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MOON  作者: 冴木悠
11/26

第10話:縁側の少女

まずはお詫びを。《MOON》を掲載してからなるべく1日一話は更新しようと心がけていましたが、最近更新が遅れ気味になっていて読者の皆様には迷惑をお掛けしています。これからも精進していきますので変わらぬご愛読の程 宜しくお願いします。《冴木》

10.0!!



(決まっ…のぁぁぁぁっ!!!!)



ズザザザザ――



凄まじい雄叫びと共に、私は垣根の裏側に頭から落っこちた。

幸い垣根の裏側には草が生い茂り、大事には至らなかった。


私は全身草塗れになりながらも命に別状は無い。




まあ、一回死んでるのだ、これ以上死にようがないだろう。

だからこそ無謀にもなる。



「いったぁ〜い」



私はこの世界へ来てから何かとあれば転んでいる。



(やっぱり身体は正直なのかな)



所詮 三十路は三十路。


これからは無理しないで行こう…。



そう自分を戒めて、服に付いた草を払いながら立ち上がる。




(元はと言えばあの黒猫のせいだ!ルナの奴何処行った?)



キョロキョロと黒猫を探しながら茂みから出ると、大きなお屋敷のお庭に出た。


「すごっ…い」



見渡せば庭には枯山水があり、その先には岩で縁どられた池のようなものが見える。



そこには朱色の橋がかかっていて、奥にあるもう一つの庭に続いていた。



それはまるで、源氏物語とかに出てくる貴族のお屋敷だ。




(まさか あっちの庭では狩衣姿に烏帽子の貴族が、おじゃる!おじゃる!何て言いながら蹴鞠なんぞやってたりしないだろうな)




そんな事を考えながら枯山水の庭を慎重に横ぎり、朱色の橋を渡った。




「うわぁ……!」



橋を渡ると感嘆のあまり、その場に立ち尽くしてしまった。



一面に咲き乱れる

花・花・花………


朝顔、紫陽花、タンポポ、ひまわり……


赤、青、黄色、紫、橙色…


四季折々のいろんな種類、色の花々が辺り一面にグラデーションとなって咲き誇っている。


その全てが、まばゆい程の太陽の光と爽やかな微風を浴びてダンスをしているみたいに右へ左へとそよぐ。







「何か懐かしいなぁ…」



微風に誘われて花畑へ踏み出す。

と、何処からともなく

フワリフワリ とシャボン玉が飛んでくる。




「シャボン玉?」



後から後からシャボン玉は飛んで来て、私の目の前で弾けて消えた。



「何処から来るんだろ?」


私はシャボン玉の飛んでくる先を確かめようと、後を追った。




◇◇◇




「シャ〜ボン玉飛んだ〜屋根まで飛んだ〜屋根まで飛んで………」



「うた?誰が…」



近くから可愛らしい歌声が聞こえてくる。


鈴が転がるような華やかで軽やかな声。



声が聞こえる方へ向かうと屋敷の縁側に出た。



縁側には四・五歳くらいのおかっぱ頭の女の子が足をブラブラさせながら、ちょこんと座っていてシャボン玉を飛ばしていた。


膝の上には黒猫が乗っている。




「ルナ!」



黒猫を見つけて思わず叫んでしまう。



その声に驚いて、シャボン玉を口元から離す少女。




「だれ?」






少女と目が合った。


少女は淡いグレーの澄んだ大きな瞳をしていた。


少し怯えているようだ。


「こ、こんにちは。ごめんね、驚かせるつもりは無かったんだ…あ、でもビックリするよね、いきなり目の前に現れたら。怪しいもんじゃ無いよ、あ、いややっぱ怪しいか…うん〜何て言ったら良いんだろ。あっ、叫んだりしないでねって、これじゃ 人攫いに来た誘拐犯みたいなセリフだね…あ〜何か私墓穴掘りまくってるっ」



