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虚構の勇者  作者: かに
第五章:西の勇者と第三王女
134/199

5-30:王女の護衛

俺は王女をぐっと引き寄せる。照れは、一瞬でどこかに消え失せていた。


「転位!」


城壁の上に移動する。ぎりぎり間に合ったようだ。転位スキルは発動まで1秒ほどかかる。短いようだが、敵の攻撃を避ける用途には使えない。せいぜいこうやって、敵に近づかれるのを防ぐのが関の山だ。


転位を二回繰り返し、城壁の上にたどり着く。


見ると、下はすでにエコースパイダーで埋め尽くされていた。ざっと見ただけでも、20匹はいるだろうか。しかも、どこからか湧き出してでもいるのか、その数は増える一方だ。


「ファイア!」


「ギュワワワ!!」


壁を登ってくる蜘蛛の一体に、俺の火魔法が命中する。火の玉は蜘蛛の胴体に命中し、爆発音とともに大穴をあける。その蜘蛛は、そのまま地面へと落下していった。


よし、まだバフの効果が残っているようだ。これなら戦える。


「ファイア!ファイア!」


サッカーボールみたいなサイズの火の玉が、次々と蜘蛛に命中していく。壁を登って近づこうとする蜘蛛は、ことごとく火の玉の餌食になった。


「・・・エイト様、すごいです!」


王女が驚愕の声を上げるのが聞こえる。


「王女様のスキルのおかげですよ。」


瞬く間に、10匹近い蜘蛛の残骸ができた。この調子なら、何体やってきても楽勝だ。


よし、別のことを試してみよう。


「ストーン!」


試しに土魔法を使ってみる。ストーンは、土魔法レベル1から使える初歩的な魔法スキルだ。ピンポン玉くらいのサイズの石礫を飛ばすスキル、なのだが・・・


ズガガガガガガッ!!


「うわ!」


壁を登ってきた蜘蛛に、ハチの巣のようにいくつもの穴があいた。そのまま蜘蛛は下へと落下していく。


これは、到底レベル1の威力じゃない。少なく見積もっても、レベル3程度はある。ということは、王女のスキルはレベルを倍にするんじゃなくて、レベルを2,3上げるスキルなのだろうか?


「これはどうだ、ウォーター・・・うおおお?」


俺が蜘蛛の一体をめがけて剣を向けると、レーザービームのような勢いで水が発射された。それは蜘蛛の一体を貫通すると、さらに後ろにいた別の蜘蛛も貫通した。そのまま剣を横に動かすと、蜘蛛はすっぱりと横に切り裂かれた。


・・・すごい。


ウォーターは水の弾を出現させ、自在にそれを移動させることができる初歩的な魔法スキルだ。レベル1なら、マグカップ一杯程度の水が出現して、それを人間が投げる程度の速さで移動させることができる。威力はないので、敵にぶつけてダメージを与えるような使い方は、普通はしない。火を消したり、相手の魔法にぶつけて相殺したり、土に使って泥にかえたり、目くらましに使ったりと、補助的な使い方が主だ。


しかし、今のウォーターの威力はそんなものじゃない。高圧洗浄機どころか、高圧カッター並の水圧の水が大量に飛び出した。あやうく、足元の城壁すら切り裂いてしまうところだった。魔法スキルのレベルが上がっているだけじゃなく、スキルそのものの威力も底上げされている雰囲気がある。


・・・これは、気を付けないと、自爆しかねないなー


俺は壁を登ってくる蜘蛛を、あり得ないほど強力な水流ですっぱりと切断しながら、そんなことを思う。


そうしている間に、あれだけいた蜘蛛も最後の一匹になった。


「ウォーター!」


俺は再び水魔法を使う。高圧ジェット水流が飛び出し、蜘蛛はあえなく真っ二つに・・・ならなかった。


「あれ?」


ビチャッ、という情けない音がして、蜘蛛の体が湿る。剣から出たのは、握りこぶし大のサイズの水の塊だった。


「・・・スキルの効果が切れたみたいです。」


王女が、小さな声で横から言う。


「みたいですね・・・」


蜘蛛はノーダメージで、そのまま壁をよじのぼってくる。


俺は咄嗟に剣を身構えた・・・つもりだった。


「・・・しまった!」


ウォーターの使いすぎで、手が濡れていたのだろうか。俺は剣の柄を握り損なった。剣はそのまま俺の手を離れ、城壁から下へと落下していく。


「くっ!」


蜘蛛は目前に迫っていた。


盾を構える。


王女が、すぐ後ろで息を飲む音が聞こえた。


「ギュワワワワワ!!!」


蜘蛛の脚が迫る。



そのときだ。



秘龍儀ヒアリグ・ドラケン・火龍壱ノ術『火遁』」


謎の言葉とともに、目の前で炎の弾が炸裂した。王女も前にすばやく移動し、爆風を盾で防ぐ。


「ギュワワワワッ!!」


もうもうと立ち上る煙の間から、蜘蛛の前足が吹き飛び、胴体も大きく焼け焦げているのが見えた。


「成敗!」


次の瞬間、威勢のいい掛け声とともに、煙の中で何かが煌めいた。


ガキーン!!


「・・・・・・」


蜘蛛は断末魔の声を上げる間もなかった。大きな頭部が体からすっぱりと切り離され、そのままゆっくりとずりおちる。瞬時にすべての脚が力を失い、真っ二つになった胴体ごとあえなく城壁の下へと落下していった。


煙が立ち込める中、城壁の上に人の気配を感じた。


「ターニャ!」


その人物を見て、王女が嬉しそうに声をかける。


「遅くなり申した。これより、このターニャが姫様をお守りいたしまする。」


そう声を発したのは、桜色の髪の毛をした、小柄な女性だった。背丈は俺より頭ひとつ小さいだろうか。体に桜色の髪の毛は、萌黄色の幅のあるリボン状の紐で、綺麗に後ろにまとめられている。


そして、全身濃い紺色をした、飾りのまったくない衣装を着ている。下もスカートではなく、濃い紺色のタイツに見える下履きの上に、短いスパッツに似た形状の衣服を付けている。よく見ると、腕や脚の裾から金属の網目のようなものが、少しだけ見えている。その鱗を想起させる見かけから、鎖帷子のか何かだろうと俺は思った。


これは衣装ではない。


明らかに戦闘を想定した、防具とよべる類のものだ。


・・・というか、俺はこの衣装を知っている。


「忍び装束、だと・・・?」


4月1日ではありますが、嘘ネタはない予定です、たぶん。

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