19 野外研修
aruあ
野外研修が始まった。
王都から馬車で3時間、研修場所の草原に到着した。
班ごとに昼食を摂り、テント設営、食料調達、調理など役割分担を決めて行動する。
設営状況や食事内容、討伐した魔獣の数などが成績として評価される。
夜間の見張りも評価対象だ。
1日目は問題なし。荷物は馬車で運ぶので王都で揃えた物を食べることも出来る。
大勢がいるので匂いを出してもさほど魔獣は寄ってこない。
2日目。
テントを片付け荷物を担いで森の中を移動する。
ゴブリン程度の魔獣が多い地域。
荷物が多すぎて魔獣に対応できない生徒も出る。
昼食休憩は班ごとに森の中。
2日目の野営地は森の中の河原。
テントを張り、夕食を作る。
到着が遅い班はゴツゴツとした岩の上で寝ることになる。
そろそろあちこちから不満が出始めている。
竜騎士が点在しているので大きな危険はない。
小型竜でもある程度の索敵能力はある。
大型の強い魔獣は竜騎士が連携して先に倒している。
まあ指揮しているのはシロだけど。
弱い魔獣についてはやられる方が悪い。
大きな怪我をすれば減点。
3日目。
ここからが問題。
食料や水の計画がずさんだった班は苦しむことになる。
さらにここからは薬草採取の課題と魔獣討伐の課題が加わる。
つまり、今までのように前の班について歩くだけでは課題が達成できない。
かといって道の無いところに踏み込めば危険だし道に迷う恐れもある。
リーダーの腕の見せ所でもある。
俺は途中にある丘の上にいる。
緊急の場合は赤い信号弾を上げることになっているので見つけやすい場所に陣取った。
決してシロとゴロゴロをするためではない。
一応生徒がゴロゴロ遊びをしても危険が無いかの確認をするためにゴロゴロしたが枯れ葉が付くので3回でやめた。
生徒達は文句を言いながらも1つの班を除いて野営場所に到着した。
指定場所に来なかった班は夜のうちに魔獣討伐をして成績を上げるつもりらしい。
まあ無理だし、下手をすれば死ぬ。
教師が警告したからあとは自己責任。
教師があちこちを回っていて、メンバーに押し付けて楽をする者や貴族だからと分担を少なくしている者、食事を自分だけ良くしている者などを細かくチェックしている。
4日目の最終日。
案の定夜の魔獣討伐組は弱い魔物にボロボロにされて運ばれてきた。
死なないように止血程度はしてくれるが、痛みの辛さを体感するためと、痛いとはどういう状況かを他の生徒に見せるため出発地の横に寝かされている。
殆どの生徒が痛みで唸っているから寝かされているではなく横になっている、もしくは丸まっているが正しい。
“昨日警告を無視して夜間討伐に行ったもの”という立札が立っている。
魔獣を甘く見るんじゃねえよ。
討伐数や採取数の少ない班は朝早くから出発して行った。
皆疲れているから最終日に事故が起こりやすい。
俺も目一杯索敵範囲を広げている。
普通のファンタジーならこの辺でとんでもない強力な魔獣がでるかとんでもなく我儘な生徒が問題を起こす。
少しの心配と大きなわくわく感で目的地向かうと、着いた。
無事に着いちゃった。
何にもなし?
「一人足りません。」
まあそうなるな。
「学院長が行方不明です。」
なんでやねん、思わず突っ込みそう。
おっさん何をしているの?
「キュルル!」
シロが叫ぶとモモがマテと一緒に来た。
「サガス。」
俺とマテが探索に出た。
モモを連れて行くのは学院長の運搬だろう。
シロが1直線で飛ぶ。学院長にもマーキングしていたようだ。
いた。・・・、一生懸命草の根元を掘っている?
「学院長、何をしているのですか?」
「いいところに来た。貴重な薬草を見つけた。君たちも手伝いたまえ。」
結局俺達も穴を掘り、薬草は魔法袋に、おっさんはモモの背中に乗せて集合場所に戻った。
集合場所に帰ると、学院長が先生方に囲まれてめっちゃ怒られていた。
王国学院って大丈夫?
前期の成績が発表された。
俺?
勿論抜群、座学は。
だって小学生レベルの数学が200点満点で他は100点満点だから。
実技?
