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虚構の勇者  作者: かに
第六章:勇者パーティとダンジョン
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6-41:神殿と神官(中)

「その法衣、神官だな?それも、かなり高位の。」


「わたくしは、貴女あなたのおっしゃるような、大そうな者ではありません。主神の前では、どのような人間も平等なのです。」


「ふーん、なら神官は全員、同じ灰色の服jを着りゃいいのにな。わざわざ色を変えるってことは、区別したいってことじゃねえのかよ。」


ニコが槍を構えたまま、呟くように言う。


彼にしては、珍しく的を射たことを言った気がする。


しかし、法衣の女性はニコの言葉など、まるで聞こえないかのように、にこやかな表情のまま話をつづけた。


「失礼ながら、今度は皆様方のことを、わたくしに教えてはいただけませんでしょうか。お名前もご存じないままでは、わたくしも何をどのようにお話しすればよろしいのか分からず、戸惑いを隠しきれません。皆様方は、どのようなご用向きで、わたくしの神殿にお越しになられたのでしょう。」


女性のその言葉を聞いて、俺はアン団長に囁く。


「名乗っても大丈夫ですかね?」


王国が勇者を召喚したことは、表向きには公表されていない。勇者パーティも、対外的にはただの「冒険者パーティ」という扱いになっている。ただ、俺が召喚されてから、すでに二か月近くが経過したこともあり、王宮の外でも勇者が召喚されたことは、知られているそうだ。


しかし、すでにある程度バレているからと言って、自分から勇者だとバラしてよいかというのは、また別の問題という気がする。


アン団長は、一瞬考えるそぶりをみせたが、すぐに俺の問いに答えた。


「名乗らないわけにもいくまい。相手は高位の神官だ。偽ったところで、すぐに分かることだ。」


「分かりました。」


俺は剣をしまうと、一歩前に出た。法衣の女性の視線が、アン団長から俺に移る。


「申し遅れました。俺は、西の勇者、エイトと言うものです。ラヴレイス王国で起きた騒動の首謀者を追って、ここまで来ました。」


そして、自分の胸に右手をあてると、ゆっくりとお辞儀をした。


そのとき、視界の端に、驚いているニコの顔が見えた気がする。まるで、俺がまともな挨拶などできないと思っていたかのようだ。


・・・彼とは、あとで話をする必要があるな


「まあまあ、王国の勇者様のご一行でしたのね。お噂は伺っております。このような辺境にございますわたくしの神殿まで、遠路はるばるお越しになられますとは、さぞお疲れのことでしょう。このように急なご訪問でなければ、わたくしも歓待の用意を致しましたのに。」


「それには及ばん。我らも役目を果たすために、ここへ来たにすぎないのでな。」


俺がどうでもいいことを考えている間に、アン団長が会話をひきとった。


勇者パーティなのだから、本来は俺がしゃべるべきところなのだろうけど、俺にはこの世界の常識や、国と国との関係、宗教の知識が足りていない。だから、迂闊にしゃべればボロがでまくってしまう。


・・・決して、コミュニケーション能力が低いから、しゃべりたくないって訳じゃないよ??


「まあ、恐ろしい、そのような事があったとは、わたくし存じあげませんでした。王国の皆様方は、さぞご心痛のことでしょう。」


「我々は、魔物の手引きをした者を追ってここまで来たのだ。そして、この男を見つけた。こやつは王国の貴族の一人だが、王宮に魔物を招き入れた証拠が数多あまたある。さらに、この男の仲間とおぼしき連中が、この神殿を根城としていた。貴殿がこの神殿を管理していると言うのであれば、その連中が無関係とは考えにくい。」


俺の、さらにどうでもいい心の中の言い訳とは無関係に、アン団長と法衣の女性との対話・・・というより、駆け引きは進んでいた。


よく見ると、アン団長は少しずつ動いている。戦いになった場合に備えて、女性との間合いをとっているのだろうが、それだけでもなさそうだ。


「申し訳ございません。残念ながら、わたくしは何も知らないのです。管理区域の一部に穴が空いて、侵入された方々がいることを感知いたしました。そこで、何事かと急ぎこちらに参った次第なのです。」


