008
冒険者パーティが俺のダンジョンにやってきた。
客としてではない。
当然、敵としてだ。
俺は彼らのことをダンジョン第2階層から確認していた。
彼らは順調に迷宮を進み続けていた。
その進みはゆっくりとしたものではあったが慎重に事を運ぶ彼らの姿は歴戦の冒険者なのだと実感させるものであった。
「さて、どうしたものか。」
冒険者ギルドがダンジョン制覇に褒賞金をかけているとあって彼らがあきらめて帰ることは考えにくい。
それは今まで観察して分かっていたことだ。
だからこそ、俺は何か手を打たなくてはならない。
彼らを撤退させるか、もしくは殺す手立てを考えなくてはならないのだ。
敵とはいえ人間を相手どることに俺は若干の後ろめたさを………感じなかった。
びっくりするくらいに俺は何も感じていなかった。
確かにステータス上今は魔王だ。
だからなのだろうか。
俺はたとえこの手で人間を殺したとしても何も感じないだろうと確信していた。
だからこそ冷静にこの状況を見極めることができた。
彼らを効率的に殺す手段は無いかと探していた。
そんな俺にアドバイザーが声をかける。
『マスター、彼らは歴戦の戦士です。マスターが前に出るのは危険があります。なので、ここはスライムを使って撃退してはどうでしょうか?』
アドバイザーの言っていることはもっともだ。
俺自身、アドバイザーの分析を聞いて少しの緊張感を持つに至っている。
だからこそ前に出なくて済むのであればそれに越したことは無い。
しかし………。
「スライムであいつらを撃退することができるのか?あわよくば殺すことも。」
『難しいかもしれません。彼らは下位のスライムはもちろん、上位のスライムへの対策もしっかりとしています。しかし、戦いに絶対はありません。運よく数人でも戦闘不能にできれば撤退するかもしれません。』
確かに戦いに絶対はないだろうがそれでも俺はスライムたちに己の命を預けるようなことはしたくなかった。
今なら油断している隙をついて俺が魔法を打ち込むことができる。
この好機をみすみす失ってもいいものか………。
俺がそんな風に迷っているとアドバイザーがなおも言葉を続けた。
『なにより、スライムに相手をさせれば相手の戦闘力が正確に把握できます。マスターが出るにしてもそれからでも遅くはないと思います。』
んー、スライム相手の戦いで戦闘力がわかるものだろうか。
それには少し疑問が残るな。
「スライム相手で正確な戦闘力が把握できるのか?適当に手を抜かれてしまうのがおちじゃないか?」
『いえ。戦っている姿さえ確認できれば私の方で正確に解析して見せます。少なくとも魔術師に関しては確実にこの方法で実力を把握できるでしょう。』
アドバイザーがそこまで断言するということは何か策があるのだろう。
その策を聞いたりすることはしない。
どうせ俺には理解できないだろうからな。
後はそれを実行するかどうかの決断だけだ。
………よし。
「分かった。スライムたちに相手させよう。」
『ご決断痛み入ります。』
「で、どうすればいいんだ?第1階層に行ってスライムに命令すればいいのか?」
『いえ。ダンジョンの魔物はマスターと繋がっています。直接命令しなくてもこちらから念じていただければ彼らに命令を届けることができます。』
「そうなのか。じゃあ、早速やってみよう。」
俺はそう言うとスライムたちに侵入者を襲うように命令した。
これでいいのだろうか?
