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003


『魔物を狩って、レベルを上げましょう。』


唖然とする俺にアドバイザーはそう言った。

魔物?

なんだそれは?

俺が知らないものはアドバイザーも知らないんじゃなかったのか?

いや、あくまで情報がないと判断できないだけで知識自体は豊富なのかもしれない。


俺のそんな疑問はよそにアドバイザーは言葉を続けた。


『先ほどは周りを見回しても何もいませんでしたが、きっと探せば魔物の1匹や2匹はいます。それらを狩って経験値を得て、レベルアップしましょう。レベルが上がればステータスも上がり、MPの最大値も上がります。』


一気にまくしたてるようにそう言うアドバイザーの話に俺はついていけていなかった。

つまりどういうこと?

レベルアップってRPGかな?

いや、確かにステータスの中にはレベルって表示があったからそれを指しているのだろうな。

それを上げるために魔物を狩る?

どうやって?

武器なんてないぞ。


『幸いなことに魔王のステータスは普通の人のステータスよりも高いです。それならば殴る蹴るでも十分に魔物を倒せると思います。』


「え?魔王のステータスって高いの?」


『はい。通常、レベル1のステータス平均が10であることを考えるとものすごく高いかと思います。』


確かにそれは高い。

俺のステータスはどれも1,000だ。

通常の100倍と考えると格別なステータスと言えるだろう。

それでも………。


「殴る蹴るじゃないとダメかな?」


『あいにくと今は武器になるものを持っていません。魔法を使うためのMPもないことから殴る蹴るしか方法が無いかと思います。ダンジョンの外を探索して石ころや木の棒など武器になるものを入手できれば話は違いますが。』


ああ、確かにその通りだ。

武器と言っても剣や槍など以外にもある。

自然の中には当然石ころや木の棒は落ちているだろう。

何ならさっき見まわした荒野の中にはそう言ったものが散見していた。

それらを拾って戦えばいいのか。

しかし、うまくいくのかな?


『マスター、案ずるより産むが易しですよ。何事もやってみれば簡単なものです。』


「そこまで言うなら………。」


アドバイザー先生がそこまで言うなら是非もない。

俺はダンジョンの扉に手を当てて外へと躍り出た。


ダンジョンの外は相変わらずのだだっ広い荒野だった。

見渡す限りの岩と土の大地にぽつりぽつりと草木が生えている。

空は晴れ渡っており、さんさんと照りつける太陽の光が大地に熱を与える。


改めて見て思うが酷い環境だ。

こんなところに生物がいるのだろうか?

アドバイザーは探せばいると言っていたが俺はそうは思えなかった。


「なあ、魔物ってやつはこんな環境でもいるものなのか?」


『はい。関連するスキルの情報から推測するにこのような環境でも………、いえ、このような環境だからこそ生息する魔物はいます。』


力強くそう言うアドバイザーの言葉を疑いながら周りを伺う。

相も変わらず乾いた大地が視界を覆っていた。

普通の生物なら水が無ければ生きていけないが魔物はそうではないのだろうか?


いや、元の地球でも過酷な大地で生きている生物はいた。

それを考えればこの環境でも生きている生物がいるような気がしてきた。

俺は少し気持ちが上向きになるのを感じた。

そんな期待を胸に歩き始めた。


「それにしても熱いな。」


『はい。それでもマスターの体ならばその影響も少ないかと思います。』


「そうなのか?」


『はい。【魔王の肉体】とはそう言うものです。環境による影響を最低限まで抑えることができます。』


「へー。これで最低限ってことは本来ならもっと熱いと感じるのか。」


『そうですね。通常の人間であれば10分と生きていけないかと思います。』


「そんなに!?」


アドバイザーのその言葉に俺は驚きの声を上げる。

俺には真夏日一歩手前くらいの暑さに感じていたが、それが本当だとすると今の気温は40℃を優に超えていることになる。

そんな環境に本当に生物がいるのか再び不安になってきた。


こんなことをしていても無駄なのではないか?

騙されているのではないか?

