28 竜の治癒師
「Aランクの仕事じゃないのだが。」
「レオハカイドウケイビガスキ。」
「まあギルドとしては助かるがAランクの報酬は出せないぞ。」
「うん。」
ギルマスにごねられたが引き続き街道警備の仕事が出来るようになった。
報酬も銀貨5枚から6枚に増えた。
Aランク冒険者は最低でも金貨5枚以上の仕事しか受けないらしい。
俺はお金よりシロと一緒に飛ぶのが好き。
面倒な仕事はしたくない。
今日は天気も良くて警備日和。
急発進、急加速、宙返りに錐揉み降下。
大空を自由自在に飛び回る。
疲れたら丘に降りてゴロゴロ遊びに魚捕り。
街道警備は忙しい。
収穫祭が近いので、街道が賑わっている。
シロに気が付いた人達が手を振ってくれる。
シロも翼を振って応える。
盗賊さん達は週5日制で土日はお休み。
学院の授業がある平日だけにお仕事をするらしい。
俺と真逆な生活。
俺、嫌われてる?
ちょっと寂しい。
盗賊さ~ん、出てきてちょうだい。
スタンガンだけじゃなく、マグナム弾でもアイスランスでも好きなのを撃ってあげるから。
「ハァ。」
シロに呆れられてしまった。
卒業後の事が問題になっているらしい。
王宮と教会は王都に残って欲しいらしいが、貴族が多い王都は嫌。
かといってホロルで街道警備はAランク冒険者にふさわしくないそうだ。
だからAランクなんて嫌だったのに。
「コノクニハリュウノチイガタカイ。ダガ、リュウノチイガヒクイクニモアル。ホカノクニヲミニイクノモヨイ。」
シロの意見で決まった。
卒業後は諸国漫遊。
助さんと格さんを雇わなければ。
「ソレハイラナイ。」
瞬時に却下された。
最後の年越し休みは神殿の書庫で読書三昧。
上級回復魔法や詳細鑑定魔法を覚えて治癒士としての能力も上がった。
諸国漫遊でたくさんの竜を治してあげたいから頑張った。
「諸国漫遊か、面白そうだな。」
「冒険者は気楽でいいよな。」
マテとボロは王国竜騎士団に入団することが決まっている。
卒業後すぐに婚約式を行い、18歳で結婚するらしい。
いつの間に相手を見つけたんだ?
イケメンはいいよな。
いや、俺にはシロがいる。
ちょっぴり羨ましいのは秘密。
「よし、俺が地図を作ってやる。」
地図は軍事機密だから普通は手に入らない。
簡単な略図になるが、マテが家臣に作らせてくれるらしい。
「俺は諸国の特産品や観光地の情報を集めてやろう。」
ボロは観光ガイドを作ってくれるそうだ。
出来れば女忍者が欲しいけど。
ウフフの入浴シーンは見られそうもない。
無事に卒業試験もクリアした。
近接戦闘は前年同様に81点。
いかにも配慮しましたという点数。
実技試験は全敗だったから多分そう。
儀礼の結果は161点。但し書きはシロ160点、レオ1点。
うん予定通り0点は免れた。
シロに感謝。
旅立ちまでの間、世話になった人や竜達に挨拶して回った。
派手な行事は断ったが、謁見の間で大勢の貴族達を前にいずれ帰って来ることを王に約束させられた。
いつかはホロルに帰りたいと思っているので問題は無い。王都に帰るとは言ってない。
どこかに住みたい場所が見つかれば、報告に来れば帰って来た事にはなる。
前向きに善処する方向で検討すれば良い。
ひっそりと出立するつもりが、バレン侯爵親子、辺境伯親子、ギルマスやギルド職員達が見送りに来て、大門の前が人だかりになってしまった。
沢山の人が手を振ってくれるのを背にシロに乗って王国を後にした。
目指すは海。
海に向かって”バカヤロ~“と叫ぶのだ。
「?」
さすがにシロにも意味が判らないらしい。
青春の1ページには絶対に必要なイベントなのだ。
ドラゴ国の東、海があるギリシ国に向かった。
ボロの資料では海に面した海洋貿易国家。
王家や辺境伯から餞別を貰ったし、報奨金もあるので生活費は十分。
のんびりと観光旅行しながらボランティアで竜の治療をするつもり。
目的地はギリシの北部、マケド公爵領の領都テッサロ。
ギリシ第2の都市らしい。
街門のまえに着地するとシロを大勢が見ている。
さすがに白い竜は珍しい。当然といえば当然?
門番にドラゴ国王から貰った身分証を見せる。
この紋所が目に入らぬか!