俺は再び第1階層のマップを表示した。
そこには階層に広く分布したスライムたちの位置が映し出されていた。
彼らは皆一様に冒険者に向かって進んでいた。
「これでよさそうだな。」
『はい。このスピードでしたら1時間以内には1組目のスライムが冒険者を襲うことでしょう。』
アドバイザーの言葉の通りそれくらいの進度でスライムたちは進んでいた。
後はこれをここから眺めているだけだ。
俺は再び冒険者たちの様子を写したウィンドウに視線を移すのであった。
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>>Side:侵入者 ダンテ
「敵がくるよ。」
戦闘を行くロレンスから声が上がった。
皆武器を構える。
俺も腰の鞘からミスリル製のロングソードを抜いた。
進行方向の角を見張りながら陣形を整える。
盾持ちのルスタンとマルセルが前に出る。
続いて近接攻撃持ちの俺とユージンがその後ろには遠距離攻撃持ちのオーベール、ピラール、メルタが陣取った。
パウラはさらに後方で皆の支援をする。
ロレンスは一番後ろに下がり後方からの奇襲を警戒する。
さあ準備は万端だ!
いつでもかかってこい!
そんな意気込みをよそに角からやってきたのはスライムだった。
それも上位種などではない普通のスライムだ。
最弱の魔物とまで言われるスライムだったのだ。
俺は全身の力が抜けるような思いをした。
俺だけではないパーティの全員が拍子抜けしたと言った表情をしていた。
何でスライムなんだ?
俺らを見てスライム程度でいいと思ったのか?
このダンジョンの主は馬鹿なのか?
それとも馬鹿にしているのか?
色々な疑問が浮かぶがそれにこたえてくれる人はいない。
俺は目で戦闘のルスタンに合図を送る。
ルスタンは無警戒にスライムに近づいた。
当然スライムは攻撃をする。
しかし、最弱のスライムの攻撃がルスタンに効くはずがない。
ルスタンは危なげなくその攻撃を盾で受けると床に落ちたスライム目掛けて右手の剣を振るった。
その剣は見事スライムの核を切り裂き、スライムを絶命させるのだった。
ルスタンがこちらに向き直り肩をすくめる。
俺も同じように肩をすくめた。
ダンジョンに入り込んで初めての戦闘はこうして終わったのだった。
「ふむ、ただのスライムとは拍子抜けだったな。皆、一応警戒しながら進むぞ。」
俺は皆に警戒を促す様に言う。
しかし、皆の視線はその言葉に懐疑てきっであった。
俺だって同じ気持ちさ。
スライムを出してくるようなダンジョンで警戒もくそもあったものじゃない。
そんなことを思っているとルスタンが俺らのもとまで戻ってきて口を開いた。
「警戒なんて必要あるのか?スライムだぞ?」
「そうですね。私としても警戒の必要はないと思います。最初から罠もないですし早く進むことを第1に考えてもいいのではないでしょうか?」
ルスタンの言葉にマルセルも同意する。
他のメンバーも皆頷いてそれに同意した。
ただ1人、パウラを除いて。
「いえ。警戒は必要だと思います。先ほどの襲撃もこちらの警戒心を緩める目的かもしれません。」
パウラの言葉ももっともだった。
それが証拠に今こうして俺たちは警戒心を解いてしまっているのだから。
だからこそ気を引き締めていくべきだろう。
俺はそれを皆に伝えるために口を開いた。
「パウラの言う通りだ。こんな場合だからこそ一層の警戒心を持つべきなんだ。冒険者と言うのは死んでしまえばお終いなのだから警戒はしすぎて悪いことは無い。」
俺のその言葉を聞いて何人かは納得を示してくれたがルスタンをはじめとする何人かは不満げな声を上げるのであった。
しかし、そこは長く連れ添ったパーティ皆気持ちを切り替えてダンジョン探索を再開するのであった。
