生徒会長の苦悩!~幼馴染生徒会長が毎回俺を頼ってきて心配なんだが~
4月某日、桜も満開を迎えた週末の昼下がり。俺、世界晴翔は寮の自室で寝転がりながら漫画を読んでいた。
「いやーやっぱこのカップリング尊いっすわ~」
やはりき〇らはレベルの高い合格点を超える百合をオルウェイズ出してくれる。本当に有意義な時間を演出してくれる。
「おらは幸せもんだあ~」
その後徐々に俺は目を閉じ、来るべき睡魔に身を捧げ、至高のダメ人間ライフへと…………
「ハルちゃん! ハルちゃ~ん!」
なんだか寮の廊下がバタバタし始めた、聞き慣れた声と共に。
…………んー。なんだか嫌な予感…………そういやあいつって合鍵持ってたっけな…………。
そう思って間もなく、俺の部屋の扉は勝手に開錠、ばっと開け放たれた。ひとりの少女によって。
「ハルちゃん! 緊急事態! そんなところに寝転がらないで私の話を聞いてよ~」
「んん…………璃々奈、仮にも異性の部屋に無断で入るなよ。もし俺がその……いろいろ気まずいような状況になるかもしれないだろ?」
「なんかいろいろ省かれているけど、大体内容は分かるわよ! さすがにそんなエ……っ、ロ同人みたいな展開にはならないっての! てゆうかバリバリセクハラじゃん、そんな…………」
目の前に立つ、まるで別世界から来たような金髪碧眼(日本人だよ)美少女、王野璃々奈は俺によるセクハラ発言に対して頬を赤らめもじもじしていた。しかし、そんな姿も一瞬のもので、彼女はその長い髪を払うと、いつも通り(?)の冷静沈着な顔になり俺と向き合った。
「お前さ、合鍵渡したのって『いつでも入っていいんだゾ☆』って意味じゃねーんだからな。仮に命を狙われたりとかの時とかさ」
「だからそれに近いことなの、本当に! 私ったらもしかしたらオシマイカモ…………」
おいおい、もう表情が崩れてるぞ。困ったこまったって感じでうろたえていらっしゃる。まあ大事ってわけじゃなさそうだがピンチなのは間違いないかもしれない。
「お前さ、課題にわからないとこでもあるのか? ショージキ俺、そうゆうの得意じゃないからほかの人に聞けば」
「違うよ! これでも私、それなりに勉強できるほうだし課題は終わらせてあるから! 問題は、その、生徒会のこと」
「生徒会、ねえ」
こいつは俺の幼馴染で、地元からいっしょにこの都市に来たわけなのだが、どこで道を違えたのかこいつはいつの間にか文武両道、才色兼備な学校のマドンナにして生徒会長という、明らかな俺との格差を生み出しているわけで。でもそれ自体に問題はなく、別に疎遠になったりすることもなく、時々俺の部屋に上がり込んではゆったりしたりしているくらい仲がいい(別に俺らの間には何もないぞ、仲のいい幼馴染ってだけだ)。
しかし一点、こいつと俺の間には、なんつーかめんどくさい関係があってだな。単刀直入にいうと“敵同士”ってことだ。実は俺はかつてある部活に参加してたんだ。でもその部を璃々奈は、生徒会長という立場と、彼女自身が持つやっかいな“能力”とやらで強制廃部させた。だから元部員たちは未だに彼女に対して不信感を持っており、俺はその人たちに俺と璃々奈の関係について話せないままなんだ。表向きは“敵”なんだけど実は仲いい幼馴染なんです、なんて言ったら即炎上もんだからな。
「でも生徒会がどうしたっつーんだ。俺は関係者でもないし大仕事の始業式は終わっただろ?」
「いや、あれは完璧な原稿と私のメンタルによって軽々と超えたんだけどね」
そん時の原稿、8割俺が書いたんだけどね。
「あのね、そうゆうことではなくてね、その…………」
「私と一緒に! お、踊ってほしいの!」
…………は?
