30 隷属の首輪
「キュルル!」
「うん。」
シロの声に俺も気が付いた。
囲まれている。
50人位?
魔力の感じから魔導士も10人程。
「やれっ! がはっ!」
声を出した頭らしい男の両足を風刃で切り飛ばした。
周りで篝火が焚かれあたりが急に明るくなる。
「ギュルルルゥ!」
シロが威嚇で敵の足を止める。
俺は杖を振り上げている魔導士の腕を風刃で切り飛ばす。
俺のバリアが光る。攻撃魔法が当たったらしいがバリアは持ちこたえている。
スタンガンで敵を麻痺させる。
シロもスタンガンを撃っている。
教えておいて良かった。
まだ動いている敵に追加のスタンガンを撃ちこんで、足や手を切り飛ばされた敵に止血のヒールを掛ける。
血は止まるが痛みは消えないので呻いている。
さあどうしよう。
ご丁寧にロープを沢山持って来てくれたので縛るロープはあるが人手が足りない。
俺一人で50人も縛るのは嫌。
器用なシロもさすがにロープで縛るのは無理。
空に大きなファイアーボールを打ち上げた。
た~まや~!
大音響とともに大空で弾けた。
暫くすると王都の門から衛士たちが走ってきた。
ここは王都大門のすぐ近く、そりゃあすぐ来るよな。
「どうした!」
「盗賊ニ襲ワレタ。足ヲ切リ飛バシテアルノガリーダー。麻痺サセタノデ縛リアゲテクレ。」
衛士が続々とやって来て盗賊を縛り上げる。
「事情を説明してくれ。」
衛士の長らしい男が聞いてきた。
「竜騎士ノ宿ガナイノデ野営シタ。男達ガ取リ囲ンデ襲ッテキタ。」
衛士が周りを見回す。周囲にぐるりと男達が倒れている。
「確かに周りを囲んでいるな。Aランク冒険者のレオと朋輩のシロで間違いないか?」
俺達を知っているらしい。
「うん。」
「コノ国デハ竜騎士ヲ襲ッテモヨイノカ?」
「立派な犯罪だ。厳重に処罰する。追って報奨金も出る。」
「判ッタ。」
襲ってきた男たちは衛士に引き立てられて王都に運ばれた。
俺達は警備隊の訓練所を宿舎として提供された。
「朝食の用意が出来たから起きてくれ。」
衛士に起こされ、持って来てくれた食事を摂る。
「盗賊ハドウナッタ?」
「誰かに頼まれたらしいが、まだ判らない。」
「ギリシ国ハブッソウナ国ナノカ?」
王都の正門近くで襲われたのだ。物騒以外の何物でもない。
「ふつうは安全だが、竜は金になる。特に白い竜なら相当な値がつく。これからも気を付けた方がいいぞ。」
「うん。」
「報奨金が出たらギルドに預けておく。ギルドで受け取ってくれ。」
「うん。」
暇だから昼は王都観光、夜は盗賊さんいらっしゃい?
警備隊の訓練所を出て王都を歩く。
パン屋でパンを大人買い。
食堂で料理を大人買い。
市場で果実水を樽買い。
食料の用意も万全、さあ盗賊さんいらっしゃい。
さすがに連日は無理なようで盗賊さん達は来なかった。
昼は観光。
王都には結構な数の観光スポットがある。
殆どが古代遺跡。
大きな神殿や巨大なスタジアムがいくつもある。
見晴らしの良い丘もあってシロと二人でのんびりと出来た。
夜になると大門から少し離れた草地で野営。
盗賊さんが襲いやすいところで、火球を打ち上げれば衛士が来てくれそうな場所。
結構気を使って選んだのになかなか来ない。
4日目の晩、やっといらっしゃいました。
総勢40人。
「キュル?」
シロの様子がおかしい。
探知すると盗賊さんの中に茶竜がいる。
なんとなく竜に違和感を覚える。
突然茶竜が飛び掛かってきた。
パリン!!
茶竜の爪が俺を襲い、バリアが2枚砕けた。
”隷属魔法デ操ラレテイル”
シロの心を直接感じられるので言いたいことがすぐに判る。
シロに頷くと、茶竜に向かって状態異常無効の魔法を飛ばした。
弾かれた?
距離があると鱗で弾かれるようだ。
ならどうやって隷属魔法を掛けているんだ?
身体強化を掛けた高速飛行で茶竜に接近、茶竜の爪を躱して至近距離で状態異常無効を発動した。
パリン!
騎乗具から音がして何かが弾け飛んだ。
ドン!
大きな音と共に竜騎士が吹き飛ぶ。
茶竜が尾で竜騎士を弾き飛ばしたらしい。
茶竜は怒っているが俺に対する敵意は感じないので地上に降りた。
盗賊さんたちは全員お休み中。
火球を上げる。
た~まや~!
衛士が飛んできた。
衛士が篝火を焚いて明るくしてくれた。
鎧を着た騎士らしい男達が倒れていた。
茶竜とシロが何やら話している。
シロがめっちゃ怒っている。
どうしたの?
コノ国デハ、隷属魔法デ竜ヲ従エルノガ合法。
コノ子ノ他ニ王都ダケデモ4頭ノ竜ガ隷属ノ首環ヲ着ケラレテイル。
茶竜を診ると、首の付け根の鱗が剥がされ、何かを撃ち込まれていたような穴がある。
回復魔法で穴を塞いであげた。
許せない。
隷属の首環をつけられた竜の居場所は判るか?
大体判ル。コノ子ガ案内シテクレル。
暗いうちにやるぞ。
盗賊は衛士に任せ、シロに乗って王都上空を飛んだ。
茶竜が先行している。
大きな屋敷の上空に来た。
この下の厩舎に閉じ込められているらしい。
隠蔽魔法を掛けて突入した。
シロは援護、茶竜は上空待機だ。
厩舎は無人。
扉を開くと青竜がいた。
隷属の首輪を嵌められている。
青竜に手を触れて状態異常無効の魔法を発動した。
パリン!
首輪がはじけ飛んだ。
青竜と共に屋敷を脱出、青竜には王都の外で待つように伝えて次に向かう。
2つの屋敷から茶竜2頭を救出。
残る1頭は王城の厩舎。
王城はバリアが張ってあるので潜入すればすぐに発覚する。
一旦王都の外に出た。
シロが4頭の竜と話をしている。
4頭の話では竜騎士を捕えられ、その命と引き換えに隷属の魔法を受け入れたそうだ。
しかし4人の竜騎士のうち2人は殺され、2人は自害したそうだ。
許せない。
竜達の首には隷属魔法を送り込むためのミスリルの杭が打ち込まれた穴が開いていた。
回復魔法で傷は治したが、剥がされていた鱗が戻るには3か月掛かる。
竜達の怒りはもっともである。
俺としてはギリシ国と戦争になっても良いとシロに伝えてある。
シロと二人なら国を相手にしても勝つ自信がある。
ただ、無事に王城の青竜を救い出せるかが問題だ。
王城の青竜は竜騎士を殺した貴族が王に献上したものらしい。
王自らが隷属魔法を掛けたのではないが、許せないことに変わりはない。
シロ達の話が終わった。
明日に備えてみんなで食事をし、みんなで輪になって寝た。




