第18話:脳天気勘違い男
まずは、又々更新に時間がかかってしまいスイマセンでした。今後も頑張りますので宜しくお願いします。
「あんさん、ホンマ助けてくれておおきにな」
男性が私の顔を見て微笑む。
ニカッと笑うこの笑顔は子供のように屈託がなく、まるで真っ直ぐなこの男性の性格を表しているようだった。
「いいえ、助けるだなんて。私はただ犯人の特徴を言っただけなので」
私は面と向かってお礼を言われ、少し照れてしまう。
「何言いてますのん。謙遜なんてせんかてええねん。結果的には うち助かったさかい」
そして彼は右手を出してきた。
「えっ?」
驚いて彼の右手を見つめる。
「えっ?て シェイクハンドですやん。シェイクハンド知りませんのん?しゃぁないな、こうですがな」
すると彼は私の右手をとって彼の右手に合わせた。
「握手のことですわ。助けて貰ろうたのに挨拶まだやったから」
「あ、ごめんなさい。気が付かなくて」
私は彼の右手を軽く握った。
すると彼は握り返して微笑んでくれた。
「えかった。嫌や言われたらどないしよ 思うたわ。こんなムサイ野郎の手じゃシェイクハンドなんてして貰えへんかと心配したわぁ」
そして彼は豪快に笑うと繋がれた手をこれまた豪快に振った。
(!何こいつっ!)
彼はあどけない外見とは反対に半端ない怪力で私の手を振る。
「い、痛っ」
(何て馬鹿力だよっ!手がもげるって!)
私は彼の顔を見つめる。
(なんなんだ、こいつはっ!チビッこいくせして怪力って!お前は某人気少年漫画の主人公かい!)
気付けよ!痛いんだよ!そんな可愛い顔して怪力ってあり得ないだろ!
そんな訴え顔にも気付かずに彼はまだ、私の手を激しく振り続けている。
(だからぁ、痛いって!この悟〇っ!)
そう、彼は正しく悟〇だ。どう見ても博愛主義者的なその優しそうで、何も解っていないような無邪気な笑顔。
少し背が低くてスッキリ短髪な健康そうな外見。
そして怪力。
あ、でも若干品が良さげに見える仕草は悟〇というより〇飯かも…
い、いやそんな事今はどっちでもいいっ!
このままでは握り潰されてしまう!早く、早く奴の尻尾を切らなければっ!
そんな恐怖に襲われながらも、何とか平常心を保ち腕を引き抜こうと頑張っていると、彼も漸く気付いたらしく慌てて手を放した。
「あっ、悪い悪い。うち力強いの忘れてたわ」
私は急いで自分の右手を避難させる。
「アハハハ。これで良くあいつらにも怒られるさかい、ホンマ堪忍や。アハハハ」
そして又照れたように頭を掻いた。
(アハハハって、笑い事じゃないでしょうが!)
こいつ
何処まで脳天気なんだか…
「はぁ、」
溜め息をつく。
「溜め息なんて何処か具合でも悪いんか?」
男が顔を覗きこむ。
「えっ?い、いえ何でも無いです」
首を振る。
「何でも無い事あるかい!さっき辛そうに息吐いてたやないか?熱でもあるんやないか?」
彼は私の額に手をあてようトする。
「い、いえ、熱じゃなくて…」
(あんたの脳天気さに呆れたんじゃいっ!)
喉元まで声が出そうになる。
「そうかぁ。じゃあ腹でも痛いんか?それとも何処か打ったんか?じゃないなら…」
大きな声で慌てている小柄の男の雑音に周りから冷たい視線が浴びせかけられる。
そんな視線にも気付かずに、男はあぁでもない、こうでもない と私の身体を案じている。
私は周りからの視線に耐えきれなくなって男に声をかけた。
「あ、あの、取り敢えず外に出ましょう」
男は私の言葉に反応するとこう言った。
「そうやな、取り敢えずは病院行かんとなぁ」
そして私の手を取ると私を連れて足早に店の入口へと向かう。
(こいつ解ってないよなぁ)
「はぁ、」
思わず又溜め息が出てしまう。
「気張りやっ!すぐ連れてったるさかい!」
男は必死な顔をする。
(ったく‥何処まで鈍感な奴なんだよ)
私は今度は溜め息が出ないように呆れながら、どのようにしてこの誤解を説こうかと頭をフル回転させていた。
◇◇◇
「アハハハッ!」
店を出ると男は私の背中をはっ叩きながら大きな声で笑った。
「痛い、痛いってば」
私は痛さに抵抗しながら訴えた。
(ホントこいつは馬鹿力だよ)
「そうかそうか!そういうう意味の溜め息だったんやな!なんやそうか!」
男はまだ笑っている。
私は店を出る時に、何とか男の誤解を解こうと必死に説明をして、ようやく男にも溜め息の理由に納得して貰ったところだった。
勿論 あんたの言動に呆れたから とは言っていない。
そこはそれ、一応大人なんで相手を傷つけないようにちゃ〜んと言葉をオブラートに包んで伝えたのだ。
「そうなんです。ちょっと安心して思わず深い溜め息が出てしまっただけで…心配して頂いて有り難うございました。体は何ともないですから」
そして営業スマイル。
「なんや、そうならそうと早く言ったってぇや」
(って言うか あんたが勝手に誤解したんでしょ〜がっ!)
