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虚構の勇者  作者: かに
第一章:召喚勇者とエルフの少女
19/199

1-19:GEN-MAN

そんなこんなで、ミリエンヌのことは、今後ミリーと呼ぶことになった。


「じゃあ、俺はオクトと名乗ることにするよ。」


「え、名前を変えるんですか?」


唐突にオクトがそう告げたので、ミリーは驚いたようだ。


・・・まあ、いきなり名前を変えるといえば、驚くよな。


王都を出たときから考えていたことだったが、この際なのでエイトも自分の名乗る名前を変えることにした。西の勇者がエイトという名前だということは、王国の貴族の間では知られている。このままエイトと名乗り続けると、どこかで誰かに気が付かれるかもしれない。死んだことになっているエイトが生きていると知れると、何かと面倒の種になると思ったからだ。


とはいえ、彼女にどう説明したものかと、エイトは一瞬悩む。しかし、今後一緒にいるなら、自分の過去を隠し続けることも難しい。彼女には、正直に勇者を首になったという事情を話すことにした。


「実は、俺は異世界からこの世界に呼ばれてきた、勇者だったんだ。今朝、クビになったから、もう勇者じゃないんだけどね。」


「・・・えええ!?」


ミリーはエイトのその説明を聞いて、椅子から転げ落ちんばかりに驚いた。


「ごめん、隠すつもりは無かったんだけど、話すタイミングがなくて。」


そしてエイトは、半年ほど前に二ホンという国からこの世界に召喚されたこと、王国で『西の勇者』をやっていたこと、今朝がた勇者を首になったこと、そのあと襲撃を受け、どうにか難を逃れた後にミリーのいる地下牢に来たことを、順を追って話した。


ミリエンヌは、それをまるで夢の世界の話しであるかのように、やや呆然としながらその話を聞いていた。そして、エイトが話し終わると、彼女は小声で呟くように言った。


「エイトさん、別の世界から来られた、勇者様だったんですね・・・。」


「もうクビになったから、ただの人だよ。」


「そ、そんな訳には・・・。」


ミリエンヌは身を縮こまらせてエイトを見る。


・・・やっぱり、もっと早くに言っておくべきだった。


エイトは、ばつが悪そうに頭を掻く。勇者というのは、この世界では特別な存在なのだ。ミリエンヌの態度をみても、それはよくわかる。そんな重要なことは、やはり先に言うべきだった。それを聞いていれば、ミリエンヌが自分と一緒に行くといわなかったかもしれない。


向こうの世界にいたときも、合理性を追及するあまり、詳しい相談をする前に仕事を進めてしまい、同僚やお客さんにキレられることがしばしばあった。そのたびに後悔するのだが、何度やっても同じことを繰り返してしまう。これは、エイトが「根本的に他人を信用していない」ことが原因なので、そう容易に改善するようなことではなかった。


元の世界での苦い経験もあり、エイトはこちらの世界では勇者の地位と力を駆使して、できるだけ人に関わらないようにしてきた。それが故に悪い癖のことをすっかり忘れてしまい、久々にやってしまったようだ。


エイトは申し訳なさそうに言う。


「ごめん、やっぱり一緒に行くのは止めようか?誰かに追われてる元勇者とか、一緒にいたら危ないし、嫌だよね。」


「・・・何を言ってるんですかオクトさん。さっき、守ってくれるって言ったじゃないですか!」


エイトの予想に反し、ミリエンヌは間髪入れず、猛然と抗議してきた。その勢いに、エイトはたじたじになる。


「いや、でも、俺が勇者だったという事情を知らなかったわけだし・・・。」


「オクトさんが勇者様でも、そうじゃなくても、関係ないです!もう一緒に行くって決めましたから。」


その後しばらく、エイトとミリエンヌはああだ、こうだと言い合った。しかし、エイトが何を言っても彼女が全く「一緒に行かない」と言い出す素振りがないのを見て、次第にエイトの心が軽くなってくるのを感じていた。


