001
新作小説となります^ ^
不定期更新となりますが1章完結までは毎日更新する予定です
気長に見守っていただけると助かります<(_ _)>
―ガタゴト、ガタゴト
時刻は夕刻、日が沈み切った頃。
町はいまだ歓声に包まれている中、電車の規則的な振動が俺の体を揺らす。
仕事で疲れた体を長椅子に預け今にも眠りそうな眼を必死に開いている俺は赤真雄一。
20過ぎのしがないサラリーマンだ。
今日も今日とて取引先に駆り出されては先方の怒りを一身に受けて頭を下げ続けていた。
こんな毎日を続けていると体力だけではなく心までもすり減っていくのを実感する。
昨今は若い世代でうつ病で休職する人が増えていると言うけれどこれを実感するとそれもまた普通のことなのだと理解する。
いや、否が応でも理解させられるのだ。
本当ならばこんな気持ちは知らないで暮らしていたい。
皆が嫌と思うことは率先してやりましょうなんて小学校の道徳では習うけどあれは間違いだ。
皆が嫌と思うことは嫌だと思うだけの理由がある。
それは生存本能に従った行動ゆえにやらないことこそが正しいのだ。
それでうまく動かなくなる社会があるのならば社会の方が間違えている。
そんな馬鹿らしいことを考える程に俺は疲れ切っていた。
「………ってさー。」
「………だよねー。」
電車内に部活帰りだろうか、大きなカバンを持った学生の声が響く。
彼らは皆同じような格好をして声高に笑いあい、周りの迷惑を顧みない行動を繰り返す。
誰もそれを注意しようとはしない。
俺以外にもその車両内に大人は乗っていた。
しかし、皆一様に目を反らし彼らのその非常識な行いを窘めようとはしなかった
それは単にめんどくさかったのか、それとも噛みつかれるのを恐れてかは分からない。
それでも大人が口を出さないことをいいことに学生たちの話はヒートアップしていく。
「………ってわけよ!」
「………はははは。」
俺は彼らのその言葉を聞きながら彼らもそのうちに社会の厳しさを知ることになるのだと考えていた。
彼らの多くは大学に進みそして自分と同じようにサラリーマンとなって毎日心をすり減らすのであろう。
そう思えばその声には憐れみさえわいてくる。
………いや、そんなことは無かった。
ただただうるさいだけだった。
そう思うと行動は早かった。
俺は学生たちに注意………することは無く、カバンからイヤホンを取り出すとそれを耳につけた。
スマートフォンにイヤホンジャックを指して適当な音楽を流す。
わずらわしい喧騒が消えた。
俺はしばし音楽に聞き入っていた。
次第に瞼は閉じられ意識もうつらうつらとしてきた。
気づけば俺は夢の中へと旅立っていた。
--
―ゴン
「痛っ!」
激しい痛みを腰に感じて俺は目が覚めた。
そこは右も左も上も下も真っ白な空間であった。
待った要らな其空間には何もなく、それがゆえに椅子に体重を預けていた俺は投げ出されて腰を打ったようであった。
鈍い痛みを和らげようと腰をさすりながら立ち上がる。
その空間には何もない。
光源となるものさえないはずなのに不思議と物を見るのに苦労はしなかった。
周りには俺だけではない先ほど電車に乗っていた学生や俺と同じサラリーマンの姿もある。
皆一様に何が何か分からないといった顔をしている。
それはそうだろう。
電車に乗っていたらいきなり知らない場所に来ていました。
そんなのは小説の中だけの話だ。
現実にそんなことが起ころうものならこうして混乱して当たり前だ。
「おい!これはどういうことだよ!!」
そんな混乱の中、学生の一人が声を上げた。
誰もそれに答えたりはしない。
当然である誰もこの状況を説明する言葉を持っていないのだ。
自分たちだってまきこまれた1人に過ぎない。