と言う正直な思いは胸の奥に押し込む。
「まぁ、何はともあれ大事なくて良かったわ」
男性も嬉しそうに微笑んでくれた。
(この人 脳天気で勘違い野郎だけど、好い人なんだよなぁ)
彼の笑顔を見ているとそう思ってしまう。背丈も決して高いとは言えないし、顔だって童顔で、イケメンというよりも少年顔だ。
インテリ系のクールな顔好きな私から見たら範囲外でお世辞でもカッコいい系とは言えない。
どちらかと言えば可愛い系?スカートなんて履かしたら案外似合っちゃうかも…な感じだ。
仕草だってガキっぽいし…
大人な雰囲気とは言い難い、って これじゃマイナス要素だらけじゃん。
フォローが出来てない…。
でも、この人懐こい笑顔はどんな事でも許せてしまえそう…
そんな事を思いながら彼の顔を見つめて歩いていると、彼が立ち止まった。
「そうや、自己紹介まだやったな。うちは杉田淳之介言うんや。新聞社で働いとるさかい」
そして名刺を一枚取り出して私に渡した。
《新帝都新聞社 東京本社 杉田 淳之介 》
「しんていとしんぶんしゃ?」
「そうや、結構大きい会社やで」
確かに何処かでこの名前を見た事がある。
そうだ。よくたまちゃんや高さんが読んでいる新聞…あれが新帝都新聞だったっけ。
「あ、知ってます。私の所でもその新聞読んでますよ」
「そうかぁ、嬉しいわぁ」
そして彼は頭を掻くと片方の腕を懐へ入れた。
彼は頭を掻く事と、懐に片腕を突っ込むのが癖のようだ。
そして豪快に笑う事も。
「新聞社かぁ…」
この時代の新聞社で働いているなんて、案外杉田さんて結構な秀才だったりして?
だって、私の時代でもマスコミ関係への就職はなかなか難しい。もし受かったなら周りから、一目置かれる程の花形だ。
「新聞社なんて凄いですね!それに新帝都新聞社なんて結構有名ですよね!」
私は素直尊敬してしまった。
「そんな事言われたら照れるやないか。たかが新聞社や、羨ましがられるどころか疎ましがられる方が多いで。もう 来んな〜て塩撒かれた事もあるさかい。なかなか難儀な商売や」
「塩っ!?」
「そうや頭からガバ〜ッやで。おまけに体にまで擦り込まれて…もぅ全身ヒリヒリや。そのまま車乗せられて海に棄てられそうになったわ。あん時はホンマこれでもう終わりやぁ〜てオカンの顔が浮かんだわぁ」
そしてぶるぶると震える。
「海に棄てられるって…杉田さんてそんな恐ろしい経験されてるんですか?」
「そうや。記者になったらその位当たり前やで」
(当たり前って…マスコミってそんなバイオレンスな日々を送ってるのぉ!?)
海に棄てられるなんて、そんなのVシネの竹〇力が出てくる任侠映画の世界ぢゃないかぁ〜!
じゃあ塩ぶっかけるのは岩下〇麻か高島〇子かぁ?
こ、怖〜っ!!!
縄に縛られ海に打ち棄てられる自分を想像してビビっていると、隣から大きな笑い声が聞こえてきた。
声の主は勿論 杉田さんだ。
???
「嘘!嘘やっ!今の話 みぃ〜んな嘘やっ!」
腹を抱えて笑う彼。
「えっ?うそ?」
「そうや!みぃんなうちの作り話や!」
そして私の背中を力一杯叩く。
「痛いっ!て杉田さんっ!全部作り話なんですか今のっ!」
彼を睨む。
「堪忍堪忍や!だって真剣な顔してるあんさん見てたら可愛いいて。ちょっと悪ふざけしたくなったんよっ痛ぇ〜!!」
私は思いっきり杉田の足を蹴っ飛ばしてやった。
「酷いじゃないですか!真面目に聞いてたのに!」
そうだ酷いっ!
