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虚構の勇者  作者: かに
第三章:冒険者ギルドと大森林
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3-17:消息

依頼を受けた1週間後には、二人は星3にランクアップしていた。


もともと、オクトたちの手元には、すでにかなりの範囲の大森林の詳細な地図ができていた。特に、クエストで作成が指定されていた、深緑の湖までの範囲は、ほとんど探索済みだったので、作成した地図に間違いがないかを確認するだけですんだ。


ホムトフから湖までは、他の冒険者なら早くても2,3日はかかる。しかし、オクトの転送魔法スキルとミリーの森歩き駆使することで、二人は1時間もかからず湖に到達できる。それに、湖の周囲にもいくつか転送できる拠点を設置していた。これらを駆使することで、すんなりと確認作業は終了した。


作業は、実際には3日ほどで終わってしまっていた。しかし、さすがに往復で4,5日かかる場所まで行く必要のある作業を、3日で戻って来ると怪しまれる。そこで、残り2日ほどは次のクエストの地図作りの準備をし、さらに残った1日は湖畔でのんびり過ごした。


一応、星5連中が横やりを入れてくることも想定して、隠蔽や偽装のスキルを駆使しつつ、探索スキルで周囲の警戒をしていた。しかし、オクトの警戒網に彼らが入ることはなかった。結局、何事もなく作業は無事終了した。


そうして1週間たったところで、転送魔法スキルを使ってホムトフまで戻ってきた。


わずか1週間で戻ってきた二人を見て、さすがのラフィーナも驚いたようだ。しかし、すぐに笑顔になって彼らを迎えた。


「早く戻ってくるとは思っていましたけど、こんなに早いとは思っていませんでした。さすがですね。」


納品した地図は、エレナたちが内容を確認するということで、2,3日ほどかかるとラフィーナが言った。しかし、オクトたちが戻ったという連絡をうけたソラルが、領都から何人もの文官を引きつれてやってきて、1時間もしないうちに確認は終わった。


「素晴らしい地図です。予想以上でした。」


ソラルは、机の上に広げられた数枚の地図を見ながら言った。


「クエストは成功ということでしょうか?」


オクトは念のため尋ねる。


「もちろんです。次のクエストもよろしくお願いします。私は、すぐに領都に戻って伯爵様にご報告しなければなりません。」


「承りました。」


ソラルたちは、大量に抱えてきた古い地図や書類の束を片付け、オクト達の作った地図を頑丈な箱の中に入れると、ラフィーナに「あとの処理はお願いします。」とだけ言い残して、すぐにギルドから出ていった。よほど急いでいるらしい。


「おめでとうございます。星3へのランクアップの処理は完了しました。こちらがギルドカードになります。」


ラフィーナは、二人に更新されたギルドカードを渡した。カードに記された星の数が3つになっている。


「・・・すごいです。星が3つです。こんな私が、本当に星3つなんでしょうか。」


両手でカードを掴んでいるミリーが、信じられないというように呟く。


「本当ですよ。ミリーさん。」


ラフィーナが優しく言うと、ミリーをカードを見つめて微笑んだ。よほど嬉しいらしい。


・・・まあ、前回のランクアップはアレだったからな。


星2へのランクアップのときは、彼女の実力でクリアしたとは言い難い状態だったこともあり、ミリーも複雑な表情でカードを見つめていた。しかし、今回は紛う方なく自分の力で得たランクアップだ。いつも控えめな彼女ではあるが、今回は少なからず実感があるのだろう。


「でも、すぐまたお二人のランクアップの作業をしないといけないんですよね、きっと」


「ははは・・・、そうなるといいのですが。」


ラフィーナにジト目で見られ、オクトは頭を掻いた。


「こちらが、次のクエストのボードになります。ご確認ください。」


オクトとミリーはラフィーナからボードを受け取り、内容を確認する。以前にも確認はしているが、念のためだ。とはいえ、ラフィーナは注意深く、彼らに不利がないように注意して作成してくれていることもあり、オクトが何か注文をつける必要性は見当たらなかった。


「大丈夫です。これでお引き受けします。」


「ではよろしくお願いします。期限まではまだかなり時間がありますし、しばらくはゆっくりできますね」


ラフィーナはそういいながら、オクトとミリーの顔を交互に見る。


「いえ、さっそく明日から始めます。」


オクトは、二人分のクエストボードをしまいながらそう答えた。


「あら、休みなしですか?それは大変ですね。」


「早く星4にランクアップして、自由に使える建物が欲しいんですよ。」


ラフィーナに言われて、オクトはそう答える。休みなら昨日、湖畔でとりましたとは、さすがに答えられない。しかし、ラフィーナはさらに突っ込んできた。


「でも、1日くらいは休んでもいいと思いますよ。それに、オクトさんは良くても、ミリーさんはお疲れではないのでしょうか。」


「え!?わたしは疲れていません。よく寝ていますから!」


ミリーは突然話を振られ、慌ててそう答える。そして、そんな答え方でよかったのかな、という表情で、ラフィーナとオクトの顔を交互に見た。


最近は、ミリーもラフィーナに対しては、それなりにまともに会話ができるようになってきた。それでも、唐突に話を振られると、まだうまく対応できないようだ。


そんな、いつも通りのミリーの様子を見てか、ラフィーナは彼女は安心した顔をした。


「そうですか、それは余計なお世話でした。」


「いえ、心配していただいて、ありがとうございます。」


オクトがそう答えると、ラフィーナは休みについては、それ以上つっこんでこなかった。


実際、ミリーは元気に見えた。湖畔に臨時でつくった拠点で、半日近く寝ていたからだろう。それで、休息は十分にとれたようだ。ただ、頑張り屋の彼女が、そこまで寝ていることも珍しい。よほど疲れていたに違いない。さすがに急ぎすぎて、少し無理をさせたかなと、オクトも反省していた。


