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ポンコツ魔王と無料ガチャ

「んっ、ここは?」

 

意識がはっきりとしない中、俺は瞼をゆっくりと開ける。


「んんっ? ここは!?」

 

瞳に映った景色を見ても、ここが何処なのか全くわからない。

 

下から上に突き上げる炎と、趣味の悪い黄金のシャンデリアの数々。

 

この薄暗い異空間の中、訳も分からずただ戸惑っていると「けて」と声が聞こえてきた。


「誰だ!」

 

俺は恐怖から声を張り上げると、「けて、けて」と声がよりハッキリと聞こえるようになる。


「けて、けけけてててて!」

 

そんな言葉と共に白い亡霊が姿を現すと、地面をもの凄いスピードで這いつくばりながらこちらに向かってくる。


「いやぁぁぁ! 来るなぁぁぁ!」

 

俺は純粋無垢の乙女のような叫び声を上げて逃げようとするが、その場で足がすくんでしまい、地面に手を付いてしまった。

 

マズいと思ったが最後、俺の腕は何者かにぎゅっと握られて、体の自由を奪われる。

 

そして次の瞬間、亡霊は「助けて、助けて! あのクソッたれ勇者をぶっ殺して!」と到底理解できない事を口走る。

 

頭の処理が追い付かない中、俺の眼は次第になれるとそこにいるのは亡霊ではなく、白髪の少女であることに気が付いた。

 

俺は一体何に巻き込まれた?

 

体をグラグラと揺すられる中、意識を集中して記憶の鱗片を遡る。



俺の名前は立町コタロー。

 

下の名前がカタカナだし、謎の長音記号が付けられていますが、立派な日本人です。

 

そんな自己紹介を高校の入学式に合わせて考えていると、一枚の色鮮やかな薄い紙を発見した。


「こ、これは!」

 

それを見た瞬間、歓喜のあまり涙が頬をつーっと流れ落ちていく。

 

そう、これは間違いなくエロ本だ。それも紙媒体!

 

近年進む電子化や規制の強化で表舞台から姿を消したと思われたオーパーツ的代物が、まさかこんなところでお目にかかろうとは。

 

礼儀として周囲の様子をさっと確認すると、きゅっきゅとした肌触りの安紙に手を触れる。


「おぉ!」

 

頭の中に一気に流れ込む遠い昔の記憶。


「よく友達と色々なゴミ置き場を漁ったっけなぁ」

 

どうして所々カピカピだったのか、当時は分からなかったが、今でははっきりと分かる。

 

……分かりたくなかったけど。

 

しかし、そんなことはさて置いてだ。

 

俺は高鳴る鼓動を抑えながら、表紙の先をめくろうとすると、再び奇跡を目の当たりにする。


「嘘、だろ?」

 

地面に転がるのは、この道を辿れと言わんばかりに軌跡を描く無数のエロ本。

 

これは一体何を表している?

 

もしかして、この先にお姉さんと楽しいことが待っていたりしますか!?

 

俺の脳みそは今やチンパンジー以下となっており、この怪しげな事象も自分の都合の良い解釈しかできなくなっていた。


「今、今すぐ行きます!」

 

そのエロ本を拾っていくと、ピンク色の怪しい光が漏れ出ている扉を発見する。


「これはもう確定演出だ! 待ってろドリーム!」

 

俺は意気揚々かつ心臓バクバクで、その怪しげな扉のドアノブを捻ると、物凄い吸引力でその中に引き込まれる。


「な、なんだこれ!?」

 

俺の疑問に答えてくれる者は誰もいない。

 

抵抗する間もないまま、意識が遠のいていく。


俺は最後にエロ本を大切に抱えたまま死を迎える息子で申し訳ないと、自分を生んでくれた両親に心からの謝罪をした。



「思い……、出した……」

 

俺はおかしな扉に吸い込まれてここにいる。


「なぁ、お前は誰だ? てか、ここはどこだ?」

 

そう俺に泣きついてくる彼女に質問をすると、涙と鼻水でベトベトにした顔を上げた。

 

……ついでに俺の新調した新しい制服もベトベトだ。


「ひっぐ、ひっぐ。えっと、ここは魔王城だよ」

「魔王城!?」

 

この発言はおかしな少女の冗談だと思いたいが、この悪趣味な装飾の数々は確かに魔王城と言うに相応しい気がする。

 

というより、納得しなければ話が一向に進まない。


「わ、分かった。で、お前は?」

 

そう質問すると彼女は「魔王城にいるなら魔王に決まってるでしょ? 馬鹿なの? ひっぐ」と泣きながら俺は貶された。


「魔王!?」


泣いているくせに、俺に縋ってきたくせに、やけに好戦的な物言いをする少女が魔王だ?


