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9 一人でお使いです

ギルドの仕事は楽しいし時間的にも自由だが、時々緊急依頼があるらしく大体の居場所はギルドに伝えておくようにと言われている。

休日は城の訓練場か魔導士長の部屋か書庫と伝えていた。

この世界のことを知りたくて、最近は辺境伯家の書庫にいる事も多い。

今日も書庫に籠っていたらギルドから知らせが来た。

急いでギルドに向かうとギルマスに手紙を渡された。

「南にあるフィレンのギルマスにこの手紙を届けて欲しい。急ぎではないが今日中に届けてくれ。時間的に帰るのは無理だからフィレンで宿泊してきなさい。」

「うん。」

辺境伯の紋章が描かれ、しっかりと蠟封された大きな手紙。

ギルド同士の通信を使わず緊急依頼で手紙の配達ということは重要書類か秘密の連絡。

“初めてのお使い“が重大任務、めっちゃテンションが上がった。

ギルド所属になって9か月、街道警備以外にも魔獣の討伐任務などには何度か参加した。

だがよその街に行くのは初めて、ましてや緊急依頼である。

魔法袋に手紙を入れ、万が一にも落とさないようにしっかりと紐で縛った。

街道を真っ直ぐに南下すればフィレンの街に着くらしい。

シロと一緒にフィレンに向かった。


途中で奪われないように念入りに索敵しながら南に3時間。

少し疲れが出てきたころに街壁が見えてきた。

街門前に着陸する。

「ホロルのレオとシロ。ギルマスに手紙。」

ちゃんと言えた。

中身は27歳のおっさんだけど体は8歳。

思うように口が回るわけではないので必要最小限しかしゃべらないことにしている。

「ご苦労様です。」

衛士がギルドまで案内してくれた。

ギルドの造りはホロルとほぼ一緒だが少し小さい。

隣の草地にシロを入れ、ギルドに入るとすぐにギルマス室に案内された。

預かっていた手紙を渡すと、ギルマスはすぐに開封した。

中には手紙ともう1通の封書。

事務員を呼んで中に入っていた封書を渡した。

「まあ掛けてくれ。」

ソファーに腰かけるとお姉さんがお茶とお菓子を持ってきてくれた。

「ギルドマスターのファリアだ。使者の件ご苦労。」

「うん、レオ。」

「素晴らしい竜だな。」

ギルマスが窓に目を向ける。

俺の目にも草地に寝転んでいるシロが見えた。

「うん。」

「もうすぐ1歳になるのだったか?」

「うん。」

「レオも剣の腕が上がったと聞いているぞ。」

「勝てない。」

「勝てないって騎士団長にか?」

「うん。」

「そりゃあ当然だ。騎士団長はこの国でも上位の剣士だ。子供が勝てる筈がない。」

「ぐぬぬ。」

「まあ勝とうとする意欲は褒めておこう。しっかりと練習して大人になったら勝てるかもしれないぞ。」

「頑張る。」

「回復魔法も使えるらしいな。」

「まだ中級。」

「専門の回復魔導士でも中級が使えれば1人前だ。竜騎士で中級が使える者は殆どいないぞ。なんでそんなに上達したいんだ?」

「シロが怪我したら治す。」

「レオは本当にシロが大好きなんだな。」

「うん。」

「手紙の返事が来るまで少し時間があるからシロを見せて貰ってもいいか?」

「うん。」

ギルマスと二人でシロの所に行った。


シロは草地の真ん中に寝転んでいる。

隅の方に青竜と緑竜がいる。

「キュルル!」

シロが嬉しそうに声を上げた。

キラキラ見つめる目が可愛い。

「確かに可愛いな。近寄ってもいいか?」

「キュル」

「いいって。」

「シロは朋輩以外の言葉も解るのか?」

「うん。」

「本当に白いな。王宮で見た陶器のようだ。」

ギルマスはシロの周りをぐるぐる回って眺めている。

「なあ、触ってもいいか?」

見ているうちに触りたくなったらしい。

「キュル」

「いいって。」

ギルマスがそっとシロを撫ぜ始める。

「キュル」

「もっと強くって。」

「そ、そうか。」

ギルマスがワシャワシャと触り始める。

「キュルル~。」

「気持ちいいって。」

「そうか、それは良かった。すごく硬いのに掌に吸い付くようで気持ちいいな。」

「うん。」



その時草地の前に馬車が止まった。

めっちゃ大きくて豪華な馬車。

「わ~、本当だ!」

「真っ白!」

「凄い!」

「ねえねえ私も触りたい!」

「キュル?」

シロも驚いている。

馬車からちびっ子がわらわらと湧いて出た。

「こらこら、まずは騎士殿に挨拶してからだ。驚かせて申し訳ない。私はここの領主、ジェノバ=フォン=フィレン、ここにいるのは私の子供達だ。すまないが子供達に竜を触らせてもらえないだろうか。」

