2 永遠対等な朋輩
初投稿作品”馬丁爵”も暗中模索なのに2作目を投稿する無謀な作者です。
良く言えば”馬丁爵”の練り込み中、悪く言えば行き詰まり中?
「痛~っ!」
うつぶせに寝ていたようで、顔や体に妙な痛みを感じる。
地面に直接寝てた?
起き上がろうと床に手をつくとザラザラした手触り。
見たことのない天井じゃなくて地面。
顔を持ち上げると、薄暗いが周りが見えないわけでは無い。
見上げると遥か彼方に岩の天井。
目の前にはぼわっと不自然に光るゴツゴツした岩の壁。
ほんのりと壁が光っている。
洞窟感満載。
・・・、ひょっとして設定途中でゲームが始まった?
先行配信によくあるバグ。
とりあえずは現状確認。
痛かったのはゴツゴツとした洞窟の床に裸で寝ていたせいのようだ。
裸?
ちょっと待て、いくらバグでも裸はないだろ。
せめて村人の服くらい着せ・・・。
“パリッ!”
微かな音だが無音の洞窟だからかはっきりと聞き取れた。
やばい?
反射的に振り向くと、そこには赤と緑の禍々しい色をしたラグビーボール。
ゲームのデモ画面に出てきた竜の卵と同じ。
卵の表面に割れ目が広がっていく。
割れ目から見えたのは真っ赤な赤ちゃん?
真っ赤な赤ちゃん(?)は卵から這い出して、後ろ足で立ち上がった。
長い首を伸ばし、小さな前足を胸の前で揺らしながらバランスを取っている?
口元に生えた短い髭がめっちゃ可愛い顔を一層可愛くしている。
背中にはちょこんと生えた小さな翼。
もう無条件に可愛い。
ゲームの中とはいえ、間近で見るリアリティー抜群の竜に全身が震える。
もちろん恐怖ではなく、感動の震え。
赤竜ってこのゲームでは最低ランクだけど、そんなことは関係ない。
可愛いは正義、キリッ!
小さくても形は竜そのもの。
しかも俺好みなファンタジー風の4つ足翼タイプ。
俺は子供の頃からの竜マニア。
2次元やフィギュアで沢山の竜を見てきたがこんなに可愛い竜は初めて。
中国系は威厳があるが翼が無い。
西洋風には翼があるものも多いが殆どが2本脚で前足が翼タイプ。
どの竜も好きだけど、一番はファンタジー小説の挿絵に描かれていた4つ足翼タイプ。
持っているフィギュアも半分以上が4つ足翼タイプ。
でもこの子程可愛い子はいない。
殻を抜け出た竜の赤ちゃんがよたよたしながらも真っ直ぐに俺に歩み寄ってきた。
40㎝程のひょろっとした小さな竜。
デモ画面で見た竜よりもかなり小さい?
威厳や風格は無いけど、めっちゃ可愛い。
歩き方も可愛い。
目も可愛い。
小さな翼も可愛いし、前に上げた手もよろよろと歩く足も可愛い。
ちょこんと生えかけている角も可愛いし尾も可愛い。
とにかくめっちゃ可愛い竜の子が俺に頭を擦り付けてきた。
至福のひと時、って呆けている場合じゃない。
すぐに魔力を食べさせて名前を付けなくちゃいけないんだった。
え~と、名前は“アカ”でいいか。
すぐに名前が思い浮かぶのは決断力がある証。
俺、偉い!
魔力を食べさせるのは、・・・・どうやって魔力を出す?
出し方知らないじゃん。
ゲームの説明文には魔力の出し方なんて書いてなかったぞ。
・・・、とりあえずデモ画面の真似をして竜の頭に手を置いた。
「魔力出ろ!」
「・・・。」
「魔力を食べろ!」
「・・・。」
「魔力注入!」
「・・・」
困った。
「魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。」
念じながら掌に意識を集中していると、体の中から何かが吸い取られる感じがする。
これだ!
よしこのまま頑張れ!
自分に気合を入れる。
「魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。」
確かに手の平から何かが竜の子に吸われている。
竜の子の色が黄色っぽくなってきた。
黄疸じゃないよな・・・・。
心配しながらも手の平への集中は途切れさせない。
全身を何かが流れ、掌へと向かっていく。
掌から竜の頭に流れていくのが感じられるようになった。
とにかく魔力を食べさせなければ。
「魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。」
おっぱいを飲むように掌から何かが吸い取られている。
体の中を流れる何か、恐らくは魔力?の流れが激しくなってきた。
竜の子の色が段々緑っぽくなってきた。
ランクがあがった?
「魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。」
念仏のように唱えながら体中の魔力(?)を掌へと送り込む。
30分? いやもう1時間は経っている。
竜の赤ちゃんは段々青くなり、そして黒くなった。
黒ってこのゲームの最上位クラスじゃん。
でも黒くなった竜の赤ちゃんは“もっともっと”と可愛い目で俺を見上げている。
可愛い上目遣いに俺が逆らえる筈もない。
「魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。」
体力が・・・。
ふらふらになりながらも赤ちゃんの上目遣いに抵抗する術はない。
「魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。」
全身の神経を研ぎ澄ませひたすら掌に意識を集中する。
赤ちゃんの頭が俺の魔力をどんどん吸っている。
あれ? 色が薄くなった?
黒い色が掠れるように薄くなり、なんか白っぽくなった。
上目遣いは変わらない。
“もっと、もっと”という声が脳内に響く。
「魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。魔力食べて。」
力を振り絞って魔力を送り込む。
目が霞んできた。
膝が崩れそうになっている。
目を閉じて掌に神経を集中、ただ只管魔力を送り込む。
どれだけ時間が経ったのか判らないが、掌から流れ出す勢いが少しずつゆっくりとなってようやく止まった。
「キュルッ!」
竜の声が響いた。
満足感に溢れている?
どうやら満足してくれたらしい、ってそこはだめ!
前足がまずいところに当たってくすぐったい。
くすぐったさで目を開くと、真っ白な竜が腰に頭を摺りつけている。
白い竜はゲームの説明になかった。
そんな細かい事はどうでもいい。可愛いは正義だ。
とりあえず竜の前足を握って股間から遠ざける。
パンツも無しに直接はまずい。
たとえ股間がツルツルの8歳でも精神は毛の生えた27歳、チェリーでも恥ずかしい。
じっと見ると白くなったせいか一層可愛くなっている。
さっきよりもちょっと大きくなった感じ?
よく見ると角が少し大きくなっている。
髭もちょっとだけ長くなった?
とにかくめっちゃ可愛い。
赤いときよりもっと可愛い。
やった~! って感動している場合じゃない、名前、名前を付けなくては。
「お前の名前は、・・・シロだ。」
どう見てもアカじゃない。
一瞬で名前を思いつくところは俺の天才的能力、どうや!
キラキラとした光が俺とシロを包んだ。
“嬉しい!”
俺の脳に直接竜の感情が伝わってきた。
シロが“永遠対等な朋輩”だとはっきりと判る。
体がじんわりと暖かくなって涙が流れる。
うん、めっちゃ幸せ。
同時に、さっきよりももっと大きな“嬉しい”という感情がシロから伝わってくる。
俺の感情がシロに伝わっていると理屈抜きで判る。
「シロが喜んでくれて俺も嬉しいよ。」
声に出しながら少し屈んでぎゅっと抱きしめるとシロも俺の胸に頭を擦り付けている。
至福の時間が流れていく。
幸せだが腰が痛い。
8歳でも長時間の中腰は無理。
腰を下ろすとシロを抱きしめたまま横になった。




