006
「外に行こう。」
ダンジョン第2階層。
その居住区画にて俺は唐突にそう言った。
『はい。マスターのレベル上げですね。いいと思いますよ。』
「いや、スライムたちを連れて行って戦闘をさせてみようと思う。」
『………マスター。』
続く俺の言葉にアドバイザーは呆れたような声色で話始めた。
『以前にも言いましたがスライムではこの不毛の大地で戦うのは困難です。素直にマスターのレベル上げだけに専念しませんか?』
その話は前にも聞いていた内容だった。
当然、その返しは予想している。
ふふふ、俺だって考えての発言なんだよ。
ワトソン君。
「分かっているさ。でも、魔物だってレベルを上げることはできるんだろ?なら、俺がフォローしつつスライムのレベルを上げてやればそのうち不毛の大地でも通用するほどに強くなると思うんだ。」
そう。
つまるところパワーレベリングだ。
俺が率先して敵を倒してスライムたちのレベルを上げてやる。
それに………。
「レベルが上がれば種族進化も起こるんだろ?なら、それも狙っていこう。俺の配下のスライムは半数以上が種族進化していないスライムだしな。」
ふふふ。
俺の完璧な論調にアドバイザーも言葉が出ないようであった。
しばし、その空間を静寂が包んだ。
『分かりました。決定権はマスターにあります。私はそれに適切なアドバイスをするのみです。』
観念してアドバイザーがそう言った。
俺は早速、第1階層に行って外に連れ出すスライムを選別した。
きっと強くなると信じて。
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スライム×5
ポイズンスライム
プレイグスライム
メタルスライム
アルコールスライム
ハイドスラム
俺が連れ出したスライムはこの10匹だ。
10匹のスライムを引きつ入れて俺は以前来たダンジョン目の前の丘の上に立っていた。
何処かに獲物はいないだろうか?
目を凝らして荒野を見回す。
そこは以前と同様に何もない荒野であった。
岩と土ばかりの大地に点々と草木が生えている。
そんな光景が地平線の先まで続いているのだ。
以前と異なる点があるとすれば今は日が落ちて辺りは真っ暗であると言ことだ。
月明かりが当りを包む中、普通なら全く何も見えないはずなのに俺の目は薄っすらと辺りの様子を伺うことができた。
これも【魔王の肉体】の力なのだろうか?
そんなことを考えていると視界の端に動く影を見つけた。
「なあ、あれはなんだ?」
その影は以前見た竜ほどに大きくなく、ウルフほどに俊敏に動くものでもなかった。
どことなく人間のように見えた。
『おそらくあれはゾンビの類かと思われます。』
ゾンビ。
所謂アンデットと言われる魔物だ。
俺はその言葉を聞いて前世のゾンビゲームを思い浮かべていた。
緩慢な動きで生者を襲うその姿は恐ろしさとともに気持ち悪さを感じさせるものだった。
嫌だな。
この世界にはあんなものまでいるのか。
俺は個人的にゾンビと言う存在が好きではなかった。
いや、怖いとかそう言うんじゃないんだ。
どう見てもあれ不潔でしょ?
そんなものが目の前にいること自体が我慢ならないんだ。
俺がどうするか悩んでいるとアドバイザーが声をかけてきた。
『マスター、ゾンビなら今のマスターにはちょうどいい相手だと思います。ゾンビは遠距離の攻撃手段を持ちません。遠くから魔法で一方的に攻撃できるマスターが有利です。』
「そうなのか?」
『はい。同じアンデットでもスケルトンアーチャーや魔法を使うリッチなどと異なり通常ゾンビは道具を使ったり魔法を使ったりする知性がありません。』
アドバイザーのその言葉を聞いて、それならばと俺はそのゾンビに標的を定めるのであった。
敵はいまだ遠い。
俺はゆっくりとそのゾンビに近づいていく。
………きもい。
近くで見るとますます気持ち悪かった。
肉は腐りはて所々落ちてしまっている。
片方の眼球は潰れており、そこから顔が大きくえぐれている。
衣服は一応身に着けているもののボロボロで元がどんな形だったのか判別できない。
そんなゾンビの姿に俺は1つ気になる点を見つけた。
「あれは、剣か?」
『そうですね。剣を装備していますね。』
アドバイザーが俺の疑問に答えてくれた。
ゾンビの腰には鞘に入ったロングソードがあったのだ。
「ゾンビは道具を使えないのではないのか?」
『その認識で間違いありません。これが上位種したハイ・ゾンビなどになると生前の経験を頼りに道具を使うことがありますがゾンビは道具を使いません。目の前にいるそれも剣を装備しているだけで使うことはありませんのでご安心ください。』
堂々と言い切ったアドバイザーの言葉を俺は少し疑いながらもゾンビと対峙する。
うー、見れば見る程気持ち悪い。
なんかツンとする嫌なにおいまで香ってきた。
これ服につかないよな?