だからこそ彼のその言葉に答えることはできなかった。
そのことがますます彼をいらだたせる。
「だからどういうことだって言ってるんだよ!!誰か何とか言ったらどうだ!!」
彼のその言葉に小声で「なんとか。」と呟くも誰も拾ってはくれない。
当たり前だ。
こんな状況でふざけていては馬鹿な奴だと思われてしまう。
だからこそ誰にも聞こえないように小声でつぶやいたのだ。
………そもそも、呟く必要すら皆無であるが。
それでも、ふざけでもしないと混乱から何をしでかすか分からなかった。
目の前の彼のように騒ぎ立てるだけならまだしも、誰かに掴みかかって暴力沙汰となってはそれこそ混乱を冗長するだけだ。
努めて冷静にあろうとして俺は深呼吸した。
周りでも俺と同じ考えなのか、特に年配の人ほど騒ぎ立てるようなことはせずにあたりを伺っている。
一方で年若い、特に学生に見える人たちは目の前の彼同様に騒ぎ始めている。
誰かに説明を求める声。
いもしない知り合いに助けを求める声。
逆に知り合いがいるからこそ一緒になって騒ぎ立てる人。
真っ白な空間に彼らの声だけが木霊していた。
元気にピーチクパーチクと呟いているものだと感心していた。
俺はその様子を見て自分が冷静になっていくのを感じていた。
他人が焦れば焦るほどに冷静になっていくのは、他者の醜い姿を見て自分はそうなりたくないという本能からくるものらしい。
そんなくだらないことを考える程度には冷静になっていた。
そんな時であった。
「やあやあ、やあやあ。」
そんな声とともに空から男の子が下りてきたのだ。
落ちてきたではなく下りてきた。
その少年はなにも無いはずの空間をゆっくりと上から下にスライドするように移動してきた。
見た目は金髪碧眼で目鼻立ちが整った外国人と言う雰囲気であったが誰も彼を人とは思わないだろう。
彼の背中には3対6翼の羽があったのだ。
それは所謂天使のような見た目をしていた。
何だあれは?
コスプレか?
そんな思いが俺の胸中を埋め尽くす。
「何だあれは?」
「コスプレか?」
俺の心を読んだかのように周りから同じ声が聞こえた。
その声はざわざわと周りに伝播する。
今ではこの空間にいるすべての人間がその天使(推定)を見ていた。
その天使はゆっくりと地上に下りると、その2本の足で立った。
良かった。
そこは人間と変わらないのか。
いや、何が良かったのか分からない。
意味もなくその天使に仲間意識を持って安心している自分がいた。
こんな状況だからこそ何だろうか。
「おまえは誰だ!」
明らかに人間でないその天使に向かって勇敢にもそう怒鳴りたてる人がいた。
先ほどの学生A君だ。
その行いは勇敢と言うよりも馬鹿なと形容したほうがいいのかもしれない。
彼の表情からはいかにも何も考えていませんと言ったことが見て取れた。
もしもこの場にいる人間の生殺与奪権をあの天使が持っていた場合、この馬鹿の行動で自分の命も脅かされているのかもしれないと思うと気が気でなかった。
そう思ったのは俺だけではなかったようだ。
彼のすぐ近くにいた学生B君が彼を止めた。
彼らは友人同士なのか学生A君はその静止でひとまず落ち着きを取り戻した。
その程度で止まるなら最初から声を荒げるなと思うが思うだけである。
「うんうん。元気がいいね。」
当の天使に目をやるとうんうんと頷いてにこやかに笑っていた。
どうやら気を悪くはしていないようだった。
そのことに一先ず安心した。
とりあえずは気のすむまで頷いていてもらおう。
皆の気持ちが一体となったのかその場で天使に声をかける人はいなかった。
ただ、学生A君だけがその天使のしぐさにイライラを募らせていた。
ほんと沸点が低いんだから。
疲れないのかな?
