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MOON  作者: 冴木悠
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第1話:赤の世界

いよいよ本編スタートです。

し、死んだ。


短い人生だったな………?あれっ、痛くない????


あぁ、そうか。死んでんだもんね。


あれだけ高いコンクリートの階段を、一気に転げ落ちて行ったのだから即死は当たり前だ。

即死=NOT 痛み。



(これで目を開ければ、そこは天国の入口かぁ。神様って、ちゃんと天国に連れてってくれるのかな。)



敬虔なクリスチャンでもないのに死を前、いや後にすると、神様に救われたいなんて現金な私だ。




倒れたままそんなことを考えていると、だんだん目の前が明るくなってきた気がした。


恐る恐る目を開ける。


そこは…



遠くに見える連なる山々…

傍らを流れる 清らかな小川…


そして 壮大なカテドラル…



そのすべてが赤く染まろうとしている。



「赤い…」


山々の頂きに、今まさに太陽が沈もうとしていた。


赤土でできたカテドラルは陽の光と相まって、炎に包まれているようだ。




「きれい…まるで夕暮れのアルハンブラ宮殿みたい」



一度旅行で行った世界遺産を思いだす。



赤いカテドラルに導かれるように、私は歩き出した。



◇ ◇ ◇




カテドラルの入口に着くと、あまりもの美しさに言葉を失った。



正面入口の扉の上には、等身大のマリア像が微笑んでいて、その周りにも見事な細工が彫りこんである。



「すごい…」


重厚な扉を開ける。


ギギギギギ


「……!!」



眩しさに一瞬目が眩む。



高い天井を突きささんばかりの数十本の柱。

カテドラルの奥には、神々しいばかりの祭壇と赤い座。

赤い座の紋章は黄金色に輝いている。



「眩しいっ」


思わず顔を手で覆う。


しかし光は遮ることができない。




私はゆっくりと、顔を覆っていた手を退けると、光の道筋を辿ってみることにした。



祭壇の上部の天井中央部分には、バラ窓(円形をした明かり取りの窓)とよばれるステンドグラスで作られた窓があり、まるで万華鏡のようなその窓からは、虹色の光のスコールが降り注ぐ。



「わぁ〜」



その光に惹かれて祭壇へと歩みを始める。

祭壇に近づくにつれ、光のスコールは激しくなり、体が光のプリズムに包まれる。



祭壇の上には、一際輝く銀の燭台が置いてあった。



キャンドルを立てる所が7つもあり、その全てにシャンデリアの如く、プラチナのチェーンが張り巡らされている。


壊れないように、慎重に手を伸ばし、そっと触れてみる。


「キン…」


鋭い音を立てて燭台が啼く。




「気を付けて」



突然後ろから声がした。いや、後ろというよりも、左手にあった赤い司教座の方からだ。



慌て振り向くと、そこには、黒いシルクハットとタキシードに身を包んだ紳士が、先程までは誰もいなかった赤い司教座に座っていた。

右手には三日月形の飾りが付いたステッキが握られている。



(げ、幻覚???)


この神聖な空間と、マジシャンのような風変わりな格好をした紳士があまりにも不釣合いで、何度も目を擦る。



「私は消えないよ」


(????)



今度は近くから声がする。


はっ、として目を擦っていた腕をどけると、




司教座にいたはずの紳士が目の前にいるではないか!


「ぎゃっ、」



そう、ほんとに目の前。

鼻がくっつくほど近距離に!おまけに浮いている!



「いいいっっ」



思わず後ろへ飛びずさる。



「失礼だな、私は病原菌か何かか」


マジシャンがびっくりしている私に、少し含み笑いをした顔で話し掛けてきた。


ムッ、として奴を睨み付ける。



「あなた誰?それにそっちの方が失礼じゃない?いきなり現れて、勝手にレディの顔に近づくなんて!」



怒りに任せてまくしたてる。



「それは失礼した。突然現れて君を驚かせてしまったようだね。だが、これは私の性分でね。私は現れたい時に現れて、去りたい時に去るんだよ」



(なんて自分勝手な)



「それに私が招待したんだ。ホストがいないと始まらないじゃないか」




(招待?私はまだこの年で天国になど招待されたくない!)



「お言葉を返すようで悪いんですけど、私は天国に招待してくれなんて頼んだ覚え一度もありませんけど?」



意地悪く口答えする。



きっと奴も言い返してくるだろうと構えていると、どうやら違うセリフに反応しているらしい。



「天国?君はここが天国だと思っているのかい?」



不思議そうな顔をする。



「当たり前じゃない。私は階段から落ちてここへ来たんだもの!」



(断じてここは病院ではない。ならば天国だ)



「それでは私は天使ということか?」



そうなってしまう。どう見てもマジシャンなんだが…。



「そうか…それは面白いな」



くくくっ、と嘲笑う。



(何、この男。人を馬鹿にして!)



