3 洞窟の主は誰?
「キュルル。」
シロの声で目を覚ます。
いつの間にか寝てしまったらしい。
“お腹が空いた”
シロの感情が伝わってくる。
魔力でいいのかな?
“うん”
シロの喜ぶ思いが伝わってきた。
抱きしめたまま体の中に魔力を流して両手に集めると、抱きしめていたシロの背中から魔力が流れ込んでいく。
気のせいか魔力の流れが太くなったように感じる。
繰り返し練習することで魔法の威力が上がると説明にあったのを思い出した。
繰り返し使うことで魔力自体が増えるか魔力の何かが上がるのだろう。
そうだ、シロが満足したら色々と試してみよう。
「キュルル」
考えているうちにシロから満足の感情が伝わってきた。
「ステータスオープン!」
まずは現在の状況確認。
・・・。
まあそう都合よくはいかないよな。
「アイテムボックス!」
・・・。
あれっ? 基本セットも無し?
いや待て。
足元の小石を拾ってもう一度チャレンジ。
「アイテムボックス!」
消えた。
「アイテムボックス!」
頭の中に“小石1“が浮かぶ。
「出ろ!」
掌に小石が出た。
何度か実験してみると言葉にしなくても意識するだけで出し入れができることが判った。
「鑑定!」
当然次は鑑定魔法。
”石“
凄い! 鑑定できた、って見れば分かるじゃん。
これも練習が必要らしい。
年齢相当の能力という意味が判った。
とりあえずはアイテムボックスと鑑定魔法は使えることが判明。
となれば基本3点セットの異世界言語も使える筈。
それは判ったが、ここがどこか、これからどうすればいいのかはさっぱり判らない。
でもシロと“永遠対等な朋輩”になった喜びでテンションはMAX。
「裸だっていいじゃないか、シロだって裸だから一緒だ。」
シロが首を傾げている。
自分を納得させるために声に出したけど、むなしさだけが残った。
でもシロは可愛い、可愛いは正義だ。
だから俺が裸でも問題は無い、筈。
やっぱり服が欲しい。
ふと思い出した。
スキルとかアバターとか全然設定してないじゃん!
ゲームの設定途中で始まってしまったのだ。
とりあえず中断、ってどこにも中断キーもスイッチも見当たらない。
そのうちどこかにあるセーブポイントにたどり着ける筈。
それまでは主人公のチートスキルも装備も無しで頑張るしかない。
今死んだらシロとの出会いもリセットされてしまう。
シロと別れるのは絶対に嫌だ。
深呼吸をして心を落ち着かせる。
ゲームの基本は探索。
まずは部屋の中を確かめる。
ぐるっと見回してみた。
4~50m? 高校のグラウンド程の広さ、もう少し大きい?
円形でほとんど平らな大きい部屋。
そこそこのコンサートホールくらいはある。天井も高い。
中央部には何も見えないがちょうど俺のいる場所の反対側に巨大な穴?
ここは大きな洞窟の一番奥?
頭上に何か光るものがある。
岩が邪魔をして真下からでは見えない。
見えそうな所に行こうとして気が付いた。
足が痛い。
岩場を裸足で歩くことがこんなに辛いとは思わなかった。
「靴が欲しい!」
大声で叫んだら出てくるかと思ったが、やっぱり出てこなかった。
遠くから眺めてみると、壁の途中に4~5mの抉れたような穴。
地上からは約10m、天井までの半分より少し下。
中型竜である飛竜の巣にしては小さい。
飛竜最大の黒竜なら体長は10mを超えるが立ち上がっても頭がようやく届くかどうか。
そんな所にこんもりと盛り上がった2mくらいの光る小山がある。
恐らくは何かの鉱石か宝石のはず。
竜が光物を集めているのはファンタジーの鉄板。
竜の卵があったということはここに竜が住んでいたということ。
まさに宝の山。
しかし10mもある垂直の壁には足場が無い。
ゲームである以上、宝の山にはなんらかの意味がある筈。
小首をかしげて考える。
ふと横を見るとシロも小首をかしげている。
めっちゃ可愛い!!
閃いた。
シロには翼がある。
すぐに飛べる日が来る筈だ。
俺って天才?
ちょっと待て。
シロの親はどこに行った?
戻ってくる?
まずい。
シロの手を引いて、出口らしい大きな穴に一目散で駆け出した。
ここも最初の部屋と同様に壁がほのかに光っている。爪でひっかいてみるが、落ちた土は光っていない。不思議に思いながら200m程進むと大きな明るい部屋に出た。
直径が300m以上ある丸っぽい巨大な広場?
上には青空が見え眩い光が差し込んでいる。周りは岩壁。
イメージとしては観客席を取り払った新国立競技場?
床で何かが光った。
近づくと剣や鎧が落ちている。
「鑑定!」
“剣”
“鎧”
まあそうなるな。
見渡すとあちこちに武器と防具がセットで落ちている。
やった~、武器と防具が手に入った。
と喜んだ時もありました。
ゲームの最初の説明にありました、レベル相応のものしか装備できないと。
定番ゲームのアイテム図鑑で何度も見た、光の剣や雷神の槍、エクスカリバーらしき物まで落ちていた。装備出来ないから関係ないけど。
俺のレベルでは使えないと判って全てアイテムボックスの中。
レベル以上のものは装備すると重量が3倍になるとアイテムの解説に書いてはありました、はい。
唯一普通に振れたのはミスリルのナイフ3本。
ミスリルの剣も8歳の俺には重すぎるし長すぎる。
ナイフ以外で使えたのは魔法袋。
袋に手を入れたら見た目よりも遥かに多い瓶や大量の粉が入っていたので魔法袋と判った。
粉は恐らく風化した食料や薬草。
めっちゃすごい武器や防具が沢山あったことから考えると、勇者のパーティーがこの広場で全滅したのだろう。
しかも1つではなく3パーティーか4パーティー以上?
一番新しい物でもおそらく1000年以上前?
魔法の掛かっていない物は風化していたし、魔法袋?に入っていたポーション?は完全に蒸発していた。きちんと蝋封されているポーションが蒸発って、いつのだよ。
魔法袋も完全なものは4つだけ。状態保存の魔法が弱かったのかめっちゃ古いからか、壊れかけているボロボロの魔法袋が7つ。
封が切られていないが中身は完全に蒸発済みのポーション瓶が何か所か纏まって落ちていたことから完全に風化した魔法袋も多数?
ともかく見つけたものは全てアイテムボックスに入れる。
ふと思った。
勇者パーティーが全滅って、戦った相手は誰?
当然ここの主?
考えないことにした。
俺は前向きな人間だ。
とはいえ、急いで広間から狭い通路に飛び込んだ。
勇者パーティーを倒すような相手なら、この狭い通路には入って来れない筈、たぶん。
場当たり的に第2作の投稿を始めてしまいました。
夕方までには第1作”馬丁爵”の15話を投稿する予定です。
明日からは仕事ですので1日にどちらか1話程度になるかも?