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6.


「よく寝たぁ」


 寝起きにぐんっと腕を伸ばすと気持ちが良い。実際、深く眠れたのか目覚めは悪くない。


コンコン


「今日は休みなのに早朝に何だろう?」


 食材の搬入以外はあまり近所付き合いもないので住居エリアの扉がノックされる事は皆無なんだけど。


コンコンコンコン! 


「はーい!」


 疑問に思っている間にもノックの音が徐々に強くなってきたので仕方なく覗き穴から外を見ると、どうやら、数人いるらしい。


「え、なんか怖いんだけど」


いや、正確には怖さの部類が違う。小さな穴からは厳つい、悪そうな方々ではなく、凄い豪邸などに住んでいる方々に仕えるような、綺麗かつキビキビッとしたお嬢様方が見えたのだ。


「どちら様でしょうか?」

「城からの使いです」


 最近、選択肢がない場面に多々遭遇するように感じるのは気のせいだろうかと思いながら渋々ドアを開けた。


「はぁ」


 嫌な予感は大当たりだった。私は、綺麗なお嬢様方にこれまた華麗なドレスを着せてもらい馬車のような乗り物に乗せられている現在。


「着きました」


 店兼住居から近いのに馬車なんて要らないですよと思っていたけれど、城の中が広いという事をすっかり忘れていた。


「どうぞ」


 扉が開き転げ落ちないように、慎重に足を出すと、目の前に白い手袋に包まれた手が差し出されて、その手をたどると黒髪のオールバックに青い目の騎士様がいた。


「ありがとうございます」


 断るのはマナー違反だと流石に察し手をそっと乗せれば、スマートとしか言いようのない動きで着地させられた。その目が私を見下ろし、フッと笑った。


「此方でございます」


 前を歩く騎士さんの背を見つめていたら、あっと言う間に豪華な扉の前に来ていた。


「ありがとうございます」


 さっきから同じ言葉しか発してないなと思いつつ、かといって世間話をする雰囲気ではないのよねと開かれる扉に足を踏み入れた。


「朝早くからごめんね」


 そこにはきらきら君がゆったりと座っていた。


「いえ。えっとルカ様では不敬ですよね。殿下で良いんですか?」

「あ、気づいていたの? ちなみにいつから?」

「提案された日の夜です」

「結構前じゃないか」


 初めて店に来店した時から、なんか誰かに似ているとは思っていたけど、ヴァンリーフさんが呼び方に詰まったのも決め手だった。


「とても似ていますよ」

「良く言われるよ」


 明るい金髪の色といい、綺麗な瞳といい、母親にそっくりだもの。


 実は、彼のお母さんである王妃様にはこの世界に来たばかりの頃、かなりお世話になった。


 いや、一般人の私からしてみればドキドキだったが、意外にもフランクでサバサバした方なのもあり、今でも時々こっそりお手紙のやりとりをしている。


「体調はどう?」

「普通に元気です。あの、呼ばれた件についてですが、何をお話しすれば良いのでしょうか?」


 順序立てが苦手な私が上手く話しきれるだろうか。


「既にだいたいは聞いているんだけど、料理長とその夫の処罰についてだよ。一番の被害者は君だからね。どうしたいか聞いてみようかなと思ってね」


 いやいや、私が決めるモノではないでしょうに。


「彼女には、私のレシピって言っても分からないか。料理の作り方を教えて、是非城内の食堂で騎士団の方々に召し上がって頂けたらと思います。ついでに旦那さんも調理補助で入られてもよいかもしれませんね」


 奥さんにベタ惚れのちょっといや、かなり先走りな彼は目が届く場所のが安全な気がするのよね。


「どうかしましたか?」


 尋ねられたから答えたのに、王子様と後ろの騎士の様子がおかしい。


「彼らの罪を問わないという事かな?」


 珍獣を見るような目つきはやめてもらいたいな。


「幸い怪我はしなかったので。ただ、旦那さんは奥さんの事になると暴走する可能性は高いですよね。他者に被害が及ばないように魔法や暴力行為を抑制させる魔法具などあったら持たせて欲しいですね」


 箍が外れたら、人殺しなんて簡単にこなしそうなので被害は出したくない。


「そうか。話が変わるけど、護衛をつけてこの失態はお詫びしたい。それで改めて提案なんだけど、この際ヴァンを伴侶にどう?」


 彼は、背後に立つ微動だにしない騎士を親指で指さした。


「それは、命令でしょうか?」


 絶対的な縦社会にして王族の子供からの言葉はなかなかに重い。


此方も、もう一つ問いたいな。


「ちなみに、そちらの騎士様とは今日が初対面ですが」


此方が一般市民だからって黙っていると思うなよ?




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