偉そうな口を利いてはいるが、見たところこの男は歳20代半ばといったところか。


サラサラした漆黒の髪は真っ直ぐで肩までかかり、片目は隠れている。

瞳も星ひとつない冬の夜空を写し出したような深い闇色。顔は女性かと見惑うほどに白くて美しい。

ちょっとミステリアスな雰囲気を醸し出している。

今は彼の存在自体がミステリアスだ。


でもいくらイケメン天使と言っても、この態度はかなりムカつく。



「人を馬鹿にするのもいい加減にしたら?私はあなたよりも年上なんだから、

その偉そうな態度やめてくれない?」



奴に吠える。


「年上?」


男は怪訝な顔をする。


「そうよ!どう見てもあなたより年上じゃない!」



私はさっき迄仕事をしていた。今日は取引先に行くことになっていたので、カッチリとスーツで決めている。どこからどう見ても働くお姉さまだ。



「くくくくっ、」


今度は声を出して笑いだした。


「何が可笑しいのよ」


「君は自分の姿を見たことがあるのかい?」


ステッキを顎にあてる。


「はっ?」


あまりの突拍子もない返答に拍子抜けする。


当たり前だ。産まれてから三十〇年 もう見飽きている。



(何を言ってるんだ?)


「あるに決まってるでしょう。毎日見てるわよ」


「それで年上だと?」


「そうよ。悪い?」


(私はそんなに童顔か?人が触れられたくないことを…)



確かに童顔だ。中学二年生まで、バスに小学生料金で乗れていた過去がある。



童顔で悪いかっ!



「そう」


彼はステッキで顎を軽く叩きながら、私をまじまじと眺める。


その姿が案外様になっていて少しどきっ、としてしまった。


不覚不覚。



「ではこれは?」


彼の瞳がきゅーと細くなる。月形になつたそれは猫が獲物を狙う時の目を思い起こさせる。


突然ステッキが光だした。辺りが強い光で包まれる。

私は眩しくて目を閉じた。


「さぁ、目を開けて良く見てごらん」



彼の言葉に促されて目をあけてみると、


目の前に大きな姿見が現れた。



「!!!」


私が驚いたのは、突然大きな姿見が現れたからだけではない。

その中に写し出されているものに度肝を抜かれたのだ。



そこには私よりも遥かに若い私が写っていた。



「なに、これっ?」



今の面影は残っているものの、背は低く、顔にはあどけなさが残っている。二十年近く前の私だ。

服装はといえば寄宿学校の制服のようだ。


タータンチェックの膝が見え隠れする丈のワンピース。黒のショートブレザー。

ハイソックスまで履いている。



(えっ?)



「これでも年上かい?」


「ていうか、これ何?」



鏡を指差す。



「君だよ」


「じゃなくて…」


「ああ、お好みのスタイルではなかったか?」


「この年でミニスカートは…」


「そうか、やはり無理があるか」



………。

って、違うだろっ!!



「なんで私がこんなになっているのよ!」


「こんなにって?」


イライラしてきた。


「だからぁ、何でこんなに小さいのよ!」


「まぁ、気にするな」



大いに気になるって!



「君は君のままだから、いいじゃないか」


「はぁ?」


「服が気に入らないなら着替えさせてあげよう」


「触るなっ!変態天使っ!」




近づく天使を払い除ける。



(なんなのよ!こいつ!)


この天使と話していると頭が痛くなる。


この場所から離れようと出口に向かう。



「まだ話があるんだが」



無視して歩く。



「君はここがどこか知りたくないのかい?」



その言葉に足を止めて振り返える。



「じゃあ何処なの?」


「どこでもないどこか」



天使は浮いたまま、顎に手をあててニヤニヤしている。



(こいつ、又訳の解らないことを…)



「でも君の近くにある世界」



(?なんだそれは)



そういうと天使は小さくため息をついた。

そして、眩しそうに目を細めた。



「ふぅ、やはりこの明るさは私にはきついな、場所を変えよう。いつも暗い所にいるので、明るい場所は苦手なんだ」



(暗い場所って、)



「どうぞ」



呆れて簡単に返事をしてしまった。



「それは助かる」



天使は嬉しそうに微笑むと、指をパチンっと鳴らした。



???




私の周りの光が消えた。

注)カテドラル…教会

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