3.
「はぁ、そういう流れからのお話だったんですね」
吹き出した珈琲の後始末をしながらルカ様とやらの話に仕方なく耳を傾ける。
「まだ確証もないし、可能性と言う段階でね」
きらきら騎士、ルカ様によると謀反までいかないが王家に反発するグループが各々の息子や娘を使い連絡を取り合ってるらしい。
その場所がウチの店だって。
「そうだとしても顔見知りの騎士様がウチで働いたら警戒されるのではないでしょうか?」
逆効果よね。一般市民でもわかるわよ。
「もう、飯屋は辞めてスイーツにするか。はたまた面倒だけど場所を変え」
「却下」
「それは困る」
何故か騎士様二人は慌てだし、ヴァンと呼ばれていた人はなんとなく悲しそうな顔をしている。
いや、そもそも繁盛しすぎな上に面倒な話をされてると正直、ない意欲が更になくなっていくのよ。
「とりあえず、どう見ても人が足りてなさそうだしさ。表情は、こんなだけど用心棒としては最適だよ。しかもタダ!」
お金がかからないのは魅力的だけど、一緒に騎士様と働くの? 分野違いもいいとこよね。
「──拒否権なんて最初から私にはないのでしょう?」
此方に来て約9ヶ月。貴族制度はないものの、何処の家門のご子息やご令嬢など家柄が重視される国なのは理解している。
そんな世界で私は、異世界人のレアキャラであり冷遇されるどころか優遇されているのは、かなり幸運なんだという事も。
「ごめんね?」
キラキラ騎士様の言葉とは裏腹になんだか楽しそうなのが気になるが、現在の私では権力者に逆らう程の力は持ち合わせていない。
「わかりました。明日からよろしくお願い致します。えっと」「ヴァンリーフだよ。こき使って構わないからね。あ、悪いけど戻らないと。ご馳走さま」
チリン
「え、ありがとうございました!」
きらきら君の仕切る早さは普通じゃないし、どっかで見たような顔なのよね。
「あの、ナオコ様とお呼びしてもよろしいですか?」
名前まで把握しているという事は、やはり此方の素性は知っているのね。
「ナオと呼んでもらえますか?」
私は、自分の名前の子が嫌いなのだ。
母よ、何故子を付けたのか。
菜緒とか奈央がよかった。そんな私としてはコンプレックスがあるので元の世界にいた時から子を省いている。
「ナオ様」
硬い。まぁ、今日初めて会話をしたのだから仕方がないか。徐々に慣れるだろう。
「あ、私はなんとお呼びすればよいですか?」
潜入調査なら名前で呼ばないほうが良いよね。
「ナオ様が決めてください」
「え、私が?」
コクリと真面目な顔で頷かれ困惑する。
「では、レインさんではどうですか?」
あ、黙っちゃった。嫌かな。名前つけるの苦手なんだよなぁ。そういえば、私が拾った猫の名前も結局弟がつけたのよね。
「いえ、ありがとうございます」
あ、笑った。
蒼い目が少し細まっている。なんか可愛いかもって、失礼か。
「いや、邪なのはないし!」
「邪?」
「こっちの話です!えっと、では今後の話を始めましょう!」
……なんかわくわくしている自分がいる?
いや、きっと気のせいだ。
私は、のんびりだらりん生きていくんだから。