8 クロートゥルの怒り
フォントを変えられないので、ちょっと分かりにくい表現になっちゃいました。
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勇者達が決戦の場に着くと、モンスターの大群に蹂躙されている兵隊や傭兵達が見えた。
「何だ、この数は……。」
「呆けている場合じゃないでしょ。少しでも数を減らすわよ!」
2連戦の雑魚戦。
「いくら勇者様達が強いと言ったって、こんな数どうにもならねーよ!」
「俺達はお終いだぁ……。」
兵隊や傭兵達の嘆きの声。
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「で、ここで大魔法使いクロートゥルの登場! っと。」
小野塚はRPG制作ソフトのイベントエディタに、ポチポチとイベントを入力していく。
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「俺様が雑魚を一掃してやるよ! 勇者達はボスを頼むぜ!」
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「と言った後、クロートゥルがホーリーバーストを詠唱。画面が白く光って、雑魚が消える。んで、勇者達がボスまで辿り着けるようになる……。」
呟きながら、エディタにイベント内容を入力する。
保存した後、テストプレイ画面を起動して、結果を確認する。
「うーん。ボスを含めて3連戦はきついかも。ボスの近くまで自動で動く演出を入れよう。その後、自由に動けるようにして、回復したり、装備を見直したりと準備が出来るようにする。で、ボスの近くで決定ボタンを押すと始まるように……。」
ポチポチ。「あー、引き返したり出来ないように、離れようとすると、仲間が何処に行く気!? って叫ぶようにしよう。よくある奴―。」
小野塚はぐふふと笑う。
『楽しそうだなー……。』
暗くて重苦しいクロートゥルの声がして、小野塚はビクッとした。
「何その、小説で、地の底から聞こえるって表現されそうな声……。」
『思い当たる節はないのかよ……。』
恨みがましい声に、小野塚は背筋がゾクゾクするのを感じた。何故か命の危機まで感じる。
「いえ、まあ、ありますけども……。」
恐怖のあまり、つい敬語になってしまった。「でもさー、折角大魔法使いって設定を考えたのに、クロートゥルが活躍しないままとか、つまんないし……。」
『今のイベ、俺様が出しゃばり過ぎだろ……。勇者より活躍しているように聞こえるぞ。』
大魔法使いになったクロートゥルは尊大になり、自分を俺様と呼称するという設定がしっかりと反映されているらしい。本人が俺様と言い出している事に、小野塚は恐怖心が薄れるのを感じた。
「雑魚を片付けただけだから大丈夫だろ。これが二次創作で、オリキャラを活躍させたら、主役差し置いてオナニー臭強いってなるけど、俺のオリジナルだし。」
『素直に俺様を主役にしろってツッコまれるのに、100万ゴールドを賭ける。』
「大金だな、おい。さすが国を相手の仕事だけでもいいのに、戦闘狂で金稼ぎまくってるだけある。……ま、どんなにまともなゲームを作っても、偉そうに文句言う奴は絶対に出るから。そんなの気にしない。」
『そうやって、俺様の心も無視したわけだ。』
クロートゥルが冷たく突っ込んできた。
「そ・それについては、悪かったと思ってるよ……。でも、どうしてもお前を活躍させたくて……。」
『あんたの設定通り、師匠の死に顔は満足げだった。でも、だからと言って、俺様があんたを許すかは別だからな。俺の意思を尊重するみたいな事を言った癖に……。』
「そういう怖い事を言うのは止めろよ……。」
『俺様はいつかあんたの前に現れる。復讐してやるからな。』
「ひいっ。」
小野塚は震えあがった。ただの創作物にそんな事が出来る筈がないと思うが、そのただの創作物が、こうやって話しかけてきているのだ。目の前に現れない保証もないのではないかとも思った。
『……なーんてな。まあ、恨んではいるが、復讐はしないさ。ちょっと炙る位はするかもだけど。』
「お前の攻撃力で火の魔法を出したら、一般人と変わらない俺なんて、骨も残らねーよ!」
漫画の敵キャラが、モブをいたぶろうとするが、強すぎて殺してしまうシーンが思い浮かんだ。敵キャラは、雑魚は脆すぎると笑うのだ。
『そうか。神だから魔王くらい強いかと思ったのに。』
「ただの人間だよ。鍛えてるオタクも居るけど、俺は、そういうのとは無縁のピザデブオタクだから。」
卑下するのは空しいが、太っているのは事実だった。
『言葉はよく分からないが、神が、民から搾取する腐りきった王侯貴族みたいに、丸いのは分かった。』
「ま・まあ、そう言う事。」
クロートゥルが言っているのは、国民がやつれているのに、王や貴族達は贅を尽くしている……という勧善懲悪な創作によく出てくる設定だろう。主人公はそんな醜い者達に裁きを下し、庶民の読者はスカッとする。
運動不足と食べ過ぎで太っただけで、誰も犠牲にしていないのに、そんなのに例えられるのは、小野塚にとって不快でしかない。だが、クロートゥルのいる中世ファンタジーで太っている人間といえば、そういう悪人か、子供を沢山産んだ肝っ玉母ちゃんくらいだろう……と考えると我慢も出来る。
『なあ、神よ。生き返らせられるのは、モンスターに殺された人間だけって設定は止めないか?』
「何だ、唐突に……。……はっ、もしかして、俺を拷問して殺しても、生き返りの魔法を使えばいいようにしろって事?」
小野塚は震える。「発想が怖すぎんだよ! どんだけエイラルソスの死を恨んでるんだ!」
『ちっ。』
「そこは否定してくれよ……。師匠を生き返らせたいだけとか、言ってくれ……。」
『死んだ人間を生き返らせる方法はあるが、やっても、すぐに死霊系モンスターになるだけだし……。師匠の動く死体と戦うとか有り得ない。』
クロートゥルが息をつく。『まあ、神への拷問は諦めるとして……。実際何でそんな設定なんだ?』
「俺への恨みが深いな……。まあ、ゲームで、生き返りの魔法とかアイテムとかバンバン使う癖に、イベントで死んでも生き返れないって矛盾が嫌で……。まあ、そういう魔法とかアイテムとか使いまくったのに駄目で、何で駄目なのって嘆いてるゲームもあったけどさ……。」
小野塚は唸る。
『へー。あんたなりに考えているんだな。』
「ああ。でも、モンスターに殺された時だけって設定を付けとけば、悪人に殺された時は死んだままで悲劇も作れる。ただ、モンスターに殺されても、余りに時間が経ってる場合は駄目って事にしとかないと、滅んだ町やダンジョンで転がってる骨も生き返る事になるから……。」
『ふーん……。』
「何か興味なさそうだな……。だったら、俺はゲームの続きを作っていいか?」
『ああ、そうしてくれ。俺にもやる事があるしな……。』
何だか嬉しそうだが、声が……。本当にこっちに来る気なのでは……と小野塚は不安になったのだった。
結局ホラーなのでは? みたいな展開になってきてしまったw