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虚構の勇者  作者: かに
第一章:召喚勇者とエルフの少女
10/199

1-10:キャラクターメイキングルーム(下)

彼は気を取り直してスキルについての情報を調べていく。


まずは、スキルと魔力についての関係についてだ。


スキルを使うには魔力が必要になる。しかし、魔力は「周囲にある魔力を集めて使う」のだそうだ。だから、個々人には「魔力」というパラメータがない。一方、周囲から魔力が十分集まらないと、スキルを使えないことにあるようだ。魔力は目に見えないが、場所によって濃い場所や薄い場所があり、気配である程度の濃度を感じることができる。消費された魔力は、しばらくすると自然に回復するらしい。


重要なポイントとして、魔力は人間や生物が普通に生存するためにも、多少は必要なのだそうだ。そのため、全く魔力がない場所では、この世界の生物は長く生きていられない。魔力の薄い場所で生存するには、何らかの方法で魔力を補充する方法が必要になるそうだ。


「周りに魔力がないと、生きていけないのか。」


ひょっとすると、これが英人の元の世界と召喚先の世界との、最も大きな違いかもしれないと、英人は思った。


ただ、魔力に関する説明はあまりなく、たとえば消費された魔力がどうなるのか、魔力を貯めておく方法があるのかといった、英人が気になった疑問に関する情報は書かれていなかった。


「ふーむ、魔力については、現地で詳しく調べる必要がありそうだな。」


英人は、頭にそう刻んでおいた。


次に、スキルのレベルアップについての記述を読む。


スキルのレベルを上げるには、経験値が必要になる。必要な経験値は、スキルとレベルによって異なっていて、レベルが1つ上がると必要経験値量は倍々と増える。例えば、レベル1から2にあがるのに100必要だとしたら、レベル2から3は200,レベル3から4は400といった具合だ。


そのため、人間が人生のうちにあげられるのはせいぜいレベル5程度らしい。長命なエルフが長年研鑽してレベル7か8、非常に長命な魔族や古龍クラスでようやくレベル9に届くか、という感じのようだ。


「うーん、ということは、レベル10のスキルをひとつは取っておきたいところだなあ。どうせなら、強力なユニークスキルをレベル10にしておきたい。」


そう考え、ユニークスキルの一覧を見ていく。ユニークスキルも100種類ほどはありそうだ。しかし、世界で一人だけしか持てないと思えば、100種類というのは少ない気がする。人口が100人ってことは無いだろうし。


「おや、スキル名の表示が黒くなっているものがあるな?」


ユニークスキルの一覧の中には、スキル名が黒っぽい字になっているものもある。説明によれば、すでに取得している人物がいるスキルはそういう表示になるらしい。


「ということは、時間制御、絶対防御、洗脳傀儡、といったあたりは、すでに持ってる奴がいるということか。」


黒くなってるスキルは、詳細についても見ることができない。ただ、名前からしてもヤバイ感じのスキルであることは容易に想像がつく。詳細がわからないにしても、そういう危険そうなスキルを持っている人物がいるということが、予め分かるだけでもありがたい。


つらつらとリストを見ていく中で、英人はひとつのスキルが目にはいった。


虚構改竄きょこうかいざん・・・あらゆる情報を隠蔽、改竄することができる、か。」


端的に言えば、自分自身の姿を完全に隠したり、別の誰かのように見せることができるというのが基本の能力らしい。レベルが上がるごとに、見破ることが難しくなっていき、レベル10ならば自分からバラさない限りは、絶対に見破られなくなる。


そして、このスキルは「虚構改竄きょこうかいざん」のスキル自体を隠すことにも使える。


「・・・これは良いかもしれない。」


英人はふと、召喚された勇者がひどい目にあうアニメや漫画のことを思い出した。


よく考えれば、召喚先の国が自分に対して悪意をもっていないという保証はない。悪意がなくても、警戒される可能性は十分になる。


魔王を倒せるほど強い勇者なら、国を乗っ取ることも容易だろう。そんな勇者を野放しにするようなことは、普通に考えてあり得ない。勇者を御する方法を、何かしら持っていると考えるのが自然だ。


その点、「虚構改竄」があれば、召喚主に自分の情報は極力隠しておくことができ、相手が自分への対策を取りにくくすることができる。いざとなれば、自分の気配を完全に消して、隠れてしまうこともできる。自分の情報が相手には分からないという能力は、敵対するであろう魔王や魔族に対しても非常に有効だろう。