>>Side:侵入者 ダンテ End
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「おい。簡単に撃退されちゃったぞ。それも1人に。これじゃあ相手の実力を探ることなんてできないんじゃないか?」
俺はスライムを撃退する冒険者たちを見てアドバイザーにそう言った。
スライムが撃退されるのは予想通りであったがこうもあっさりとは思わなかった。
これほどまでにスライムとこの冒険者の実力に差があったのか。
それを実感させるだけの戦闘であった。
それ以外に得られた情報は何1つない。
有益な情報など1つも得られなかったのだ。
そのことをアドバイザーに突きつける。
『はい。スライム1匹ではこうなるのは目に見えていました。次は複数体、できれば10匹以上の群れで襲撃することをおススメします。』
そんな俺の言葉にアドバイザーはあっけからんとそう答えた。
まるで最初からそう言う計画でしたとでも言うような口調であった。
「なあ、本当にスライムでいいのか?」
『と言っても、スライム以外に選択肢はありません。マスターが直接赴くにはいまだ危険があります。それはマスターもご理解いただいておりますよね?』
確かにアドバイザーの言う通り俺が直接行くのは危険だ。
冒険者たちのこれまでの行動や今のスライムの襲撃では敵の実力が分からなかった。
そのため例え俺が赴き奇襲をした場合に、その奇襲が成功したとしても倒せなかった場合に俺が殺される可能性がある。
それは何としても避けたかった。
俺はまだ死にたくないんだ。
「確かにその通りだけど………。」
それでもスライムだけでは状況が好転しないのではないかと言う懸念もまた無視できない。
彼らが撤退するつもりがまだない以上、俺は彼らを殺す手段を準備しなくてはならないのだ。
それがスライムと言うのは心もとない。
そんな俺の不安を知ってか知らずかアドバイザーはなおもスライムを突撃させる意見を崩さなかった。
『どのような手を取るにしてもまずは情報収集です。そのためにスライムによる攻撃が今の最適解です。』
そう断言するアドバイザーに俺が折れるのであった。
「分かったよ。で、次はまとめて突撃させるんだっけ?」
『はい。それも、ある程度固まったスライムの集団を連続してぶつけましょう。波状攻撃です。これによりこの冒険者パーティの処理能力を見ることができます。』
「はいはい。わかったよ。」
アドバイザーに提案された通り第1階層にいるスライムたちに固まって冒険者を攻撃するように命令する。
当然、冒険者の前方後方関係なしに波状攻撃することも忘れずに。
そして俺は再び冒険者を移したウィンドウに目を落とすのであった。
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>>Side:侵入者 ダンテ
「ちょっと、さっきから襲撃の頻度上ってないか!?」
前にいるルスタンが叫んだ。
確かに彼の言う通り襲撃の頻度は上がっていた。
「スライムだけとは言えこれは面倒です!」
そうだ。
確かにスライムだけなんだ。
だからこそ1匹1匹は簡単に対処できるがそれでも間髪入れずに襲撃してくるからこそ俺たちは前に進めずにいた。
「俺たちが馬鹿にしてるの聞いてやけになってるんじゃないだろうな!?」
確かに先ほどはスライム1匹を突撃させてきたダンジョンマスターに俺たちは呆れていた。
だからと言って次はこれはないだろう。
普通スライムでどうこうならないならそれよりも強い魔物をよこすはずだ。
それなのにいまだにスライムしかよこしてこないということはここのダンジョンマスターはスライムに強い思い入れでもあるということか?