不安は次第にマイナスの思考を呼び寄せてきた。


いやいや。

アドバイザーはこんな大地で唯一頼れるパートナーなんだ。

ここで疑ってはいけない。


そう自分に言い聞かせて俺は足を進めていた。

とりあえずの目的地は周りを見回して一番高台となっている丘の上。

そこまで行けばここよりは視界が良くなるだろうと信じて。

そこまで行けば何かしらが見えるのではないかと信じて。


10分、20分ほど歩いて気が付いたことがある。

普段運動なんて全くしない俺はこれだけ歩いただけで疲労困憊とはいかないまでも肩で息をする程度に疲れるはずだった。

それが一向にその気配はない。

これならいくらでも歩いていられる気がする。


これが【魔王の肉体】なのだと実感するとともに俺がもう人間ではないのだという事実を突きつけられたような気がした。

もうすぐで丘の上にたどり着く。

道中、手ごろな木の棒を拾いそれを杖代わりにしながら歩きづらい岩場を抜ける。


「着いた。」


そこから見える風景は絶景だった。

見渡す限りに続く荒野は地平線の彼方まで広がっていた。

その広大な自然は自分がちっぽけな存在であると実感させるものであった。


そんな感傷に浸っている場合ではない。

当初の目的を思い出し、周りを見回して岩と土以外にないか探した。

目を凝らしてぐるりと体を回して当りを見回す。

何度も、何度も。

何か見つかるまでずっと繰り返した。

俺の視力はそんなに良くないはずなのに不思議とはっきりと周りの様子を見ることができた。


すると、ここよりはるか先に土の色とは違うものが見えた。

それは地平線の上に1本灰色の線が入ったように見える。

注意してその何かを見る。

それは石造りの壁だった。

それもここから確認できるほどに大きな壁。

つまりは城壁だ。


それを見た瞬間俺は歓喜した。

人がいるんだ。

この大地にだって人がいるんだと喜んだ。


しかし、目測でそこまでの距離を測ろうにもどれだけ離れているか見当もつかない。

少なく見積もっても数kmの距離ではない。

だからこそ、そこまで行くのに何日かかるのか定かでは無かった。

それでも人の痕跡が見えたことに喜んでいるとアドバイザーから声がかかった。


『それで、魔物は見つかりましたか?』


そうだった。

ここには魔物を探しに来たんだった。

そもそも俺は魔王なんだ。

そんな俺が人の町に行ってタダで済む保証はない。

今は魔物を倒してレベルアップすることを第1に考えよう。


「少し待ってくれ。」


気を取り直して魔物を探すことに注力する。

と言っても魔物の姿かたちを知らない俺からしてみれば荒野の中で何を探せばいいのか分かっていない。

だから荒野をじっと見つめては違和感が無いかを繰り返していた。


―きゅぃいいい


青空に何やら鳥の鳴き声が響き渡る。

つられて見上げると空高くを1羽の鳥が飛んでいた。

ここからでは影になってどんな鳥が飛んでいるか分からない。

それを見て俺も飛べたらなと思うのであった。


…。

………。

………………いたじゃん。


俺はもう一度空を見上げる。

まさにそこに自分以外の生物がいた。

しかし、空を飛んでいるものをどうこうする手段を今の俺は持ち合わせてはいなかった。

いや、もしかしたら………。


「なあ、空に鳥がいるんだが、あれをどうにかする手段ってあったりするか?」


『今のマスターに取れる手段はその体を使った攻撃以外に、手に持った木の棒で殴りつける、手ごろな石を投擲するなどがあります。目測となりますが数km以上離れていますのでどの手段も難しいかと思います。試しに石でも投げてみますか?』


「いや、やめておくよ。」


俺はそう言うと空を飛ぶ鳥はあきらめて改めて荒野に目をやった。

なんかさっきよりもやる気が下がってきている気がする。

それはせっかく見つけた獲物に手が届かなかったからだろうか。

そんな気落ちした状態で俺は荒野を見回すのであった。


鳥がいるんならその鳥の餌がいる気がするんだけどな。

あの鳥何を食べるんだろう?

虫とかだと見つけるの難しいな。

あとはネズミ?

