔法玉であるのだから、どう行動するかは必然と決まってくる。


「しょうがない。俺も勇者討伐に参加するよ」

 

すると彼女は「ホント!? ありがとう! 正直、僕一人じゃ首を取られて、そのまま棒に括り付けられるだけだと思ってたから助かるよ!」とデビルマンのようなことを言って俺の手を握る。


「利害が一致しただけだ。だけど、どうして勇者を討伐しなきゃいけないんだ? 勇者ってあの勇者だろ? 流石にそんな人を倒すってのは気が引けるっていうか」

 

若干の躊躇を見せる俺に対してクルルは「勇者は目的のためなら町の一つや二つを消すし、今は世界を牛耳る王として暴虐の限りを尽くす極悪人だから心配ないよ」と胸を張った。

 

それって、勇者だよね? 魔王じゃないよね?

 

俺は目をパチパチさせながら一歩分だけ、後ずさりをする。

 

いや、今は慌てる時じゃない。ステイクールだ。

 

クルルは腐っても魔王なのだろう。こんな広いスペースに一人でいるのだから、相当な権力を持っているはずだ。

 

ということは、だ。

 

オークの軍団や最強の魔法を使うウィッチ、もしくは最終兵器としてバハムートなどを有している可能性が極めて高い。


「なあ。お前の配下はどこにいるんだ。今のうちに親睦を深めておきたいんだが」

 

しかし、俺の言葉を聞くとクルルは視線を下に移して、途端に口を開かなくなった。

 

あぁ、何だか嫌な予感がするよぉ。


「も、もしかして新入りは認めない的な人、っていうか魔族なのかな!? うわー、距離を縮めるの大変そうだな! あ、でも、知らない人ばかりの高校に入学した気分になるから案外良いかも、なんてね!」

 

俺は悪い予想を消したいと言わんばかりに饒舌になると、「げた」と声が聞こえる。


「止めて! 聞きたくない!」

 

俺は耳を塞ごうとするが、虚構を見つめる彼女の瞳を見て最悪を察してしまう。

 

クルルは深呼吸をして、意を決したように拳をぎゅっと握ると「勇者パーティーが攻めてきて、全員逃げちゃった。僕を囮にして……」と言い、力なく笑った。


「んんぅ! まったく笑えないぃ!」

 

こっちの味方がいないということと、部下からの信頼のなさという二重の意味で笑うことができない!


「あーえっと、そうだな。配下じゃなくても助けになってくれる人がいるとか」

 

俺はこいつの蜘蛛の糸よりも細くて脆い人脈に希望を繋ぐと、「私の上司に大魔王様っていう人がいるんだけど」と口にする。


「おぉ、良いじゃん! 早速その大魔王っていう人に援軍を送ってもらおうぜ!」

 

そう言うと、彼女の瞳には再び影が落とされる。


「えっと、その連絡はマニュアルに沿って行ったんだけど、本部の人事担当がお前だけでどうにかできるだろって。最近は人手不足だからって……」


「まさかのワンオペ希望!」

 

一体どうした。魔王界隈も人手不足やらブラック企業が蔓延しているのか?

 

希望の欠片もない状況ではあるが、一度やるといったことを取り下げることはできない。


「しょ、しょうがない! 俺たちだけで勇者を倒すぞ! どうにかなるって!」

 

内心無理だと分かってはいるが、無理やりテンションを上げるために、クルルの手を掴んで天高く拳を突き上げる。


「そして、人事とかお前の上司をギャフンて言わせようぜ!」

 

そういうと彼女は活力を取り戻したようで、「そうだよね! あの人事もどうせ体で大魔王様に取り入った淫乱売女だし、誰が真に優秀な人材化を見せつけるチャンスだ!」と目的が逸れはしたものの、結果オーライになる。


「じゃあ、さっそくワープして勇者パーティーの情報を手に入れよう!」

 

すると彼女はポケットの中から、一つの銀色の指輪を取り出した。


「これは死んだじいちゃんの形見なんだけど、自分の行くべき場所に転移できるんだって!」

 

待て待て待て。転移に失敗する魔王の祖父の発明なんて信用できるわけがない。


「ちょっち落ち着け。別に転移しなくても……。ほら、馬車とか使えば良いんじゃないか?」

 

人に落ち着けと言いながらも、俺が全然落ち着くことができなかった。なぜなら、冒険開始早々、何ならその前段階で死ぬ可能性があるのだから。


「何言ってんの! 善は急げだよ! 起動!」

 

すると指輪から眩い光が発せられ、俺たちはそれに飲み込まれていく。


再び掠れ行く意識の中、初詣には絶対に行かない俺にしては珍しく神的な何かに対して祈りを捧げて、五体満足で生きれるように祈った。あと、人の話を聞かない魔王への天罰を。


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