とっとと目的を達成してしまおう。
今回はスライムたちの先頭訓練だ。
俺はまず連れてきたスライムの内通常のスライムたちにゾンビに攻撃するように命令した。
「行け!スライムA、B。」
適当な名前なのは仕方がない。
スライムって見た目で違いが分からないから名前つけても誰が誰だか分からないんだ。
閑話休題。
俺の命令を聞いて2匹のスライムはゾンビ目掛けて体当たりをした。
ゾンビはその体当たりを避けることができずに体で受ける。
………。
何も起きなかった。
スライムが必死に体当たりを繰り返すがゾンビは吹き飛ばされることはもちろん、のけ反ることすらしなかった。
それでも愚直に命令を守るスライムたちは必死に何度も体当たりを繰り返す。
次第にそれが煩わしくなったのか、それとも単に動いているものを襲う習性があるのかゾンビは攻撃し続けるスライムを狙ってゆっくりと手を振り上げた。
そんな緩慢とした動きから繰り出される攻撃は大したものではないだろうと思っていると、一転勢いをつけて腕が振り下ろされた。
その勢いは普通に人が殴るのと大差のない勢いであった。
ゾンビの動きからは予想もつかないような攻撃をスライムAはその身で受けてしまった。
攻撃を受けたスライムは強く地面に叩きつけられ体の中心にある核を砕かれてしまった。
すると見る見るうちにスライムのゼリー状の体は形を保てなくなり、水のように流れるようにして大地へと消えていった。
「す、スライムAぇええええええええ!!」
まさか、あんな一撃を隠し持っているとは。
ゾンビとは恐ろしい魔物だったのだ。
きっと、夜の不毛の大地で最強の存在に違いない。
俺のスライムを殺せるほどの存在なのだ。
間違いない。
そんな馬鹿なことを考えているとゾンビが再び腕を振り上げた。
俺はそれを見てとっさに口を開こうとするも、それよりも早くゾンビはその腕を攻撃を続けていたスライムBに叩きつけた。
結果はスライムAと同様だ。
1撃で核を壊されたスライムBは無残な姿となって大地の恵みとなった。
「スライムBぃいいいいいいいいいいいいいい!!」
俺の絶叫が不毛の大地に響き渡る。
どことなくアドバイザーさんからの目線がきつくなってきているように思える。
いや、目なんてないはずなんだけど………。
ないよね?
「よくも。よくも、俺の配下を殺してくれたな!!」
俺は怒りに任せて右手に火の玉を生み出した。
そしてそれを目の前のゾンビ目掛けて打ち放った。
ゾンビの緩慢な動きではその魔法を避けることはできなかった。
威力は十分でゾンビの上半身を吹き飛ばすほどであった。
上半身を失ったゾンビはゆらりゆらりと1、2回体を揺らすとばたりと倒れ伏してしまった。
そして、そのまま動くことは無かった。
勝利とは虚しいものだ。
俺は死んでいったスライムたちを思いながら星空を見上げるのであった。
『マスター、感傷に浸っていないで戦利品を拾うことをおススメします。ゾンビの装備………特にそのロングソードは使えるかもしれません。』
「あ、はい。」
アドバイザーさんの言葉で現実に戻される。
もうちょっとスライムたちのことを思っていてもいいじゃないか。
そうは思わんか?
