1-13:森での野宿
「さて、これからどうするかな。」
エイトは、気を取り直して、周囲を探索してみることにした。これからの方針を決めるためにも、情報集めは重要だ。
「予想より、ずいぶんと王都から離れているな。」
探索スキルでざっと調べたところ、今いる場所は王都の西にある森の中央付近にいるようだった。森から抜けるには、どちらに進んでも何日かはかかると思われた。
南に進むと、王都から辺境伯領へ向かう街道があることが分かった。この街道に出ることができれば、道なりに進んで辺境伯領まで行けそうだ。ただ、その道まで出るだけでも、森の中を歩いて4,5日はかかりそうだとエイトは思った。
今から森の中を進むのは気が引ける。森の中には魔物の気配は少ないとはいえ、ミリエンヌを連れて夜が近づく森の中を進んでいくのは、さすがに危険が多い。
・・・うーん、どうしたものかな?
エイトは、騎士団長に言われたように、辺境伯領まで行くつもりだった。勇者スキルを使って変装した上で、辺境伯領で冒険者になれば、誰にも邪魔されずスローライフを送れるだろうと考えていた。
しかし、エルフの少女を助けたので事情が少し変わった。彼女をエイトの都合だけで、辺境伯領まで連れていくわけにもいかない。その前に、彼女をエルフの里まで送るとか、知り合いを探して保護してもらうかする必要があるだろう。
いずれにしても、森から一度は出る必要はある。しかし、今から森に入るのは危険だ。転位スキルを使って「跳んで」いくこともできなくはないが、そんな強行軍をしてまで、急いで森を出る必要性は感じられなかった。
「悪いけど、今日はここで野宿にするよ。魔物も近くにはいないようだし。」
いろいろと思い悩んだ末、エイトはミリエンヌにそう言った。
幸い、今出てきた建物の周囲には、まったく魔物がいないようだ。建物自体に何らかの仕掛けがあって、魔物を寄せ付けないのかもしれない。相変わらず謎の多い建物ではあたが、今はここが一番安全だろう。
ミリエンヌは特に反論することなく、小さく頷いただけなのを見て、エイトは石造りの建物の周囲にある、開けた草原のような場所に向かって歩いて行った。
草原の中央付近まで行ったところで、エイトは大規模な土魔法を使った。すると、突如として草原の真ん中に四角形の白い建物が出現する。
「こんなもんかな」
そういって振り返ると、ミリエンヌが目を丸くしているのが見えた。いきなり森の中に出現した大きな建物には、さすがに驚いているようだ。
「中に入るよ?」
エイトはその建物に近づき、入口の扉を開ける。ミリエンヌは、我に返ったようにエイトを見ると、急いでエイトの後を追った。
建物に入ると、天井には魔法の灯がついていた。中はとても明るい。
「ここが食堂で、その奥が調理場だ。」
エイトは廊下を歩きながら、左右にある部屋について説明していく。
「こっちは洗面所で、その左側がトイレ、右側は風呂だよ。」
「お風呂があるんですか!?」
「うん、もう湯も張ってある。」
エイトが扉をあけると、中からもわっと白い湯気が漏れ出してきた。ミリエンヌが中を見ると、広い湯舟には暖かそうな湯がなみなみと注がれているのが見える。ミリエンヌにとっては、何もかもが驚愕だったが、湯が溢れる風呂桶には心底驚いたようだ。
エイトは少女の驚く様子を見て、満足そうなな顔をした。そうして、ひとしきり風呂の様子を見た後、廊下をさらに進んでいった。
「この奥の二つの部屋は寝室になっている。どっちでも好きな部屋を使っていいよ。」
ミリエンヌが手前の扉を開けてみると、寝室にはベッドと小さな机、服をしまえる戸棚がついている。部屋ごとに家具の色が少しずつ違っていたが、どれも出来はいいものだった。
「あ、家具は俺が練習で適当に作ったものだから、あんまり出来は良くないんだ。」
「エルフの里にあったものより、いいものだと思います・・・。」
ミリエンヌはベッドや棚を触って、感触を確かめている。
「え、そうなの? エルフって木工のプロ集団だから、もっとすごいんじゃないの?」
「高級な家具も、もちろん作っていますけど、私たちが使ってたベッドや棚は、こんなにいい物ではなかったです。」
「へえ、そうなんだ。エルフに褒められると、なかなか嬉しいな。」
「これは、今作ったんですか?」
「いやいや、前に木工スキルを上げる練習で作ったものを、収納スキルで収納しておいたんだ。遠征の時にも使えると思って。」
「遠征?」
「あ、いや。それはこっちの話。」
エイトは言葉を濁した。夜な夜な王都の城を抜け出して、レベル上げをしていた頃の話だ。
「エイトさん、本当にすごいんですね・・・」
少女は家の中を見て回りながら、溜息まじりに呟いた。
「こんなに大きな家をあっという間に作って、たくさんの家具を入れる収納スキルを持っていて、戦うのもすごく強かったですし・・・。」
「うーん、そうかな?」
エイトは、自分では大したことをしているとは思ってはいない。
しかし、ミリエンヌにとってはそうではないようだ。
彼女とはNDAを結んでいるので、彼女の前では心置きなく全力でスキルを使いまくっている。そんなエイトの様子をみて、長命なエルフですら凄いと思うのであれば、人間に見られた日にはドン引きされるに違いない。
最初からそんな予感はあった。だから、人前ではどのスキルもレベル5で止まったように見せかけていた。とはいえ、召喚された時点ではレベル1だったスキルが、半年でレベル5になった時点で、十分驚かれたのだが・・・
「ええと、とりあえず俺のスキルについては、人にはしゃべらないでもらえるかな・・・。」
そういいながら、エイトは頭を掻く。
「はい、わかりました!秘密は守ります!」
ミリエンヌは元気に答えた。その清々しい様子は、エイトには少し眩しく感じられた。
そうして、ミリエンヌはエイトが「木目をそのまま生かした」と言い張る家具の部屋を選んだ。自動的に、エイトは奥側の部屋を使うことになった。
「これで、寝るところは確保できたな。あとは食事、なんだけど、」
エイトはそういいながら、ミリエンヌを食堂まで連れて行った。
「保存食くらいしか無いんだよね。」
そういって、エイトはどこからともなく出した保存食の箱を、テーブルの上に積み上げていった。