人を馬鹿にしくさって!
いくら真面目な顔が可愛いからって‥可愛い‥可愛い‥
可愛い〜って!
可愛い〜って言われちゃったよ私!
三十路過ぎの私に可愛い〜って!
久しぶりに男性に言われちゃった(照)
本来なら私を馬鹿にしくさった奴は、打ち首獄門磔の上道中引き廻しの刑に処する所だが、今回はまぁ、許してやってもいいけどぉ?
そうね 許すっ!
無罪放免じゃ!
私はぐっと堪えて杉田に反撃する。
「じゃあ、この名刺も偽物ですか?身分偽ったんですか?なら偽称罪ですね、犯罪ですよねぇ」
杉田を横目で睨む。
無罪放免でもやられたらやり返すのが私の通りだ。
「怖い、怖いよあんさん。ほらそんな睨まんといて。その名刺は嘘やないから。うちはホンマに杉田淳之介さかい。新聞社もちゃ〜んと勤めてるよって。堪忍してやぁ」
そして私の前で手を合わせて微笑む。
だからぁ、その無邪気な笑顔は罪なんだから…。
君はまるで たまちゃん2号だよ。
「ふぅ、」
又溜め息がでる。
とすかさず、
「どっか悪いん?」
そして私の顔を見て笑う杉田。
だ〜か〜らぁ、
「ボケは二回が限度やっちゅ〜ねんっ! あっ、」
不覚にも思いっきり訛りが出てしまった。
「あんさんも西の人ですか?」
そして杉田はアハハハッ!と大声で笑う。
(す〜ぎ〜た〜っ!)
私は杉田の足を思いっきり力任せに蹴り飛ばす。
「あっ痛〜!!やめてやめぇて!!あんさん凶暴やなぁ〜。あ、そう言えば…」
そして足を擦りながら杉田は私に聞いた。
「あんさん 名前何ですのん?」
「えっ?」
「人の足 思いっきり蹴り飛ばしておいて、自己紹介まだですやん?」
杉田がおどけ顔でニヤつく。
「あっ、」
そうだ。
私はまだ自分の名前さえ彼に告げていなかった…
のに、私ったら知り合いでもない人の足を力任せに蹴り飛ばすなんて…
何て無礼者なんだよ、私って。
「あ、私 有佐 真夜‥です…スイマセン」
顔から火が出そうなくらいに恥ずかしくて顔を背ける。
「マヤちゃんか。いい名前やんか」
そして書店で出会った時のように右手を出してきた。
「これからもよろしくな!でも今度はいつ会うか解らへんけどな」
そしてシェイクハンドした腕を今度は加減して振ってくれた。
「先程はスイマセンでした。蹴ったりして」
私は軽い頭を下げた。
すると彼は足を擦りながらこう応えた。
「あれは効いたでぇ。足折れるかと思うたわ」
そして私を見るとこう続けた。
「せやな、ならお詫びにうちに付き合ってぇな」
「付き合う?」
私は首を傾げた。
「実はなぁ、うち最近東京来たばっかやさかい、余り店とか知らんのや。ここで会ったのも何かの縁や、案内してくれへん?」
そして頭を掻きながら照れ笑いする。
(この人 面白い人だな)
会って直ぐの人にこんな事頼むなんて、図々しいと言うか強引と言うか…。
(でも不思議と嫌な感じはしないんだよなぁ)
やっぱこうじゃないとマスコミって無理なんだよね、きっと。
「余り長い時間は無理ですけど、少しで良ければ…」
と、突然彼が抱きついてきた!
!!!
「な、なに!」
私は彼を引き剥がす。
「すまん、すまん、余りにも嬉しいて思わず抱きついてしまったんや。堪忍」
そして私から離れるとアハハハッ!と楽しそうにわらった。
(杉田、こいつって何処までマイペースなんだ…)
「はぁ、」
溜め息。
「やっぱ 体調悪いん?」
杉田がふざけて聞いてくる。
「だ〜か〜ら〜っ…」
杉田を蹴りあげる。
「しつこいってばぁ〜!!」
「痛ってぇ〜!!」
昼下がりの繁華街に杉田の絶叫がこだました。
またもやゲストキャラを作ってしまいました。でもこれから登場するゲストキャラは何らかの形でストーリーに深く関わってくるので、どうぞお楽しみに。