………誰に聞いているんだろう。
「え?このゾンビから装備をはぎ取るのか?」
『はい、そうです。何か問題がありますか?』
「いや、ばっちぃ。」
そうだ上半身を吹き飛ばしたはいえ未だ腐った下半身が残っているのだ。
そんなのに近寄って装備を取ったりするのは気が引けた。
死者に対する礼儀ではない。
単純に死体に障るのが戸惑われたのだ。
『………ならば、スライムたちにその死体を食べさせてはどうでしょうか?』
アドバイザーさんが呆れながらそう言った。
確かに生きるか死ぬかの世界でそんなことを考えるなんて間違っているのかもしれないけどこちとら20年以上平和な日本で暮らしてきたんだ。
早々、こちらの環境に順応することなんてできない。
………と、言うか。
「スライムってこんなの食うのか?」
『はい。スライムは何でも食べ、何でも消化します。ゾンビの体だろうと問題なく食べきることでしょう。』
「そうなのか。」
アドバイザーに言われ足元に残る8匹のスライムを見る。
ぷるぷると動くその様子からは何を考えているかなど推察できるはずもなかった。
もうちょっとこう、感情表現できないものかな。
お門違いなそんな文句を思っていてもスライムたちの行動は変わらなかった。
俺は気を取り直して残されたゾンビの体を見る。
うん。
自分で触るのは無理だ。
「あれを食べられるか?」
俺は足元のスライムたちにそう聞いた。
すると8匹のスライムは皆思い思いに動き出しゾンビの下半身に群がる。
ゆっくりとその腐った肉をゼリー状の体で包むとその場から腐った肉が消えていた。
それを数回にわたり繰り返すと残されたゾンビの下半身はきれいさっぱり消えてなくなっていた。
時間にして数分の出来事である。
俺はその光景に感動しながら残されたロングソードを手に取った。
それはボロボロの革製の鞘に収まった剣であった。
ずしりと手にその重さを感じる。
俺はゆっくりと鞘からロングソードを引き抜いた。
………使えないだろう、これは。
それは剣の素人である俺でも見てわかる程度にボロボロになったロングソードであった。
刃こぼれと錆がそこら中にあり、一部には大きな罅まで入っていた。
『駄目ですね。』
アドバイザーの判断も俺と同じのようであった。
うん。
この武器は使えない。
もう完全に壊れてしまっている。
『スライムの餌にしてしまいましょう。』
俺はアドバイザーの提案を呑みメタルスラムにその剣を与えた。
それを食べるスライムはどことなく喜んでいるように感じた。
「さて、気を取り直して次行こう。」
スライムがロングソードを間食したのを確認して俺はそう言った。
『マスター、素直にマスターのレベル上げだけしませんか?』
「いや、きっとスライムだって戦いたがっているはずなんだ。俺はスライムの思いを尊重したい。」
俺はそう言うと再び獲物がいないか周りを見回すのであった。
ちょうどいいところにゾンビらしき影を見つけた。
俺はその影目指して再び歩き出した。
--
その後、俺は何匹かのゾンビと時々スケルトンを相手にして勝利を収めていた。
当然、スライムたちのレベル上げも忘れていない。
効果が無くともスライムたちに攻撃させ、とどめは俺が魔法で決める。
そんなことを繰り返していると下位のスライムはすべて種族進化を果たすことができた。
今連れているスライムはこれだ。
ポイズンスライム×2
プレイグスライム
メタルスライム
アルコールスライム
ハイドスラム
カロウドスライム×2
2匹の殉職したスライムを除き8匹の上位スライムが残った。
彼らは精鋭だ。
そんな歴戦のスライムたちを連れて俺はダンジョンへと戻るのであった。
その顔は自然と笑みを浮かべていた。
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「暇だ………。」
ある日。
俺はダンジョン第2階層の居住区画でそう呟いていた。
『暇ですか?』
「ああ、暇なんだ。」
ここ数日自分やスライムたちのレベル上げでそこそこ頻繁に外に出てはいたが、その作業も単調になってきてしまい俺は飽きてきてしまっていた。
ダンジョン内部はいまだ第1階層に罠などを仕掛けていないがそれをする気分でもない。
と言うか、この世界、いやこのダンジョンには娯楽が無さすぎる。
やることと言ったら戦闘をしてレベルを上げるかダンジョンのデザインを弄るかしかないのだ。
これでは暇で暇で死んでしまうではないか!