「後方から上位種来たよ!」
ロレンスの言葉にそちらに目をやる。
あれは災害級と呼ばれるプレイグスライムだ。
あんなものまでいるとは………。
俺らはこのダンジョンの危険度を過小評価していたのかもしれない。
「オーベール!メルタ!行けるか!?」
あれは近接が相手するのはまずい。
俺はすかさず魔術での応戦を命じる。
その考えが伝わったのかオーベールがすぐに魔法の詠唱に入った。
「猛る火をこの手に、我が求めるは礫、眼前の敵を打ち抜け、ファイヤーボール!!」
オーベールが放った火の玉はプレイグスライムを焼き尽くした。
一先ずはこれで安心だ。
いや、まだだ。
次は前方からポイズンスライムが来た。
少しずつスライムの上位種も増えてきていてそれの対処にリソースを割かれる。
このままの勢いが続けばいつか戦線が崩壊するだろう。
しかし、今はこれを続けるしかない。
やつらの襲撃は後方からも来ているからだ。
そのために俺たちは撤退することすらできずにいた。
「皆、スライム相手とは言え手加減などするな!!出し惜しみは無しだ!!全力で殲滅しろ!!」
俺の号令を聞いてみな一様に気合いを入れなおした。
俺も右手のロングソードを強く握りしめる。
「また、後方から来たよ!!」
ロレンスのその言葉を受けて俺は後ろに駆けた。
敵はスライム2体、メタルスライム1体、ポイズンスライム1体。
俺はすぐさま一番面倒くさいぽインズスライムに近寄ると1撃のもとに切り伏せた。
そのままメタルスライムに向き直り剣を振るう。
金属の体を持つメタルスライムは鉄の剣では切り裂くことが困難だ。
しかし、俺の剣はミスリル。
その鋭い刃はメタルスライムの体を容易に両断した。
残りは下位のスライム2体だ。
続けて放たれた2連撃をスライムの核に当て一掃した。
「後ろは俺がフォローする!全員で前方のスライムを掃討しろ!」
俺はその場に留まりそう口にした。
「言われなくても。」
「相分かった。」
ルスタンとユージンの元気の良い返事を聞きながら俺は再び襲撃してきたスライムの集団に目を向けていた。
次の集団はスライム1匹、カロウドスライム1匹、スタンスライム1匹、バウンドスライム2匹だ。
まず倒すべきは………腐食攻撃持ちのカロウドスライムだ!
俺の1撃はスライムの核を切り裂いた。
次はスタンスライム………。
「っつ!!」
勢い良く飛び跳ねたバウンドスライムの体当たりを受けた。
俺は体勢を崩しながらも他のスライムの動きに注意していた。
特に麻痺攻撃持ちのスタンスライムの攻撃を受けるわけには行かなかったからだ。
再びバウンドスライムが勢いよく突撃してきた。
俺はそれに合わせて剣を振るう。
バウンドスライムはその攻撃を避けることができずに両断された。
しかし、バウンドスライムはもう1匹いる。
スタンスライムの動きに注意しながらもう1匹のバウンドスライムの相手をする。
多少勢いがあるとは言っても所詮はスライム。
俺は危なげなくバウンドスライムを処理すると。
そのままスタンスライム、スライムを処理していった。
後方からくるスライムの影はない。
一先ずこちらは対処できた。
前方に目をやるとそちらは変わらずスライムの襲撃を受けていた。
俺はすぐさま前方に向かって駆け始めた。
>>Side:侵入者 ダンテ End
--
「………。」
『………。』
ダンジョン第2階層の居住区画を静寂が包んでいた。
いや、スライムだから分かっていたことではあるが冒険者の一団は見事に集団を撃退していた。
むしろ、彼らの全力を引き出しているスライムを褒めるべきだろう。
しかし、状況はこちらが劣勢だ。
このままのペースでいけば第1階層にいるスライムすべてをぶつけても彼らを倒すことはできないだろう。
それはアドバイザーもわかっているのだろう。
だからこそ黙って次の手を考えているのだ。
そう信じたい。
でも、いい加減この静寂も苦しくなってきた。
煮え切らない状況に打開策を講じる必要がある。
そのためにはまずは相談だ。
「なあ、次はどうしたらいいと思う?」
『次ですか?』
「ああ。このままスライムをぶつけていてもあいつらを殺すことができないのはおまえもわかっているだろう?」
『そうですかね?私はむしろこのままでも十分に勝ち目があると思いますが。』
どうやら俺とアドバイザーの認識は違うようだ。
アドバイザーには何か見えているのだろうか?
しかし、そんな考えを読もうにも俺には何が何だか分からないだけだった。
「どうしてそう思うんだ?」
『彼らはスライムの撃退にリソースの消費量を度外視した全力を注いでいます。ならば先にリソースが切れるのは彼らでしょう。』
「いや、それは俺も考えたが、先に第1階層のスライムがすべていなくなる方が早い気がするぞ。」
『それはそうでしょう。』
「なら。」
『しかし、スライムはダンジョン機能で増やすことができます。現在のマスターのMPを考えれば彼らの方が先に崩れます。』
アドバイザーのその言葉に頭を殴られるような衝撃を受けた。
そうじゃん。
確かにダンジョン生物は<魔物召喚>で生み出せるんだ。
だからこそ比較しなくてはならないリソースは第1階層のスライムだけではなく俺のMPも含めるべきじゃないか。
ん?