テンペランティスと名乗った女性は、天井に空いた大穴に視線を送る。


大穴をあけた張本人のほうを見ると、彼は明後日の方向を向いていた。


「ここを根城にしていた連中は、この神殿で相当な期間、活動をしていたように思われる。そのように長い間、この神殿を放置されていたと?」


「はい。恥ずかしながら、貴女のおっしゃる通りです。わたしの管理の不行き届きにつきましては、心よりお詫び申し上げます。後ほど、王国には正式に謝罪の意を、お伝えしたく思います。」


そう言うと、法衣の神官は、深々とお辞儀をした。ただ、恥ずかしながらと言いながらも、まったく悪びれている様子はない。


「ですが、わたくしの管理区域というのは名ばかりで、三百年以上も前から、こちらの神殿の管理は実質的に王国がなされております。この度は、非常事態でしたので、こうして参りましたが、本来は王国の方々が管理されるべき神殿なのです。」


「そうなんだ?」


そこでニコが、露骨に驚いた顔をした。


「簡単に信じるな。」


アン団長が小声で呟く。


「王宮が魔物に襲われたとのこと、わたくしも大変心苦しく思います。ですが、この神殿の管理は、王国による行き届いていたとは、少々言い難い状態にあるようです。わたくしたちの主神も、さぞ心を痛めておられることでしょう。王国の皆さまも主神を敬い、神殿の管理を適切に行っていれば、あるいは凶事も防げたやもしれません。」


「ほう、我らが神殿をないがしろにしたから、神罰が下ったとでも?」


そこで、アン団長の動きがとまった。やはり、何か考えているようだ。


「いえいえ、そのようなことが、あるはずがございません。わたくしどもの主神は、地上のいかなる人間よりも、自制の心をお持ちなのです。主神がそのような些事に心を惑わされることなど、決してありません。ましてや、そのようなことを理由に凶事を起こされるなど、そのような考えを持つことこそが、主神に対する冒涜というものです。」


そう話しながら、テンペランティスと名乗った女性は、僅かばかり目を開けた。


「どう思うでござるか。」


ターニャさんが、アン団長に小声で言うのが聞こえる。


「おおかた、我らを言いくるめるための、屁理屈だな。」


アン団長が即答した。


「根拠はあるでござるか?」


「ない。ただの勘だ。」


「・・・ふむ。拙者も同感でござるよ。」


「だが、証拠はない。話しの筋も、一応は通っている。それに、相手は高位の神官だ。無理に連行するわけにもいかんだろう。神皇国との国際問題になりかねん。」


そこで、アン団長は法衣の女性をじろりと見た。


「然らば、如何いかがするでござるか。」


「残念だが、ここは・・・」


「テンペランティス様、お時間にございます。」


アン団長とターニャさんの会話の途中に、別の声が割り込んだ。


それは、またしても、聞いたことのない声だった。


しかも、恐ろしく声に抑揚がない。それが自動人形の声だと言われたら、信じるかもしれないほど、感情のこもらない話し方だった。


「む、あの者は・・・!」


ターニャさんがその声に反応した。


彼女の視線の先をみると、そこには淡い金色の髪を短く切りそろえた少女がいた。


・・・いや、少女だという確信があるわけじゃない。


だが、その高い声と、小柄ですらりとした体格から、おそらく少女だろうと俺は思った。


その少女は、神官とは対照的に、その衣服は真っ黒だった。そして、その衣服は少女の発展途上にある体のラインが見えるほど、体にぴったりとしている。あれは、二ホンのスケートやスキーの選手が身に着けている、レース用のスーツによく似ている。


さらに、その黒いスーツの上から、肘や肩、脛といった関節部分、そして頭部の一部にも、防具らしき装備がつけられている。


あきらかに、戦闘用のものだ。


その異様な出で立ちと、まだ丸みの残る少女の顔の輪郭のギャップが、俺に強い違和感を抱かせた。


「あらあら、もうそんな時間ですか。それでは、わたくしは失礼いたします。」


法衣の女性は、その少女の言葉を聞くと、俺たちに向かって僅かに会釈した。


「ノーナ、ディシーナ、回収をお願いします。」


「「承知いたしました。」」


評価、いいね、ブックマーク、ありがとうございます。


一周年記念の連日投稿は、今日までのつもりでしたが、

全然この章の話が終わらないので、明日も投稿します

(次話でも終わらないのは確実ですが・・・)

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