3-4:強制イベントその壱
「セレスタンさん・・・」
ラフィーナは、非常に驚いたような顔でその長身の男を見た。
「え?」
オクトも驚いて男を見る。
「星5冒険者のセレスタンさんです。」
ラフィーナはそっとオクトに近寄ると、小声で囁くようにオクトに言った。
「星5・・・って、ほどんどいないという、高ランク冒険者の?」
オクトもラフィーナに小声で聞きかえす。
「はい、そうです。滅多に見かけない人なのですが、評判が、その、よくなくて・・・気をつけて下さい、オクトさん。」
ラフィーナにそう言われて、オクトは改めて金髪の男を見る。
セレスタンは、絵に描いたようなイケメン金髪の男で、腰には燦びやかな鞘のついた大きなロングソードを差している。重厚な白い鎧は、表面がピカピカと光っており、傷らしい傷がなく、戦った形跡が見られない。その華美な見た目は、まるで王宮の貴族のようで、本当に冒険者なのかと疑うほどだ。
一方、その背丈はオクトよりも顔ひとつ分は高く、体つきもしっかりしている。といっても、ムキムキ筋肉男という感じではなく、必要な筋肉はついてはいるが、スタイリッシュさは失なっていない。いわゆる、細マッチョというやつだ。
首には、いくつものチャラチャラとした、ネックレスのようなものがかかっている。そのいずれにも宝石がついており、彼が動くたびに無駄に光を反射して、キラキラと光を放っている。これも、明らかに実用的なものではない。いわゆる「お洒落装備」とでもいうものだろう。
オクトは彼を一目見て、嫌悪感とともに苦手意識を感じていた。あちらの世界では、こういう感じの「無駄に自分に自信がある」男どもに、いつも見下されていたからだ。
「すみません。俺たちは二人でパーティを組むので、他のパーティには入りません。」
オクトは内心渦巻く思いを抑え、努めて冷静にそう言った。
しかし、白い鎧の男はオクトを完全に無視して、笑顔でミリーに話しかける。
「僕と同じ金色の髪の、可愛いお嬢さん。君だよ君。杖を持ってるってことは、魔法が使えるのかな?」
「あの、その・・・」
ミリーは、全く知らない人物にいきなり話しかけられたことに困惑し、無意識にオクトの後ろに隠れようとした。
「おやおや、怖がらなくても大丈夫だよ。僕は、星5パーティ『エイグルブラン』のリーダー、セレスタンだ。よろしくね。」
そういうと、男は演技がかったように右手をゆっくりとミリーに差し出す。首からは、これ見よがしに、星5の銀色のギルドカードが、銀色の鎖付きで下げられている。
ミリーは、どう対応しらいいかわからないという表情でオクトを見た。オクトは、彼女とセレスタンと名乗った男の間にずいっと割り込む。
「彼女は俺とパーティを組むので、お断りします。」
オクトは再びそういったが、長身の男はオクトなど存在していないかのように、ミリーにさらに話しかけた。
「僕たちと一緒にクエストをクリアすれば、すぐにランクは星5になれるよ。ホムトフにはパーティ専用の家もあって、使い放題さ。装備も貸してあげる。どうだい?」
セレスタンと名乗った若い男はそう言うと、自身の金色の前髪を掻き上げ、ミリーに流し目を送った。ミリーが小さく身震いするのが見える。
・・・ダメだなこいつ。
オクトの中で、セレスタンに対する嫌悪感が増加するのを感じた。
「行くよ、ミリー」
そういうと、オクトはミリーを連れてギルドを出ようとした。
「待ちなよ。」
「きゃあ!?」
いきなり金髪男に腕を掴まれたミリーは、思わず声をあげた。オクトは反射的に男の手を掴む。
「手を放してください。」
金髪の男を睨みながら、オクトが静かに言う。ここまでされては、さすがにおとなしくはしていられない。
「なんだ、おまえ。僕はおまえに用はないんだ。どこかに行ってもらえるかな?」
セレスタンはぐっとオクトに近づくと、オクトを見下ろしながらそう言った。