でもそれなら………。
「なあ、ランダム召喚でスライム以上のものが呼び出せれば、もっと簡単に方が付いたんじゃないか?」
そう。
例えばドラゴンのような生物であればこんな根競べみたいな状況にならずとも冒険者をせん滅できたのではないかと思うのだ。
その辺をアドバイザーが考えてなかったとは思えない。
『確かにその手も考えましたがランダム召喚は確実性が乏しいので今回は候補から外していました。しかし、悪い手ではありません。』
「なるほどな。」
確かにそうか。
ランダム召喚でまたスライムとかになったら結局は今と同じ状況になっていたしな。
それならランダムでも指定でもどちらでもいいということになるか。
だったらアドバイザーの性格的に確実な指定召喚の方法で事を進める方を提案するよな。
「なあ、ランダム召喚でもいいだよな?」
『はい。事ここに至ってしまえばもうランダム召喚だろうと指定召喚だろうとやることにそう変わりはありません。そこはマスターの好みで決めていいかと思います。』
それならランダム召喚行ってみるか!
久しぶりに運試ししてみたいしな!
戦いの最中だというのに能天気にそんなことを考えながら俺は謁見の間へと赴くのであった。
そこはがらりと寂しい雰囲気が漂う広場だった。
俺は玉座の前に立つと手を掲げて口を開いた。
「<魔物召喚>!」
体の中からMPが減る感覚とともに謁見の間を眩い光が包んだ。
光はやがて収束し、謁見の間に1匹の魔物を呼び寄せた。
それは薄い空色をしたゼリー状の生物であった。
そう、スライムである。
しかし今までのスライムと違いそのスライムは謁見の間を埋め尽くさんばかりの巨体を有していた。
「………また、スライム。」
しかし、そんな巨体を持っていようともスライムはスライム。
俺は落胆する気持ちを隠せなかった。
『マスター!』
そんな中アドバイザーは興奮した声色で言葉を発した。
その勢いを怪訝に思いながら続く言葉を待つ。
『あれはエンペラースライムです。スライムの上位種でも最上位に近い個体ですよ。』
「エンペラースライム?」
『はい。見たところあれは通常のスライム同様に特殊な性質を持たない種のようですが、それを差し引いても強大な戦力であることに間違いありません。』
強大な戦力。
その言葉に一気に俺の関心が向けられる。
え?
でも、スライムだぞ?