「・・・わかったよ。約束したからな。一緒に行こう。」


「はい!お願いします!」


エイトが折れると、ミリエンヌはすっかり元の調子を取り戻したようで、ニコニコしながらそう言った。エイトは、ほっとしたような、それでいて自嘲とも取れるような、複雑な溜息をつく。


「それで、どうして『オクト』さん、なんですか?」


ミリーは不安がなくなったようで、明るい表情でそう聞いた。


「ああ、それは・・・」


オクトというのは、エイトが元の世界で名乗っていた、SNSでのユーザネームだ。数字の「8」という意味がある。エイトはミリエンヌにそう説明した。


「そうなんですね。わかりました。でも、間違ってエイトさんって言ってしまわないか、ちょっと心配です。」


そういうと、ミリエンヌは自信がなさそうに目を伏せた。


「それは大丈夫だ。そのためにNDAを結んだようなものだし。ちょっと手を出して。」


「はい?」


ミリエンヌは右手を前に出す。


「こんな感じで、軽く手をにぎって小指だけ伸ばして。」


エイトは右手を握って、小指だけを立てて見せる。


「こ、こうですか?」


彼女は慣れない動きで、見よう見まねで小指を立てる。


「そうだ。じゃあ、こうして・・・」


エイトは、自分も同じように小指だけ立てて、彼女の立てられた指に、自分の小指をかけた。


「え?」


「以後、俺の本当の名前は秘密情報とする。俺の名前はオクトと呼ぶこと。指切り、GEN-MAN!!」


「えええ?」


エイトの妙なテンションに、ミリエンヌは戸惑いを隠しきれない。


「ほら、指切りGEN-MAN!って言ってみて。」


そういうエイトの顔は、まるで小学生の男子のようだ。


「ええと、その・・・。」


「・・・ごめん、ちょっと悪乗りがすぎたね。」


ミリーに本気で引かれてしまい、エイトは思わず頭を掻いた。


・・・ダメだ、さっき反省したところだったじゃないか。


彼はひとつ咳払いをすると、真面目な面持ちで説明を始める。


「これはNDAの発動に必要な、ちょっとした儀式なんだ。変なことは起こらないから、指切りげんまんって言ってもらえるかな。」


「・・・は、はい。指切り、げんまん・・・。」


エイトに真面目にそういわれて、ミリーは言われた通りのセリフを口にする。


すると、二人の体がじわーっと同時に白く光る。そのあと、光はすぐ消えた。


「さて、これで大丈夫。俺の名前を読んでみて。」


「はい、オクトさん・・・あれ?」


ミリエンヌは、エイトさん、と言ったつもりだった。しかし、口から出た言葉は「オクト」だった。


「・・・どうなっているんですか、オクト、さん・・・!?」


エイトは満足げにうなずいた。


「これは、NDAの能力の一つなんだよ。NDAを結んでいる相手と、自分の秘密についての約束ができるんだ。」


「約束?」


「そう、例えば今みたいに、秘密だからしゃべらないで、と約束すれば、相手はその秘密をしゃべることができなくなる。わざとじゃなくて、うっかりでしゃべってしまいそうになるのも防げる。」


エイトは、戸惑うミリエンヌを面白そうに眺めながら言う。


「俺の名前を言おうとしても、まるで知らないかのように、言えなかっただろう?」


「はい、オクトさん。」


ミリエンヌがそう言うと、エイトは満足そうに頷く。


「それと、もうひとつ。秘密をしゃべりそうになったら、代わりに別の言葉をしゃべるようにすることもできるんだ。俺の秘密の名前をしゃべろうとすると、代わりにオクトと言ってしまうように。」


「・・・よくわかりませんが、本当のお名前を、うっかりでも言えないことは分かりました。」


彼女は、何度「エイトさん」と言おうとしても、どうしても「オクトさん」としか言えないことを小声で確認してからそう言った。


「NDAってすごいんですね。でも・・・」


「なんだ?」


「どうして、げんまん?なんですか?」


そう言われて、エイトは再び頭を掻いた。


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