8 ギルドで初仕事です
初仕事!
ギルドに出動届を出し、騎乗具を付けたシロに乗って颯爽と街を出る。
少し街道を走って騎乗具がきちんと装着されているか、ゆるみがないかを再確認、そして空に舞い上がった。
地上では気にならなかったが空の上は少し寒い。
晩秋から冬に向かう季節のようだ。
幸いなことにパンツとズボンを履いているので下半身がスース―する事は無い。
貫頭衣ノーパンで空を飛ぶのはやっぱり恥ずかしい。
街に来るまでは風で貫頭衣が捲れ上がって腰から下が丸見え状態だったのを思い出して顔が熱くなった。
「街道が見えるところなら好きなように飛んでいいよ。」
声を掛けるとシロが喜んでいる。
でもいくら好きなように飛んで良いと言っても、突然の宙返りは勘弁してほしい。
安全ベルトがあるので落ちることはないが、心臓が止まるかと思った。
時々馬車を見かける。
魔獣や盗賊を警戒して大抵は5~6台で商隊を組んでいる。
「街道が森に近いところは森の中にも気を付けてね。」
「キュルル」
シロに伝えると任せろと胸を張った。
シロの探知能力は俺より遥かに上、力も魔法もシロが上だが、今は俺のほうが上。
シロは俺の尻の下にいる。
つまり俺のほうが上なのだ。
そんなことを思った瞬間にまた宙返りされた。
慢心はダメ、絶対。
「ごめん、シロのほうが上。」
納得したのか通常飛行に戻ってくれた。
1時間ほど警備をして街に戻る。
ギルドに帰還報告をして討伐した魔獣を買い取って貰う。
今日はクマさん?2頭。
「魔法袋を持っているんですね。」
アイテムボックスがあるが、ひょっとしたらまずいかもと思って魔法袋を使っている。
「うん。」
「貴重なアイテムですから盗難とかに気をつけて下さいね。」
「うん。」
「首を1撃ですか。レオさんって見かけによらず凄い魔法を使うのですね。」
「はあ。」
シロの風刃だが、普通の飛竜は魔法を使えないと聞いたので曖昧に返事をした。
竜は魔法を使えないので、魔法を使える竜騎士が朋輩になると魔導士長が教えてくれた。
風刃は俺にも殆ど見えないから、シロが使っても俺が撃ったと勘違いしてくれる筈。
折角色々な魔法を覚えても使う事が無ければシロが可哀そうだ。
「午後も出ますか?」
「うん。」
「よろしくお願いします。」
街道警備といっても要は竜騎士の顔見せらしい。
盗賊は竜騎士が頻繁に飛んでいる街道を避ける。
街道を通る商人達は時々でも竜騎士を見れば安心出来るのでこの街に来る回数が増える。
魔獣は竜の魔力を感じて街道から離れる、かもしれない。
だから街道近くを飛ぶだけで街道警備になるらしい。
要はシロと空の散歩をして飽きたら地上で転げまわって遊ぶ。
これがお仕事。
最近のお気に入りはシロと抱き合って斜面をゴロゴロと転がり落ちるゴロゴロ遊び。
シロが前足と尾でガードしてくれるので安心安全で楽しい。
3日お仕事をして今日はお休み。
ギルマスと一緒に領主館というより城に来ている。
領主である辺境伯への顔見せ?
シロも一緒なので広い部屋に通された。
俺とギルマスがソファーに並んで座るとメイドさんがお茶とお菓子を持ってきてくれた。
しばらく待つと髭面のでっかいおっちゃんが入ってきた。
後ろには20歳くらいのかっこいい兄ちゃんと執事らしい服を着たおっちゃん、そして鎧を付けた騎士が二人。
「俺が領主のトリノ=フォン=ホロルだ。レオとシロを歓迎する。」
俺も立ち上がって挨拶する。
「レオ、これがシロ。」
「キュルル」
「可愛い! これ俺が使ってた騎乗具だよな? 似合ってるな。」
かっこいい兄ちゃんが嬉しそうにシロを見ている。
「あっ、申し遅れた。嫡男のミラノ=フォン=ホロルだ。」
「レオ、これがシロ。」
「キュルル」
シロも嬉しそうに挨拶している。
「まあ座ってくれ。この騎乗具を使っているとは驚いた。」
「シロが自分で選んだ。」
「賢い竜だな。」
「うん。」
「触っても良いかをシロに聞いてくれるか?」
「キュルル」
「いいって。」
「シロは人間の言葉が判るのか?」
辺境伯が驚いている。
「うん。」
辺境伯がシロに近寄る。
「シロ、少し触らせて貰うぞ。」
「キュル」
「どうぞって。」
「ほお、これは・・・。」
「ツルツル?」
「ああ、なんとも心地よい触り心地だ。普通の飛竜の鱗とは全然違うな。」
「俺も触らせて貰っていいかい?」
兄ちゃんも触りたそう。
「キュルル」
「いいって。」
「ほんとだ、ツルツルなのに少し暖かくて気持ちいい。」
「気持ち良く寝られるらしく、よく厩舎で一緒に寝てるから何度か俺が部屋に運んだよ。」
ギルマスが笑う。辺境伯とは古くからの友人だそうだ。
「この触り心地なら眠ってもおかしくはない。ましてやレオはまだ子供だ。気を付けてやってくれ。」
「大事な竜騎士だから当然だ。」
