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虚構の勇者  作者: かに
第一章:召喚勇者とエルフの少女
15/199

1-15:食卓

日が暮れたころには、テーブルにはミリエンヌの手作りの食事が所せましと並んでいた。


新鮮な野菜と香草のサラダ、いい香りのする透き通ったスープ、あつあつの肉料理きのこ添え、いくつかの果汁をブレンドした飲み物、あれだけ硬そうに見えた保存食のパンが、ふかふかになっていることにも驚いた。それに、どうやって作ったのか分からない、ケーキのように見えるデザートまである。


「・・・すごいなこれ。二人分、だよね?」


「作りすぎました・・・」


ミリエンヌは、また溜息をついた。


「いやいや、大丈夫。全部食べるから!」


「無理しないでください!」


「問題ないよ。今日は昼飯もたべてなくて、腹が減ってたところだ。むしろ、ちょうどよかった。」


エイトはそういいながら、料理を食べ始める。


「・・・これは、うまいな!」



一口たべて、思わず感嘆の声が出た。


これまで、こちらの世界で口にしていたのは、主に王宮での食事だ。王宮での食事は見た目は豪華だったが、味も香りも全体的に薄かった。元の世界でも、ろくな食生活をしていなかったエイトだが、それでもこちらの世界の食事には物足りないものを感じていた。


王宮ですらそうなのだから、町での食事はもっと味気ないだろうと思っていた。しかし、ミリエンヌの料理を食べて、そんな考えはふきとんだ。


「こんなに美味しい料理を食べたのは、初めてだよ。」


「そ、そうですか」


ミリエンヌは、本当に美味しそうに料理を食べるエイトをみて、少し頬を赤らめた。


「そう言ってもらえて、とても嬉しいです。」


「ささ、早く食べて。冷めちゃうよ?」


エイトは、食べているのをじっと見られることが落ち着かなくて、少女にも食べるように促した。


「・・・はい!」


彼女は嬉しそうにそういうと、料理を食べ始める。



「ふう、ごちそうさま。」


「本当に全部食べたんですね。エイトさんすごいです。」


あれだけあった皿の料理は、すべて綺麗になくなっていた。というか、結局のところどの料理も全部美味しくて、エイトは否応なく完食してしまっていたのだ。


料理が美味しかったことは本当だ。しかし、それ以上に「誰かと一緒に食べる」ということが、料理を何倍も美味しくするということを、エイトは長い間忘れていたことに気が付いた。


こんなふうに、前に楽しく誰かと食事をしたのは、どのくらい前のことだったか・・・


「あの、エイトさん。」


「うん?」


二人で食卓の後片付けをしている間に、ミリエンヌがふとエイトに声をかけた。


「エイトさんは、すっごく強くて、怪我も病気も治せるスキルを持っていて、お風呂のあるおうちも作れて、家具も道具も何でも作れて、本当にすごいと思います。」


エイトは、ミリエンヌを見る。


彼女は、洗浄スキルで食器や調理器具を丁寧に洗っていた。その洗ってる食器から目を離さないまま、彼女は続けた。


「それで、私みたいな、ちっぽけなエルフを助けてくれて、とても優しくて・・・」


彼女はそこで言葉を区切った。


「まるで、伝説の勇者様みたいです。」


「え!?」


どきりとして、思わずエイトは食器を落としそうになる。


「そ、そ、それは褒めすぎだよ!」


「いえ、本当に、私にとっては勇者様です。」


エルフはそう言いながらも作業を続ける。エイトはただ目を白黒させることしかできなかった。


「だから、私になんてただの足手まといで、何もできることは無いと思っていました。でも、」


そこで、彼女はエイトを見て、にこりと微笑んだ。


「でも、料理や食べ物集め、お掃除なら、私もお役に立てそうだなって思って。それに、何でもできそうなエイトさんでも、苦手なことがあるんだなーって・・・」


「ははは・・・」


そう言われては、エイトは苦笑するしかない。本当に彼女の言う通りだ。日常生活に関しては、エイトは元の世界でもこちらの世界でも、全くといっていいほどスキルをもっていない。せいぜい風呂の湯を出したり、食器の洗浄ができるくらいなものだ。


「え、あ、ごめんなさい!そういうつもりじゃないんですっ!」


ミリエンヌは顔を赤くして、手を大きく振った。


「いやいや、それは本当だからなぁ。君は料理がうまいよね。食べ物を見つけるのも、すごく早くて正確で、驚いたよ。」


その言葉に、ミリエンヌは小さく頭を振った。


「ずっとずっと、毎日同じことをやってただけなんです。エイトさんに比べたら、ちっともすごくありません。」


「うーん、毎日同じことがきちんとできるだけでも、大したことだと思うけど・・・」


「・・・ありがとうございます。」


エイトの言葉を噛みしめるように、ミリエンヌはじっとエイトの顔を見上げ、それからゆっくりと目を閉じた。その時の彼女の表情は、とても穏やかなものだった。


ミリエンヌは見た目だけなら14、5歳くらいの少女に見える。しかし、それにしては随分と落ち着いている。スキルレベルも、その年の少女には不釣り合いなくらいに高い。言葉遣いもしっかりしている。


もちろん彼女はエルフなので、見た目以上の年齢の可能性はある。そう思って、鑑定スキルを使って年齢を調べてみた。しかし、年齢は「14-512歳」という、ものすごく幅のある数値になっていて、結局のところはよく分からなかった。


・・・ま、直接聞けばいいんだけど。


しかし、彼はそれを躊躇とまどった。


何となく、彼女のもっている秘密に関係しているのではないか、という直感があったからだ。


地下牢で彼女を治療したときに、彼女の体の傷とは別に、心の中に深い傷があることに、エイトは気が付いていた。おそらく、過去にあった何らかの出来事が原因となっているのだろう。ただ、それが何なのかを彼は探らなかった。ちちろん探ろうにも、探るような能力も持ってはいないのだが・・・


NDA(秘密保持契約)を結んでいるのだから、エイトが彼女の心の傷に原因となった過去の記憶を知ったとしても、それを他人にそれを言うことはできない。そういう意味では、彼女の秘密は守られている。しかし、だからといって他人の秘密を勝手に覗いたり、ずけずけと質問しても良いということにはならない。


さすがに「空気が読めない」と言われたエイトでも、そのくらいのことは分かるつもりだ。ただ、穏やかな表情を見せるミリエンヌを見て、エイトは純粋に彼女のことを知りたくなっていた。


いったい、彼女はどういう人生を送ってきたのだろう?


エルフの里ではどういう暮らしをしていたのだろう。牢に捕えられるまでに、どういう経緯があったのだろう。安全な場所に置いてきたと思ったのに。


それに、どうしてあんな複雑な・・・


そこまで考えて、エイトは重要なことを忘れていることに気が付いた。


「あ、」


「え?」


ミリエンヌがこちらを見る。


「君の隷属魔法を解くのを忘れてた・・・」


「え!?」




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