たとえば、ここに書かれている説明が本当ならば、レベル10のこのスキルを使って、魔王のすぐそばまで、完全に気配を消した状態で近づくこともできるはずだ。なにせ、見破られることがないのだから。魔王を暗殺とか、とても勇者らしいとは言えない倒し方だ。しかし、倒せば何でもいいのなら、これほど楽な方法もない。


何といっても、自分に都合のいい情報以外を完全に隠蔽できるということ自体が、英人自身の心の平和につながる。


英人はそう考えた。


「虚構改竄、まさに俺のためのスキルって感じだな。」


英人は自嘲気味に呟く。


説明を何度見返してみても、自分が取得すべきユニークスキルはこれしかないと思うだった。


こうしてユニークスキルはすぐ決まったが、それ以外については、さんざん試行錯誤をすることになった。


そうして、最終的には次のような感じになった。


・虚構改竄【ユニーク】レベル10:何でも隠す。虚像を見せる。書き換える。


・火魔法レベル1:魔法といえばこれでしょう。攻撃にも日常にも、用途は広い。


・土魔法レベル1:建物とか壁とか橋とか作れる、かも。虚像の中身としても使える。


・水魔法レベル1:飲用水。水があれば何とかなるだろう的な?氷も出せる。


・回復魔法レベル1:自己回復超重要。レベルが上がれば解毒や石化解除なども。


・身体強化レベル1:筋力、素早さ、防御力、魔力等を一時的に上げる。基本中の基本。


・鑑定【レア】レベル1:人や物の情報を得る。情報集めは生存戦略のかなめですよね。


・探索【レア】レベル1:半径10mの敵や物体を見つける。情報集めは(略)


・浄化【レア】レベル1:風呂、洗濯、掃除、消毒。実は魔物用攻撃魔法として超重要。


・転位【レア】レベル1:1m瞬間移動できる。レベルが上がると距離も増える。


・空間収納【レア】レベル1:異世界といえばやはりこれ。荷物運びに必要不可欠。


・経験値増加【レア】)レベル10:全てのスキルの取得経験値が大幅に増える。まじで?


属性魔法は、風、闇、光とあと3属性あったけど、これらを取る余裕がなかった。これらの魔法については、スキル無し状態からでも訓練次第で取得することができると説明書きにあったので、これらは最初の時点では持ってなくてもよいだろうと判断した。


本当は、風魔法は最初は取得するリストに入れていたのだけど、後のほうになって「経験値増加」なんてチート級のスキルを見つけてしまったので、泣く泣くこれと交換することになったのだ。


経験値増加は、光魔法をレベル8まで上げてようやく取得できるレアスキルで、人間にはおよそ取得不可能なスキルだ。しかも、レベル1で経験値2倍、レベル2で経験値4倍、というように、レベル数の2倍になる。


・・・こんなチートスキルがポイントで取得できるって、何かおかしくないか?


試行錯誤した結果、経験値増加スキルは、それ自体をレベルアップすることが非常に難しかった。ならば、いっそレベル10にしてしておけば、どのスキルにも恩恵あるしいいよね?ということで、全振りしてみた。


ちなみに、レベル10だと経験値20倍である。これは、確実にチートだ。


だいたい。経験値増加効果の常時発動なんて、ソシャゲの有料アイテムでも売ってない。バランスブレイカーにもほどがある。


何かデメリットがあるんじゃないかと、さんざん調べてみたけど、何も見つけられなかった。あまりに強力なスキルなので、たとえ隠された恐ろしい副作用があったとしても、ここは腹をくくって取るしかない。


ひとつだけ不審な点があるとすれば、経験値増加スキルのレベルは、なぜか虚構改竄のスキルレベルより高く設定できないことだった。だから、経験値増加をレベル10にするなら虚構改竄も必ずレベル10にする必要があった。何らかの関連があるのだと思われたが、検証してみても、結局は分からずじまいだった。


虚構改竄もレベル1にしといて、経験値増加スキルで上げることにすれば、もっと他のスキルもとれるのにと思ったのだが、できないものはしょうがない。


・・・これでも十分チートだし、いいよね?