「白い竜は見るのも聞くのも初めてだが変異種ということか?」
「普通の飛竜よりも首が長いから大型種の血が入っているのかもしれん。」
「なるほど。小型、中型、大型と大きくなるほど首が長くなるな。大きく育つと良いな。」
「そう願ってるよ。ところでレオのことだが、剣も魔法も習ったことが無いらしい。誰か教える人を紹介して貰えないか?」
「わが領地の期待の星だ。最高の人材を用意しよう。」
そんな訳で領軍騎士団長に剣を、領軍魔導士長に魔法を教えて貰うことになった。
ギルドの出勤は週に3日。
ギルド所属の竜騎士は3人いるが別にローテーションがあるわけでもない。
好きな時に出動して好きな時に休んでいい。
今日は訓練場で騎士団長から剣を教わっている。
「少しは様になってきたな。右ひざを突っ張るな、体重は前!」
剣は握り方や構え方という根本から違っていた。
両手剣は利き腕で柄の上を握り、反対の手は下を握るそうだ。
足も利き腕側の足が前、俺は逆だった。
毎朝必ず素振りをするように言われて今では日課になっている。
今日で1週間、多少はましになったらしい。
「今日は魔力による身体強化をやってみる。魔力で体を包む感じだ、よく見ておけ。」
騎士団長の体から魔力が流れ出して全身に纏わりつく。
「魔力で体を覆うと力や速度が上がる。やってみろ。」
ラバースーツをイメージしながら魔力を全身に流す。
なんとなく力がみなぎる感じ。
「ほう、見ただけで出来るとは凄い。そのまま走ってみろ。」
魔力を纏わせたまま走った。
早い!
「ジャンプ!」
3mくらい飛び上がった。
「これを振ってみろ。」
渡されたのは騎士団長の大剣。俺より大きい。
軽い!
ブン、ブン。
振り回すと風を切る音がする。
「素質があるな。毎日練習すればもっと早く振れる。日々の鍛錬を欠かすな。」
「うん。」
魔法も最初はめちゃくちゃだった
今日も魔導士長に魔法を教わっている。
「魔力の流れを確認する。」
教えられたとおりに体を流れる魔力の速度を上げる。
速度が上がると発動時間が短くなり威力も増すらしい。
「きちんと練習しているようだな。」
「うん。」
「ウンではない、ハイだ。」
「はい。」
「次は魔力を溜めてみろ。」
魔力の流れを意識しながら全身を流れている魔力を薄くして額に魔力を集める。
掌の方が魔力を集め易いらしいが、掌から杖に移すことがどうしても出来なかった。
今は手より額の方が発動時間が短いと判ったので額から魔法を発動する練習をしている。
本来呪文を詠唱し、杖に魔力が満ちた瞬間に魔法名を叫ぶと魔法が発動するらしい。
俺は何度練習しても呪文を覚えられなかったし杖に魔力を移すことも出来なかった。
それに、自慢ではないが杖を持ち歩いたら必ずどこかに置き忘れる自信がある。
杖を持って歩くのは無理と言ったら魔導士のおっちゃんに呆れられた。
前世では梅雨の時、1週間に6本傘を置き忘れた。
7本でないのは7日目の日曜日は家にいたから。
指先やオデコから魔法を発動するのは間違ったやり方だがそのほうが発動しやすいならそれでも良いとおっちゃんが許してくれた。
「よし!」
俺の額から魔力が放出され、1mほど先で大きな火の玉となって的に飛んで行く。
ドカ~ン!
魔導師のおっちゃんに基礎から教えて貰ったら威力がめっちゃ上がった。
「初級のファイアーボールでこれかよ。まったく規格外だな。次は空中に魔力を溜める。ファイアーボール10個だ。」
「うん。」
「ウンではない、ハイだ。」
「はい。」
魔力を溜め始めると1mほど先の空中に10個の火の玉が浮かび段々大きくなる。
「よし!」
10個の火の玉が10個の的に向かっていく。
3つ外した。
「少し精度が上がってきたな。」
「うん。」
「ウンではない、ハイだ。」
「はい。」
「そうだ。」
「うん。」
「・・・。」
魔導士長は火と聖の属性なので、魔力操作に加えて火魔法と回復魔法を教えてくれている。
今はまだ初級魔法だけだが、いずれは上級の範囲魔法を教えてくれるらしい。
飛行魔法という魔法は無いので、俺が飛んでいるのは魔法ではなく何かの間違いらしい。
火属性と水属性、土属性と風属性は反発するので、同一人物が火魔法と水魔法、土属性と風属性を使えることは無いらしい。
俺が魔法で出した水を火魔法でお湯にしてお茶を煎れたら非常識だと怒られた。
俺には色々と間違っている事が多いらしいが、人間誰しも間違いはある。
知らなかったのだから仕方がない。細かいことは気にせず前向きに練習している。
ちなみに飛竜は黒、褐、青、緑の4色らしい。
小型竜には赤や黄色もいるらしいが白はいないらしい。
だからシロは白ではなく他の色が目の錯覚で白く見えていると教えられた。
大人の世界は難しい事が多いようだ。