世の魔王と言うのはこんな気分だったのだろうか?
これならいっそ勇者でも攻め込んできてくれないだろうかと考えてしまう。
………いや、攻め込んでこなくていい。
それは自分の身が危険にさらされるということだ。
そんなのはごめん被る。
しかし、それでも暇であることに変わりはない。
「なー、なんかないか?」
『それはまた漠然とした質問ですが、そうですね………。』
アドバイザーは考えをまとめるかのように言葉を溜めて話始めた。
『それでしたら娯楽を作ってはどうでしょうか?』
「娯楽を作る?」
『はい。ボードゲームなどはダンジョンの調度品として作成することができると思います。』
ああ、なるほど。
確かにこの居住区格にある家具類はそうやって作り出したものだった。
それならダンジョンの機能でボードゲームが作り出せてもおかしくないはずだ。
「それ良いな。採用。」
ボードゲームと言うと何があるかな?
定番どころでチェスや将棋、囲碁やオセロをとりあえずは作ってみるか。
「………<第2階層拡張>。」
俺はダンジョンの機能でボードゲームを作り出した。
いや、それでもこれらのゲームって………。
「2人用のゲームじゃん。」
『そうですね。基本的にボードゲームは複数人で行うものが多いと思いますよ。』
「ここには俺とスライムしかいないんだけど。」
スライムたちがこんなゲームをするとは思えなかった。
つまるところこれらのゲームは作ったところでやれる人はいないということだ。
『………私がいますよ。』
そんな気落ちしている俺に拗ねたような声色でアドバイザーがそう言った。
「え?」
『私がいますよ。私が相手ではご不満ですか?』
「いや、そんなことないけど。できるの?」
『はい、ルールは把握しています。駒を動かすことはできないのでそこはマスターにお願いする必要がありますがゲームの対戦相手を務める程度のことはできますよ。』
これは盲点だった。
そうだよ、これらのゲームは別に相手の手札が見えないポーカーなどと違うんだ。
それなら駒の操作さえこちらでやってしまえばアドバイザーでもゲームができるではないか。
『やってみますか?』
「おう。早速1局お願いする。」
『何からやりますか?』
「そうだな、とりあえずチェスでいいか?」
『分かりました。』
アドバイザーの了承を得て俺はチェスの駒を並べた。
先手、後手は適当にコインで決めて俺たちはチェスに興じるのであった。
俺自体チェスはルールは知っているが定石などを知らない状態だ。
だからこそ根を詰めてやるほどではない。
それでも、負けるのは癪なのでまじめに手を打つ。
それに対してアドバイザーはたいして考えていないかのようにすぐに手を返してくる。
―カタ、カタ
駒が盤を打つ音が響いていた。
そんな時、俺はふと気になったことをアドバイザーに質問した。
「なあ、こっちの世界でもチェスとかあるのか?」
『H-4にビショップを。チェスに限らず先ほどマスターが生み出したボードゲームならありますよ。』
「へー、そうなのか。」
『はい。転生者がくるのはマスターたちが初めてではありません。なぜか、それらの転生者は皆こぞってボードゲームを広めて一財産を築こうとするのです。』
転生者が初めてではないというのは少し驚いたがあの自称神のことだ。
暇つぶしと称して何度も同じことをしていても不思議ではない。
それにしても以前の転生者は、何故ボードゲームで金もうけを考えたのだろうか?
俺みたいに娯楽に飢えていたのかな?