衛士がキラキラと輝く白金のカードに驚いている。
「・・・、竜治癒士とは初めて聞くが、どのような職か?」
「病ヤ怪我ヲシタ竜ヲ治ス仕事。」
シロの言葉が流ちょうになった。
神殿で古期古代語の本を読んでいるうちに色々と思い出したらしい。
「りゅ、竜がしゃべった?」
まあそうなるな。
「問題無ナケレバ通ルゾ。」
「も、申し訳ありませんが、少々お待ちください。」
カードを俺に返し、衛士が横の建物に走った。
上司の判断を仰ぐのだろう。
すぐに大勢の衛士が出て来た。
「恐れ入りますが、もう一度身分証を見せていただきたい。」
カードを出した。
「確かにドラゴ国王発行の身分証です。この国に来られた目的は何ですか?」
「竜ノ治療。」
「竜には自然回復しか治療法がありません。」
「ドラゴ国王ガ嘘ヲツイテイルト申スカ?」
「いえ、決してそのようなことはありません。」
上司らしい男が慌てている。
「デハ問題ハ無イナ。」
「はい。」
シロのおかげで無事に街に入ることが出来た。
街が白い。
鑑定すると使われている石材の殆どが石灰岩系。
青い空や海とのコントラストが美しい。
遠くの丘の上には巨大な城が建っている。
まずは竜に会いたくてギルドに行った。
門の近くにギルドがあるのは定番。
ギルドの横は竜騎士の宿舎ではなく馬車を置く駐車場と馬用の厩舎。
少し離れたところに竜が待機する草地。
屋根も無ければ竜騎士の宿舎も無い。
茶竜が1頭寝転んでいた。
「キュルル。」
「ギュゴ?」
「キュル、キュルウウ?」
「ゴゴグ。」
シロが茶竜と話をしている。
「前ニ膝ヲ怪我シテカラ調子ガ悪インダッテ。」
竜に口を開けさせて診察した。
膝の軟骨が一部剥がれて神経に当たっている。
痛みの原因は判ったが、古い傷なので回復魔法では無理。
手術で取り除かないと治らない。
竜騎士がギルドにいるらしいので探しに行った。
「茶竜ノ竜騎士ハイマスカ?」
ギルドが大騒ぎになった。
武器を構えている冒険者すらいる。
「問題ナイ、ドラゴ国ノAランク冒険者ノレオ、僕ハ朋輩ノシロ。」
俺がギルドカードを出すと騒ぎは収ま、・・・らなかった。
「こんなチビがAランクだって? 嘘だろ?」
却って騒ぎが大きくなった。
「間違いありません、この方はドラゴ国のAランク冒険者で竜騎士のレオ殿です。」
ギルド職員が大声で騒ぎを収めてくれた。
という訳でギルマス室。
「成程、ギルド国の王都で100頭以上の竜を治療したのか。」
「ポチの足が治るのか?」
あの茶竜、ポチ?
名前が軽すぎじゃね?
「多分。」
「しかし、竜の足を切り開くなんて出来るのか? 鱗にはナイフも通らんぞ。」
「鱗ヲ四枚剥ガス。3ヶ月デ鱗ガ生エル。心配ナイ。」
「頼む、治してやってくれ。金は払う、足りなければ借金してでも払う。」
「問題ナイ。竜ヲ救ウノハ僕達ノ役目。金ハイラナイ。」
何故か周りに人だかり。
ギルドの訓練場にポチが横たわっている。
「少シ痛イガ我慢シテ。」
シロの言葉に竜が頷く。
俺が小さなミスリルの筒を出す。
魔法を通すと白く光る刃が生まれた。
俺が開発したレーザーメス。
膝関節の鱗を1枚持ち上げるようにして根元にメスを入れると、スッとメスが入り、鱗が切り取られる。
続けて3枚切り取った。
軽い雷魔法を掛けると膝が一瞬光る。
局部麻酔の代わりの麻痺魔法。
詳細鑑定で軟骨を確認しながらメスを入れる。
ポチがピクリと動くが我慢してくれている。
腱を傷つけないように気を付けながら慎重に軟骨を取り出した。
上手く行った。
患部に回復魔法を掛けるとすぐに傷が塞がった。
竜は鱗の下の皮膚も硬いのでこのままで問題は無い。
「終ッタヨ。暫ク痺レガ残ルカラ10分程横ニナッテイテネ。」
「治ったのか?」
「多分。」
「そのナイフは何だ?」
ギルマスが声を掛けてきた。
「レーザーメス。聖属性ノ上級魔法。」
「レオは上級魔法が使えるのか?」
ギルマスが驚いている。
「僕ノ竜騎士ダカラ当然ダ。」
シロが胸を張った。
「すまん、俺の朋輩が昨日から元気がない。診てやってくれるか?」
横からおっさんが声を掛けてきた。
「うん。」
少し待つとさっきの男が緑竜を連れて訓練場に入ってくる。
口を開けさせて詳細鑑定をした。
食中毒だな。毒の残った肉?
「毒ノアル肉デオナカヲ壊シテイル。」
「そういえば昨日、蛇を食っていた。」
「状態異常無効ノ魔法デ治ル。」
「状態異常無効って闇属性の上級魔法だぞ。聖属性のものには使えない筈だ。」
ギルマスが煩い。
「レオハ使エル。問題ナイ。」
竜の口から状態異常無効の魔法を注ぎ込んだ。
2分ほどで異常が消えた。
「俺のタマが元気になった。」
緑竜はタマ。この国のネーミングおかしくね?
「俺のポチも治ったぞ。」
膝を痛めていた茶竜が膝を確かめるように足踏みをしている。
良くなったのは嬉しいけど、竜にポチとかタマってどうなのよと思ってしまう。
「本当に竜を治療出来るとは驚いた。ドラゴ国王が認めただけの事はある。」
ようやくギルマスも信用したようだ。
ギリシ国最初の治療はうまくいった。