それもこの荒野から見つけるのは無理だろう。

できれば象くらい大きな生物がいればいいんだけどな。


いや、それはそれで戦うのが嫌だな。

できれば手ごろなサイズで見つけやすい魔物がいてくれればいいな。

なんか極彩色に輝いていたりすれば見つけやすいのにな。


そんな現実逃避を考えながら荒野を見つめていると、不意に視界の端に動く何かを見つけた。


ん?

あれはなんだ?


俺は注意してそれを見つめる。

その何かは灰色の毛並みを持った4足の獣のような姿をしていた。

それが十数匹群れを成して荒野を駆けている。


「なあ。あれはなんだ?」


『分かりませんが、恐らくは魔物かと思われます。群れを形成していることからウルフ型の魔物と推定されます。』


「なるほど。今の俺でも倒せるのか?」


『ウルフ型の魔物はその種類が多く弱いものであればいくら数が集まってもマスターの敵ではありません。しかし、強いものですと1匹でも危険です。』


「そうなのか。」


アドバイザーのその言葉にせっかく見つけたけど戦うのは見送ろうと俺は考えた。

いや、だって勝てない可能性があるなら逃げるべきでしょ?

危険な橋なんてそうそう渡ろうとは思いません。


『あの、マスター。』


俺がそんなことを考えているとアドバイザーが話しかけてきた。


「ん?なに?」


『恐らくですがあのウルフ型の魔物の群れはマスターを狙っていると思われます。』


「はい?」


アドバイザーのその言葉が一瞬理解できなかった。

え?

なに?

俺が狙われている?

何で?


疑問が頭の中をぐるぐると埋め尽くし、言葉にならない。


『ウルフ型の魔物は嗅覚がとても優れています。今マスターがいる場所とあの魔物がいる場所。そして風向きを考えるとマスターの臭いを嗅ぎつけて動き出したと考えるのが無難です。』


俺はそれを聞いて風向きを確認する。

確かに風は俺の背中の方角から吹き、真っ直ぐにウルフたちの方に流れて行っているな。

俺は冷や汗が出る思いをする。


「じゃ、じゃあ。早く逃げないと。」


『いえ。ウルフ型の魔物は足が速いのですでに見つかっている場合、逃げるのは困難かと思います。マスター、すぐに戦う準備をしましょう。』


その言葉に焦りが生まれる。

いきなり戦闘の準備と言われても何をすればいいか俺には分からなかった。


『とりあえずは、周りから投擲できそうな手ごろな石を集めるのがいいかと思います。』


アドバイザーの言葉に従い自分の周りを見回して手ごろな石を集める。

こんな物でも本当に武器になるのだろうか?