「スライムなのにか?」
『はい。エンペラースライムは巨大な体が意味する通り保有する魔素が莫大です。量だけでなく密度もです。このレベルになると普通にドラゴンだって相手取りますよ。』
ドラゴン。
それは以前痛い目を見た魔物の中でも強者とされる存在だ。
それと戦える存在と言うだけで期待が持てる。
俺は期待の籠った目でエンペラースライムを見た。
「こいつならあの侵入者たちを撃退できるか?」
『もちろんです。』
力強く答えたアドバイザーの言葉に俺は胸を躍らせる。
ならばやることは1つだ。
俺はエンペラースライムに向き直り口を開いた。
「第1階層に赴き侵入者を撃退せよ!」
エンペラースライムは1度体を震わせるとすぐさま第1階層目掛けて駆けていった。
蠢くその巨体に俺は期待の籠った目を向けるのであった。
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>>Side:侵入者 ダンテ
「はぁ、はぁ。」
俺たちはスライムたちの強襲を退け肩で息をしていた。
そうだ俺たちは倒しきったのだ。
パーティメンバー全員の目はやり切ったという達成感で輝いていた。
それはきっと俺自身も同じだったのだろう。
そんなことを考えているとマルセルが近づいてきた。
「リーダー。これからどうしますか?」
これからどうするか。
それは進むか撤退するかと言うことだ。
これだけの戦闘をこの先も強いられると考えると確かに撤退も視野に入れたほうがいいだろう。
しかし、皆の目はそんな考えなどないと言っているようであった。
確かに消耗は激しいが連戦できないほどではない。
何よりスライムの襲撃が激しいから撤退しましたなんて報告はしたくないのだろう。
それは俺も同じ気持ちだ。
だからこそ………。
「進もう。」
「そうこなくっちゃ。」
ルスタンが同意の声を上げる。
他の皆も満足そうに頷き返していた。
しばしの休憩を挟み、俺たちは再びロレンスを先頭にしてダンジョンを進み始めた。
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しばらく進むとロレンスが立ち止まった。
皆不思議そうにしながらも同じように立ち止まる。
1秒、2秒。
時間だけが経過していく。
こらえ性の無いルスタンがロレンスに声をかける。
「おい、ロレンス………。」
「しっ!」
その言葉を遮り静かにするように言うロレンス。
皆その槍問いを見て音をたてないように注意する。
しばらくするとロレンスが口を開いた。
「何か来る。」
神妙に口にしたその言葉に皆は懐疑的な視線を向ける。
「また、スライムじゃねえのか?」
ルスタンが代表してそう言った。
「そうかもしれない。でも、大きい?いや分からない。こんなのを俺は知らないんだ。」
なおも神妙そうな声を発するロレンスに皆に緊張感が走る。
「敵がくるなら戦闘態勢をとるぞ。皆位置につけ!」
俺が号令をかけ皆が自分の持ち場に着く。
陣形を作り襲撃への準備万端。
いつでも来いと意気込み通路の先を見る。
そこから現れたのは。
薄い空色をしたゼリー状の何かだった。
スライムのようなそれは通路全てを埋め尽くしてもまだ足りないと言わんばかりの巨体を誇っていた。
「何だあれは!?」
ルスタンが吠える。
しかし、それにこたえる声は上がらなかった。
皆知らないんだあれが何であるかを。
「リーダー!!」
「っく!!てっ………。」
「後ろから襲撃だ!!」
撤退を指示しようとしたその瞬間紅砲にいたロレンスから声が上がる。
そちらからは先ほども見たスライムの群れが押し寄せていた。
「くそ!!戦闘だ!!ルスタン、マルセルは前方のやつを抑えてくれ!!そのうちに他のメンバーで後方を殲滅!!しかる後に撤退だ!!」
俺のその言葉を聞いてメンバーが動き始めた。
きっとうまくいく。
今までだって死線を潜り抜けてきたんだ。
そう自分に言い聞かせる。
しかし、そんな思いを裏切るかのように前方からルスタンとマルセルの声が聞こえた。
「あぁああああ………。」
「助けてく………。」
そこには巨大なスライムのようなものに飲み込まれるルスタンとマルセルの姿があった。
その光景に俺は唖然としていた。
呆気ない。
ほんの少しの油断が死につながる冒険者とは言えこうまで呆気なく死ぬものなのか。
そんな気持ちが俺の胸中に沸き立った。
「まさか!あれはエンペラースライム!?」
その光景を見てオーベールが叫んだ。
「何だ!?そのエンペラースライムと言うのは!?」
「私も話に聞いただけですが何でもドラゴンに匹敵するほどのスライムだとのことです。」
その言葉を受けて絶望するのであった。
ドラゴンに匹敵するスライムだと!?
そんなの相手できるわけがない。
「きゃ!!」
「いやだ!!」
俺が唖然としている間にも仲間たちはそのエンペラースライムに飲み込まれていく。
その巨体はもう目と鼻の先に来ていた。
「嫌だ!!死にたくない!!」
その言葉を最後に俺の意識は途絶えた。
>>Side:侵入者 ダンテ End
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