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MOON  作者: 冴木悠
14/26

第13話:仰せのままに

《モダリスタ》に珍客が訪れます。今回はどんな騒動が起こるのでしょうか。

「あ〜あ」



私はカウンターに座って頬杖をつきながら、ソーダ水を飲んだ。



結局あの後もう一度ペンダントを調べてみたが、何処にも変わった所はなかった。



「何だったんだろう?」



あの花畑の少女は一体誰だったんだろう…



どんなに考えても思い出せない。



「あ〜もぅっ!」



私は頭を掻き毟った。



「考えても解らない事は解らないか…」



多分ルナと関係がある気がするのだが、今日は考察力が湧かない。



「暑い〜」



私はカウンターに突っ伏した。




そうなのだ。考察力が湧かない理由にはこのうだるような暑さも関係している。


朝方はまだ楽な方だったが、日が昇り太陽が影を真下に落とす頃になると体感温度が上昇し、許される事なら裸でいたいくらいだ。



そんな事をしたら、何処かの国民的スターと一緒でお縄を頂戴しなくてはならなくなるが…




「お代わりしちゃお」



私は空いたグラスを持って席を立った。








なぜこのランチタイムに私が堂々と客の如くカウンター席に座っているかというと、高さんがどうしても外せない用事があるとかで、ランチ営業がお休みになってしまったからだ。



私も突然湧いた休日に、又地図片手に出かける予定だったが、生憎とたまちゃんに先を超され、頼みの宗嗣さんも姿が見えず、結局高さんに留守番を仰せ遣ってしまった。





と、いう訳でこの広い建物に一人 だらだらとカウンターでソーダ水を飲んでいる。




「にしても、マジ暑い」



この世界、もといこの時代に来て改めて思ったのは、


《エアコンのある現代って何てすばらしいんだ!》



という事。



この時代 エアコンは固より、テレビや冷蔵庫なんて存在しない。



外からは金魚売りの声や風鈴売りの声が聞こえて来て、それなりに爽やかな夏の一頁を演出してはいるが、実際はそうもいかない。



なまら暑い。



「クーラー欲しいよ〜」



クーラー無いなら氷に頭突っ込みたいっ!



だがしかし、頼みの氷屋でさえこちらから赴かなくてはならないのだ。




面倒くさい時代だ。



いくら沢山ある店の窓を開けても、外から入ってくるのは熱風ばかりで、全く意味がない。



(何処にも行けないし、水浴びでもしようかな〜)



そんな事を思いながら、お代わりのソーダ水を持って席に戻って来ると、ドアを叩く音が聞こえた。




ドン!ドン!ドン!



(誰だあ?休業の看板が見えないのかぁ?)



行くのが面倒くさくて無視する。



ドン!ドン!ドン!



再びドアを叩く音。



やっぱ 無視。



ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!


先程より激しくドアを叩く。


かなり怒り気味のご様子。


「わかった!わかった!わかった!」



観念してドアへ向かうと、鍵を開けて扉を開いた。




「すいません、今日お休み…」


「遅いわよっ!」



そう言って腕組みをして私を睨み付けてたのは、小学校に入ったばかりくらいの小さな女の子だった。




「あんたって 鈍臭いわねぇ」



私に一瞥くれると少女はズカズカと店の中に入ってくる。




(はぃぃ?)



「ちょっと 早く閉めてよ!髪が乱れるじゃない!」


長く伸ばした黒髪を掻き上げる。



(こいつ 何なんだ?)



意味がわからないが、取り敢えずお客さんらしいので丁寧に応対する。




「あの 御免ね、今日お店お休みなんだ。お母さんとお約束でもしたのかな?お嬢ちゃんは…」




少女のふてぶてしい態度にイラつきながらも、大人である私は淑女的に応対する。




少女は綺麗にスカートの裾を捌きながら、近くにあった椅子に腰掛けると又私を睨んだ。



「あんた 誰よ。高様とどんな関係?」



(高様?)



高様の様って、人生の先輩であるお姉様たちが使う《ヨ〇様》とかと同じ意味合いだよね?私の知ってる限りで《高》の付く人と言えば…



万年菩薩様の高さんだけだ。


まぁ 確かに《ヨ〇様》のように いつも微笑みを絶やさない人だけど…ねぇ。



「高様って 店長の事‥かな?」



少女に尋ねる。



「店長?」



少女が私を上目遣いで見る。





「ふふ〜ん」



そして鼻で笑った。





今 このガキ鼻で笑ったよねぇ?自分より遥かに人生の先輩である私を鼻で笑ったよねぇ?目上の人は敬わないといけないんだよね?そうだよね?




〈このガキ泣かしちまえ〉

↑※悪魔



〈駄目よ!貴方は大人じゃない!〉

↑※天使



〈やっちまえよ!礼儀を叩き込んでやれっ!〉

↑※悪魔



〈いけないわっ!そんなの貴方じゃないっ!〉

↑※天使



私の中で天使と悪魔が囁く。





そうだ!ここで悪魔に負けてはいけないっ!



私は良心で悪魔を抑えつける。






「あなた 使用人なのね。とろくさい子」



又少女が鼻で笑う。



ムカッ!



〈やっちゃえよ〜〉



悪魔が再び囁いてくる。



どーどーどー 冷静に。

使用人て言えば使用人なんだから。



大人な考えで持ち堪える。



「高さんに用なの?御免ね、生憎と今出掛けてるんだ」



私は笑顔を作って応える。






「出掛けたですって?今日は私との約束があるのに!」



少女は立ち上がると机を叩く。



「約束って?」



「貴方に教える必要はないわ」



私の顔を見て又鼻で笑う。


カチンっ、



(こいつ 優しくしてりゃぁ付け上がりやがって)



右頬がひくひくする。



「でも…」



少女が私を見る。



「どうしても教えて欲しいなら教えてあげてもいいわ」



(はっ?なんですと?)