残る懸念点は、物理的な戦闘に使える基礎スキルが「身体強化」しかないことだろうか。敵から逃げたり隠れたりすることには絶対の自信があるけど、倒すとなると攻撃力も必要になる。


実際、敵との戦闘にどの程度スキルが必要になるのかと思い、モンスターとの戦闘シミュレーションで検証に検証を重ねてみた。


そうして最終的に、魔法と身体強化のレベルが十分に上がれば、初期状態が先のようなスキルセットになっていても、問題なく戦えるようになるという結論に落ち着いた。逆に言えば、召喚先の世界についたら、可及的速やかに戦闘系のスキルを上げることが最重要課題だということだ。


最悪、「虚構改竄」を使えば敵から絶対に逃げることはできるので、レベル上げ自体のリスクはほとんど無い。経験値増加もあるし、すぐにレベルがあがるだろう。「虚構改竄」と「経験値増加」を最大レベルで取得することが前提であれば、現在のスキルセットは最適と言える。


「ふう、これで行くかー・・・」


ここに至るまで、どれほどの時間がたったのだろうか。


途方もないスキルに組み合わせで試行錯誤を繰り返し、ようやく英人の中で取得すべきスキルとレベルは確定した。


時計もなく、空腹になることもなく、疲労も眠気も襲ってこないので、時間の流れがまったく分からない。数時間しか過ぎてないような気もするし、何週間も過ぎたような気もする。


まあでも「時間制限はない」と言うくらいだから、この場所では時間自体が流れていないか、流れていても非常にゆっくりなのだろう。さもなければ、召喚主をものすごく長い時間待たせていることになるわけだし。


「質問していいですか?」


「お答えできる範囲でよろしければ。」


どこからともなく返答がする。


「召喚された人間で、俺みたいにマニュアルを見ながらスキルを決めた人はいましたか?」


「いえ。ご自分でスキルリストを決められたという例は、過去に記録がありません。スキルの詳細をご自分で確認された方もいません。」


・・・ほうほう。


「向こうの世界の人たちは、こういう場所があることを知っているんでしょうか。」


「存在は知っているものと推測されます。しかし、どのような処理が行われるのかは、ここを通過した召喚者から聞いた以上の情報は無いと思われます。」


・・・そうかそうか。


つまり、過去の召喚者は自分が得たほどの事前情報を、持っていない。


あちらの世界の人たちは、この部屋や勇者召喚時に行われる処理について、勇者から得られる情報以上のことは知らない。


過去の勇者で、自分でスキルを細かく選んで設定した人物もいない。当然、自分以外の自分つがもつユニークスキルもしらない。


・・・俺は歴代勇者の中でも、限りなく最強に近い力を持つことになるかもしれないな。


シミュレータでも、魔王や上位の魔族は出すことができなかった。情報がないのだから当たり前ともいえるが。他の魔族の強さからすれば、たとえ魔王が最強の魔族より100倍強くても、英人が勝てそうだと思えた。


「もしかして、魔王もワンパンだったりして。」


とっとと魔王を倒して、異世界でスローライフでも楽しめたらいいなあ。


そう考えると、英人はにやにやが止まらなくなった。といっても、体があるわけではないので、心の中でにやけただけだったが・・・


「スキルの設定は終わりました。」


設定が終わったらそう言えと言われてたことを、英人は唐突に思い出した。


「承知致しました。設定したキャラクターを作成します・・・成功しました。」


突然、英人は体の重みを感じる。思わず両手を目の前に上げた。


「おおお?」


手がある。よく見ると、手の皺がなくなっている。若々しい手だ。


それを見て、年齢を18歳に設定したことを思い出した。あまりに最初のほうで設定したので、設定したことすら忘れていたくらいだ。


「転送を開始します。よろしいでしょうか?」


最終確認のようなアナウンスが流れる。


何か忘れていることがあるような・・・あ、そうそう。


英人はユニークスキル「虚構改竄」で、ユニークスキルそれ自体を「持っていない」という状態に書き換えた。念のため、レアスキルも全て「持っていない」ことにした。さらに「虚構改竄」を使って、召喚先の連中からよからぬことをされたときの対策も施した。


「おっと、ついでに、」


虚構改竄のサブスキルの中に、記憶を操作するものがあることを思い出した。どうせ異世界にいくのだから、元の世界の嫌な思い出は封印しておこうと思ったのだ。


下手に誰かに見られても嫌だしね。


「記憶操作」


英人は、スキルを使って自分の思い出したくない記憶を、不用意に思い出すことに制限をかけた。念のため、この召喚の間に関する記憶にも制限をかける。誰かにうっかりのぞかれたら致命傷になりかねないからだ。


「・・・」


そうして記憶に制限をかけると

、すうっと何か心の中で解けていくような感触があった。それと同時に、心が随分と軽くなったような気がする。これまで、心の多くの部分を押しつぶしていた、重しのようなものが溶けて消えていくようだ。


「これで良し。」


英人の表情は、いつのまにか希望に溢れる若者のそれになっていた。


「いつでもいいぞ。」


心なしか声も弾む。


その直後、機械的な声が響いた。


「承知いたしました。これより転送を開始します。」


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