俺はと言うとそんなことを考える程度には冷静に全体を見回せる余裕があった。
周りには大きく分けて4パターンの人間がいた。
学生A君と同じく早く説明をよこせと怒りに燃えているもの。
何が起きているのか理解できず、いまだに落ち着きを取り戻せていないもの。
理解はできていないが暴れてもしょうがないと落ち着いているもの。
何も考えていないもの。
1つ目2つ目はともかく4つ目の人は本当になにを考えているのだろう。
いや、考えていないからああいう行動になるのか。
俺の視界の端ではぼーっと虚空を見つめる少女がいた。
あ、目が合った。
俺の視線に気が付いたのか彼女はこちらを向いてにこりと笑った。
俺も引きつった笑みを返す。
周りを見回して気が済んだ。
とりあえずは天使の動向に戻ろう。
天使はいまだにうんうんと頷いていた。
何やら喋っているようだがその内容は今の状況に関係はなさそうだ。
とりあえず聞き流していても問題ないだろう。
疲れたから座るか。
俺はその場で胡坐をかいた。
「さて!ここには292人の人間がいるね!早速だが、君たちは死んだ!!」
突然天使が顔を上げたかと思うと大声でそう言った。
死んだ?
誰が?
ああ、俺か………なんで?
「うすうす感づいている人もいるかもしれないけど………。」
いや、全然わかりません。
何故死んだんだ俺………。
「君たちは電車の事故に巻き込まれて死んでしまったのだ!!」
ああ、そう言えばここに来る前は電車に乗っていたな。
そうか。
あの電車が事故を起こしたのか。
それでこれだけの人間が死んだってことはずいぶんと大きな事故だったんだな。
天使がここまで説明したことで周りの人間も事態を把握したのか皆ガヤガヤと騒ぎ始めた。
自分の死の現実を受け止められないもの。
受け止めたうえでそんなの理不尽だと喚くもの。
生き返らせてくれと懇願するもの。
何も考えていないもの。
いや、本当に彼女は何を考えているのだろう。
そんなことよりもここで喚いて何か変わるのだろうか?
そもそも俺が死んだのならここはどこなんだろうか?
「はいはい。静粛に!静粛に!!まだ、説明の途中だからね!!」
天使がそう叫ぶととりあえず冷静なものはひとまず落ち着いた。
冷静ではないものは相変わらず騒いでいるが、それも天使の声を聴くに問題はない程度であった。
「もう。ここで聞き逃したからって後で文句は受け付けないからね?じゃあ、説明を続けるよ?」
天使は少しすねたような表情をしつつそう言って再び口を開いた。
「さて、さっきは電車の事故と言ったがそれは偶然起こったわけではない!」
天使のその言葉に緊張感が当りを包んだ。
聡い人は気づいただろう。
偶然ではないということは人為的に起こされた事故であると。
つまり事件だ。
俺は誰かに殺されたのだと。
しかし、そこまで考えて急に力が抜ける思いをする。
別に誰に殺されたからと言っていまさら何ができるでもない。
ならばそんな情報は重要なこととは思えなかった。
俺は続く天使の言葉を軽い気持ちで待っていた。
「何を隠そう僕が事故を起こした!つまり君たちを殺した犯人は僕さ!!」
その天使の言葉に思考が混乱するのを感じた。
は?
何を言っているんだこいつは?
その混乱は俺だけではない。
周りにいる人たちも皆一様に混乱していた。
幸いだったのは先ほどから騒ぎ立てていた人たちも混乱してその言葉の意味をいまだに理解しきれていないことだろう。
だからこそその混乱はざわつきを生み出したものの暴動には至らなかった。
俺たちがそんな混乱の中にいると天使が再び口を開いた。
「詳細を話す前にまずは自己紹介から行こうか。僕は君たちが神様と言う存在だ!」
神様?
それはあの神様なのか?
それが俺たちを殺したと。
何か?
これは天罰だとでもいうのか?
それとも神様は神様でも死神だから人間を殺しているのか?