「踊るって? どうゆうことだよ!」
「その、実は来週末各校の生徒会の定期交流会があってね…………」
聞いたところによると、それは本当に大きなイベントで、この都市にある十四の高校の生徒会、計百人以上が参加する社交ダンスイベントらしい。ほかにも食事や軽い議論もあるそうなのだが、メインはそれみたいで結構本格的みたいだ。そしてダンスの相手は学校の生徒からそれぞれ一人選んで連れて行くみたいだが。
「なのに、私だけ相手いないの…………みんな色づきやがって!」
で、こいつだけ相手がいないっと…………。確かに今期の生徒会みんな顔いいし、成績もいいみたいだし何より生徒会役員だからな。彼女彼氏がいてもおかしくはない。勿論璃々奈も告られたなんて話はよく聞いたものだ。でも玉砕率100パーセント。そりゃ相手いないわな。
「そんなんなら、彼氏作っちゃえばいいじゃないか。お前ならむしろ寄ってこられるほうだろ?」
少し突き放すように言ってしまった。そんな自分の言動に少し後悔しつつも、璃々奈の顔色をうかがう。その顔はこわばっていて、そして放った言葉は少しの怒りを含んでいた。
「そうよ、でもそんなので人生初彼氏なんて嫌! そういうのはもっと大切にしたい。間に合わせでそんなことできない…………!」
俺と彼女の間に流れる微妙な空気。それを破るように俺は少しの勇気を持ち、静かに話す。
「ごめん、俺が無責任だった」
「…………ん、私も言い過ぎちゃったね」
……………………。
「あのね、だからぜひ長い付き合いのハルちゃんに」
「でもなあ…………」
正直やってあげたい気持だ。でも、少し踏み留まってしまう。
「でもさ、今回のことがみんなに知られたらって思うと、少しまずいんじゃないか?」
仮にも俺ら学校じゃ“敵”認識なわけだし。
「でも…………大丈夫じゃない? 役員のみんなもあの事は覚えてないと思うし、ダンスパーティーも大勢のうち一組ってくらいの認識だし」
確かに廃部を決定した“生徒総会”の時、役員たちは生徒たちと一緒に璃々奈の“精神操作”にかかっていて記憶がないわけだし、先生も今回は引率しないみたいだし、んーでもな…………
「どう? 行くの? 行かないの?」
うわあ、迫ってくるよこの生徒会長。同時にいい匂いと、なんていうかそのあのころと比べて明らかに成長したえーと、あ、ピザまんだ、ピザまん。それらにドキドキしてしまう俺。やべえ、このままじゃいくら幼馴染でも理性ってもんが…………。
「い、行くよ! 一緒に、い、行こう! 行きゃいいんだろ⁉」
ああ、ついOKしてしまった。なんか情けないというか、せめて男らしくビシッと言いたかったなあ。
「ほんと! よかったあ!」
その瞬間彼女の表情は曇りなき笑顔に満たされた。その表情に、なんだかかわいいなと感じつつ、選択は間違いなかったんだということの確信に至った安堵に、俺は満たされた。ちらりと横を見ると、窓の外に夕陽が沈んでいた。
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その後一週間、俺らは社交ダンスの練習をすることになったのだが。
「いち、にー、いち……っ、てああ!」
「またずれちゃった、思ったよりも難しいね、これ」
そりゃペア競技っていうのは息を合わせなきゃいけないからな。いくら十数年の付き合いの俺らでも一週間で仕上げるのは苦労することだろう。
「もー、こうなったら私の能力でハルちゃんを操って…………」
「ダメダメ! そんな感情のない操り人形みたいなダンス逆に怪しいよ!」
さすがにそれはいろいろおかしいだろう。社交ダンスっつうのは助け合うペアが一番の見どころなんだ。その一方がもう一方を操りながらやるダンスなんてありえないことだ。
「なら、もうちょっと練習しようよ、時間あるし」
時計は夜7時を示している。確かに門限まではもう少しあるが。
「今日は疲れたし帰ろうよ。それに」
「それに?」
「なんでもない」
いや本当はずっと密着したり手つないだりでドキドキしっぱなしなんです! となんてさすがには言えなかった。
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その日の夜、一人ベッドの上。俺は今日の練習の事を考えていた。
「残り3日…………間に合うかな」
この間に人に見せられるまでには成長しなきゃいけない。なかなかのハードルだ。
「それに…………」
今日ずっと、心臓がビートを刻み続けていた。このままあと3日持つのだろうか、いまにも爆発しそうだった。てことは…………
「なんだかんだ意識しているのかな、アイツの事」
とっさに自分の身体が熱くなっているのを感じる。こんな気持ち久しぶりだ。そう、確か7年前も…………いや、このことを思い出すのはやめよう。トラウマだからな。
「まあ、パーティーが終わったらまたいつも通りだし…………」
本当にそれでいいのだろうか、いやそれでいいのだ。こんな感情を持ってしまっては、俺たちの“目的”にも邪魔になってしまうだろう。
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そして迎えた交流会。俺と璃々奈はそれぞれ正装をして、桜浜市の南東に位置する会場にやってきた。
「緊張するね…………」
「そう、だな」
「大丈夫だよね、あんなに練習したし」
白いドレスを身にまとった璃々奈が、不安そうに上目遣いで覗き込んでくる。ほんとにドキドキしちまうっつーの! こちらの気も知らないで…………。
でもここ2日間で十分なレベルにはなったと思う。学生のダンスパーティーには十分なくらいに。
「じゃあ、開けるよ」
「ああ、うん、いいぞ」
その真っ白い手が扉を少しずつ開けていく。その先のホールで、俺たちが目にしたのは。
「「え?」」
優雅に社交ダンスを踊る、生徒たちの姿。いや、それ自体は何ら問題ないのだが。
その生徒たちは男同士だったり女同士だったり、いや中には男女ペアもいたりするのだが…………極めて少数だ。あれ? あれれれれれれ?