「さっそく明日から行かれるそうですが、どのあたりを探索されるのか、予定が決まっていたら教えていただけませんか。」


ラフィーナはそこで話題を変えてきた。


「予定ですか?そんなに決めている訳じゃないんですけど・・・」


オクトは言葉を濁す。言葉通り、明日から湖畔で地図作りを始めるつもりだったが、さすがにそう答えるわけにもいかない。普通なら、湖畔まで到着するのに、少なくとも2日はかかるからだ。


そんな質問をされると思って、オクトは答えを用意していなかった。


「またまた。オクトさんが予定を考えていないわけないじゃないですか。あなた方はいろいろすごいですけど、なんだか秘密が多いですよね。」


「え、そうですか?」


ラフィーナから「秘密が多い」と言われ、オクトは一瞬どきっとする。彼女は笑って言葉をつづけた。


「教えていただけないなら、耳よりの情報を仕入れたんですけど、私も教えてあげませんよ?」


「えええ!?」


今度は本当に驚いた。ラフィーナがそんな冗談めかしたことを言うところを、オクトはこれまでにあまり見たことが無い。今日の彼女は、いつもと少し違う感じがする。


「じゃあ教えますから、おおよそで構いませんので、探索する予定の場所を教えていただけませんか。」


二人の反応を見てラフィーナは満足したのか、再び事務的な口調に戻ってそう言った。よほど、オクトたちの予定を聞きたい理由があるらしい。


「うーん、本当にあんまり考えてないんですけど、だいたいでよければお教えします。」


「はい、それで十分です。」


彼女がそう答えるのを聞いて、オクトは手持ちの地図をテーブルの上に開いた。それは、大森林の大雑把な地図で、オクトがミリーと探索する場所の話をするときに使うものだ。


「明日から湖畔まで2日ほどかけ移動して、湖畔に拠点を作って探索の準備をします。拠点の位置はこのあたりを予定しています。」


オクトはそういいながら、深緑の湖のちょうど中央付近に南岸のあたりを指で指す。


「1日で湖畔まで行くんですか?普通なら2,3日はかかりますよ?」


ラフィーナが驚いたように言う。


・・・いや、実際には一瞬で到着するんだけどね。


「まあ、森歩きが得意なミリーがいますんで・・・。」


そう答えるわけにもいかず、オクトは曖昧に言葉を濁した。


「ミリーさん、分かってましたけど、本当にすごいですね。」


「そ、そんなことないです・・・」


ミリーはラフィーナに褒められ、返答に困って、もごもごと口ごもる。そんなミリーの様子を、ラフィーナは微笑ましいという様子で見つめてから、再びオクトに向き直った。


「それで、到着した後は、どこを探索されるんですか?」


「一週間ほどは西側、ついまりホムトフに近い側の南岸沿いを探索する予定です。」


ラフィーナに促され、オクトは自分の頭の中を整理しながら、どう答えるかを考える。そして、探索する予定をしている範囲を指でなぞった。


「湖畔を西へと移動しながら探索して、西の端までたどりついたら、そのままホムトフまで戻る予定です。その後は、また拠点まで移動してから、東側の探索のするつもりです。東側は範囲が少し広いので、10日ほどかかると思います。」


オクトはそうやって、探索計画についておおまかに話した。往復の移動にかかる時間は誤魔化してはいるが、ほぼ実際に予定している計画の通りに話したつもりだ。


ラフィーナは興味深そうに聞いていたが、オクトが話し終えると、すぐに口を開いた。


「オクトさんとミリーさんは、牙狼族の4人をご存じですよね?」


意外な人たちの話題が出て、オクトは少し驚いた。


「コレットさんや、ヴァレリーさんたちのことですか?」


「そうです。彼らが、近々、王都から戻って大森林の探索に加わるそうですよ。」


「そうなんですか!」


ラフィーナの言葉に、ミリーがオクトより早く反応した。


「ええ、領都のギルドから連絡がありました。今のお話を伺った感じでは、途中でホムトフに戻られる頃に合流できるかもしれませんよ。」


なるほど、ラフィーナの言う耳よりの情報というのは、このことだったのか。


「彼らにも地図作成クエストが出るということですか?」


「形としては、オクトさんたちと同じクエストを受けていただくことになる予定です。たあdし、実際の仕事は、牙狼族の方々と分担を自由に決めて進めていただいて構いません。」


「なるほど、そうでしたか。それは確かに耳よりな情報です。」


そう言いながらもオクトは考える。気心の知れた彼らと地図作りをすれば、楽に進められそうだ。彼らなら信用できるし、楽しく仕事もできそうだ。ミリーも喜ぶだろう。


でも、彼らの前ではオクトの「秘密の」スキルがいろいろ使いにくい。彼らには言っていない、転送、転位、鑑定、探索といったスキルを自由に使えなくなるのは、ちょっと困る気もする。


・・・どうしたものかな?


合流するにしても、まだ少し日はある。その時までにどうするか考えうよう。オクトはそんなことを思いつつ、ラフィーナには礼を言った。


「情報ありがとうございます。ホムトフに戻るのは十日後くらいだと思います。もし彼らが来たら、一応お伝えしてもらえますか。」


「わかりました。では、彼らが来たら、そう伝えておきますね。」


「はい、よろしくお願いします。」


ミリーは、すぐにでもヴァレリーたちと合流できると思って目を輝かせていたが、お預けとわかってがっくりと肩を落としていた。それを見たオクトが小声で「すぐに会えるよ」というと、少し元気が戻ったようだった。


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