6 街に着きました
めっちゃ最高の気分。
眼下には広大な森。
遥か後方にはお世話になった岩山。
そして視線の先には草原の中を真っ直ぐに伸びている街道。
ようやく街に行ける。
心が通う朋輩と一緒に大空を自由に飛ぶ、湧き上がる感動で全身が震えていた。
シロも喜びを爆発させている。
服がめくれあがって下半身が涼しいが、小さな事にはこだわらない。
俺は心の広い人間だ。
青い空と大自然。
風を感じながら一体となって飛ぶ喜びの2重奏で俺達はめっちゃハイテンション。
思い返せばあっという間の3か月。
シロと一緒にいられた事が何よりも楽しかった。
これからも決してシロとは離れない。
幸せを噛みしめながら街に向かった。
「キュルル!」
街が見えてきた。
街壁の外に着陸するのはファンタジーのお約束。
街門の少し手前で着陸、シロに乗ったまま大きな門に向かった。
お昼という時間のせいか門前に並んでいる人はいない。
シロから降り、背筋を伸ばして門の前に立つ。
「・・・・。」
門番を前にすると、言葉が出なくなった。
この世界に来て人間と会うのは初めて、思っていた以上に緊張している。
大きく深呼吸する。
「竜騎士のレオ、朋輩のシロ。」
設定は田舎育ちの8歳、敬語は無視して子供っぽく話すことにした。
話すのが苦手だからではない。
うん絶対に苦手ではない、下手なだけだ。
前世でも竜のフィギュアとは毎日話をしていたせいか、シロとは問題なく話せた。
だが、人間相手だと前世同様に言葉が出にくくなっていた。
「よくお越し下さいました。ここはホロル、辺境ですが住みよい街です。身分証明はお持ちですか?」
「ない。」
「なんと、未登録の竜騎士様ですか。この街に来て下さってありがとうございます。冒険者ギルドにご案内しますので、一緒にお越し下さい。」
門番がめっちゃ丁寧に対応してくれる。
ファンタジーのお約束だとお金を払わなくちゃ街に入れないんじゃないの?
そういえば、竜騎士は全て貴族待遇というゲーム設定があった事を思い出した。
門番の後ろについて行くと大きな建物に案内される。
「ここが冒険者ギルドです。朋輩殿も一緒にお入り下さい。」
入り口をくぐると同時に中にいた冒険者たちの目が俺に集中した。
15~6人だが、異世界のせいか皆でかい。
いや、俺が小さいだけだった。
8歳だから仕方がない。
ムキムキの大男達が掲示板や受付の前にたむろしているところに120㎝の俺。
いよいよお約束の展開?
「ようこそホロルに。竜騎士の方ですね。」
うさ耳のお姉さんが飛んできた。
「新しく竜騎士になった方だ。手続きをお願いする。」
門番のおっちゃんが説明してくれた。
「案内、ご苦労様でした。登録の件はお任せ下さい。」
絡みイベントは無かった。
「どうぞこちらにお願いします。」
お姉さんにギルドの2階へと連れて行かれた。
「ギルドマスターのルークです。」
いきなりギルマス登場でびっくり。
登録ってカウンターでするんじゃないの?
「・・レオ、この子はシロ。」
「白い竜は初めて見ました。優秀な竜のようですね。」
褒められたので、シロが嬉しそうに胸を張っている。
ギルマスの言葉も解るの?
