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22 毎日練習です

「父上がシロを褒めていたぞ。」

「?」

王国竜騎士団の先頭を飛んでいた黒竜は侯爵の朋輩だった筈。

怒ってないの?

「もともと父上を含めて竜騎士達はあの計画には反対だったのさ。みんなシロの事が好きだからね。ところがそんなことを知らない法衣貴族達が王国竜騎士団とシロの格の違いをはっきりさせようと教会と組んで強引にやらせたっていう訳。当然王国竜騎士団のテンションは上がらない。父上なんかめっちゃ嫌がっていたからな。結果はシロの人気が上がっただけ。驚いた法衣貴族達が慌てて中止させたという結末だ。」

「竜騎士は皆シロの格が判っているけど、法衣貴族にとっては変わった色をした小さな竜でしかないからな。神殿は盛り上がって大喜びだったのに、中止になって残念がっていたらしいぞ。」

マテもボロも貴族なだけに色々なことをよく知っている。

あらためて俺は貴族になるのは無理だと実感した。

「あのパフォーマンスは大盛り上がりだったからな。白竜のオブジェの上で本物の白竜がホバリングなんて誰も思いつかないし、完璧なホバリングが出来る竜はシロだけだと父上が感心してた。」

大人の世界はいろいろと難しいらしいが、俺はシロが喜んでいたからそれでいい。



お祭り参加の中止で予定が空き、今日は学院の図書館で読書。

図書館には古代語で書かれた貴重な本も沢山ある。

生徒用というよりもマニアックな教授用らしいが、古代語が普通に読める俺にとってはありがたい。ゲームの設定に感謝。

今は錬金魔法のことを調べている。

シロの騎乗具に適した素材を作れないかと考えたのだ。

防御自体は竜の鱗以上のものは無いので問題は無い。

今の騎乗具は性能が良い分重い。

シロは強いから大丈夫そうだけど、少しでも軽くしてあげれば疲れも少なくなると考えた。


軽くて丈夫な素材。

思いついたのはカーボンファイバー。

作り方は全くわからないし、化石燃料系の素材が必要なはずなので却下。

となると、チタン系。

前世では鉄に次いで多い元素だが製錬が難しいのと硬いので加工がしづらい。

さすがにどこを探してもチタンの加工法は見つからなかった。

慌てることも無いのでじっくりと考えることにした。

良く言えば思慮深い。

平たく言えば下手な考え、休むに似たり。

俺の能力以上の事はとりあえず保留。


錬金術の本には、解毒ポーションのレシピが載っていた。

毒の種類によって3種類、食材系、液体系、気体系。

基本的に消化器に作用するものと呼吸器に作用するもの、筋肉や皮膚、神経に作用ものの3種類。

経路は違えども体の中に入って、体の正常な機能を阻害するのは同じ。

だったら本来体の中にない物質を分解すればいい?

細胞にとりつく悪魔を溶かすイメージ。

なんとなく出来た?

機会があれば試してみよう。

まだまだこの世界には知らないことが多い。

攻撃魔法ももっと練習しないと威力や精度、発動速度が足りない。

シロが凄く頑張ってくれている。

俺も負けないように頑張らなくちゃ!



