読書記録:コミック「半神」
メモ的な記録です
萩尾望都「半神」小学館文庫
表題を含む短編集です。
どの話もまず密度がすごいです。
カットがどれも非常に美しく、表現が効果的。
キャラクターの顔で、というよりはシルエットで、全身か、それ以上の身にまとう空気のようなものを描いてしまう。
絵として捉えさせる。
残虐であったり色気のあるシーンも決して劣情を煽る形にはならない。
なんというか、とても整っている。
この世代の少女漫画家さんってユニセックスな存在をよく描く気がする。
この短編集も狭間にある存在がいくつも出てくる。
男性であっても性的に貪られ脅かされるシーンも普通に描かれる。
おそらくどの話もそのどちらかが含まれていたように思う。
最初に紹介してもらったのは表題作の「半神」
萩尾滋さんに教えていただきました。
障害児の兄弟の心理について日記に書いたときだったかなと思います。
なかなか言葉でまとまるような形になりませんがいろいろと思い巡らせることができました。
幻想的でどの話も印象に強く残ります。
中でも引かれたのは「偽王」でした。
こちらも胸の内におさめた嵐の表現が、そしてそういうものを内にしている人生がこのように囚われ一生を賭けて問答するようなものになるのが胸に来ました。
高校で私はある社会科の先生に出会いました。
先生は戦争というテーマ一つを追い、青い目の人形を追い、戦争で敵国で過ごすことになったため血縁がわからなくなった二世の方のルーツを追い、本を出したり公演をしたり、人形のルーツであった州まで尋ねて調査をしています。
彼の中に刻み込まれているのは戦後母を失った記憶でした。
彼は幼児でした。
空襲を越え戦争は終わって、そして栄養を十分に得られず眼の前で死んでいく。
その時代の誰しもが様々なかたちで持っているだろう傷。
幼かったからこそ戦争というものはなんだったのか。
わたしたちに起きたことはなんだったのか。
わたしを翻弄し傷つけたものの正体は。
たどってもたどっても一生かけてもストンと落ちることはない。
彼をかきたてるもののゴールどこか。
一生を賭けて理解したいと望み、知ってほしいと訴えかけ、追求し続ける生き方そのものの内側に。
「偽王」の話を読んでそのことをふと思い出し「ああ、そうだな」と思ったんです。
そういうことだなって。
掲載日2018年 10月03日 15時00分