「うん、賢い、強い。」
「竜騎士の登録はされていますか?」
「まだ。」
「敬語は苦手らしいから普通に話すね。」
「うん。」
「まず登録と簡単な説明をするよ。」
「うん。」
「竜の卵はどこで見つけたの?」
「洞窟。」
「どの辺?」
「おっきい森、向こうの山。」
「周りを森に囲まれてポツンと1つだけある高い山?」
「うん。」
「森を通って山に行ったの?」
「気が付いたら洞窟。」
「生まれたのはどこ?」
「判んない。」
「どうやって洞窟に行ったか分からない?」
「うん。」
「卵は近くにあったの?」
「後ろ。音がした。生まれた。」
「感応、いや、どうやって竜と友達になったの?」
「頭スリスリ。撫ぜた。」
「すぐに洞窟を出たの?」
「迷った。出たら魔獣。」
「君がやっつけたの?」
「シロ。」
「そのナイフはどこで手に入れたの?」
腰に下げたナイフについて聞かれた。
柄や鞘に細かな装飾が施されているので目を引いたのだろう。
「洞窟。」
「魔法袋も?」
「うん。」
アイテムボックスを隠すために腰に魔法袋を提げていた。
アイテムボックスはゲーム設定によっては危険なものというのがファンタジーの鉄板。
いろいろと聞かれたが、8歳の子供ということで深くは追及されなかった。
もともと話すのは苦手だから、これからもこれで行くことにした。
ギルマスは竜騎士について丁寧に説明してくれた。
この国では8歳、12歳、16歳になると魔力のある子どもは感応の儀式に参加して、適性のある者を竜が選んで朋輩になる。
竜に選ばれた者は、成人する16歳もしくは20歳まで学校か冒険者ギルドで知識や経験を積む。
学校に通う場合は竜騎士専用の寄宿舎に無料で住める。
学校を卒業後、貴族になりたいものは爵位を得て領地経営や軍務に携わり、冒険者になりたい者は各地のギルドに所属して冒険者として働く。
冒険者になる者は冒険者ギルドに所属し、ギルドに併設されている竜騎士専用宿舎に無料で住むことが出来る。
宿舎で待機しているだけでもランクに応じた給料が出るらしい。
ちなみに冒険者ランクはS・A・B・C・D・E・F・Gの8ランク、竜騎士は冒険者ランクD、ベテラン冒険者レベルからのスタートで、学校を卒業した者はCランクからのスタート。
要するに竜騎士は朋輩を得た直後でも生活の心配がない。
うん、ありがたい。
「この街で冒険者として活動してくれるなら初登録の竜騎士支度金として金貨50枚を支払う。まあ3か月はここで働くっていうのが条件だけど、どうかな?」
竜騎士になったばかりの者は騎乗具や竜の手入れ用品などを揃える必要があるそうだ。
感応の儀式が行われる王都の支度金は金貨20枚、竜騎士が少ない辺境は支度金が多いらしい。
「うん。」
「ありがとう、助かるよ。これからよろしくな。」
任務は街道の警備。
街道に沿って飛び、魔獣や盗賊を見つけてギルドに通報するらしい。
もちろん可能なら討伐してもいいが決して無理はするなと念押しされた。
まあ8歳のちびっ子だから当然か。
当分は午前と午後に1時間程度空の散歩を楽しめばいいと言われた。
3か月が過ぎれば他の街に移るのは自由だが、この街は魔獣や盗賊が多い割に竜騎士が少ないので出来るだけ長くいてほしいとお願いされた。
よし頑張るぞ、そう思った時に部屋の外が急に騒がしくなった。
バタン!
大きな音と共にドアが開く。
飛び込んできたお爺さんとおっさんが俺とシロを何度も交互に見ながら呆然としている。
後ろには数人の騎士も見えている。
「魔導士長に騎士団長がお揃いとはどうかしましたか?」
ギルマスも驚いたのか立ち上がっている。
「大きな魔力を感知したので、何か緊急事態が起こったかと思ったのだが、・・・。」
「大きな魔力ですか?」
「宮廷魔導士長かと思ったが坊主とこの竜だな。」
「そんなに魔力があるのですか?」
「わしより多いのは確かだ。坊主もだが、この竜は坊主よりも魔力量が多い。面倒なことが起こるぞ。」
「面倒な事とは?」
「引き抜き、誘拐、暗殺。」
「なんだと!」
「ここのところ周辺国の動きが怪しい。軍勢を集めている国もあるし、密偵もかなり潜入している。そこに世にも珍しい白い竜が登場となれば諸国が注目するのは時間の問題だ。その竜騎士がこれだけの魔力を駄々洩れにしていれば一層注目されるし居場所も常に特定できる。そうなれば面倒なことが起こるのは必然だ。」
「どうすればいい?」
「坊主はこの歳で既にこれだけの魔力がある。正しい魔法の訓練をすれば魔力はもっと増えるし、いずれこの国最高の魔導士に成れるだろう。この竜もいずれは黒竜すら上回る最強の竜に成れる。だが今はまだまだ幼い。この坊主達が強くなれるまで何としても我らが守り、皆で鍛え上げることが重要だ。」
「よし、それまではギルドが全力を挙げて守る。」
いやいやギルドが全力を上げなくても、とりあえず身を守れれば良いだけだから。
「わしは魔法を教えて最強の魔法使いに育てる。」
「私は剣と護身術を叩きこんで最強の騎士にする。」
魔導士長と騎士団長ってひょっとして偉い人だよね、忙しいんじゃないの?
シロと俺が安全なら最強でなくてもいいし、目立つのは嫌だから。
俺の目標はシロと一緒にのんびりと暮らす事、めんどくさいのは嫌。
なんとチートスキル”予約掲載”を獲得しました。