そんな不安が俺の胸中に渦巻く。


手にした木の棒を握りしめる。

強く握れば折れてしまいそうなその棒だってれっきとした武器なんだと自分に言い聞かせる。

そうして自分の不安を1つずつ取り除こうと躍起になる。


そうこうしているうちにウルフ型の魔物(推定)は丘のふもとまで来てしまった。

もう数分の猶予もない。


「よし、やるぞ。」


俺は気合いを入れる。

しかし、肝心の気持ちは逃げたくてたまらなかった。

振るえる足を抑えて眼前の魔物を見る。


『頑張ってください、マスター。』


アドバイザーに声援を送られながら俺は足元の石を一つ手に取った。

そしてそれを力いっぱい群れの先頭を行くウルフ目掛けて投げつけた。


「よし!」


結果は命中。

ウルフは石の勢いで頭から血を流し丘を転がり落ちる。

しかし、まだ1匹目だこれがまだ20匹弱いるのだ。


俺は次々と石を投げ続けた。

当然当りもすれば外れもする。


そして、当たった石もウルフに手ひどい傷を負わせているがそれでも致命傷には至っていないのだろう。

体中から血を流しながらも群れに戻って俺のもとまで走って来ようとしている。

それでも確かな手応えを感じた俺はひたすら石を投げ続けた。

次第にウルフの群れと俺の距離は知事まり遂に1匹のウルフが丘の頂上にたどり着いた。


俺は石を投げるのを止め手に持った木の棒でそのウルフの頭を殴った。

骨を砕く嫌な感触が手に伝わった。

それでも生き残るためにはそれをしなければならない。


「くそ!くっそ!!」


俺は悪態をつきながらもウルフを殴り続けた。

次第に丘の上にたどり着いたウルフの数が増えていく。


『マスター後ろです!!』


アドバイザーの声を受けてとっさに左に飛んだ。

間一髪俺が先ほどまでいた場所を飛びかかったウルフが通り過ぎた。


「このやろう!!」


俺はウルフが近寄れないように木の棒を滅多矢鱈に振り回した。

当然、破れかぶれなその行動がすべてうまくいくはずはなかった。

それでも何匹かのウルフはそれで動きを止めてくれた。


俺はその隙に動きを止めたウルフ目掛けて木の棒を叩きつける。

何度目かになる嫌な感触が襲う。

その気持ちを抑えて俺は殴り続ける。


「早く!死ね!!」


暴言しか口から出てこなかった。

自分がこんな醜い人間だったとは思いたくなかった。

それでも生きるために必死に俺は動き続けた。


『マスター!!』


「痛!!」


俺の背後から1匹のウルフが飛びかかってきた。

ウルフは牙をむき出しにし俺の肩口に噛みついた。


「くっそ!!痛!!!!」


俺は上半身を右に左に動かしてそのウルフを叩き落とした。

しかし、その隙をウルフの群れは見逃してくれなかった。

別のウルフが俺の足に噛みついた。


それに対処しようと木の棒を持った手を振り上げると、別のウルフが次は俺の脇腹に噛みついてきた。

俺はその勢いに呑まれて押し倒されてしまう。

数多くのウルフが俺を喰い殺さんと殺到する。


俺は倒れた状態でもなんとか腕を振り回してそのウルフを撃退しようと試みる。

何匹かのウルフはそれで引き離すことはできた。

しかし、数の暴力を前にその行動は焼け石に水となっていた。


それでもここで死ぬわけにはいかないと必死にあがき続けていた俺に光明が見えてきた。

ウルフの攻撃の勢いが先ほどよりも弱まっているような気がするのだ。

いや、気がするではない。

確かにウルフの攻撃の頻度は下がっていた。


俺はまとわりつくウルフを渾身の力で吹き飛ばすと勢いつけて立ち上がった。

そこには未だ意気軒高の数匹のウルフともう息も絶え絶えで倒れ伏す10匹以上のウルフがいた。

俺の破れかぶれの攻撃は確かにウルフの命を削っていたのだ。

そのことを確認できた俺は胸に高揚感が沸き立つのを感じた。


その高揚感に任せて俺は残りのウルフに木の棒を振るった。

強敵だったウルフの群れも数が減ってしまえばどうと言うことは無かった。

その後、数分の時間を使って俺はその場にいるウルフをすべて殺すことができた。


「はぁ、はぁ。よっしゃ!!」


俺は勝利の雄たけびを上げた。

今まさに脅威を退けることができたのだ。

俺自身の力で。


『おめでとうございます。マスター。』


アドバイザーもこうして祝辞を口にしてくれていた。

俺は素直にそれを受け取り喜びを露にする。


【魔王の肉体】のおかげでこれだけ動いたのに少しも疲れを感じていない。

それでも、精神的な疲れを感じた俺はその場に腰を落とした。

青空を見上げ勝利の余韻に浸るのであった。


雲一つない青空を1羽の鳥が悠然と飛んでいた。

そんな風景さえも俺を祝福しているように感じた。


『マスター。』


そんないい気分に浸っているとアドバイザーが声をかけてきた。


「なんだ?」


俺は緩み切った表情で聞き返す。


『先ほどの戦闘を経て良い情報と悪い情報ととても悪い情報が手に入りました。どれからお聞きになりますか?』


ん?

何を言っているんだ?

俺はアドバイザーのその言葉を頭の中で反芻した。

良い情報なら歓迎だ。

悪い情報ととても悪い情報?