絶対一息では言えないであろう台詞を、私は人業ではない程の速さで一気にまくしたてる。



たまちゃんでは無いが、これでも昔は芝居をやっていた事がある。


この早口は私の専売特許だ。



「ふふっ、」




アタフタしながら身振り手振りを付けてオーバーアクションで話す私を見て、縁側の少女が笑った。



宗嗣さんの時もそうだったが、私の言動及び行動は相手を楽しくさせるらしい。


人に笑われるなんてまっこと本望ではないが、まぁ お陰で少女の警戒が解けたのだから喜ばしい事だ。



お母さん、お父さん

こんな私を仕込んでくれてありがとう。


あ、仕込んでってじゃ 生々しいか…。



読者の皆様 生々しくてすいませんっ!




「で、お姉さんは何処から来たの?」



読者の皆様に不埒な自分を謝っていると、少女が話しかけてきた。



「あ、私はそこの垣根を飛び越えて…」




ってちょい待て!これじゃあ(私 不法侵入しました。どうぞ通報して下さい)って言ってるようなもんじゃないか!


ここで捕まってどうするんぢゃっ!!




「垣根?」



彼女は首を傾げる。




「あ、いや何でもないの。その黒猫、ルナって言うんでしょ?」



私は話を逸らした。



「ルナ?」



少女は又首を傾げる。


そして膝の上にいる黒猫を慈しみの瞳で見つめて、背中を優しく撫でながら話し出す。




「この子は月詠つくよみお母さんが私に贈ってくれた大切なお友達よ」



そして頭を撫でる。


黒猫は気持ち良さそうに眠っている。



どうやら 猫違いらしい。



「ごめんね、間違ってたみたい。」



私は彼女の隣に座ると、月詠の背中を撫でた。


一瞬 ピクッとして尻尾が動いたが、又夢の中に落ちていった。




「そのルナって猫もお姉さんのお友達なの?」



少女が下から顔を覗き込みながら私に問う。



私は左右に激しく頭を振る。



「違うよ!あんな奴友達でも何でもないよ!あっちは知ってるみたいだけど」



あんな奴友達なんて死んでも嫌だっ!


陰険がうつるっ!!




「な〜んだ、そうなんだ」


少女が上目遣いで私を見る。



「じゃあ何で不法侵入してまで捜してたの?」



「えっ?」



少女がにっ、と笑う。



「だって不法侵入でしょ?人の家に勝手に入って来たんだもの」


………。




この子 知ってて言ってる?そうだよねぇ、やっぱそうだよねぇ?


何て、何て…



性格の悪いガキだ。




「言っちゃおうかな?この人 不法侵入してますって。叫んじゃおぅかな?」



ふふふっ、と可愛いく微笑みながら私をユスル少女。



このガキ…絞めたい。



お雛様のように品が良くて可愛らしい女の子だと思って油断してたよ。


人は見かけで判断してはいけない。


身を持って知ったよ…。



「…あなた私に何かして欲しいのかな?」



苦笑いしながら彼女に聞く。


「なんで?」



可愛く首を傾げる。



(もう その手に乗るかっ!この堕天使がっ!)



そんな事言われたら誰だって聞くだろっ!


取り引きだろ、その言い方は。



「何かして欲しいの?私に出来る事なら聞いてあげるよ」



私はもう一度少女に笑顔で尋ねる。


少女は私の顔をじっと見つめる。


そして満面の笑顔で答えた。




「そう、じゃあ遊んであげる」



(遊んであげるぅ?)



「そうまで言うなら、遊んであげるっ!」




そう言うと、膝の上で気持ち良さそうに眠っていた月詠を抱き上げて縁側から飛び降りると、花畑へと駆けて行った。




「あ、ちょっと待って」



私も追いかけようと縁側から飛び降りる。



と、突然少女が振り向いた。




「それから、私はあなたじゃないわ。凜よ!」



そう言うと又振り返って走って行った。




(こ、こんのガキャぁ…)


だから子供は嫌いだっ!




私は頭の中で大人気ない悪態をつきながら、少女を追った。

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