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MOON  作者: 冴木悠
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第9話:やまっか

まるで〇丁目の夕日の一場面のような世界に迷い込んだマヤ。一体この村は何なのか?はたまた手掛かりは掴めるのでしょうか…。


「うそ…」



私は目の前にある和風平家を眺める。



「本当にあった…」




板机に所狭しと並ぶ《麸菓子》や《あんこ玉》。天井からぶら下がっている凧紐には野球選手のトレーディングカードやスピードくじ。入口には存在感たっぷりにクーラーボックスとガチャガチャが置かれ、アイスキャンディーの看板が掛かっている。




紛れもなく駄菓子屋だ。


流石に《茶川商店》ではないが。




《山川商店》



(山川商店…)




お店の名前を見て懐かしく思う。



(確か お婆ちゃんちの近くにあった駄菓子屋も《山川商店》だったなぁ…)



幼い頃の思い出が蘇る。



毎年夏休みになると、両親と妹と私で自宅から車で三時間ほどかかる母の実家に遊びにいった。


母の実家は山間にある小さな村で、唯一の交通手段であるバスさえも1日に数える程しか運行していなかった。

そんな田舎での遊びは専ら屋外で、村でただ一つの公園にある遊具で遊んだり、山で昆虫採集に勤しんだりしていた。


外で遊ぶ時の非常食は必ず《山川商店》で調達し、私達は《山川商店》を親しみを込めて《やまっか》とよんだ。




「やまっかかぁ…」



私は何故こんな時代に、こんな駄菓子屋があるのか不思議に思いつつも、懐かしさのあまり店内に足を踏み入れた。



「こんにちは〜」



―――‐。



声をかけるが返事は無い。



店の中を見渡すと、規則正しく並べられた陳列棚に真鍮の蓋が付いた硝子瓶が幾つか置いてあり、中には金平糖やハッカ飴、色の付いた寒天ゼリーなど数種類のお菓子が置いてあった。



何処にも店主の姿は見えない。




「誰もいないのかなぁ?」


陳列棚にあるお菓子を眺めながら歩いていると、その棚の隣の台の上に見慣れたオモチャを見つけた。





「ビー玉かぁ…懐かしいな」



駄菓子の空き箱に入っているガラス製の丸い玉を手に取る。


赤色や青色の模様が入っていて、とても綺麗だ。



「良く買って 遊んだなぁ」



手にしたビー玉を外の光に翳す。


キラキラと輝いて眩しい。



「…あっ…」



そのビー玉を目の前から下ろすと、店の前にいるあるモノに気づいた。



黒い猫だ。




「黒猫?」



ゆっくりと近寄ってみる。

黒猫は逃げようとしない。

そのまま抱き上げる。



(?)



黒猫の首に白い毛が弧を描いて生えている。


それはまるで三日月のようだ。




「三日月の模様かぁ、お前可愛いね」



微笑みながら黒猫の喉元を撫でてあげる。



「ミャー」



黒猫が気持ち良さそうに鳴いた。



「でも三日月模様なんて、ツキノワグマみたいだね」


黒猫を高く掲げる。



満足そうに、ミャーと鳴く。



(三日月模様か…そう言えば最近見た気がする…)



高く掲げた黒猫を見つめながら考える。



円らな黒い瞳で見つめ返してくる黒猫。


その瞳が突然きゅーっ、と細くなる。



「…この目っ!」



脳裏に奴の姿が浮かぶ。


全身黒ずくめに闇を映し出したような漆黒の瞳。

シルクハットに三日月形のアクセサリーがついたステッキ…


そしてこの細くした鋭い目。



(あり得ないっ、あり得ないって!まさかアイツが?絶対あり得ないっ!

それにこんなに可愛くないし、って言うかムカつくし!あ、あの偉そうな口調 思い出したら又腹 立ってきたっ!)



頭の中で怒りが込み上げて来て、思わず猫を睨んでしまう。



と、その途端

黒猫は私の両手からスルリと抜け出し、駆け出した。




「あっ、とっ、ちょっと待て!」



私は急いで黒猫を追いかける。




黒猫は私の呼び掛けを無視して、どんどん加速する。



(あの猫!早すぎだっつぅの!)



私も負けじと猛追する。




三十歳過ぎてから何も運動していないので、直ぐにでもバテてしまうかと思ったが、さっきの事といい今の走りといい案外大丈夫な事に気付く。




(歳が若返ったぶん、体力も戻ったのね。ラッキー!)



これならどんなに猫が早く逃げようと、必ず追いついてみせる!




(あの猫!ルナじゃないとしても首にある三日月形の印。絶対何か知ってるかも!)



息を切らせて走る私の前方で、黒猫が急に立ち止まった。


と こちらを振り返る黒猫。



(?何だ 観念したか?)


黒猫ににじり寄る。

すると…



「ニャアー」




この黒猫 ニタリ顔で鳴くではないか!



それから道路脇にある垣根を軽々と飛び越えて消えてしまった。



…猫に表情があるのか?そんな疑問も勿論あるだろうが、私は確信した。奴は確かにほくそ笑んだ。あのふてぶてしい態度!奴は紛れもなくルナだっ!そうだ!そうに決まってるっ!


はい、ルナ決定っ!!



「あんのヤロ、明らかに挑発してやがるっ!この垣根も飛び越えてみせろってか!」



沸々と 闘志が煮えたぎる。



あいつだけは、あいつだけは必ずやお灸をすえねば!


「待ってろよ、ルナ!絶対捕まえて知ってる事を洗い浚い吐かせてやるっ!」




それから猫鍋にしてぐつぐつ煮てやる!!


ふっふっふっ、




私は不適な笑いを浮かべながら、助走を付けて垣根を飛び越えた。

更新が真夜中になってしまいました(汗)今日も皆様お疲れさまでした(礼)

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