いつのまにか、さきほどまでミリーに話しかけていた時のような、さわやかな笑顔はなくなっていた。こうやって近づかれると、セレスタンの体が思った以上に鍛えられており、がっちりした体躯をしていることが分かる。彼は、その体格差が与える威圧感を十分に理解して、わざとオクトに近づいたように見えた。
「彼女は俺の仲間です。あなたとは一緒にいきません。」
金髪男の威圧に怯むことなく、オクトは男を睨み返した。
「おいおい、僕は彼女に聞いてるんだけどねえ。勝手に答えないでくれるかな。君、一緒に来るよね?」
セレスタンは、わざとオクトには目線をあわせず、オクトの背後にいるミリーに目を向けながら言った。オクトはおもわず両手を握りしめる。
「すみません、私はオクトさんと一緒に行きます。」
オクトが動こうとした直前に、ミリーが口を開いた。その声は弱々しかったが、確固たる決意が感じられた。
「ふーん、そうかい。」
ミリーの明確な拒否をうけて、さすがの優男も少し方針を変える気になったようだ。
「じゃあ特別の特別に、こいつも一緒にパーティに入れてやってもいいよ。それならどうだい?」
セレスタンはそう言いながら、オクトに向かって頭上から指差すような仕草をした。
「断る。」
即答するオクト。
「オクトさんが行かないなら、行きません。」
間髪入れずに言葉を続けたミリーに、金髪の男の表情が僅かに変わる。オクトは、彼がまだ笑顔ではあるが、目はすでに笑っていないことに気がついた。
「へえ、僕の誘いを断るっていうんだ。それが、どういうことか分かっているのかい?」
「話を聞く必要はないよ。行こう。」
オクトはミリーに付いて来るように促して、二人でギルドから出ていこうとした。
しかし、扉から出ようとしたところで、唐突に短髪角刈りの大男が現れ、ギルドの入口に立ち塞がった。オクトはそれを避けようとしたが、大男は明からさまにオクトの進路を塞ぐように動く。その男の動きから、二人をギルドから出さないという、強い意思が感じられた。
「おい、こら、セレス、いつまで待たせるんだ?俺は腹が減ったっていっただろ。」
大男が怒鳴るようにそう言った。どうやら、金髪男の仲間らしい。ということは、この大男も星5の冒険者ということだろうか。
「ごめんよゴーチェ、この子が僕の誘いを断るっていうもんでね。お仕置きが必要かなって思ってたところなんだ。」
セレスタンは大男に向かって、溜息混じりにそう言う。その口調は、再び芝居がかった調子に戻っていた。ゴーチェと呼ばれた大男は、眉間に皺を寄せながらオクトを睨む。大男は明らかに機嫌が悪そうだ。
大男の体格は、オクトよりも二回りは大きいだろうか。金髪の男よりも、さらに顔半分くらいは背が高い。体格差がありすぎて、純粋な力勝負をしたら、到底勝てそうにないとオクトは思った。
ゴーチェは武器らしい武器を持っておらず、防具は胸当てと籠手、脛当てが別々の軽装タイプのもので、防御力よりも機動性を重視していることが伺われた。おそらく、格闘を得意とするタイプの冒険者だろう。
さらによく見ると、その大男の後ろに、頭からすっぽり黒いフードをかぶっている人物が立っていることに気がついた。背丈はオクトより少し高い程度だうか。体格もオクトと同程度のように見える。特筆すべき、表情のない白い面のようなものを顔につけていることだ。その面は、ニホンで言うところの「能面」に近いものだった。
「ほぅ、お前ら新入りか。じゃあ、俺たちのことも知らんねぇんだな。」
大男はぎろりとオクトを睨む。
周囲を見ると、いつのまにかクエストボードあたりにいた冒険者たちが、どこかに消えている。明らかに不穏な空気が、ギルド内に流れ始めていた。
・・・これが噂の、ギルドの強制イベントなのか!?
オクトは思わず肩を竦めた。