「キュルル」

「いいって。」

「この竜は朋輩以外の言葉も解るのか?」

子爵も驚いたようだ。普通の飛竜は朋輩以外の言葉は判らないらしい。

「シロは賢い。」

「そうか、感謝する。」

「触っていいぞ。嫌がるようなことはするなよ。」

子供達がシロに群がった。

子供達にもみくちゃにされているがシロは楽しんでいる。

子供たちの喜びを感じるのだろう。翼を広げたり尾で持ち上げたりサービス精神も全開だ。

「いやありがたい。こんなに喜ぶとは私も思っていなかった。」

「私もですわ。挨拶が遅れました、妻のローマ=フォン=フィレンです。」

ジェノバとローマ、うん奥さんの方が偉いんだろうな。

「レオです。」

少し丁寧に挨拶した。

「私の城に泊まって貰うつもりで用意していたのだが、一刻も早く白い竜が見たいと子供たちにねだられて迎えに駆け付けた次第だ。」

「お城に泊まる?」

「辺境伯に聞いてなかったか?」

「うん。」

「辺境伯らしいな。ちょっと辺境伯に貸しがあって何か贈りたいというから白い竜を見せてくれと頼んだのさ。」

「緊急依頼?」

「明日が妻の誕生日だからね。辺境伯が気を使って明日の誕生パーティーに間に合わせたのだろうな。」

重大案件は奥さんの誕生パーティーだった。

めっちゃ索敵頑張ったのに・・・・。

どうやら街道の上を飛ぶ白竜を見た商人達が色々と噂を広げたらしかった。



恥ずかしい、めっちゃ恥ずかしい。

これって羞恥プレイ?

ギルドから城まで、長い大通りをシロに乗ってゆっくりと進んでいる。

前には馬に乗った子爵、後ろには奥さんと子供たちが乗った馬車が2台。

街の人々が立ち止まって手を振ってくれる。

俺は恥ずかしいけどシロは結構喜んでいる。

翼を大きく広げキュルキュルと声を上げて住民サービス。

時々首を傾げて可愛さもアピール。そのたびに歓声が上がる。

まあ本当に可愛いからしょうがないけど俺はやっぱり恥ずかしい。


豪華な夕食を頂いて満腹な俺は部屋の隅にあるソファーでごろ寝。

部屋の中では子供たちが順番にシロに乗って大はしゃぎ。

子爵と奥さんは隅のテーブルで子供たちを見ながらお酒を飲んでいる。

シロはお肉を沢山貰ったせいか、めっちゃご機嫌な様子。

ひとしきり騒いだ後に案内されたのは広い部屋、シロと一緒に寝られるように用意してくれたらしい。

厩舎で添い寝したことはあるが、シロにとって初めてのベッド。

シロが寝られるか心配した俺がバカだった。

ベッドに入ったとたんに俺を抱き枕にしてあっという間に寝入っていた。

あれだけ騒いだらさすがのシロも疲れたよね。

でもシロは寝ている時も索敵しているから何かあったらすぐに目を覚ます筈。

俺も安心して目を閉じた。


ごく内輪のパーティーだから気楽にして大丈夫と言ってくれたけど、開始時間が過ぎても俺たちは部屋で待機。

「レイ殿、シロ殿、会場にお願いします。」

メイドさんに案内され、大広間のドアの前で待機。

「本日のスペシャルゲストの登場です。レイ殿、シロ殿どうぞ!!」

部屋の中から大きな声が聞こえるとドアが開かれた。

なにこれ?

戸惑っているとメイドさんに背を押された。

部屋に入ったとたんに大きなどよめきと黄色い歓声。

「「「可愛い~っ!!!」」」

俺は息子さんの服を借りて七五三。シロも角や尾にリボンが巻かれている。

シロが首を傾げて可愛いポーズをとるたびに歓声が沸く。

俺はひたすら恥ずかしいだけ。

「「「シロ~!!!」」」

子爵の子供たちがシロを取り囲んで遊び始めると、お客さんの子供達も一斉にシロに群がっている。

シロが喜んでいるので好きにさせてあげた。

「レオ、緊急依頼だったが無事に達成してくれて助かったぞ。」

辺境伯が頭を掻きながら話かけてきた。

「う~。」

初めての緊急依頼で張り切っていたのに、と少し不機嫌な俺。

「達成報酬をはずむからまあ機嫌を直せ。」

「うん。」

達成報酬増額はギルドポイントも割増しになるから正直嬉しい。


子爵の城にもう1泊して翌日の朝辺境伯と共に帰ることになった。

竜の待機場では10mを超える辺境伯の黒竜が中央に座って待っていた。

シロと一緒に待機場に入ると、黒竜が立ち上がり中央を空けた。

「なんと白竜は黒竜より格上なのか。」

辺境伯が驚いている。

「うん。」

竜の感情が判るから俺は素直に頷いた。

黒竜に比べると遥かに小さなシロが当然とばかりに中央に進んで離陸準備に入った。

見送りに来た子爵たちも驚いている。

「黒竜が場所を譲るのを初めて見ました。」

「奇麗なだけでなく格も高いのですね。」

驚いている子爵たちを後に白黒2頭の竜が大空に舞い上がった。


「キュルル~」

「ゴゴゴゴゴゥ~」

「キュル~」

「ゴゴゴグゴゴゥ~」

「キュキュルル~」

「ゴゥゴゴゴゴゥ~」

並んで飛びながら2頭の竜が話をしている。

スピード競争をしたいらしい。

「いいよ。」

俺が言うと2頭がスピードを上げる。

めっちゃ早い。

竜は魔力で飛ぶから翼は方向や浮力の補助だけで殆ど動かさない。

翼を広げたままの2頭が猛烈なスピードで飛んでいる。

黒竜が着地してこちらに歩いてきた。

「なんという速さだ。」

辺境伯が呆れるようにぼやいている。

俺は先に到着して街門で手続きを終え、衛士からギルドカードを返して貰っていた。

速さが全然違うと判ったシロは途中から大きく離れないように速度を調整していた。

やっぱり俺のシロは偉い。


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