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虚構の勇者  作者: かに
第七章:侯国と魔族
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7-3:スキルの残渣(下)

「ご説明するより、やってみたほうが早いですね。」


王女はそう言うと、その場で強化スキルを発動させた。


王女を中心として、淡い光が周囲に広がっていく。それとともに、自分の中に、大きな力が湧き上がるのを感じる。これはまさしく、いつも王女から受けている強化魔法スキルの力だ。


「エイト様、」


「はい?」


王女に不意に呼びかけられ、俺は慌てて振り向いた。


「わたしがスキルを止めたら、部屋の中を暗くしていただけますか。」


「は、はい、分かりました。」


そう答えると、王女はスキルの発動を止めた。俺は言われるがままに、窓から入る光をスキルを使って遮断する。またたくまに、部屋の中は真っ暗になった。


「お、おお!?」


その直後、ニコが驚きの声をあげた。彼は、自分の手を見ている。彼の手は、ぼんやりと青白く光っていた。


「ほう、実に興味深い。」


アン団長も自分の光る手を眺めている。だが、光っているのは彼女の手だけではなかった、顔も腕も脚も、露出している部分は、すべて淡い光を放っていた。


「スキルの効果が残っていると、こんなふうに、手や足が光るんです。でも、とても弱い光なので、暗い場所でなければ気が付きません。」


「なるほど。つまりパル姫は、暗い自室に戻ったときに、自分の体が光っていることにきがついた、というわけか。」


「その通りです。」


王女は、自分の光る手を見ながら頷いた。


「しかし、それが何故気になるのだ?あの時は、パル姫にわたしの転送魔法スキルを強化してもらうために、スキルを使ってもらっただろう。その影響ではないのか?」


「はい、わたしもその時はそう思いました。でも、体に残った光は、かなり強かったのです。光の強さは、体に残っているスキルの効果の強さを現しています。そして、スキルを使った時間が長ければ長いほど、スキルの効果が残る時間が長くなります。転送する間の一瞬だけスキルを使っただけなら、すぐにスキルの効果は消えるはずなのです。」


彼女がそう言っている間にも、俺たちの体の光は急速に薄れ、ついには完全に消えてしまった。


俺は光の遮断を解除する。窓から日光がさしこみ、部屋の中は再び明るくなった。


「つまり、転送魔法スキルを使う前に、もっと長い時間、パル姫はスキルを使っていたはずだと。」


アン団長が首をかしげる。


「はい。ですが・・・わたしは、あの砦でスキルを使った覚えがありません。あの後、何回も考えたのですが、光が残っていた理由が分からないのです。時間がたてばたつほど、それが気になってきて・・・」


「あ、でもよ。ダンジョンの中で追跡してるときにも、パルっちはスキル使ってなかったっけ?ユウシャの探索スキルを強化する・・・とかでさ。」


ニコが会話に口を挟んだ。彼はそう言いながらも、自分の手を見ている。何度も手の表裏をひっくりかえし、光が完全になくなったことを確認しているかのようだ。


「はい、確かにそのときにも使っていました。ですが、砦から帰ってきたのは、それから半日以上たってからのことです。そのように長い間、スキルの効果は続くはずが・・・」


王女はそこで言葉を切った。


部屋の中に静けさが漂う。


「ふうむ。パル姫の話は分かった。」


目を閉じて話を聞いていたアン団長が、呟くように言った。


「あの場所に、パル姫のスキルに影響を与える、何らかの秘密があるのかもしれんな。あの時は、下手人と証拠を持ち帰ることを優先して、十分に調べる前に帰ってきてしまったが、時期をみて詳しく調べたほうが良いかもしれん。」


彼女の言葉に、俺と王女は黙ってうなずく。


「なに、またあの砂っぽい所へ行くのか!」


その中で、ニコだけは明らかに嫌そうな顔をした。


「あそこには、嫌な記憶しかねえぞ。暑くて汗は出るわ、防具の中には砂が入ってくるわで、本当に最悪だったなぁ。戦ってもいねえのに、鎧は何故か傷だらけになったしな。それに、おっさんを捕まえるために、妙な役もやらされるしよう。」


