2.
「あ、ごめん、Bセット二つ用意できるかな?」
「少しお待たせしてしまうかもしれませんが、それでも大丈夫でしょうか?」
チリン
「で…ルカ様」
「うん、問題ないよ。早いねヴァン」
そして、この二人目の方もルカ様と呼ばれた騎士よりもキラキラオーラは半減するが、その分威圧感がある騎士様も出現頻度が高い。
「いらっしゃいませ。少々お待ち下さい」
ダラダラしてないで早く閉めればよかったと後悔しながらも火を軽く入れ直し手早く用意してテーブルにトレイごと置き話しかけられたくないので早々に立ち去る。
「さて、片付けるか」
今度こそ扉に閉店の木の札をひっかけ厨房の後片付けに着手していると。
「から!」
「…だ。声が」
他者に関わる余裕も、そもそも関わりたくないので食事を出し鍋を磨いていたら、小さく言い合う声が聞こえてきた。
そういえば、いつもより滞在時間が長いような。
騎士達は基本、食べるのが早い。回転率を上げるのには効率が良く助かるけど、私は忙しくしたくないので、ゆっくり食べたまえと強く言いたいが、お客にそんな発言なんてできるわけもなく風のように去りまた現れる彼らにひたすら昼食を出す毎日だ。
「しょうがないなぁ」
私は、後から思えば魔が差したというしか言いようのない行動をしたのだ。
「試作ですけど、よかったら。他のお客さんには内緒ですよ」
バラすなよと念をおしながら昨夜作っておいたプリンと珈琲を彼らの前に置けば、二人共ピタリと話を止めた。
よしよし。若者よ、熱くなるのもよいが、甘い物でも食べてクールダウンしたまえ。
「えへへ、私も食べよ」
どうせまた食器が出るのであら方片付けた私も客側から見えない位置に丸椅子を置き、黄色がかった表面に匙をいれた。
「うん、久しぶりに作ったわりには良い感じ」
牛もどきのミルクは、少し癖があるのでバニラビーンズもどきを多めに入れたんだけど、どうやら正解だったようだ。
「うむ、カラメルが火にかけ過ぎたか」
苦味が強く出ているので修正だな。
「あの、お姉さん」
食べながら改善点など走り書きをしていれば、騎士さんがカウンター越しに身を乗り出し手招きしていた。
いや、おねーさんって私?
正直、おばちゃんやおばさんって呼ばれるより嬉しいです。
「はい、あ、珈琲のおかわりですか?」
挽いてはあるけど、時間かかるんだよね。
「いや、話があって。もう店は閉めているんだよね? ちょっと良いかな?」
え、怖いんだけど!
良いかなとか言ってるけど拒否権なさそうじゃない?
「飲みながら話そう」
あれよと言う間にテーブルに座らされ飲みかけの珈琲を片手に持つ私。
何だろう。何かしたかな。特に禁止されている食材も使用してないはずだし、飲食の許可証は申請している。
「あ、監査じゃないよ? 最近、このお店が騎士の間で美味くて安いって評判でさ。実際来てとても美味しくてね」
ん、褒められてる? 怒られる話ではないのかしら。
「このお菓子も凄く美味しかったよ」
「ありがとうございます」
美味しいと言われるのは、とても嬉しい。
「でも、一人で切り盛りするのキツくない?」
「そうなんですよねぇ。こんな繁盛する予定じゃなかったのに! ダラダラ…いえ、ゆっくり働くはずが、おかしい事態になってます…」
「フッ」
うんうん頷いていたら小さく吹き出す声がして。声の元はなんと、無愛想な騎士様からである。
「何か?」
「いや…失礼した」
騎士様に喧嘩ごしな態度はよろしくないって頭では理解しているけど、本気で悩みなのよ。鍛えまくっている若い君達とは違うのよ!
このままだと本当に過労死してしまいそうなんだからっ!
「そこで提案なんだけど、暫くコイツ貸すから使ってよ」
「ブフッ?!」
「は?!」
珈琲を吹き出す私と威圧感の騎士様が声を上げたのは同時だった。