5-30:王女の護衛
俺は王女をぐっと引き寄せる。照れは、一瞬でどこかに消え失せていた。
「転位!」
城壁の上に移動する。ぎりぎり間に合ったようだ。転位スキルは発動まで1秒ほどかかる。短いようだが、敵の攻撃を避ける用途には使えない。せいぜいこうやって、敵に近づかれるのを防ぐのが関の山だ。
転位を二回繰り返し、城壁の上にたどり着く。
見ると、下はすでにエコースパイダーで埋め尽くされていた。ざっと見ただけでも、20匹はいるだろうか。しかも、どこからか湧き出してでもいるのか、その数は増える一方だ。
「ファイア!」
「ギュワワワ!!」
壁を登ってくる蜘蛛の一体に、俺の火魔法が命中する。火の玉は蜘蛛の胴体に命中し、爆発音とともに大穴をあける。その蜘蛛は、そのまま地面へと落下していった。
よし、まだバフの効果が残っているようだ。これなら戦える。
「ファイア!ファイア!」
サッカーボールみたいなサイズの火の玉が、次々と蜘蛛に命中していく。壁を登って近づこうとする蜘蛛は、悉く火の玉の餌食になった。
「・・・エイト様、すごいです!」
王女が驚愕の声を上げるのが聞こえる。
「王女様のスキルのおかげですよ。」
瞬く間に、10匹近い蜘蛛の残骸ができた。この調子なら、何体やってきても楽勝だ。
よし、別のことを試してみよう。
「ストーン!」
試しに土魔法を使ってみる。ストーンは、土魔法レベル1から使える初歩的な魔法スキルだ。ピンポン玉くらいのサイズの石礫を飛ばすスキル、なのだが・・・
ズガガガガガガッ!!
「うわ!」
壁を登ってきた蜘蛛に、ハチの巣のようにいくつもの穴があいた。そのまま蜘蛛は下へと落下していく。
これは、到底レベル1の威力じゃない。少なく見積もっても、レベル3程度はある。ということは、王女のスキルはレベルを倍にするんじゃなくて、レベルを2,3上げるスキルなのだろうか?
「これはどうだ、ウォーター・・・うおおお?」
俺が蜘蛛の一体をめがけて剣を向けると、レーザービームのような勢いで水が発射された。それは蜘蛛の一体を貫通すると、さらに後ろにいた別の蜘蛛も貫通した。そのまま剣を横に動かすと、蜘蛛はすっぱりと横に切り裂かれた。
・・・すごい。
ウォーターは水の弾を出現させ、自在にそれを移動させることができる初歩的な魔法スキルだ。レベル1なら、マグカップ一杯程度の水が出現して、それを人間が投げる程度の速さで移動させることができる。威力はないので、敵にぶつけてダメージを与えるような使い方は、普通はしない。火を消したり、相手の魔法にぶつけて相殺したり、土に使って泥にかえたり、目くらましに使ったりと、補助的な使い方が主だ。
しかし、今のウォーターの威力はそんなものじゃない。高圧洗浄機どころか、高圧カッター並の水圧の水が大量に飛び出した。あやうく、足元の城壁すら切り裂いてしまうところだった。魔法スキルのレベルが上がっているだけじゃなく、スキルそのものの威力も底上げされている雰囲気がある。
・・・これは、気を付けないと、自爆しかねないなー
俺は壁を登ってくる蜘蛛を、あり得ないほど強力な水流ですっぱりと切断しながら、そんなことを思う。
そうしている間に、あれだけいた蜘蛛も最後の一匹になった。
「ウォーター!」
俺は再び水魔法を使う。高圧ジェット水流が飛び出し、蜘蛛はあえなく真っ二つに・・・ならなかった。
「あれ?」
ビチャッ、という情けない音がして、蜘蛛の体が湿る。剣から出たのは、握りこぶし大のサイズの水の塊だった。
「・・・スキルの効果が切れたみたいです。」
王女が、小さな声で横から言う。
「みたいですね・・・」
蜘蛛はノーダメージで、そのまま壁をよじのぼってくる。
俺は咄嗟に剣を身構えた・・・つもりだった。
「・・・しまった!」
ウォーターの使いすぎで、手が濡れていたのだろうか。俺は剣の柄を握り損なった。剣はそのまま俺の手を離れ、城壁から下へと落下していく。
「くっ!」
蜘蛛は目前に迫っていた。
盾を構える。
王女が、すぐ後ろで息を飲む音が聞こえた。
「ギュワワワワワ!!!」
蜘蛛の脚が迫る。
そのときだ。
「秘龍儀・火龍壱ノ術『火遁』」
謎の言葉とともに、目の前で炎の弾が炸裂した。王女も前にすばやく移動し、爆風を盾で防ぐ。
「ギュワワワワッ!!」
もうもうと立ち上る煙の間から、蜘蛛の前足が吹き飛び、胴体も大きく焼け焦げているのが見えた。
「成敗!」
次の瞬間、威勢のいい掛け声とともに、煙の中で何かが煌めいた。
ガキーン!!
「・・・・・・」
蜘蛛は断末魔の声を上げる間もなかった。大きな頭部が体からすっぱりと切り離され、そのままゆっくりとずりおちる。瞬時にすべての脚が力を失い、真っ二つになった胴体ごとあえなく城壁の下へと落下していった。
煙が立ち込める中、城壁の上に人の気配を感じた。
「ターニャ!」
その人物を見て、王女が嬉しそうに声をかける。
「遅くなり申した。これより、このターニャが姫様をお守りいたしまする。」
そう声を発したのは、桜色の髪の毛をした、小柄な女性だった。背丈は俺より頭ひとつ小さいだろうか。体に桜色の髪の毛は、萌黄色の幅のあるリボン状の紐で、綺麗に後ろにまとめられている。
そして、全身濃い紺色をした、飾りのまったくない衣装を着ている。下もスカートではなく、濃い紺色のタイツに見える下履きの上に、短いスパッツに似た形状の衣服を付けている。よく見ると、腕や脚の裾から金属の網目のようなものが、少しだけ見えている。その鱗を想起させる見かけから、鎖帷子のか何かだろうと俺は思った。
これは衣装ではない。
明らかに戦闘を想定した、防具とよべる類のものだ。
・・・というか、俺はこの衣装を知っている。
「忍び装束、だと・・・?」
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
4月1日ではありますが、嘘ネタはない予定です、たぶん。