「ふむ、そんなに嫌なら無理に行かなくても良いぞ。調査だけなら、わたしと少年だけでも事足りる。」


「そりゃぁ、ありがてぇ。俺は留守を守っておくからな。安心して行ってきてくれ。」


そういうと、ニコは安心したのか、再び菓子籠から焼き菓子をつまみあげた。


だが、そこでアン団長の目かキラリと光る。


「良いだろう。だが、代わりに資料の整理はしっかり頼むぞ。」


「は!?整理だと?この部屋のガラクタのことか?」


椅子に沈みかけたニコだったが、アン団長のその言葉で飛び起きる。


「ガラクタではない。貴重な研究資料だ。」


俺は、自分が座っている机の周囲を見回した。


大量に積み上げられた本、机に折り重なる何だかよくわからない標本の数々、床を埋め尽くす謎の石板や彫刻、棚に無造作に並べられた魔道具や、その破片。


正直、ここを整理しろと言われても、何をどうしていいのか俺には分からない。


「それにだ。テレーゼ王女や国王陛下への定時連絡、および貴族連中との会合への出席も任せたい。わたしがいつも出席しているものだ。槍使いであれば、朝飯前であろう?」


「おまえ、そんなことしてたのか・・・」


「何を言っている。王宮の連中への根回しは、我々の独立性を維持するために必要不可欠な『作業』だ。そのようなこと、王族であれば当然理解していて当然であろう。」


アン団長の言葉で、ニコの表情が青ざめていくのが、目に見えて分かった。気のせいか、パルディア王女の表情も固くなった気がする。


「・・・ええと、俺もやっぱり、一緒に行きたくなった。てか、是非行きたいです!!」


「行きましょう!」


どうやら、ニコだけでなく、王女までもが、砦探索に乗り気になったようだ。相変わらず、アン団長のやり方はエグい.。


当の彼女といえば、満足そうに紅茶のカップを口元へと運んでいる。


「ふむ、では時期を見て、探索に行くことにしよう。ターニャ殿も、それで良いか?」


「姫様が魔いるのであれば、拙者も当然、参るでござるよ。」


少々ひきつった表情をしている王女の後ろで、ターニャさんが静かに頷いた。


「では、決まりだな。」


アン団長の言葉に、ターニャさんは何も答えなかった。だが、彼女は珍しく、いつになく険しい表情をしていた。


「ニコ殿はともかく、姫様を巻き込むのは、辞めていただきたいでござるよ。」


彼女が小さくそう呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。ただ、それはとても小さな呟きだったので、アン団長に聞こえたかは、俺には分からない。


そうして、事件の話はそこで終わった。俺のもやもやは解決しなかったが、いずれ砦を探索しなおせば、手がかりが掴めるかもしれないという期待は残った。その時の俺はそれで満足し、事件の違和感については、以後しばらくは思い出すことは無かった。



・・・しかし、結局その「探索」の機会は訪れなかった。


王子が王都を去り、ピエールが囚人馬車で王都から連れ出された後、俺たちはアイドル並のスケジュールに謀殺されることになったからだ。


勇者パーティが事件を解決したということで、王国は正式に勇者を召喚したということを、国内外に発表した。そして、その発表の直後に、勇者、ならびに勇者パーティ披露のパレードが行われることが決まった。


パレード開催日までは、毎日のように貴族や国内の重要人物との面会が行われた。それこそ、寝ている時間以外は、食事の時間もふくめ、すべて面会の時間に当てられた。


貴賓との会話のほとんどは、アン団長が引き受けてくれたのだが、それでも勇者である俺が無言でいるわけにはいかなかった。ロゼッタさんから貴族との会話の作法を教わりながら、俺は毎日を何とか乗り切った。