別にそこまで言われて教えて欲しいなんて思いませんけど。



私が内心そんなことを思っているとは露知らず、少女は誇らしげに告げた。



「デートよ!」



してやったり、な顔をする少女。



(はぁ?)



思ってもみない言葉が飛び出して唖然としてしまう。


「でぇとぉ?」



あり得んだろう!三十間近の男子が、こともあろうにこんなオムツがとれたかどうかのガキとデートだなんて…ずぇったいあり得んだろ………


ん?待てよ…確かたまちゃんが第5話あたりで…




―‐高さん こういう可愛いの好きだったりして――




こういう可愛いの

=フリフリえぷろん

=ロリータファッション

=このガキ




公式が頭に浮かぶ。



改めて見ると、この少女はレースが襟元だの袖口だのにいっぱい付いた白のワンピースを着ていて、赤い靴を履いていた。




一見 どこぞのお嬢様の様な出で立ちだ。


態度は女王様だが。



ま、まさか高さん…



ロリコンっ?!



てっきり私はたまちゃんが好きなのかと…



でも、言われればそんな気も…



あの菩薩様のような爽やかな笑顔は、下校途中の少女をかどわかし、鮮やかに拉致ってしまう少女誘拐犯のそれと通ずるものがある‥のか?


いや、高さんに限ってありえないっ…



そんな自らの推理に耽っていると、少女が声をかけてきた。



「だから、ちょっと貴方っ!聞いてるの?」



「へっ?」



少女の声に思考の渦から戻る。



「へっ?じゃないわよ!だから高様はどのくらいで戻って来るのよ!って言ってるのよ!本当にとろくさい女ね!」



怒りを現わにする少女。



恐ろし〜っ、



「あ、御免ね。確か夕方の仕込みには間に合うっていってたから、後2〜3時間てとこかな?」



「2〜3時間…」



少女は顎に手を充てて考える。




出来ればこんな生意気な子、早く出ていって欲しい。


私は願いを込めて聞く。




「だから、又他の日に…」

「待つわ」



へっ?今何て。



「待つわよ」



もう一度少女が言う。



そりゃ 困るっ!


こんな生意気な少女がここにいたら、いつはっ倒してしまうかわからない。


警察沙汰はごめんだ。


断固 阻止せねばっ!


「でも予定は未定だし…私も留守番頼まれたから、もしかしたら案外遅くなるかも…」



「貴方 迷惑だとでも言いたいの?」



少女が睨む。



(ええ、左様で)



「私がいてはいけない理由でもあるの?」


(面倒くさいから)


「何か隠してるわね?」


(んなこと 有るわけないだろ)


「やっぱり貴方…」



少女が私を指す。



「高様を隠してるわねっ!」



(何で そ〜なるっ!!)


少女が私の方へ歩み寄る。



「貴方 白状なさいっ!高様を何処へ隠したの! やっぱり高様との中を割くつもりねっ!この泥棒猫!!」



(泥棒猫って、ここは女の修羅場かい?)



おいおい勘弁してくれよ〜





「ちょっと待ってよ!隠してるって誤解だってば!」


私はこの妄想娘を宥めようと腕をとる。




「高さんは出掛けてるだけよ!本当にそうなんだから!」


「私を騙そうなんて何て女よ!使用人のくせしてっ!」


「だからぁ、騙すも騙さないも、隠すも隠さないも無いんだって!私は高さんの事何とも思ってないんだから!」




そうだ。

愛だの恋だのなんてもう懲り懲りだ。




「そうなの?」



少女がキツい目で私を見る。




この子 幼いくせして睨むと一丁前に威圧感があるんだよね。




「本当だって、私は只の《モダリスタ》の女給さん」


はっきりと少女に教える。



「そう」



少女が私を凝視する。


と、又鼻で笑った。



(何よ…)




私は少女の口から紡がれた次の言葉に唖然とした。




「それもそうよね、この私が貴方如きの年増に負ける訳ないわよね」




そう言うと赤い靴の音を鳴らしながら、先程の席に戻って行った。




(年増ぁ?年増って言ったぁ?このこ童っぱが!お前のその口調の方がよっぽど性格ばばあじゃっ)



赤い靴履いてっと、ひぃ爺さん‥もとい 異人さんに売り飛ばしちまうぞっ!




〈売っちゃえよ〜〉



悪魔が囁く。



ダメダメ!いくら何でも売ったらマズいって!




再びこの無礼な少女の処遇を悪魔と共に決めかねていると、少女が話しかけてきた。




「ちょっと貴方気が利かないわねぇ、私が此処で待つって言ってるんだから何するべきか考えなさいよ」


「何するって…」




何が言いたいんだガキ。



すると少女は右手で机を軽く叩きながら、こう宣った。




「こ こ に 持って来なさいよ、飲み物を。あんだけ私が喋ってあげたんだから常識でしょ」



そして椅子にふんぞり返る。



(ちみは社長さんかっ!)


それに、

それは人に物を頼む態度じゃなかろう?おい童っぱ。





これ以上ムカついてると、血圧が上昇しますますストリートキングになりかねないので、相手にしない事にする。



平常心、平常心。




なんとか冷静さを取り戻してカウンターへ向かう。



そんな私に少女は言い放った。



「貴方 解ってると思うけど、クリームソーダよ。勿論 アイスクリンたっぷり乗せなさいよ。じゃなきゃ食べてあげないから」



そして私をガンミする。




はいはいはい。仰せのままに、女王様。




私は少女からの痛い視線を背中に浴びながら、カウンターの奥へと消えた。

注)※ストリートキング…すっ裸の人

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