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虚構の勇者  作者: かに
第一章:召喚勇者とエルフの少女
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1-14:少女のスキル

「あいにく食料は、保存食しかなくて。」


そういいながら、エイトは保存食の箱を積み上げた。中身は、食料は調理なしで食べることができる干し肉や、木の実、果実、硬いパンといった具合だ。


エイトは、まともに料理をした経験がほとんどなかった。元の世界では、大学生時代はバイトと勉強忙しく、大学の食堂とアルバイトの賄いだけでほぼ過ごしてきた。社会人になってからは、自宅はかえって寝るだけの場所だったので、自炊をしたことがない。


そのせいで、こちらの世界でもすぐ食べられる保存食ばかりを蓄えていた。自分だけ食べるなら保存食でいいと思っていたけど、この少女にも味気ない保存食を食べさせるのは、やや気が引けた。


・・・だれかと人と一緒に行動するなんて、想定してなかったからなあ。


まあでも、新鮮な野菜や肉を持っていても、どうせ調理できないから、保存食を食べるしかないのだけど。


「ごめん、俺って調理スキルがないから、すぐ食べられるものしか持ってないんだよね・・・」


エイトは、机の上に積み上げた保存食を見ながら頭を掻く。


少女は、保存食とエイトを交互に見比べていたが、何か思いついたというように、うんうんと頷いた。


「あの、大丈夫です。」


ミリエンヌの表情が明るくなった。


「調理スキル、私もってます!」


「え、そうなの?」


予想してなかった少女のセリフに、思わずエイトは問い返した。


「里の家では、料理は私の仕事でした。」


「それはすごいな。」


「全然すごくないです。里では普通です。」


料理の仕事を担当していたなんて。彼女は、見た目通りならまだ子供といってもいいくらいなのに、エルフの里では子供でも仕事をするんだな。エイトはそう思ったが、どうやらエルフの里では普通のことらしい。いや、そもそも見た目通りの年齢ではないのかもしれないけど・・・


「あ、でも材料になるものも保存食しかなくて・・・」


「問題ありません。食料採取スキルもあります!」


「おお!?」


言われてみれば、彼女を最初に鑑定したときに、日常生活関連のスキルが豊富だなとと思った覚えはある。同時に、見た目の幼さに比べると、スキルのレベルがずいぶんと高いなとも思った。


しかし、彼自身が日常生活系のスキルにあまりに興味がなく、今まですっかり忘れていたのだ。


「まだ日が暮れるまでには、少し時間があります。夕飯と明日の朝食の材料くらいなら、すぐ採ってこれます。」


ミリエンヌはそういいながら、台所にある調理器具や道具を確認しはじめる。


「すごいですねー。こんなにいろんな道具がたくさん・・・お皿も、カップも、お椀も!」


食器は、エイトが金属加工スキルとか木工のスキルをあげるために、練習で作ったものをたくさん残していた。そのため、大家族くらいでもまったく問題ない程度には、無駄に食器は用意されていた。


「お肉は、それを使ってもいいですか?」


少女は、机の上の保存食を見ながら言う。


「もちろん、いいよ。しかし、」


エイトは、干し肉を検分しているミリエンヌを興味深そうに見た。


「え?」


「エルフも肉を食べるんだね。」


「えー、食べますよ?人族の人たちって、エルフはお肉を食べないって思っているんですか?」


ミリエンヌは、意外そうな顔をした。


「いや、他の人たちはしらないけど、俺はエルフは森の番人で、動物の守護者ってイメージを勝手に持っていたから。」


「確かに、森を守るのはエルフの里の使命だって、里の人たちはよく言ってましたけど、お肉は食べてましたよ。動物もたくさんいると森が荒れるから、増えすぎないように時々は捕って、森の神様に感謝してありがたく食べるんだって。」


