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虚構の勇者  作者: かに
第六章:勇者パーティとダンジョン
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6-4:魔導士団長

「あいたたた・・・」


「アン!?」


王女が走り出す。その後をターニャさんが蜘蛛を警戒しながら追う。王女は、魔法陣のすぐ脇に転がり、腰をさすっている赤いローブの人物へと向かって行った。


「おや、パル姫、このようなところで、奇遇ですな。ご機嫌麗しゅう・・・ったたたた!」


その人物は、草むらに転がったまま顔だけを王女に向けると、笑顔をみせた。しかし、すぐに苦痛の表情へと変わる。


「アン、何を言っているのですか!」


「あいつに追われてな。逃げ出したはいいが、着地に失敗して腰を打ったようだ。」


アンとよばれた女性は、魔法陣の上に出現した銀色の蜘蛛を指さした。


「わたくしが治します!」


王女は彼女に駆け寄ると、すぐに回復魔法を使いはじめた。


「すまない、あと一息で封印できるところだったのだが、あいつに邪魔をされて台無しだ。実に口惜しい。」


赤いローブの女性は、腰に手を当てながらであったが、銀色の蜘蛛を睨みつけた。その銀の蜘蛛は、魔導士たちの結界に行く手を阻まれ、まだ魔法陣の上に留まっている。しかし、ゆっくりとではあるがじりじりと前に進んでおり、魔導士たちが力負けしているのは明らかだった。


「黒いやつはともかく、あいつは魔導士との相性が最悪だ。よりによって、あいつが出現するとはな。」


「まだ動いてはいけません。」


ローブの女性が立ち上がろうとするのを、王女が静止する。


「だが、あいつを止めねば、王宮に被害が広がる。結界を張りなおして・・・」


「大丈夫です。あいつは止めます。」


彼女たちの様子を見て、俺は剣を構えた。


彼女が言うように、あの蜘蛛は今までの黒い蜘蛛とは違う。これまでの蜘蛛が初級だとすれば、あれは中級以上の強さがある。並の人間では太刀打ちできないだろう。


「ほう、この少年は?」


女性が俺を見上げる。彫りの深いその顔つきは、元の世界でいうところの西洋人そのものだ・・・と俺は思った。


「この方は、勇者様です。」


王女は小声でそう言った。彼女は周囲を見回し、少し離れた場所にいる魔導士のほうを見る。一応、俺の正体は伏せることになっているので、周囲の人間にきかれないようにという配慮だろう。その上で、王女が俺の正体を教えるということは、この女性は特別な人に違いない。


「他の方々には秘密です。」


しかし、彼女は「勇者」という言葉に敏感に反応した。俄然、俺に興味を持ったらしい。いきなり身を乗り出してきた。


「おお、君が噂の名無しの少年か!」


名無しという言葉を聞いて、俺は思わずどきっとする。


「いけません、アン。その呼び方はおやめください。」


「おや、『少年』と呼んだのか良くなかったかい?それは失礼した。」


赤いローブの女性は、興味津々という様子で俺のことを見る。そんな団長の様子を見て、王女は小さく首を振った。


「・・・いえ、そうではありません。勇者様には、エイト様というお名前があります。」


「ああ、そうだったのか!」


王女の言葉を聞いて、彼女は大きく手を打った。


「つまり『エイト少年』だな!私はアンジェリカ・ヘルメス、一応、魔導士団長をやっている。よろしくな、少年!」


「あ、はい。エイトです。よろしくお願いします・・・」


人の話を聞いてないな、この人。


「ふうむ、興味深い。実に興味深いぞ、少年!」


身を乗り出す魔導士団長に気圧され、俺は思わず一歩下がる。魔導士団長と名乗ったこの女性は、これまでに出会ったこの世界の、どんな人物よりも変わって見えた。ターニャさんが「傾奇者」と言うだけはある。