「ふーん。うまくいっているのか?」
『大儲けとはいきませんが、それなりのお金にはなったようですよ。それもあって今ではこの世界でもこれらボードゲームが広まっています。B-4にビショップでチェックです。』
「ぐ。」
1戦目はアドバイザーの勝利だった。
いや、こいつ意外と上手いぞ。
何も考えていないような早打ちなのに的確に急所を突いてくる。
これは気を引き締めないと。
「もう、1局。」
『はい。お相手いたします。』
その後も先手、後手を入れ替えて何局かチェスを打った。
結果は全敗。
いや、アドバイザーさん強すぎませんか?
「がー、勝てねー。」
俺は声を上げて机に倒れこむ。
チェスの駒が机から落ちる音が聞こえたがそんなのは気にならなかった。
『ふふふ。マスターは素直なので手が読みやすいです。』
勝ち誇ったようにアドバイザーがそう口にした。
確かに俺の手は読みやすいだろうよ。
深く読んだりすることはせずに直近の目標に向かって愚直に進むだけなんだから。
それでもこうまで一方的になるとは思わなかった。
『それでも最初の1局よりは最後の1局の方が強くはなっていましたよ。これに懲りずにやり続けていればいづれいい勝負となると思います。』
そう得意げに話すアドバイザーの言葉が俺の心を苛立たせる。
くそ、見てろよ秘密特訓………はできないけど、そのうち目にもの見せてやる。
俺は密かにそう決心するのであった。
………そう言えば。
チェスの駒を手の中で転がしているとふと気になる疑問が湧き出してきた。
気になったことは素直に聞くのがいい。
少なくないこの世界での生活の中で俺はそう学んだのだ。
「こうして、小物をダンジョンの機能で作れるということは武器や防具も作れないか?」
そうだ。
俺はダンジョンの機能を使ってボードゲームなどの小物や居住区画で使う家具、果ては謁見の間で使う調度品まで幅広く作り出している。
それだけのものが作れるのならば武器も作れてもおかしくはないと考えたのだ。
『確かに、マスターの言う通り武器もダンジョンの機能で作成することは可能です。』
「なら、何で今までそうしていなかったんだ?」
『ダンジョンのデザインにはイメージが重要となります。確かに武器をイメージすることはできると思いますが、性能の良い武器をマスターはイメージできますか?例えば剣などは鈍らと名剣の違いが判りますか?』
「あー、確かにそれは無理だ。」
平和な日本で育った以上それらには疎い。
それは剣に限った話では無かった。
まあ、武器があってもそれを使う技能もないから作れても仕方が無かったんだけどね。
『イメージが不十分ですと見た目だけの鉄の塊となってしまいます。そう言ったものも飾りとしては役に立つかもしれませんが武器としては使えません。』
アドバイザーさんがそう話をまとめた。
それでも飾りとしてあるのはいいかもな。
ちょっとした威圧感を与えられるかもしれない。
俺はそんなことを思いながらチェスを片付けるのだった。
『マスター、ボードゲームはもう終わりにしますか?』
「いや、別のゲームをやろう。次は将棋だ。」
『はい。お相手いたします。』
そう口にするアドバイザーの声はどことなく嬉しそうなものであった。
こいつ実はボードゲームが好きなんじゃないか?
そんなことを考えながら俺は将棋盤を机の上に置き、駒を並べていた。
--
―パチリ、パチリ
駒を打つ音が響く。
既に何局か打っているがチェスと同じくここまで俺の全敗だ。
やっぱり、アドバイザーのやつはボードゲームが上手い。
それでも俺はどうにか一泡吹かせようと頭を悩ませる。
日本人ともあってチェスよりは馴染みの深い将棋だからこそ躍起になっていた。
『マスター、王手です。』
「くっそ。」
何度目かになる俺の負けが決定した。
俺は悔しがりながらも駒を並べなおす。
そして再び駒を打った。
アドバイザーがすかさず自身の手を申告する。
1手、2手。
何手か続いたそんな時であった。
―ゾクリ
背筋が凍るような嫌な感覚を覚えた。
何なんだこの感覚は?
まるで体の中に異物が入ったような感覚が一瞬あった。
『マスター。』
俺がそんな感覚に疑問を持っているとアドバイザーが口を開いた。
『侵入者です。』
続くその言葉を俺は一瞬理解できなかった。
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