そんな意味のない考えが俺の頭の中をぐるぐると回り続けていた。
「ふざけんな!神様だか何だか知らねえが俺らを殺したのがおまえだってんなら責任とれ!」
ああ、耳障りな学生A君の混乱が解けて早速神様(自称)に噛みついた。
めんどくさい。
「もう、めんどくさいな。」
神様と思考が被った。
これは喜ぶべきか、殺人鬼と思考が被ったことを嘆くべきか。
「えい!」
俺がそんなことを考えていると神様はそう掛け声を口にして手を大きく振った。
その瞬間さっきから喚いていた学生A君の口が閉じられ声を上げられなくなった。
彼は変わらず暴れているからあくまで口のみが動かなくなったようだ。
「話が終わるまではそうしていなね。」
神様はそう言うとニコリと笑った。
その笑みはどこか恐怖を駆り立てるような笑みであった。
「さて、話の続きをしよう。」
神様は手をパンと叩いてそう言った。
皆の注意が神様に向くが誰も声を上げえるものはいない。
学生A君の二の舞は嫌だと思っているのだろう。
神様は皆の注目が集まったのを確認すると再び口を開いた。
「僕はね暇で暇で仕方がないんだ。」
神様はそう言うと心底嫌そうな顔を浮かべた。
どうでもいいがこの神様考えていることがすぐに顔に出るな。
疲れないのかな。
「人間たちはいつもいつも同じ毎日を繰り返す。食べては寝て、人を好きになっては子を作って。誰かを助けたかと思えば次の瞬間には争い合って。そんな当たり前の毎日に飽きてしまったんだ。誰も一向に進歩しようとはしない。誰一人として次に進もうとしない。そんな毎日に飽きてしまったんだ!」
神様は自分の心の内を吐露するように力説する。
その表情からそれは必死の思いなんだと感じられた。
しかし、それと俺が死んだのに何の関係があるんだ?
俺がそんなことを考えていると再び神様は口を開いた。
「だからこそ僕は帰ることにした。人間たちに試練を課し、それを乗り越えることで人間賛歌の礎とすることにするんだ。」
「つまり具体的に何をするつもりなんだ?」
堪え性の無い男性が長々と語っている神様の言葉を切ってそう聞いた。
しかし、神様はそれに気を悪くはしていないようだ。
にこにことした表情をしてそれに答えた。
「具体的には君たちに別の世界へと行ってもらう。そこで君たちには試練………魔王の討伐をしてもらおう。」
神様のその言葉を聞いた一部の人たちが声高に叫んだ。
やれ、異世界転生だ。
異世界召喚だ。
ラノベ展開だ等と口々に言っている。
そんな言葉を無視して神様は話を続ける。
「無論ただ君たちをその世界に送るだけでは何も変わらないだろう。だから、君たちには君たちに相応しいクラスとスキルを与えてあげよう。」
「クラス?スキル?」
誰かが神様の言葉をオウム返しのようにつぶやいた。
それを聞いた神様は「説明しよう。」とノリノリでその問いに答えた。
「クラスとはその人の魂、才能、あり方を示すものだ。例えば君。」
神様はそう言って身近にいた学生の一人を指さした。
「君のクラスは魔術師だね。魔法をうまく扱うことのできるクラスだ。」
それを聞いてまた一部の人たちが騒ぎ始めた。
俺はクラスと言ってもピンとこなかった。
魔術師?
魔法が使える?