「是非とも、話しを聞きたいところだ。だが、残念ながら今はあいつを止めねばならぬ。さっさと片付けて・・・あいたたたっ」


「大丈夫ですか、魔導士団長様?」


「団長様??なんだその堅苦しい呼び名は。アンでいい、アンと呼べ!」


魔導士団長は、腰をさすりながらも、俺に向かって怒鳴った。怪我をしているはずなのに、やたらと元気な人だ。


「わ、わかりました。では、アン・・・さん」


「ほう?」


じろりと睨まれ、俺は思わず固まる。しかし、すぐに魔導士団長は笑い出した。


「ははは、よかろう。アンさんでいいぞ。それで、何の話しだったかな。結界魔法の効率的な魔力充填法についてだったか?」


・・・何それ、興味深い。


「違います!アンは寝ていてください!」


魔導士団長・・・もとい、アン団長は、再び起き上きあがろうとして、王女に押しとどめられた。


「あの銀の蜘蛛は何とかします。アンさんは、回復に専念してください。」


あぶない。王女が割って入らなければ、いつもの悪い癖がでて、結界魔法について質問してしまうところだった。あたりまえだが、今はそんな場合じゃない。


再び剣を構えなおし、銀色の蜘蛛に向き直る。


「やれるのか?」


「まあ、何とか。」


「おいおい、頼りないな。」


俺の返答を聞いて、魔導士団長が肩を竦める。


「大丈夫です。エイト様は勇者様なのですから。ですよね?エイト様!」


王女は大声で叫んでから、慌てて周囲を見回した。


俺は思わず頭を掻いた。


「ははは、パル姫に気に入られているようだな!ならばここは、少年のお手並み拝見としよう。」


派手な赤いロープをはためかせ、アン団長は俺に向かって敬礼をした。


「・・・ご期待に添えると良いのですが。」


俺は、団長と王女を交互に見ると、首をすくめて呟くようにそう言った。自分から任せとけと言っておいて何だけど、期待されることにはあまり慣れてはいない。


だけど、この機会に少し試したいこともあった。


「エイト殿、拙者もお供するでござるよ。」


すぐそばでターニャさんの声がして、思わず振り向く。まったく気配を感じなかった。本当にこの人は忍者みたいだ。


「いえ、ターニャさんは王女様とアンさんを守ってください。次が出てくるかもしれませんから。」


しかし、あれは少々手ごわいでござるよ。」


「分かってます。もし危なくなったら、助力を頼みます。その時はよろしくです。」


ターニャさんは、じっと俺を見ていたが、了解したというように小さく頷いた。


「ふうむ・・・承知いたした。くれぐれも、用心するでござる。」


「勿論です。」


ターニャさんがその場を離れると、俺はゆっくりと銀色の蜘蛛のほうへと歩いていった。


アンさんとコントを繰り広げていた間にも、銀色のエコースパイダーは結界からじりじりと抜け出しつつあった。そうして、ゆっくりと王子たちがいるほうへと動き始める。やはり黒蜘蛛と同じように、魔導士たちには目もくれず、まっすぐと王城のほうへと向かおうとする。


「おっと、こっちは行き止まりだ。」


進んでいこうとする蜘蛛の前に、俺は立ちはだかる。蜘蛛は、邪魔だとばかりに前脚をつきだす。金属のような銀色の光沢がある脚が、結界が発する光を反射してきらめく。


ガキン!


低い金属音がして、わずかに火花が飛び散った。勇者の盾が、銀色の蜘蛛の前脚を弾いたのだ。


「重いな」


黒い蜘蛛にくらべると、この銀色の蜘蛛はあきらかに強い。しかし、蜘蛛の攻撃を受けてみて、何とか戦えそうだという実感はあった。勇者スキル・・・もとい、ユニークスキルが使えるようになった今なら、この蜘蛛相手にも苦戦することはないだろう。


ただ、ここには沢山の人間がいる。魔導士たちや王子がいる中で、どこまでスキルを使って見せるかは考えどころだ。王女たちは別として、他の連中には俺のスキルのことはできるだけ見せたくはない。


「おいおい、名無しの勇者様よ、まさか、こいつと戦うつもりか?」


そんなことを考えていると、唐突に背後から声をかけられた。


いつのまにか、エイギス王子がすぐ後ろまで来ていた。


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