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虚構の勇者  作者: かに
第六章:勇者パーティとダンジョン
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6-27:追跡(中)

前回の討伐の後、たいした説明もなくアン団長の研究室につれていかれた。何かと思えば、この追跡の魔道具を、すぐにでも完成させたいとのことだった。目的は、魔素を補充する何者かを追跡して、今回の事件を起こした連中の拠点を見つけるためだ。


開けた場所なら、探索スキルだけでも追跡できる。しかし、洞窟のように見通しが悪い場所では、探索スキルに頼った追跡は難しい。探索スキルは、基本的には対象の方向が分かるだけなので、複雑に入り組んだ洞窟では、すぐに相手を見失ってしまう。


一方で追跡の魔道具は、地形に関係なく相手の位置が分かる。ただし、予めセンサとなる石を洞窟に設置し、その位置を記録しておく必要はある。そのため、追跡したい相手がくる前に、事前に準備しなければならない。そう考えると、あちらの世界で言うところの、監視カメラに近い。もちろん、映像は見られないのだけど。


この魔道具のアイディア自体は、アン団長はかなり前から持っていたらしい。実際、探索スキルを応用することで、特定の波長に反応する魔道具の製作までは済んでいた。しかし、その魔道具は、魔法時に波長の情報を書き込んでおく必要があった。カメラに最初から覚えさせておいた、特定の人物しか追跡できない監視カメラのようなもので、とても使い勝手が悪かった。


そこで俺の出番だ。「虚構投影」を使うことで、波長の情報を魔道具に伝えることができそうだと、アン団長は考えたようだ。様々な試行錯誤を繰り返した結果、俺が「手動で」波長の情報を魔道具に伝えれば、どんな波長の魔力でも追えるところまではたどり着いた。


あとは、魔道具化すれば良い訳なのだけど・・・


「結局、本番も手動ですか!」


「今は時間がないのだ。仕方なかろう。精々、頑張ってくれたまえ。」


そう答えたアン団長は、何故か楽しそうだった。


しかも、今回の魔道具の開発については、どういうわけかターニャさんも興味をもっていた。というより、以前からこの魔道具については、アン団長と議論をしていたらしい。


「俺の過労死を防ぐ」ために研究室に時折訪れる王女と一緒にやってきては、アン団長とあれやこれやと話をしていた。普段、自分から話すことのないターニャさんにしては珍しい。王女もそれを分かっていて、わざとやってくる機会を増やしていたようだ。


俺としては、王女様のおかげで待遇が改善されるので、悪いことはまったく無い。


ちなみに、俺たちが研究に没頭している間、ニコは「修行」と称して、王都の外へと出歩いていたらしい。ロゼッタさん曰く、彼は勇者パーティという免罪符を得て、以前にも増して彼は自由に行動するようになったそうだ。


彼の侍従たちは、供もつけずに出歩く王弟殿下のことを随分と心配していたようだが、実際、ニコ少年に危害を加えられるような存在が、そうそういるとも思えない。それに、彼もああ見えて、意外に行動は慎重だ。


心配することはないだろう・・・多分。


「少年、集中が乱れているぞ。」


そのアン団長の声で、俺は現実に引き戻された。金属板の表面の石の光が、どれもとても弱くなっていた。考え事をしていたせいか、検知能力が下がってしまったようだ。


急いで、金属板に魔力を流し込む。


だが、石の光は元にもどらなかった。


どうやら、集中力の問題ではないようだ。


「ふむ、やはり距離が離れると、追跡が難しくなるか。」


「はい、ですが、この距離なら、まだ王女様のスキルを使えば、追跡できます。」


「やってみます。」


俺がそう言うとすぐに、王女が「魔半効倍」をかけてくれる。最初の頃、スキル発動までにかなり時間がかかったのが、今では信じられないほどの速さだ。


「光が元に戻ったぞ!」


「少年のスキルのレベルが、王女のスキルで増加することで、探知できる距離が増すのだ。」


「へえ、パルっちのスキルに、そんな使い方があるのか。」


ニコが魔道具の光を眺めながら、いつになく感心している。そういえば、彼だけがこの魔道具を初めて見たのだった。


そんな興奮気味のニコの様子には全く構うことなく、アン団長は石の光る経路を目で追っていた。


「ふむ、どうやら、奴は洞窟のこの出口へと向かっているようだ。先回りするぞ。少年、魔道具をしまってくれたまえ。」


「はい。」


アン団長はそう言うや否や、事前に用意していた転送の魔法陣を起動しはじめていた。相変わらず行動が早い。


「少年、向こうについたら、奴の気配を探してくれ。後続の隠蔽もたのむ。」


「分かっています。」


俺がそう答えるのと同時に、視界からアン団長の姿が消えた。


次の瞬間、俺の目にうつったのは、荒涼とした岩山と、どこまでも深い青い空だった。砂埃を含む乾いた風が、ごつごつとした岩で覆われた山肌を駆け上がる。


アン団長から、この洞窟が王国の南部にある、険しい山岳地帯のどこかだとは聞いていた。だが、実際に洞窟の外に出るのは、これが初めてだった。


「む?」


俺は思わず風上へと目を向ける。


魔素を感じたからだ。


これが魔物の気配なら、銀色のエコースパイダーより少し弱いくらいだろうか。負けることはないにしても、油断できる相手ではない。


俺は目を凝らす。


しかし、そこには灰色の岩がむき出しになった、険しい山肌が見えるだけだった。動く者はなにも見えない。念のため探索スキルで周囲を探るが、やはり何も見つからない。


それでも、うっすらと魔素の気配を感じ続ける。


少し前に出る。崖から見下ろした場所に、洞窟の出口が見えている。見える範囲には、影の気配はない。


すると、背後に気配を感じた。


振り返ると、そこには王女の姿があった。


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