表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚構の勇者  作者: かに
第六章:勇者パーティとダンジョン
178/199

6-38:小捕物(上)

「ち、もう終わりか。つまらんな。」


光の消えた魔法陣を見て、アン団長が呟いている。


魔法陣の中心には、人間が横たわっていた。


黒い髪をした、人族の男のようだ。顔立ちや体つきは、こちらの世界でよく見る西洋的な人族より、二ホン人である俺に近そうだ。年齢はおそらく、俺と同じか少し上だろう。背丈は俺よりも高い。衣服は、粗末なシャツとズボンだけを着ている。


そして、彼の首や腕には、大量のペンダントが巻きつけられていた。ペンダントの石は、すべて濃い紫色だった。ペンダントの銀色の鎖は、魔素の影響なのか、その大半が黒ずんでいた。途中で切れて、地面に落ちている物もたくさんある。


見たところ、体の表面に大きな傷はない。意識はないようだが、わずかに胸が動いているので、生きてはいるようだ。


アン団長が警戒しながら近づき、青年に対して鑑定スキルを使った。


「ふむ、かなり衰弱はしているが、命に別状はなさそうだ。しばらく休ませれば、じきに回復するだろう。しかし、このペンダントのようなものは何だ?」


「わかりません。ただ、魔素を吸収するために使っていたようです。連中は吸収材アブソーバと呼んでいました。」


吸収材アブソーバ?ふうむ。どれ。」


アン団長はペンダントに鑑定スキルを使う。


彼女のほうが、俺より鑑定スキルのレベルは高いので、別の結果が得られるかもしれないと少し期待した。


「ただのペンダントのようだ。」


どうやら、俺と同じ結果だったようだ。


「どうみても、ただのペンダントではないです。」


「そうだな。持ち帰って研究する必要がある。」


アン団長は、ペンダントを検分するかのように、しげしげと眺めながらそう答えた。


「他の部屋で見つけたものを、いくつか持っています。」


俺は、空間収納からいくつかペンダントを取り出して、アン団長に見せる。


「少年にしては気が回るではないか。念のため、この落ちている物も、いくつか持って行ってもらえるか。」


「分かりました。」


そう言われて、俺は床に落ちているペンダントを拾った。落ちているものは、どれも石の色が紫色になっている。透明のものもないか探したが、ひとつも見つけられなかった。


「ふむ、この青年は、ただの人間のようだな。なぜ、あのように魔素を纏っていたのかわからんが・・・」


彼は一般的な人間に比べると、レベルが高めの戦闘系のスキルをたくさん持っているそうだ。レベルは低いが魔法系のスキルや、日常系のスキルもいくつか持っているらしい。


「おそらくは、腕のいい兵士か冒険者だろう。しかし、王国の人間ではなさそうだ。ならば、南部の小国の出身か、あるいは神皇国の・・・」


アン団長は、一人でぶつぶつと呟いている。


そのとき、俺の視界の端で、王女が白い翼の少女のところへ戻っていくのが見えた。こちらがひと段落したので、再び彼女の介抱に向かったのだろう。


王女が再び浄化魔法をかけはじめる。すると、少女の翼に残っていた黒い小さなシミも、跡形もなく綺麗に消えていく。


その王女のそばには、王女や俺たちの様子を見ながら、退屈そうにしているニコがいた。


「あーあ、結局、俺は出番なしかよ。」


ニコは手持無沙汰という様子で、頭の後ろで腕を組んでいる。


「今回は、予想に反して人助けだったからな。槍使いは、破壊専門だろう。人助けには向いておらん。」


アン団長は、床に描かれている魔法陣を調べながら、ニコに声をかけた。


「破壊専門ってな。あんた、俺を何だと思ってるんだ!だいたい、俺がいなきゃ、ここに入れなかっただろ。」


ニコが天井にあいた大穴を指差す。確かに、何でも貫けるニコでなければ、あの分厚い天井に大穴をあけることはできなかっただろう。


「ああ、確かにそれは役に立ったな。褒めてやろう。」


「ちっとも嬉しくねえぞ!」


ぶつぶついうニコを適当にあしらうと、不意にアン団長は後ろを振り返った。


「ターニャ殿、そちらはどうだ?」


「こやつ、こっそり逃げようとしておったので、捉えておいたでござるよ。」


「ひいいいっ!」


アン団長の視線の先を追うと、ピエールが縄で縛られているのが見えた。その後ろには、ターニャさんが立っている。


「流石だな。」


「ぬかりはないでござる。」


ターニャさんの言葉に、アン団長が満足そうに頷いた。


「貴様ら!魔食いとその一味だな!吾輩にこのようなことをして、タダで済むと思うておるのか!」


ピエールが大声で喚く。


相変わらず、この男の声は耳障りだ。声の高さもあるが、それ以上に彼の高圧的なしゃべり方もかんさわる。


「ふむ。確か、貴殿はエイギス殿下とよく一緒におられた・・・」


「吾輩は、ボールシュ子爵、ピエール・ド・グラーデである!頭が高い!控えろう!」


甲高い声が広間に響く。だが、場はなんとなく白けた。


「これは失礼いたしました。わたくしは、元魔導士団長にて、現勇者パーティの賢者を務めております、アンジェリカと申します。」


アン団長は咳払いをひとつすると、丁寧にお辞儀をする。


「その赤い下品な衣服、言われずとも知っておるわ、さあ、今すぐ縄を解くのだ!命令であるぞ!」


「失礼ながら、子爵閣下、そのご命令には従いかねます、」


アン団長は肩をすくめる。


「なんじゃと!吾輩に逆らうというのか!貴族への反逆は、死罪だぞ!」


ピエールは、縄で縛られているというのに、やたらと威勢がいい。俺にぶん殴られたショックからも、完全に立ち直っている。


「いえ、より高位の方から、捕縛するよう、ご命令されておりますので。」


「たわけたことを。」


小男がアン団長に詰め寄る。だが、団長のほうがかなり背が高い。そのうえ、ピエールは縄をかけられている。どちらかというと、彼がアン団長に詰められているようにしか見えない。


それに気が付いたのか、彼はほんの少しだけ後ろへ下がる。彼女はその様子を見て、ふふんと小さく鼻を鳴らした。


「パルディア王女殿下にございます。」


「え?」


名前を上げられたパルディア王女が、驚いた表情を浮かべたのが見える。明らかに、アン団長がアドリブで、王女が言ったことにしただけだ。


「王女殿下だと?ふん、その物は王太子殿下も、王族とはお認めにはなっておられぬ。吾輩が命を聞くいわれなどない。この『魔食い』が!」


王女の、はっと息を飲む音が聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