「……っ、えーっと」
横に立っている璃々奈の顔を恐る恐るのぞく。案の定困惑したような、でもだんだん青くなっていくような顔をしていらっしゃる。こんな感じでしばらく気まずくしていたら。
「あれ? 会長! こっち……っ、てあれ?」
「あっ…………四里鳥先輩…………」
向こうでこちらの様子を見て声をかけた少年、3年生の四里鳥水鳥先輩は、おやおやと少し微笑むと、連れの生徒(男)を待たせるような仕草をした後、こちらに向かってきた。
「いやーまさか会長に彼氏さんがいるなんて、ね」
「いや、これは、その」
彼の質問に対し明らかに焦る璃々奈。多分俺も似たような反応だろうなあ、と震える手を自分で抑える。
「いや、あの璃々奈はただの友達で…………」
俺も必死に弁解する。友達って言ってしまえば、ワンチャンあるかも。
「あはは、そんな冗談を」
水鳥先輩はこちらの様子をみて笑顔になると、ほかのペアたちのほうを見て、とどめの一言を放った。
「無理しないでいいですよ、ここの男女ペアみんなカップルみたいですし」
「あっ…………」
「その! 俺らは」
ふと璃々奈を見ると彼女は目を白黒させながら、その真っ赤な顔を俺の正面に持ってきた! そして念じるようなしぐさを取り、その黒い目を赤くする。あっ、まずい…………。
「もう! こうなったらあ!」
「やめろ! やめっ……っ」
それがこの会で、俺が放った最後の一言だった。
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ん…………。ここは、俺の部屋?
次に目ざめたとき、俺は自室のベッドの上だった。窓を見るともう夕焼けだ、パーティーは午前中からなのに。
「うーん」
「あっ、起きた! ハルちゃん!」
声と共にがくがく揺さぶられる俺。首を横にすると、揺さぶっている張本人、ベッドに腰掛ける璃々奈の顔をとらえた。
「璃々奈、もう大丈夫だから……っ、やめろ、吐く」
「わっごめん、私ったら」
アワアワする彼女に対して、だんだん意識が覚醒していった俺はあの時起きたことを確認することにした。
「お前、俺を操っただろ?」
「うん、ごめんね。パニックになってて…………」
どうやら彼女は俺を能力で操りそのまま踊り、ここに来るまでそのままにしていたそうだ。つまり軽く半日操られていたってわけ。道理で記憶がないわけだ。
「ごめんね、こんなことするはずじゃなかったの。なのに気が付いたら…………約束したのに」
璃々奈はその目に涙を浮かべる。そう、俺たちはこの都市に入るときに一つの約束をしたんだ。
俺だけは絶対に操らないっていう約束を。
「ハルちゃんには正直にいたかった。なのに」
「泣くな、璃々奈」
俺は泣き始めた璃々奈の頭に手を置き、なだめる。
「今回はさ、ノーカンってことにしよう」
「ノーカン?」
「俺のためにしてくれたんだろ? お互いテンパってダンスすることにならないようにさ」
「っ!」
実際あのままダンスしていたら、きっと悲惨なことになっていただろう。それこそあの場で目立つほどに。そんなことになったら今週の練習が無駄になるばかりか、外部でも話題になってしまう。
「ありがとうな、璃々奈」
「は……っ、うん、うん……っ」
泣きながら頭を撫でられる璃々奈。きっと会長になってから多くの重責の中、こんなぬくもりを求めていたのだろう。
そのまましばらく頭を撫で、俺たちは別れた。
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翌日、月曜日の学校にて。クラスは一つの話題について盛り上がっていた。
「璃々奈さんに彼氏が⁉」
「え? そうなの? 王野さんに⁉」
「そうそう、生徒会のみんなが見たって言ってた!」
「えー、どんな人なんだろう、一目見てみたいわ」
「でも、この学年クラスが多いわ生徒会役員のいるクラスは遠くてこちらと面識ないわでなかなか探れないのよ」
「ちぇ、俺も見てみたいぜ、ちょっとショックだけどさ」
「俺だったら殴り飛ばしてやりたいぜよ! そんな奴」
わーわーわーわー困ったもんだ。これだから噂っつーのは怖いなあ…………なるべく璃々奈以外の役員には会わないでおこうっと。
俺は朝から憂鬱な気持ちになりながら、ノートを開く。片手に参加特典のシャーペンと、かすかに残っている璃々奈の温かみを握りながら。
こちらの作品は連載中の小説、「いっつ!パーフェクト・ワールド!!」の前日談の一つです。
なるべく未読の方にもわかるように本編との関係が薄い話になっています。
本編では二人のあんなこんなが…………?
面白かったらぜひ本編のほうもよろしくお願いします。
作者のページから多分本編に飛べると思います。
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