彼女はそういいながら、祈りを捧げるような仕草をみせた。


「へえ、そうなんだ。」


「私は、お肉は普通においしいから、もっと食べたいと思ってましたけど・・・里では言えませんでした。」


なるほど、少しイメージは違うけど、自分の中のエルフのイメージとはそこまで離れてはいなさそうだ。エイトはそう思った。


「その箱の食料は好きなだけ使っていいよ。まだまだあるから。」


「ありがとうござます!」


ミリエンヌは嬉しそうにそういうと、こんどは調味料を調べ始めた。


「お塩と、コショウ、お砂糖まであるんですね。凄いです。里では、コショウやお砂糖はほとんどありませんでした。これなら何でもできそうです。」


少女が食材と調味料を机の上に並べていく。その様子は実に楽しそうだ。


ほんのひと時前まで、死にかけていた少女とはとても思えないくらい、今は元気になっている。エイトはその彼女の楽しげな表情をみて、心底助けてよかったと思っていた。


「そういえば、籠のようなものはありますか?食べ物を採りに行きたいので・・・」


「採取に行くなら一緒にいくよ。俺なら収納スキルで運べるから、籠はなくても大丈夫だよ。」


「え!?一人で行きますよ。エイトさんは休んでいて下さい。ずっと戦って疲れていませんか。」


「全然、だいじょうぶ。」


エイトはぐるぐると腕を回して見せる。


思えば、今日は朝からいろいろなことがありすぎて、疲れを通り越しているような気もする。でも、彼女の楽しそうな顔を見ていたら、何もかも吹き飛んでしまった。


「危険があるかもしれないし。」


それに、守ると約束したから、と続けようとして口をつぐんだ。口から出る前に、気恥ずかしさが込み上げてきたからだ。


「そ、そうですね。ではすみませんが、お願いします。」


そんなこんなで、エイトはミリエンヌの採取に付いていった。


ミリエンヌは、さすがはエルフといったところだろう。森の中で食料を探すことに関しては達人といっていいほどだ。エイトは、最初は自分も探すのを手伝おうと思っていたが、すぐに足手まといになるだけだと分かり、護衛と荷物運び役に徹することにした。


彼女は、食べることができる果実、キノコ、香草などを、的確に探し当てては採取していった。エイトも真似しようと探索スキルをつかってみたが、まるで何も見つけられなかった。


探索スキルは自分の周辺にある物体を検知するスキルだが、探索する対象のイメージを明確にもっている必要がある。敵意がある生物や罠、特定の建築物といった物なら、エイトでもイメージができたが、この世界の食品に関してはエイトはまるで知識がなかった。知らないものは探索もできない。


ただただ、彼女の手際のよさに感心するばかりだ。


・・・敵から身を守る方法とか、住む場所をどうするか、みたいなことばかり考えていて、日常生活をどうするかなんて、真面目に考えたことなかったな。


今どきの二ホンでも、家事が全くできない男子は少数派かもしれない。長時間勤務でろくな日常生活を送ってこなかったせいもあるとはいえ、全く家事らしい家事をしてこなかったエイトには、日常生活に関する知識もスキルもすっぽりと欠けていた。


・・・これからは、家事もできるようにしないとなあ。


てきぱきと食料を集めるミリエンヌを見ながら、エイトはそんなことを考えていた。


採取に出かけて30分もしないうちに、相当な量の食料を集めることができた。もともと魔物が少なく、人里からそれなりに離れたこの森には、食料になるような素材が豊富に残っていたようだ。とはいえ、森で食料になるようなものは、生物の知恵で巧妙に隠されていることが多く、エイトでは全く見つけられないのだが・・・。


「これはすごいな。」


持ち帰った戦利品を広げてみると、広い机の上が埋め尽くされるほどの量があった。まるで市場に並べられた商品のようだ。木の実、キノコ、香草に加え、ツルのようなもの、何かの根っこのようなもの、光る石のようなもの、小瓶に入った蜜のようなものまである。


小瓶は、ミリエンヌが森の中で、


「エイトさん!ビンありますか!!」


と興奮気味に言ったので、エイトが慌てて収納から作り置きのガラスの小瓶を出したものだ。その小瓶には、黄色い蜜のようなものがたっぷり入っていた。


「土蜂の蜜まで採れるなんて、ここはすごっくいい森ですね!」


ビンに蜜を詰めたときの彼女が、実に上機嫌だったことをエイトは思い出した。


「ちょっと採りすぎました・・・こんなに採ってたなんて、思ってなかったです。ダメになる前に全部食べないと、森の神様に怒られてしまいます。」


ミリエンヌは食料の山を見ながら、溜息をついた。さすがのミリエンヌも採りすぎたと思ったらしい。


「大丈夫だよ。空間収納に入れておけば腐らないから。神様に怒られないように、ちゃんと食べ切ろう。」


エイトがそう言ってフォローする。その言葉にミリエンヌは安心したようで、今度はほっと息をついていた。




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