パレードは、王都の中を馬車で練り歩くというものだった。勇者である俺は、豪華な鎧とマントを身にまとい、儀礼用にあしらわれた馬車にひとり乗せられた。沿道につめかけた、たくさんの人たちは、俺の姿を物珍しそうに眺めていた。


王女やニコたちは、すぐ後ろの馬車に乗り、同じように見世物にされていたが、俺よりもむしろ注目されていた気がする。聞いたところによれば、パルディア王女とニコ少年が、庶民の前で姿を見せるのは、これが初めてなのだそうだ。人々は、王族の姿を一目見ようと、高い建物の屋根にまで上って、俺たちのパレードを待ち構えていた。


パレードの馬車は、騎士団に囲まれたまま、王宮の正門から王都の中央にある広場までを往復した。その行程は、走れば10分とかからないほどの距離だったが、馬車が往復するのに、なんと3時間もかかった。


皮肉にも、俺が王都に出たのは、この日が初めてのことだった。貴族や王族ではない人たちを見るのも初めてだったし、街の中の建物の様子を見たのも、このときが初めてだった。最初のうちこそ、初めて目にするものばかりで、俺としても興味津々だったのだが、それも1時間もたてば退屈にかわった。3時間が経過し、ようやく王宮へと戻った時には、俺の目は完全に死んでいたに違いない。


さすがのアン団長も疲れたらしく、その日は彼女が交渉して、会食の予定をすべてキャンセルしてくれた。こういう時には、アン団長が本当にたよりになる。会食に無理矢理出席していれば、俺たちは翌日からしばらく寝込んでいたに違いない。


勇者の披露が終わった後は、王都南部に出没する魔物の討伐に頻繁に駆り出された。俺たちが討伐に出るまでは、南部の魔物討伐は騎士団が行っていた。しかし、魔物が出没する範囲が次第に広がっており、騎士団だけでは手一杯になりつつあった。そこで、事件を解決して手のあいた俺たちが、魔物の討伐に向かうことになった。


王国南部といえば、例のダンジョンがある場所でもある。魔物の討伐のついでに、事件の調査もできるだろうと、アン団長は考えていたようだ。だが、予想以上に魔物の数が多く、事件を調査している暇はなかった。俺たちは、王国から言われるがままに、南部の森や山、街や村を転戦して回った。


南部の山地は高低差が激しく、最初のうちは移動するだけでも大変だった。正直、魔物を倒すよりも、移動にずっと時間がかかっていた。ただ、アン団長と二人で転送陣を設置して回ったことで、次第に移動は楽になっていった。一か月もたつ頃は、俺たちはかなり自由に王国南部を移動できるようになっていた。


そうして、各地を転戦したことで、ずいぶんと実戦の経験が積めたし、こちらの世界の常識も学ぶことができた。ずっと王宮で生活していて、この世界のことを良く知らない俺にとっては、何もかもが新鮮に感じられた。


騎士団のレオポルド団長にも会うことができたのも、魔物討伐に出て良かったことの一つだ。


騎士団長は、噂通りの「超」のつくほどに実直な武人だった。王宮内のごちゃごちゃとした政局とは無縁の人物で、それに巻き込まれることを嫌ったこともあり、自ら南部の魔物討伐を志願したそうだ。


騎士団長との出会いは、ある意味で衝撃的ではあった。彼は、俺たちがとある南部の村に逗留していた時に、何の前触れもなくやってきた。


そのあと、なぜか俺と騎士団長で戦うことになったり、騎士団のチームと勇者パーティで摸擬戦をやることになったりと、いろいろなことはあったけど、俺は騎士団長とはうまくやっていけそうな気がした。王宮の外で彼と会うことができたのは、不幸(?)中の幸いかもしれない。


前話は間違って12時に投稿してますけど、

本章は基本18時投稿予定です・・・

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