「そう! 僕は魔王だよ! 文句ある!?」

 

別に文句はないが、色々と突っ込み所がありすぎて頭がパンクしそうだよ。

 

俺は一度大きく深呼吸をすると、冷静さを取り戻していくつかコイツに質問をすることにした。


「なあ魔王、どうして俺はここにいる?」

 

俺は引きつった笑みを浮かべると、魔王は「君には勇者を討伐してもらいたいんだ」とこちらを偉そうに指さす。


「魔王討伐って、今目の前にいるお前だろ?」

 

そんなことだろうと思ったよ。

 

こういう異世界転移イコール魔王討伐というのはお決まりのパターンであり、ラノベ上級者である俺にとってはお馴染みの光景である。


しかし、魔王は「違う!」と俺のこめかみを人差し指でツンと叩く。


「魔王じゃなくて、ユ・ウ・シ・ャ! 何が悲しくて自分を殺す人をわざわざ異世界から呼ばなきゃいけないんだ。やっぱり馬鹿なの? 死ぬの?」

 

落ち着け、俺。今はまだ切れる時じゃない。


「そ、そうなんだー。でも俺は役に立ちそうにないよ。見ての通り、こんな一般人だしー」

 

俺は体をひらひらと動かして、自分の無力さをアピールすると、「そうなんだけど……」とモジモジ手先を動かし始めた。


「なんていうか、優秀な人を別世界から無理やり転移させたんだけど、その人たちの転移先をミスったっていうか。多分死んでるっていうか。どうせなら最後の搾りかすで良いのでないかなって……」

 

なるほど。すなわち俺は無料ガチャで出たノーマルキャラって訳だ。


「帰る。さっさと元の世界に帰しやがれ」

 

そう言って、彼女に背を向けると、今度は何も聞こえなくなった。

 

なんだか嫌な予感がするぞ。

 

俺は恐る恐る後ろを振り向くと、滝のようにつやつやとした脂汗を垂らす魔王の姿がそこにあった。


「あのー、えっと、残念だけど元の世界には帰れないっていうか。力、と言うより道具不足って言うか……。あ、どっちもかなぁ」

 

魔王の発言を聞いたその直後、俺の中に思い描いていた、バラ色の高校生活が砕け散る音が鮮明に聞こえた。

 

そしてその破片は俺の堪忍袋の緒を切り裂く。


「おい」

 

この自分勝手で我儘な、駄目魔王の白くスベスベとした頬を握ると、そのままギューッと本気で切り取る勢いで横に引っ張った。


「イダ、イダダダ! は、はひすんだ!」

「うるせぇ! この口の利き方がなってない口に罰を与えてんだよ! このポンコツ魔王!」

 

すると魔王は目をカッと見開いて怒りを露にし、首をグイっと後ろに倒すとそのまま勢いを付けて俺に頭突きをかます。


そしてそのまま、侮蔑の言葉を浴びせてきた。


「だーれがポンコツ魔王だ! 何? もしかして『俺の夢の青春が台無しだ!』とか思ってる系ですかー? ぷぷぷ、残念でした! 君みたいな根暗そうで顔も良くない、どーしょーもない人は高校生活は愚か、残りの人生も惨めな童貞として終えるんですよ。本当に自意識過剰でキモ過ぎ! あ、後で僕の頬を消毒しなきゃ。陰キャが移る笑」

 

こいつ、殺す!

 

俺は涙目、と言うよりも号泣しながらお返しの頭突きをお見舞いする。


「そんなに俺が嫌ならさっさと元居た場所に帰せや!」

「だーかーら! それができないって言ってるでしょ!」

 

そして彼女は怒りに身を任せて、渾身の右ストレートを俺の顔面に浴びせかける。

 

いいだろう。戦争だ!

 

俺は口の中にたまった血を吐き出すと、彼女の胸倉を思い切り掴んだ。

 

そのまま俺たちは本気の殺し合いに発展すると、その争いは数時間続くことになる。

 

俺の瞳に最後に映った光景は、とてもじゃないが言葉では言い表せない、それはそれは見るに堪えないものだった。


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