年越し休みに入り、シロが寒さを気にしないので、冬の間も街道警備を続けている。

寒いから出動しない竜騎士が多く、盗賊避けに毎日出動依頼がある。

勿論ちょっとだけだが寒冷期手当もつく。

商人の通行も少ないので、帰り道には遠回りをして魔法の訓練。

冒険者もよほどの依頼でないと雪山には入らないので人目を気にせずに訓練できる。


今日は飛行魔法で飛びながらマグナム弾を撃っている。

目標はシロ。

ちょこまかと動き回って殆ど当たらない。

たまにわざと当たってくれるのはシロがバリアの練習をしているから。

二人でバリアの強度確認をするのが最近の日課。

シロの風刃は至近距離だと俺のバリアを3枚破るが、シロのバリアは至近距離のライフル弾でも1枚破るのが限界。

防御魔法や飛行魔法を使いながら、攻撃魔法の練度を高める練習。

何度も何度も使えば魔法の精度が少しずつ上がる。

只管毎日練習を繰り返す。

俺が教えた筈なのに、バリアの性能も今ではシロの方が高い。

でもシロのバリアが強くなるのを感じると俺は嬉しくなる。

シロは俺よりも長生き。いつか強い敵と戦う事もある筈。

その時にこの練習が役立ってくれればと願っている。



練習が終わると二人のお楽しみ。

雪の上のゴロゴロ遊び。

シロに抱えて貰って雪の斜面をゴロゴロ転がる。

一人では雪に埋まって転がらないのだ。

二人が交互に力を籠めるとうまく転がる。

一体感が堪らない。

動いているので寒くは無いし、何よりも全然痛くない。

毎日街道警備に出るのは責任感や報酬目当てではなく、ゴロゴロ遊びがしたいから。


ゴロゴロが終わると、川に行って魚捕り。

雷魔法で魚を気絶させ浮き上がってきた魚を飛行魔法で飛びながら網で掬う。

シロも前足で器用に網を使って掬ってくれる。

飛行魔法の練習になるし、シロのホバリング練習にもなる。

最初は雷魔法の制御が出来なくて、川の生き物を全滅させてしまったり、小さな生き物しか気絶させられなかったりと結構失敗が多かった。

今は威力の調整にも慣れたので短時間で魚が捕れる。

捕った魚は内臓を取って塩を振り、串に刺して焚火で焼く。

シロも俺も魚が好き。

毎日が幸せ。

ゴロゴロ遊びをしているうちに2か月の長期休みが終わってしまった。



「わあっ、シロ様だ!」

声の方を見ると、お姉さんが嬉しそうにシロを見ている。

「竜騎士様、うちのパンを食べて行ってください。シロ様もお店の中で食べられましから。」

お姉さん俺の名前は知らないのね。

「うん。」


最近少しずつ増えてはきたが、シロが一緒に入れるお店はまだ少ない。

普通の竜は大きすぎて店に入らないから、街の人は竜と一緒に食事をすることに慣れていない。

小さいとはいえ、竜がいると怖がるお客さんも多いらしい。

ただシロの可愛さから中に入れてくれる店もあるので、いろいろな食べ物をシロに食べさせてあげたい俺としては遠慮なく入れて貰うことにしている。


店に入るとパンが並んでいる。

俺は無言で指をさし、パンを2つと果実水を選んだ。

「コレト、コレト、コレ。ボクモカジツスイ。」

シロは言葉が上達してきた。

鉄道会社に勤めていた叔父さんが言っていた。

“大切なのは指さし確認”

「ぐぬぬ。」


お姉さんが椅子をどけてシロの席を作ってくれた。

後ろ足で立ち上がると、シロはちょうどいい高さになる。

トレーに乗せて運んできてくれたサンドウィッチを齧ると、挟んである肉の味が口いっぱいに広がる。

うまい。

ちゃんとシロ用にお手拭きの布を用意してくれた。

他の店で聞いたのかな?

シロは器用に布で前足を拭い、サンドウィッチを掴む。

1個をそのまま口に放り込む。

竜の口は大きいから3個くらいは入りそうだ。

「オイシイ。」

シロが喜んでいる。

「ありがとうございます。シロ様に褒められたと自慢します。」

めっちゃ喜んでいる。

シロの言葉を聞けたからか、周りのお客さんも盛り上がっている。

皆がシロを見つめ、誰も俺のことは見ていない。

まあそうなるな。



学園の中がピリピリしてきた。

もうすぐ学年末試験。

普通科の2年生にとっては感応の儀式に参加するための最終関門。

俺はのんびり。

何といっても、儀礼の前期成績は115点。

楽々合格圏内。

但し書きにシロ110点、レオ5点と書いてあったことは気にしない。

小さな事を気にする人間は成長しない。

前向きに生きる事こそ大切だ。


「シロ、凄いな。」

「ガンバッタ。」

「シロのおかげで補習を免れた割にはレオの態度が大きくない?」

成績掲示板の前で胸を張っていたらマテとボロにけなされた。

シロと俺は一心同体、125点は俺達二人の得点だから胸を張って当然だ。

但し書きのシロ120点、レオ5点は見なかったことした。


「相変わらず近接戦闘はもう一つだな。」

相変わらず女子には全敗。おっぱいトラウマはいまだ健在だ。

男子はというと、小さいころから武術を習わされる貴族の子弟とでは年季が違うというより体格が違いすぎ。

俺133㎝、マテ180㎝、ボロ176㎝。他の男子も軒並み160㎝超え。

12歳にしては皆デカすぎだろう。

「ぐぬぬ。」

「レオモイツカオオキクナル、タブン?」

なんで疑問形なんだよ。


感応の儀式が終わった。

新しく朋輩を得た同級生は男子2名、女子5名の8人。

いつもより多かったらしい。

初等部の場合、財政的に余裕のない貴族は嫡男一人で精一杯、女子を通学させられるのは上位貴族だけ。その分男子の在籍者が多くなり、朋輩を得るのも男子が多い。だが高等部になると、女子の方が必死で頑張る分女子の比率が多いらしい。

勿論男子も頑張っているが、文官や騎士という進路がある分必死さが足りない。

この世界は男尊女卑的な面が強いので、女性が男性同様に扱われる職業は竜騎士しか無い。

その為、女性は懸命に頑張り、結果として成績上位には女性が多く、朋輩を得るのも女性が多いらしい。

朋輩を得た生徒は、夏休みの2か月で竜との交流を深め、9月になると竜騎士科に編入される。その時はまた竜同士で序列の決め直しが行われる。



夏休みは貴族の社交シーズン、多くの貴族が王都に集まり、お茶会や晩餐会が頻繁に開かれる。

竜騎士である俺は、当然街道警備。

王都のギルド本部に登録しているとはいえ、一応所属はフロンなので辺境伯の所にはお茶会や晩餐会の招待状が来ているらしい、ボロがそう言っていた。


俺はそれどころではない。

夏は薬草と盗賊のシーズン。

雪に埋もれる冬とは違い、珍しい薬草がたくさん生える。

王都に向かう商人達を狙った盗賊が出没する。

王都に集まる貴族向けの高価な品物を積んでいる馬車が多いのだ。

年に1度の稼ぎ時にのんびり食事などしていられない。

シロの騎乗具代を稼ぐぞ! 毎日気合を込めて街道の上を飛ぶ。


しょぼい。

盗賊がめっきりと減っている。

王都に来た頃に比べると3分の1。

魔獣も減っている。

仕方がないので薬草を取ってシロとゴロゴロ。

楽しいからまあいいけど。


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