しかし、俺のそんな疑問は置き去りにされて神様は説明を続けた。
「次にスキルだが。これはその人が使える技能を指す。例えば剣術スキルを持っていれば剣を扱うことができる。」
神様はどこからともなく剣を取り出してそれを振るって見せた。
見た目に反してその動作は様になっていた。
「これらクラスやスキルはその異世界で生きる人が全員持っているものではない。しかし、今回は君たち全員の魂から才能を引き出しクラスと1つ以上のスキルを用意することを約束しよう。」
堂々とそう宣言する神様であったがその場にいる大多数の人にとってはやはり何を指しているのか分からなかった。
皆一様にぽかんとした表情をしていた。
「んー、反応が悪いなー。ま、いいかじゃあ早速クラスとスキルを与えよう!」
そう言うと神様はパンと手を叩いた。
その瞬間眩い光が当りを照らした。
しばらくして光が収束する。
何も変わったところはない。
手を動かし、足を動かし確認するがそれでも変わったところは見つけられなかった。
周りにいる人たちも同じだ。
特に変わりなく皆呆然とした表情をしていた。
「さて君たちにクラスとスキルを配り終わった。早速だが“ステータス”と口に出してくれ。」
神様のその言葉に先ほど異世界転生で騒いでいた一部の人たちは率先して「ステータス」と声に出した。
その後に他の人たちも恐る恐るステータスと呟いている。
俺も意を決して口を開いた。
「ステータス。」
その瞬間目の前にホログラムのウィンドウのようなものが表示された。
====================
赤真雄一 / レベル1
種族 : 魔王
クラス: 魔王
HP : 10,000/10,000
MP : 10,000/10,000
ステータス:
攻撃力 : 1,000
防御力 : 1,000
魔法攻撃力: 1,000
魔法防御力: 1,000
器用度 : 1,000
敏捷度 : 1,000
スキル:
・魔王の肉体
・ダンジョン作成
・アドバイザー
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「………は?」
そこに表示されたのを確認した俺の口から不意に声が漏れた。
確かに俺の名前が書かれていた。
レベル………これはRPG的な奴だろう。
うん、何となく理解できる。
ただ一つ。
魔王………この言葉だけが意味が分からなかった。
先ほど神様は確かに言った。
魔王を討伐することが目標だと。
そうすると俺は討伐される側なのか?
意味が分からず俺は不意に神様の方に目を向けた。
その瞬間神様もこちらを見ていたようだ。
彼は微笑みを崩さずに片手の人刺す指を口の前に持ってきて黙っているようにとジェスチャーで伝えてきた。
いや、そんなことをされても黙っていられない。
俺は声を上げようと1歩神様に向けて足を踏み出したその時。
「はーい!みんな自分のステータスは確認できたね?そこに書いているのが君たちのすべてだ。スキルについては向こうの世界に行ってから確かめてね。それじゃ………。」
神様はそこまで言うと翼を広げて浮かび上がった。
「これから君たちには世界を渡ってもらう。そしてその世界で君たちは魔王を探し討伐するのだ。期限はそうだな………10年にしておこう!10年以内に魔王を探して討伐すること!できなかったらその時は罰を受けてもらうからそのつもりで!」
「ちょ、ちょっと待てよ。期限なんて聞いてないぞ!」
「今言ったからね。それじゃ、良い異世界ライフを!」
神様がそう言うと周りを強い光が包み込んだ。
たまらず目を瞑る。
瞼の向こうで光が収まったのを確認して目を開ける。
そこには何もない荒野が広がっていた。
「ここはどこ?」
俺は周りを見回した。
見える範囲に建造物は見当たらない。
草木も疎らにしか生えていない。
岩と土ばかりの一面の荒野であった。
俺が呆然としていると後ろから声が聞こえた。
「やあやあ、赤真雄一君。」
俺が驚いてそちらに振り向くとそこには先ほど見た神様がいた。
いつの間に?