近接戦闘が100点。
200点満点だけど。
なんと竜騎士科の11位。
どうや。
上でも下でもなかなか1位にはなれないのだ。
最初のおっぱい事件で蹴り飛ばされたのがトラウマになったのかその後は胸を気にしすぎて4人の女子に全敗。
小さいときから訓練しているマテやボロに勝てる筈無いし、男子には2勝5敗。とほほ。
身体強化無しの素の格闘では体格差が大きすぎた。
儀礼は26点。もちろん200点満点で。
でも学院は凄く優しいので、80点以下の生徒には試験休みの間に個人練習してくれるらしい。
特に80点以下は普通科150人を含めても俺だけだったので週5日午前2時間午後2時間のフルタイムで教えてくれるらしい。とほほ。
後期は絶対大丈夫。シロが“ガンバル”って言ってくれたから。
というわけで2週間の試験休みが吹っ飛んだ俺。
特訓の成果で敬語が使えるようになりました、シロが。
フォークとナイフが上品に使えるようになりました、シロが。
貴族式の挨拶が出来るようになりました、シロが。
後期の試験はばっちりだと思う、たぶん。
「大変だったな。」
「うん。」
「レオノコセイダカラシカタナイ。」
「シロは優しいね。」
「レオモヤサシイ。キゾクガキライナダケ。」
「まああれだけ付き纏われたらそうなるよな。」
王都に来てからは、俺とシロに護衛という名の見世物行進をさせようと毎日大勢の執事達がギルドに指名依頼を持って押しかけている。
ギルドが断ると、学院長に直談判したり、俺の通りそうな所で待ち伏せしていた者もいた。
何度か揉めたので自然と貴族風に敬語を使って丁寧に話すこと自体に嫌悪感が湧いていた。
「レオハシロガマモル。」
「ああ、シロは賢いし強いからな。おっと先生が来た」
「遅れてすまん。校外実習の依頼を貰いに行ったら西の草原付近で商隊がブルーウルフの群れに襲われたらしい。冒険者達が向かっているので群れを見つけて冒険者を先導してやってくれ。緊急発進の許可を取ったからすぐに行くぞ。」
「キュルル!」
全員が騎乗して発進した。
街道を西に進むと冒険者達が乗った馬車が6台、街道を全速で疾走している。
「キュル」
竜の編隊が大きく広がった。
「俺たちが見つけるから俺たちを追いかけてこい!」
後ろで担任が冒険者達の馬車に向かって大声で叫んでいる。
編隊が大きく隊形を変える。
群れを逃がさないように包み込んでいる?
「ウン。」
どうやら群れを脅しながら森から追い出し、冒険者達の方向に誘導しているらしい。
冒険者達が馬車を降りて戦闘隊形を取っているが50人ほど。
草原に出てきた群れを見るとちょっと数が多すぎる。オオカミは200頭を超えている。
「キュルル!」
竜騎士達の魔法攻撃が始まった。
オオカミの群れをコントロールしながら外側を攻撃して数を減らしている。
俺も外側のオオカミにアイスランスを連発する。
群れの先頭が冒険者達とぶつかった。
「キュルル」
冒険者から逃げようとするオオカミを竜騎士が倒していく。
ひと際大きいオオカミがいる。
アイスランスを前足で弾いた。
奇麗な毛並みの巨大なオオカミ。
革が高く売れそうだ。
シロが高速で突っ込んでいく。
ボスオオカミが正面から迎え撃つ構え。
オオカミが後ろ脚を曲げてシロにジャンプする瞬間、俺のライフル弾が眉間を貫いた。
「よくやった。」
「ガンバッタ。」
首をワシワシしてやる。
オオカミの群れに統制がなくなり、竜騎士と冒険者によって次々と倒されていく。
俺は着地してボスオオカミを収納してから再び空に戻った。
既に戦闘は殆ど終わっている。
「キュルル」
竜達が広がって狩り残しが無いかを確認している。
やがて竜達が集まった。
冒険者の傍に着地した。
「王立学院です。周囲にもオオカミはおりません。」
担任が冒険者に報告した。
「助かりました。目撃情報では20頭なのに来てみれば200頭では洒落にもなりません。学院の皆さんには心から感謝します。レオ、ボスオオカミは一応ギルドに提出してくれ。」
こっそり収納したのに、しっかり見られていた。
学年末が近づいて学院内がピリピリしている。
特に普通科の6年生は最後となる感応の儀式が控えている。
朋輩のいない貴族の嫡男にとっては家を継げるかどうかの瀬戸際。
8歳、12歳、16歳と年齢が高くなるほど感応できる人数が減っていく。
8歳の初等科生と寄付金による参加者も含めて約400名。感応出来るのは毎年10人前後。
学院から参加できるのは成績上位の2年生100人、6年生50人。
16歳で感応出来るのは毎年1人か2人。
限りなく狭き門。
竜は悪心を持つ者とは決して朋友とはならない。
それだけに竜騎士は信用されるし、重用もされる。
普通科生徒の緊張感が学院全体に広がっていつもの穏やかさが失われている。
竜騎士科でも兄弟が参加する者はまだ1か月近くあるのに表情が硬くなっている。
「レオは気楽でいいな。」
妹が儀式に参加するマテが羨ましそうに言う。
「キラクジャナイ。ギレイノシケンガアル。」
「うん。」
80点以上取らないと地獄の補習が待っている。
「頑張れシロ!」
「ウン。」
「はぁ。」
マテが呆れたようにため息をついた。
学年末成績が発表された。
俺の儀礼の点数は91点。
なぜか俺だけ但し書きが付いている。
シロ85点、レオ6点。合計91点。
なんのこっちゃ。
シロありがとう。
思い切り首をワシャワシャする。
「ガンバッタ。」
うん、今日は好きなものを食べさせてあげる。何が良い?
「クシヤキ、オークシチュー、シロパン、カジツスイ。」
よし、行こう。
俺達は屋台へと発進した。