冗談じゃない。

そんなものは犬にでも食わせておけと言いたい。

しかし、そう言うわけにもいかない。

意を決して俺は口を開いた。


「じゃあ、良い情報から。」


意を決したとはいっても悪い情報から聞く度胸は無かった。


『はい。この場所が判明しました。ここは人間たちに不毛の大地と呼ばれている場所です。』


「不毛の大地?」


『はい、そうです。そして悪い情報ですが。不毛の大地は巨大な魔物の領域です。ここにいる魔物は強いものが多いです。』


「へ、へー。それで、とても悪い情報は?」


正直、ここまで聞いて今すぐにも耳をふさぎたい気持であったが俺はそれを聞いた。

聞かずにいたらもっと酷いことになるような気がしたのだ。

そう例えば先ほどのウルフの群れよりも強大な魔物に襲われるとか………。


『はい。ここにる魔物は強大なものが多いですがその中でも特に危険なのが竜です。』


アドバイザーそう言葉を口にした瞬間世界が暗くなった。

違う。

日の光を遮るように巨大な何かが空に出現したのだ。

俺はアドバイザーの声に耳を傾けながらそちらを見る。


『今まさにマスターを襲おうとしているそれが竜です。』


それは翼を持った巨大な蜥蜴であった。

いや、蜥蜴と言うのはおかしい。

それは蜥蜴にはない迫力を備えていたからだ。


頭には巨大な角を、口には巨大な牙、手足には爪をはやしていた。

前身は分厚い鱗に覆われ、その瞳は俺のことを見つめていた。

ああ、こいつは確かに竜………ドラゴンなのだろう。

そう思わせるだけの威圧感を前に俺は身動きが取れずにいた。


『マスター!すぐにお逃げください!!』


すごく今更なアドバイスをよこすアドバイザーの言葉に文句を言う暇もなく俺は立ち上がり走り始めた。


「ガァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


俺の背中で竜が吠えた。

空気を震わせるその咆哮に体が震える。


俺は必死に足を動かして丘を下った。

目指すはダンジョン。

あそこに潜りさえすれば巨体を持つ竜は入ってこれないだろうともくろんだ。


『マスター!左に避けてください!!』


「っつ!!」


アドバイザーのその言葉を受けてすぐに左に飛んだ。

直後、先ほどまで自分が走ろうとしていたルートを火の玉が通り過ぎた。


「何だあれ!?」


俺は起き上がりながらそれを聞いた。

いや本当はわかっていたのだ。

ただ信じたくなかった。


『あれは竜のブレスです!マスターすぐにお逃げください!』


ああ、嫌な予感はすぐに当たる。

俺はすぐさま足を動かした。

【魔王の肉体】をフル活用して疲れないのをいいことに全力疾走で丘を下っていた。


丘を下ればダンジョンまではすぐだ。

もうすでにその入口が視界に入っていた。

あと数十秒あれば安全地帯に逃げ込める。

そう思いながら俺は必死に走っていた。


『マスター!またブレスが来ます!!』


2度目のブレス。

またも俺はアドバイザーの声を頼りにそれを回避する。

ああ、数百mの距離が遠い。

倒れ伏した俺はすぐさま立ち上がり再び足を動かした。


あと少し。

後ほんの少しなんだ!

俺は必死に自信を鼓舞して足を動かした。


「よっしゃついた!!っつ!!」


あとほんの十数m。

その時、俺の上に巨大な影が通り過ぎた。

次の瞬間、先ほどまで後ろからブレスを飛ばしてくるだけだった竜が俺の行く手を阻むように地に降り立った。


ダンジョンへの入口はあの竜の足元だ。

竜から逃げるにはダンジョンに入り込む必要があり、ダンジョンに入り込むには竜に立ち向かわなくてはいけない。

その二律背反に晒された俺はとっさに行動がとれなかった。


『マスター!!滑り込んでください!!』


アドバイザーのその言葉を聞き俺はとっさに竜の足元目掛けてスライディングをかました。

その勢いはすごく、竜が反応する前にダンジョン入口の穴に入り込むことができた。

俺は全身に痛みを感じながらダンジョン入口の階段を転がり落ち、最後に扉に体をぶつける。


「痛!!」


しかし、これで安心だ。

竜はここまで来れな………。


『マスター!まだです!!すぐにダンジョンの中へ!!』


アドバイザーの声を聴いて俺はダンジョンの入口を見上げる。

そこには口を開いて今にもブレスを吐き出しますと準備した竜の姿があった。

俺は急いで扉を開いてダンジョンの第1階層に逃げ込んだ。


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