今見まわした時には確かに誰もいなかったはず。
その思いを飲み込んで俺は神様に質問を投げかけた。
「自称神様。あれは何ですか?」
「自称は酷いなー、れっきとした神様なのに。で、あれって何かな?ちゃんと言ってくれないと分からないなー。」
俺のその疑問を知っているだろうにとぼけた表情を浮かべる神様に俺は腹の中で沸々と怒りが沸き立つのを感じる。
それを理性で抑え込んで努めて冷静に口を開いた。
「とぼけないでください。俺のクラス。魔王についてです。」
「わぁ、驚き。魔王なんてクラスがあるなんて。怖いねー。」
「おい、自称神!」
「もう怒んない怒んない。そのままの意味だよ。君には人類皆が倒すべき試練として君臨してもらう。」
そう言う神様の表情はうすら寒い笑顔を浮かべていた。
その表情に俺は若干気圧されながらも疑問を投げかけた。
「なぜ、俺なんですか?」
「それは君の魂がそう言う形だったからさ。言ったでしょ?クラスとはその人の魂、才能、あり方なのだと。赤真雄一君は魔王というあり方を約束された存在なんだ。それは神様である僕にだって歪めることはできない。」
変わらず笑顔でそう言う神様に怒りはとうに失せていた。
今の俺には何故と言う疑問とどうしてと言う疑問だけが頭を埋め尽くしていた。
しかし、それを考えても仕方がないことだと割り切るしかないのだろう。
ここで神様に何を言おうとこの神様は何もしてくれない。
そうわかる程度には神様のその言葉は力強かったのだ。
「君には悪いと思っているよ。当然君に魔王を倒すなんて試練を課すつもりはない。10年後に試練を踏破していなくとも君は罰の対象外にしてあげよう。」
そう言いながらもやはり神様の表情は笑みを浮かべていた。
人間に試練を与えることが神の御業なれば目の前のこれはまさしく神なのだろう。
その試練を与えられる側ではなく、与える側になった俺は何なんだ?
俺は神様の言葉を反芻して自分のあり方に疑問を持った。
正直魔王などと言われても、先ほどまで同じ日本で生きていた人たちに敵対できるとは思ってもいなかった。
あれ?
でも、なら何故神様はあんなことを言ったんだ?
いや、そもそも………。
神様の言葉を反芻するうちに疑問が浮かび上がってきた。
「もういいかな?」
「何故、俺は死んだんですか?」
「ん?それはさっき言わなかったかな?電車の事故で………。」
「そうじゃない。電車の事故はあなたが起こしたと言った。ならば、何故それを起こす必要があったんだ?おまえの目的は人間が試練を越えることじゃないのか?ならそれにたくさんの人を殺す必要はないだろう!?」
「くくく。」
俺のその言葉に神様は笑いを抑えることができない。
腹に手を当てて、醜く歪ませた顔からは笑い声が漏れていた。
「くくく。よくそれに気が付いたね。そうだよ意味なんてない。そもそも、人間が試練を越えることだって意味なんてない。」
「なら、なぜ!?」
「暇つぶしさ。」
何でもないことのようにあっさりと神様はそう言った。
その言葉が最初理解できずに唖然とする。
「暇つぶし?」
「そう、暇つぶし。僕はね暇で暇で仕方がないんだ。それはさっき言ったね?その言葉はその通りの意味しかないのさ。別に人間がどうだとか関係なしに単に暇だったから遊びで世界に干渉することにした。」
そう口にする神様の表情は背筋も凍るような笑顔であった。
心なしか重い布団を被せられたような重圧を感じる。
「干渉したら君みたいな魂を引き当ててね。それで人類対魔王の対決を思いついたのさ。こんなのは遊びさ。君も遊びだと思って気楽にやってくれたまえ。」
神様のその説明を聞いて言葉が出なかった。
遊び。
この自称神様はそう言ったのだ。
300人弱もの人間を巻き込んだ遊びだと言ったのだ。
その言葉を前に不思議と怒りは湧いてこなかった。
こいつにとっては本当に遊びだと思っているのであろう。
そしてそれを知ったからと言って、それに憤ったからと言って俺に何かをする力はないのだと。
諦めに似た感情が湧いてきた。
「もういいかな?」
「最後に一言いいか?」
「なんだい?」
「地獄に落ちろ。」
俺のそんな恨み言を笑顔で受けて神様はその場から消えた。
俺は荒野の中ぽつりと1人残された。
「これからどうしよう?」
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